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中田安彦(アルルの男・ヒロシ)氏のブログ
「ジャパン・ハンドラーズと国際金融情報」より
http://amesei.exblog.jp/13236312/
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東京電力を「大きすぎて潰せない」にしてはならない
アルルの男・ヒロシです。今日は2011年3月25日です。
<政治家は国民の前に姿を見せよ>
「3・11東北関東大震災」から二週間を迎えました。未だ政府・民主党のこの地震の復興に関する動きは鈍いというほかはありません。閣僚は都内に留まっている必要があるかもしれないが、小沢一郎元代表を含め民主党の東北出身議員たちは東北地方の代表なのだから、しっかりと東北地方の復興に何が必要なのかを把握するとともに、大衆の面前にその姿を見せてもらわないと困る。
ツイッターではとぼけていましたが、私のところには小沢一郎が岩手に行こうとしたが側近議員に止められて都内にとどまっていたらしいという又聞き情報が入っていた。民主党はいつ動くかと思っていたが、小沢系の原口一博元総務大臣や米軍とパイプがある長島昭久議員のような若手議員がツイッターで発言する以外は閣僚同士のゴタゴタの情報が流れてくる以外は動静が全く入ってこない。私が前回の投稿で指摘した東北地方の議員の連携は取れているのか、気になってしようがない。内閣と与党は一体的に動くべきかもしれないが、同時に政治家はそれぞれの選挙区の代表である。この件で民主党(一新会も凌雲会も)が表面的に動きをみせていないのは正直大問題であると思う。
そうこうしているうちに自民党の動きは活発だ。南相馬に血縁がある麻生太郎元総理が24日に福島入りしたほか、自民党で自衛隊出身の佐藤正久参議院議員などは自分の故郷が被災地の福島県であることもあり、積極的にツイッターで物資の輸送状況などを報告している。安全保障の面では「かけつけ警護」などの"問題発言”もあった佐藤議員だがこういう時はやるべき仕事をしていると思う。
そして、最後にアメリカのジョン・ルース大使はアメリカ合衆国のスポークスマンとして非常に優秀な働きをしている。天皇陛下、国会議員たちが足を踏み入れていない被災地にいち早く足を運び、被災者の子どもを抱き抱えて励ましのメッセージをかけた。原子炉の状況を探るのもアメリカの無人戦闘機であるグローバル・ホークが役立っている。(なぜか日本政府は尖閣ビデオと同様にその内容を公開しない・・・)震災救援で一番活躍しているのはもちろん自衛隊で米軍の活動は補助的なものなのだが、グローバルホークのような無人飛行機を日本がなぜ開発していなかったのか。自衛隊は戦争に従事することはなく、これからは災害救援で活躍しなければならないのに、必要な装備が揃っていないのは非常に心もとない。
だから、普段はアメリカの外交政策に批判的な私もこのルース駐日米大使の行動は評価しなければ済まない。政治家は法律を通すことも仕事だが、同時に<みんなの代表>であるわけだから、災害が発生したときは、いち早く選挙区民の前に姿を見せ、国民を安心させなければならない。その「最低限」のことが出来ていないのは相当に深刻な問題だ。私はこのコミュニケーション・クライシスが日本の有権者に静かに与えている影響を冷酷に分析しなければならないと思う。
<金融工学と原子力工学も根は同じ>
さて、今回の議題は、二回前の投稿でも指摘した日本の今後のエネルギー政策の根幹に関わる問題である。今、福島県の福島第一原発では自衛隊、消防、そして東京電力の協力会社(下請けや孫請け会社)の非正規雇用労働者たちによる必死の原子炉冷却作業、電源復旧作業が行われている。問題になっているのは、プルトニウムを装荷した「MOX燃料」を搭載した三号機である。プルサーマル計画というのは日本中の原発で発生した使用済み核燃料を再処理してMOX燃料に加工し、それを普通の原子炉(高速増殖炉ではない)で燃やす発電方式である。
このプルサーマルは日本が原発を動かした結果持ってしまう余分なプルトニウムを核開発に使わせないように発電用のMOX燃料に加工させようという国際社会(つまり、欧州IAEAとアメリカ)の要求と原子力産業の意向によるものである。アメリカは正力松太郎(読売新聞社主)を使って、日本に原子力発電を導入させようとした。これは当時、米ソ冷戦の時代であり、ソ連ではなくアメリカが日本のエネルギー政策をコントロールし、日本をソ連にたいする反共の防波堤にしたてあげるという戦略の一環だった。ここで日本の財界に原子力財界人というものが登場した。
その一例をあげれば、福島県に原発を誘致した渡部恒三・衆議院議員の支援者であった木川田一隆であり、その後継者とも言うべき、平岩外四であった。この電力ロビーに対してアメリカはゼネラル・エレクトリック社やウェスティングハウス社が原子力発電技術を日本の重電会社に教えた。だからアメリカによるおんぶに抱っこの形で日本の原子力産業が育成された。今回事故を起こした福島の原発はGEの技術であり、日本の技術ではない。日本の重電会社はアメリカがポンと与えてくれた新技術に舌なめずりしながら、それを少しだけ改良しただけである。日本という「猿の列島」ではこのような技術をオリジナルで作れるはずがない。属国は覇権国がこうだといったエネルギー政策を追従することでエネルギー安全保障を図っていくしかなかった。
ところが、これは前にも書いたことだが、起きるはずのない「震災原発事故」が二週間前に起きたのである。アメリカで金融核爆弾がサブプライム危機やでデリヴァティヴの破裂という形で破裂した3年後に今後は日本で「原子力発電バブル」という巨大なバブルが破裂した。これをアメリカの経済評論家のナシーム・ニコラス・タレブは「黒い白鳥」と呼んだ。もともと「金融工学」という怪しげな学問は、物理学や熱工学をモデルに設計されている。だからというわけではないだろうが、原子力発電の事故と金融工学の事故というものは非常に共通性があるのである。金融工学も原子力工学も、「まれに起こりうる」ことは想定して安全設計が行われているが、今回のように「100年に一度とか1000年に一度」というような事態は想定していない。だから、一見強固に見えたものが、設計側の想定外の「ブラックスワン」が起きるとどうしようもなくなる。
人間というものは愚かな存在で、2008年に我々がニューヨーク発で体験した「世界が一度終わった瞬間」の記憶をもうすでに忘れかけている。欧米の金融メディアを見るとたしかにレヴァレッジの比率は25倍というような往時のレベルから落ち着いているものの、今度は中央銀行がお札を擦り散らかして新興国にまでバブルを輸出している。今回の原子炉事故も、欧米のメディアを見ている海外の一般大衆からはすぐに忘れ去られていく危険性も大きい。
福島原発は、まだ最悪の事態には至っていない。いわゆる反原発運動をやっている人が本で書いている想定シナリオでは、原子炉が運転中に地震が起き、緊急停止しないでそのまま原子炉建屋やタービン建屋の危機の故障や配管の破断が起きて暴走するというものが想定されている。そのような「瞬間的に放射能や放射性物質が広範囲に速いスピードで拡散して、急性放射能症で日本人がバタバタと死んでいく」という事態にはなっていない。
ただ、このままだらだらと沈静化が手間取るようだと日本人全体の心が休まらないし、緩慢に外部に放射能がだらだらとすこしずつであるにしても流れていくということになる。だから2ヵ月後、3ヶ月後、福島原発が同じようなことをだらだらやっているようであると危ない、と私は判断する。放射性物質がどの程度の影響を環境や人体に与えているのかは、これも数年たたないとわからない。ただ、地震の前から日本の原発がある場所の近くでは甲状腺肥大や白血病の症状を患う人もいた、という。原発の排水が温かいために周辺の海では異様に大きな魚が釣れるということもよく知られている。放射能が私たちの健康に与える影響について、正直にわからないというしかない。これは難しいことなのだが、危機を煽りもせず、一方で冷静に心配するということが重要だと思う。
<東京電力は一時国有化し、分社化後に破綻処理せよ>
ここからが本論である。今回の原発事故について、すでにマスメディアではこの原発震災に因る損害補償をどのように行うかが議論になっている。地震保険だけでも数兆円の支払い規模があると言われているが、問題は東京電力が住民にどのような保証を行うかということである。根拠法律は「原子力損害の賠償に関する法律」である。この法律には次のように書かれている。
(貼りつけ開始)
第二章 原子力損害賠償責任
(無過失責任、責任の集中等)
第三条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
2 前項の場合において、その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは、当該原子力事業者間に特約がない限り、当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。 (中略)
第三章 損害賠償措置
第一節 損害賠償措置
(損害賠償措置を講ずべき義務)
第六条 原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。
(損害賠償措置の内容)
第七条 損害賠償措置は、次条の規定の適用がある場合を除き、原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であつて、その措置により、一工場若しくは一事業所当たり若しくは一原子力船当たり千二百億円(政令で定める原子炉の運転等については、千二百億円以内で政令で定める金額とする。以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができるものとして文部科学大臣の承認を受けたもの又はこれらに相当する措置であつて文部科学大臣の承認を受けたものとする。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO147.html
(貼りつけ終わり)
すでに報道されているが、地震など天災による場合、原子力事業者(東京電力)の賠償責任が軽減される可能性もある。また、第7条で書かれているように、損害賠償措置は、原子力発電の自賠責保険でカバーされるが、一事業所(つまりこの場合は福島第一原発)あたり1200億円が限度ということになる。それ以上の補償は東電が自腹でやらなければならない。
日刊ゲンダイ(3月24日付)に東電の資産状況についての記事がある。これによると、東電の総資産が13兆円、資本金6800億円、売上高5兆円であるが、同時に職員の退職給与引当金を含める負債は8.8兆円。資産の部も流動性の低い原発などの有形固定資産が多いという。同紙は自由に動かせる現金等は1800億円だとしている。賠償金を払えない可能性もある、ということだ。
また、24日の朝日新聞には、政府が緊急に決めた2兆円の融資の内訳について、「原発事故の解決と震災で壊れた火力発電所の修繕などの費用」と報じている。別の野村證券のアナリストの予測として火力発電所の燃料費が2900億円、社債の償還に5500億円、それから使用しなくなった原子炉の保全費用も2億円かかると見ている。これに風評被害などへの補償金が加わる、という。
また、最近になって東電の株価が反転急上昇しているのは政府側の買いが入っているのではないか、とも私は思う。
つまり場合によっては東電は倒産する可能性があるということになるが、東電を倒産させるわけに行かないのが、国である経済産業省だという構図になる。これはちょうどシティバンクを潰さないように必死で支えた米連銀や財務省の姿と重なる。つまり、東電は「大きすぎて潰せない」(トゥ・ビッグ・トゥ・フェイル)であるという判断を国と財界はしているということだ。
<新エネルギー戦略の前に京都議定書の履行を中断せよ>
原子力を「クリーンなエネルギー」として世界中に売り込むということで旗を振った経済産業省や文科省には、これだけの大地震が起き、アメリカ、中国、そしてタイまでも「原子力は棚上げ」という機運が出来ているというのに、まだこの期に及んでも「原子力は必要不可欠なエネルギー」だとバカのように口をそろえている。経団連会長の米倉弘昌や原子力安全・保安院(どこが安全か?)のスポークスマンとしてメディアに登場する気持ち悪い「カツラ男」の西山英彦審議官が「脱原発だと大規模停電だ」と国民に計画停電という「擬似戒厳令」を発動して脅しをかけている。
しかし、国家が一企業を丸抱えで「支援」するというスタイルは他に代替案がない限りはもうやめにしなければならない。巨大な電力産業が崩壊し、個々人の家庭で発電が行えるようになる社会の実現はまだまだ先だが、とりあえず、東京電力や経済産業省は今回の大事故を引き起こした、災害想定の甘さに責任を取らなければならないし、一部の心ある技術者や地震学者・活断層学者たちの警告を無視してきたことを反省しなければならない。これは電力側に有利な判決を出してしまった最高裁の判事も含めて反省なければならない、ということだ。
資本主義社会において企業が責任を取るというのは究極的には倒産(破たん)するということである。アメリカがサブプライム危機でウォール街の大銀行を救済し「焼け太り」させ、いわゆるモラルハザード(救済慣れ)の状態を作ってしまった。この愚を日本政府は東電に対してやってはならない。
それではどうすればいいのか、という声が出てくるだろう。私の試案は以下のとおりである。
1.東京電力をまず2分割し、「原子力部門」と「非原子力部門(水力・火力・地熱・新エネルギーなど)に分社化し、損害賠償の責任は前者7、後者3の割合で負わせる。
2.東京電力(原子力部門)は即座に上場廃止、破綻処理とする。株主は非原子力部門の株式を旧東電株1に対して、新会社100分の1の割合で取得するものとする。つまり上場廃止時の株価を基準にその100分の1の価値を持つ株式を手に入れるわけである。別に政府が新会社の過半数の株式を一時的に保有する。
3.新会社はできるだけ早くに安定した財務基盤を確立する。そのために東京ガスなどと合併することを検討した方がいい。(あまり政治介入をするのは良くないが場合によっては株主として政府が権利を行使する事も考える)新会社が送電網を所有するか、いわゆる「発送電の分離」(アンバンドリング)を行うかについては他の電力会社との兼ね合いで議論する。
4.原子力発電については1年以内に今後の計画を取りまとめる「脱原子力国民会議」(仮称)にその議論を委ねる。東大教授ばかりではなく、海外の有識者、原子炉設計者、地震学者などが参加し、共同議長は内閣総理大臣と環境大臣とし、経産省や文科省、新設の復興庁や財界からも参考人を呼ぶ。
5.原子炉の運転に関しては地震学者の意見を聞きながら必要最低限は5年間は国の責任で行うものとする。原子力安全・保安院は解体する。
6.日本のエネルギー政策を根本から見直す。民主党が掲げた「二酸化炭素削減」のための成長戦略は廃止。自民党政権時代に採択されたCOP3の「京都議定書」の履行の中断を世界に宣言する。
7.天然ガス、石炭火力、水力、潮力、風力、太陽光といった既存のエネルギー源をまず充実させる。天然ガスはロシアと豪州との関係を強化し、中東以外の安定供給元を確保する。国家戦略としてこれを緊急に行う。その他の新エネルギーを開発するための資金援助を惜しまない。脱原子力のエネルギー技術、既存の化石燃料の省エネ技術を「新成長戦略」として国際展開する。
8.我が国の発電における原子力の割合を2020年には15%、2030年には5%に減らす数値目標を掲げる。
以上、私案とする。
この中で東電の非原子力部門を東京ガスと合併させるべきだと書いたのは理由がある。日本はロシアとオーストラリアや中東の天然ガス輸出国に依存することになる。その際、例えばロシアの国営ガス会社のガスプロムだけに依存することになるとやがてパイプラインなども含めてロシア企業の傘下に置かれる可能せもある。外資株主を新会社では否定するべきではないが、何らかの買収防衛策を講じるべきであり、そのために新東電と東京ガスを合併させるべきだと考えるわけである。
それに京都議定書の破棄・中断も大きな戦略転換であるが、危機を理由にすればどうとでもなる。世界中がフクシマ・ブラックスワンに怯えているあいだにやってしまうべきだ。そもそも京都議定書を真面目に履行しようと考えているのは日本だけであり、欧州もアメリカも中国も自国の利害に絡むように利用しているだけである。人間活動によるCO2が温暖化の原因であるという学説はほぼ破綻したことは数年前の「クライメート事件」で明らかになっている。
このように3・11地震が引き起こした日本社会のリセットは新しい国家戦略のチャンスでもある。アメリカから与えられた原子力という技術で思考停止し、親米・反米という狭い思考枠組みから乗り越えて行くことが必要だ。原子力発電は冷戦時代の鬼っ子というべき存在であり、日本が自立した国家になるためには、自分の力で国家戦略を創り上げるべきなのである。
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中田安彦
1976年生まれ。早稲田大学卒業後、大手新聞社勤務を経て、副島国家戦略研究所研究員。著書に「世界を動かす人脈」「アメリカを支配するパワーエリート解体新書」「ジャパン・ハンドラーズ」がある。
ツイッター アルルの男・ヒロシ http://twitter.com/bilderberg54
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