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2011/3/8(火) 午前 0:32
前原誠司外相の辞任(3月6日)は、「菅政権に打撃」(日経、7日)である、あるいは「『支柱』失い政権危機」(讀賣、同)に陥いった、あるいは「政権運営、視界ゼロ」(毎日jp、6日)に、といったところが新聞各紙の見出しに見るこの問題の一般的な受け止め方であろう。
だが菅直人首相はそれで内閣総辞職を決断するほど権力に淡泊な人物ではなく、とことん政権に執着するだろうし、ほんとに追い詰められたとき(その究極的なかたちは内閣不信任決議。それに次ぐのは、解任の強制力はないが参院での首相問責決議)には衆議院の解散で反撃する構えを示している。したがって前原辞任の時点は菅首相にとってはまだギリギリの危機ではないだろう。
しかし民主党にとっては、機を見て菅首相を「前原首相」に替えて民主党への支持の挽回を図って総選挙に臨む、という起死回生策を失うことになるので大きな打撃であると見られている。他方で、市場では政局混迷で予算関連法案の成立が一層困難になることなどへの危惧が高まっている。
政局の危機とそれへの菅首相の対応の仕方、そしてやがて訪れる菅内閣の総辞職あるいは衆議院の解散とその後の政治の展望については私は当「診断録」の前号(3月1日号)で述べたが、本稿では“前原抜き”の民主党が党の危機にどう対応するのか、という点につき応急の考察を行いたい。
しかし、以下は今後のそのストーリーを予想するものではなく、そのありようを左右する諸条件を詰めて考えてみようというものである。
前原氏はたしかに世論調査などでの人気は高い。
日経の世論調査(2月25〜27日実施、28日紙面)によると、「今後、日本の政治に影響力を発揮してほしい政治家」のランキングは以下の通りである(カッコ内は支持率で%)。
@前原誠司(11)、A渡辺喜美(10)、B石原伸晃(9)、C岡田克也(8)、同舛添要一(8)、E石破茂(7)F菅直人(5)、G枝野幸男(4)、 小沢一郎(4)、 谷垣禎一(4)、 J野田佳彦(1)。
そのような前原氏を新首相に担いで内閣支持率を挽回し、その上で解散・総選挙に打って出るというのは、民主党にとっては“とっておきの切り札”であったに違いない。前原氏も意欲満々で、次の民主党代表選で多数を制するため小沢派と組むとの観測もあったほどだ(当「診断録」2月19日号参照)。
しかし、前原氏は偽メール事件(注)の場合ように軽率な行動をする傾向がある。
また自ら着手した案件について歯切れのいい方針を述べながら、あとは尻つぼみになるというクセもある。
後者の例では、同氏が2009年に国交相に就任した直後の9月に八ッ場ダム建設中止を宣言しておきながら、実際には建設を中止したのはダムサイト(ダムの本体)の工事だけで、それ以外のダム関連工事はその後も「粛々と進んでいた」のである(「保坂展人のどこどこ日記」、10年11月6日)。だから、前原氏の後任の馬淵澄夫国交相が10年11月に「私が大臣のうちは中止の方向性という言葉に言及しない」と述べたことが前原時代の方針を否定したように見えたのは表面だけのことで、実際は馬淵大臣は進捗している工事を追認しただけのことだと保坂氏は暴露している。
そうした過去の実績をみると、前原氏は菅氏に似た“思いつき発言”の人のようであり、前原政権ができたとしたら菅政権と似たような結果を招いたかも知れないと思う。その意味で、私は“前原首班”の目が消えた(すくなくともさしあたりは)ことは悪いことではないと思っている。
(注)06年2月の衆院予算委員会で民主党の永田寿康議員(当時。その後議員を辞職、自殺)が、「ライブドアの社内メールで、堀江社長が自民党武部幹事長の次男に対して選挙コンサルタント料として3000万円を振り込むように指示した」と主張、このメールのコピーと称するものを提示した(後に偽物であることが判明)。このメールを当時民主党代表だった前原氏も本物と見なして武部氏を追求、それが偽メールだったことが判明したあとで党代表を辞任せざるを得なくなった。
ところが前原氏は米国にも知己が多い有能な外交家として民主党内及び米国で評判が高かったようだから、党内外から有力な菅後継者の1番手と見なされてきた。その前原氏を菅後継として想定できなくなったことで、民主党としては菅降ろしを実行する目標を失ったようにも見える。
しかし、民主党議員(とくに衆議院議員)にとっては、今後の政局の展開において絶対に譲れない条件があるはずだ。
それは、@菅内閣の手で解散をさせてはならない(その場合には民主党は総選挙で惨敗する)、Aそのためには民主党内からの要求で菅首相(党代表)を退任させることが不可欠、Bその時期は早ければ早い方がよい(可能な限り4月の統一地方選の前)、以上であろう。
他方、以上のことを実現する上での困難は、@そのような“菅降ろし”のイニシアチブをとる者がいるか、A党内の大勢をまとめて菅氏に辞任を決意させられるか、B菅氏の後を継ぐ有力候補(前原抜きでの)を選び出せるか、などであろう。
したがって、当面はこの菅降ろしの動きと菅首相の退陣拒否の粘りとの間のバトル(水面下の動きを含め)が政局の焦点となると思われる。
菅首相の“首に鈴をつけられそう”な人物としては、渡部恒三最高顧問、江田五月法相、藤井裕久官房副長官(元蔵相)らの長老格の者を思いつくが、彼らにそれだけの判断力と胆力があるかどうかはわからない。仙谷由人副代表もそのうちの一人だが、仙谷氏はすでに菅首相から距離を置いていて首相への影響力が弱まっている上、“本人自身が菅後継を狙っているのではないか”と見られる可能性があるから菅降ろしには動けないだろう。その結果、誰も菅降ろしに動けないまま、菅首相がとことんまでねばる可能性はある。
他方で、菅後継となり得るような候補を党内のコンセンサスで見つけられるかどうかがもう一つの大問題であろう。一時、「前原氏でなければ野田佳彦財務相」との声も聞かれたが、野田氏自身に関しても、その関連政治団体が09年にスナックなどの店で使った飲食代約22万円を組織活動費として支出していたこと、07年には脱税事件で有罪判決を受けた人物の関連企業2社にパーティ券を40万円ずつ買ってもらっていたことが最近になり判明し、菅後継候補のレースから脱落したといわれる。
残るめぼしい人物は仙谷党代表代行と岡田克也党幹事長ぐらいだろう。しかし、仙谷氏は官房長官として菅首相を実質支えてきた人物であり、菅氏の失政に共同責任を負うべき立場である。その上、同氏は10年11月に参院で問責決議を受け、実質的にはその決議により官房長官を解任(11年1月の内閣改造で)されており、野党との関係に問題を残している。
そうすると、ある意味で意外(これまで下馬評にはほとんどあがらなかったので)なことに、岡田幹事長が浮かび上がってくる。
岡田氏は@幹事長として現在は党の序列で第2位であり(04〜05年には党代表を経験)、その意味で菅後継として最も菅首相に近い位置にあるほか、A上述の「影響力を発揮してほしい政治家」ランキングで第4位につけており、世論の受けも悪くない。
さらに、B民主党がクリーンな政党というイメージを回復するにはもっとも適役であることには党内外にほとんど異論はないというメリットがある。
菅首相の後継をいま民主党で選ぶとした場合の岡田氏の候補としての難点として指摘されるのは、同氏が小沢一郎元代表の処分に最も大きな役割を演じたため、党内小沢派から強い反感を持たれていることである。しかし考えてみれば、それは幹事長として、“小沢を処分すべし”という党内外の圧力の下で遂行しなければならなかった職務であったと言えるし、むしろ除籍を求める強硬派の声を排して党員権停止にとどめたことは岡田氏だからこそできたことだとも言えそうである。同氏が党内無派閥(おそらく民主党内で唯一)であるのも珍重すべきことである。
たしかに岡田氏にはイメージ的な人気はなさそうである。しかし、今後の民主党に(自民党にも同様に)求められるのは、ねじれ国会の条件下で安定政権を組織するための連立工作である(当「診断録」前号参照)。岡田氏はその点では、幹事長として対野党折衝の経験を積んだだけに有利なのではないか。
もしそうした連立政権を実現できないのであれば、菅降ろしのあとで民主党がまた政権党にとどまる資格はない。その場合には、解散・総選挙という政治的空白をあえて迎えても、新しい政権(例えば自民党中心の)を模索するほかはないだろう。
私は民主党党員でもなければ、その周辺にいる人間でもない。したがって、菅首相の後任者として岡田氏を推すわけではないが、人物払底に見える民主党の中にも、例えば岡田氏のような人物もおり、その気になって探せば党としてほぼ一致できる新代表候補を選び出すことができるのではないか、と言いたいのである。発想をまったく変えれば横路孝弘衆院議長の名さえ浮かぶ。同氏には3期12年の北海道知事としての行政経験がある。
もし、そのようにして民主党が人材を選び出し、新規まき直しで安定政権を作ることができれば、09年の総選挙で国民から与えられた衆院第1党という期待に遅まきながら少しでも応えられるのではないか、と思う。
いずれにせよ、民主党に望むのは早急に菅首相を退陣に導くことである。その上で、あらためて安定政権を作り、予算を遅滞なく執行できる態勢をできるだけ速やかに整えることである。それができないのであれば、民主党は潔く野に下るべきである。
(この項 終り)
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