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【社説】特捜取り調べ 全面録画の実現目指せ
2011年2月28日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2011022802000044.html
最高検が当分の間、特捜部の取り調べの録音・録画を試みると公表した。検事の裁量に委ねた部分的な可視化では、不適切な取り調べをチェックできない。全過程の録画の実現を目指すべきだ。
贈収賄など密室で行われる犯罪摘発に特捜事件の特徴がある。一部とはいえ、特捜部の独自捜査について、来月十八日から取り調べの録音・録画に乗り出すことには、時代の変化が感じられる。
契機となったのは、大阪地検の郵便不正事件だ。厚生労働省の元局長は無罪が確定したが、強引な取り調べで、客観的事実とは異なる多くの供述調書が作成された。
検事の“辣腕(らつわん)”をもってすれば、容易に架空の事件をでっち上げられる危うさを浮き出させたといえる。検察による冤罪(えんざい)の再発防止策の一つとして、今回の可視化策は位置付けられよう。
だが、録音・録画する部分が、検事の裁量に任せられていることには疑問を覚える。供述調書を作成する際に、読み聞かせ、被疑者にサインさせる場面に重点が置かれるのではないだろうか。検事に都合のいい部分だけを「つまみ食い」する可視化では、裁判官に誤った心証を持たせかねない。
「取り調べの真相解明機能が害される場合」は、その対象から除かれるのも解せない。この規定で対象外となる場合が幅広くならないか。検事に恣意(しい)的に用いられる懸念を強く持つ。
法相の私的諮問機関「検察の在り方検討会議」でも、そのような危惧が指摘された。日弁連も一部可視化では、「冤罪防止のためには全く機能せず、むしろ有害だ」とする会長声明を出した。
検察にとって大事なことは、供述調書に依存しすぎる、従来の特捜捜査から脱却することではないか。そのためには客観的な証拠を積み上げる努力が第一だ。客観証拠を中心に据え、被疑者から説明を求め、矛盾点を理詰めで突いていく手法が最も肝心で、それが捜査の原点でもあろう。
当初は否認していても、罪を認めるに至ったプロセスにこそ、意味がある。それを第三者が把握するには全面的な録音・録画しかあるまい。検事のストーリーに沿った強引な取り調べや誘導をチェックできることが、検察の“暴走”の歯止めとなる。
検察内部では捜査への支障を理由に反対論が根強いが、全面的な可視化に踏み切る検察改革こそ、冤罪の根絶につながる。
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