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2011.02.25 「減税日本」は地域政党にあらず
関西から(2)
広原盛明(都市計画・まちづくり研究家)
「名古屋トリプル選挙」からはや2週間余りが経過した。だが、この間の河村市長の動きはとどまるところを知らない。有効投票数の7割にも達する過去最高得票数を獲得した勢いを駆って、今度は3月4日告示、13日投開票の「出直し市議選」で議席の過半数を占める制圧作戦を展開中だ。名古屋市議会の定数は75人で過半数は38人、河村市長(「減税日本」代表)は市内全区で候補者40人を擁立するとしている。
各紙が伝えるところによれば、河村市長は記者会見で「(今回の出直し市議選で)前職を選んだら、元の政治に戻るだけ。市民の期待に応えて(これまでの)職業議員による議会を変える」と強調した。また「専業の政治家(による政治)から、本物の市民の政治が始まるとの期待が持てる」とも話した。政党別の立候補予定者数は、民主党28人(前25、新3)、自民党23人(前19、新4)、公明党12人(前9、新3)、共産党16人(前6、元1、新9)、みんなの党6人(新6)、減税日本40人(前1、新39)だ。
注目の名古屋地域政党「減税日本」の候補予定者は、そのほとんどが市議会解散の直接請求(リコール)の署名集めに携わった大学生、僧侶、自営業者などで、現(前)職1人を除きすべて新人だ。また選挙経験は、2人以外は選挙への立候補自体も初めてだという。いわばこれまで政治や選挙に全く関係のなかった市民を候補者に仕立てることで、「プロ・職業議員=既得権グループ」、「アマ・新人議員=市会刷新グループ」という構図を演出し、「減税日本」の進出を図るのが狙いだろう。
河村市長は、記者会見で「市議選で(定数の)過半数を確保できるか」との質問に答えて、「今の議員ではいけない。変わりなさいと(市民が)言った。確か(前回市議選の)市議の票は全部足して60万票。手ごたえは十分感じる」と話した。また「減税日本の立候補予定者は選挙経験がない人ばかりだ」との質問に対しては、「公約三つだけは少なくとも実現したい。党議拘束せずにやりたい。市長が言っていることを全部通そうという気持ちはさらさらない」とも言っている。ちなみに「三つの公約」とは、市民税減税、地域委員会の全市設置、議員報酬半減(800万円)というものだ。
新しい候補者を擁立して市議会に新風を吹き込むことは、市議会の活性化にとって大いに歓迎すべきことにちがいない。おそらく「減税日本」の予定候補者たちは、「自分たちこそが名古屋市議会を変えることができる」と意気込んでいることだろう。また市長選で河村氏に投票し、市議会解散請求に賛成票を投じた名古屋市民たちもそう期待していることだろう。
だが河村氏の発言をそのまま信じる人は、御当地以外ではそれほど多くないのではないか。なぜなら、彼の政治経歴やこれまでの言動を簡単にトレースするだけでも、今回の出直し市議選で河村氏が地域政党を立ち上げた政治的意図が透けて見えてくるからだ。私がそう思う根拠を以下に挙げよう。
まず、河村氏は「プロ中のプロ」の職業政治家であり、しかも飽くなき権力慾で国政の中央舞台を目指してきた「非地域的マインド」の政治家だということだ。河村氏は民主党代表選挙がある度に立候補しようとしたが、必要とされる推薦議員20人を確保できなかったために、その都度出馬を断念せざるを得なかった。民主党主流派に容れられることのなかった河村氏は、一旦地方首長に「下野」して再出馬するという作戦を立て、その第一幕が今回の「名古屋トリプル選挙」だったというわけだ。
国政の中央舞台をめざす政治家にとって、地方首長のポストは決して不足のある地位ではない。とりわけ大都市や都道府県の首長は、橋下大阪府知事の例を持ち出すまでもなく、陣笠代議士など足元にも及ばないほどの権限を有しているし、情報発信力も大きい。河村氏が狙っているのは、名古屋市政を宣伝舞台にして全国発信する最も効果的な「時局テーマ」を打ち出し、全国のマスメディアの目を引く「政治イベント」を組織することで、自らが再び国政の中央舞台に返り咲くことだ。
それでは、河村氏の構想する「時局テーマ」とはいったいなにか。それは、財界指令の下で小泉自公政権が道筋をつけ、菅民主党政権が継承している「小さな政府」をめざす構造改革(リストラ)を地方で推進することだ。すでに第1弾として、「平成大合併」による首長・議員・地方公務員の大幅削減が強行され、地方自治・住民自治が一方的に蹂躙された。地方・地域の声は次第に国政に届かなくなり、地方は衰退の一途を辿っている。
第2弾が、今回の河村氏の公約に代表される市議会の議員定数・議員報酬の大幅削減(半減)と橋下大阪都構想に象徴される「大都市解体」だ。名古屋市や大阪市など大都市を解体して府県と一体化し、「中京都」や「大阪都」を創出して道州制への道筋をつけようというものだ。そして第3弾は、日本経団連が「究極の構造改革」と位置付ける「道州制の導入」であり、国会議員(比例区)の削減によって国と地方をまるごとファッショ的専制政治の下に置くことだ。
地域政党は全国的に組織される中央政党に対する対概念であり、「ローカルパーティ」といわれる。「地域政党は地域のためにある」というのがローカルパーティの本来の立党精神であり、名古屋市民もきっとそう思っているにちがいない。しかし、河村氏が立ち上げた地域政党の名前がなぜ「減税名古屋」ではなくて「減税日本」なのか。河村市長はなぜ当選早々名古屋市と直接関係のない小沢氏を訪問するのか。そこには、小沢氏と連携して「新党」を立ち上げ、地域政党を踏み台にして中央政界に返り咲こうとする河村氏の意図が透けて見える。
しかしより本質的な問題は、なぜ名古屋市民が河村氏を支持し、「減税日本」に期待をかけるのかということだろう。私はその背景に2つの要因があるとみている。第1が市議会の「オール与党体制」への不満、第2が「納税者の反乱」による「小さな政府」への流れだ。
名古屋市は、もともと大都市のなかでは「偉大なる田舎」といわれるほど保守的風土が濃厚な地域だ。地域の隅々まで町内会組織が張り巡らされ、町内会連合会を牛耳る地域ボス連が自分たちの「縄張り」(票田)をしっかりと守っている。自民党や保守系無所属それに民主党議員たちも町内会をバックにして選挙活動を展開し、地元代表として地域の陳情を市当局にこまめに取り次いできた。革新勢力の弱い名古屋市では、少数会派の共産党さえ封じ込めれば、あとは市議会を思うように操ることができる。そこで市長、市当局、議会多数派が結託してオール与党体制を構築し、それぞれが「三方一両得ルール」で議会を運営してきたのである。
オール与党体制すなわち「地方大連立」は、多数派議員にとって大変居心地のよい慣れ合いの政治世界だ。市長とも仲良くやれるし、「先生」「先生」と持ち上げてくれる市当局に「いい顔」もできる。また地元町内会幹部や後援会に対しては、市当局が用意してくれた「お土産」を適当にばら撒き、地元イベントや冠婚葬祭にこまめに顔を出していれば、4年に1度の選挙はそれほどの苦労もなく乗り切れる。こんなオール与党体制が「毒にも薬にもならない市会議員」を長年にわたって量産し続け、それが市民にとっても「議員先生とはこういうものだ」というイメージをかたちづくってきた。
だが小泉元首相が「自民党をぶっ壊した」ように、河村市長が名古屋市議会の「オール与党体制をぶっ壊そう」としていることに、市議会多数派は気付かなかった。河村氏の体質が従来のオール与党体制下の「根まわし型首長」像とは全く異質の存在であり、その行動様式が地元利権を最優先する「地方大連立の三方一両得ルール」から逸脱していることに考えが及ばなかった。河村氏が地方政治を「踏み台」にして国政を狙う野心的な首長であり、またそれゆえに安易には地方政界と妥協しない専制的かつ強権的な首長になり得ることを予測できなかったのである。
河村氏の派手なパフォーマンスは、オール与党体制のぬるま湯に浸かってきた無能・無気力・無責任の「三無議員」の実態を呵責なくあぶり出した。市民は議員定数と議員報酬の大幅削減(半減)を掲げた河村氏の公約に大きな関心を示し、その手段として市議会解散という直接行動を支持した。有権者にとって河村氏の公約は、オール与党体制という「利益共同体」を崩す勇気ある行動と受け取られ、「市政改革」の一環として支持されたのである。
河村氏はさらに市職員の削減を掲げ、公共サービスの一部を「市民委員会」と称する地域住民組織に移管して、「小さな市役所」を実現するという公約も掲げている。そうすれば市役所の経費が節約され、市民の税金を減税しても大丈夫だというわけだ。こうした一連の現象は、1970年代にアメリカ全土の地方自治体で発生した「納税者の反乱」を想起させる。
70年代に全米の地方自治体が財政危機に陥ったとき、多くの自治体では、下層階級(アンダークラス)の福祉行政や教育行政のために、自分たちの税金が使われるのは真っ平だとばかり、中産階級(ミドルクラス)を中心とする「納税者の反乱」が起こった。そして地域社会に大きな影響力を持つ住民たちが地方税軽減を掲げて住民投票に持ち込み、「小さな政府」を実現しようとした。住民投票によって地方税減税は実施されたが、その結果は、教員・市職員・看護師・消防士など地方公務員の大幅な首切りと賃金カットであり、事実上の公共サービスネットワークの崩壊だった。
現在では事態は一段と深刻化し、州レベルでも拡大している。カルフォルニア州の財政危機は有名だが、過日のABCニュースによると、アメリカ中西部のウインスコンシン州においても、2万数千人の公務員労働者や支援者が医療保険負担や年金負担を大幅に引き上げる州政府予算に対して大規模な反対行動に立ちあがっているという。ニュースキャスターは、「ここはエジプトではなくてアメリカだ。しかしデモ参加者の怒りはエジプトと変わらない!」と叫んでいた。
私は、目下のところ名古屋で住民投票を主導した市民層の内実を知らない。だから、「減税日本」が今後どのような行動をとるかについても未知数だという他はない。しかし、それが結果として公共サービスの衰退を招き、議会制民主主義と地方自治を解体する方向に向かうとすれば、「前途危うし」と思わざるを得ない。
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