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永田町異聞
2011年02月23日(水)
問答無用の資格停止こそ不条理だ
森島恒雄氏の「魔女狩り」(岩波新書)にこうある。
「上は高遠な思想家から下は毒草摘みの老婆にいたるまで、貴賤貧富、老若、性別を問うことなく魔女となった。思えば魔女は気の毒な道具であった。彼らの関知しないあらゆる災厄や不幸、戦争や政治が彼らに結びつけられたのである。しかもそれは、全く恣意的な結びつけであった」
いまや、小沢一郎は、この国の政治がうまくいかない罪をすべて負わされているかのようだ。「全く恣意的な結びつけ」によって。
「魔女狩り」とは、15〜17世紀、西欧のキリスト教国に広がった支配者や知識人の手による異端者処刑のことである。
ルネッサンスの文化が花開いた時代に、大学者や文化人が、法皇、国王、貴族に手を貸して繰り広げられた狂気の殺人ゲーム。気に入らない人間は女だろうが男だろうが、異端審問にかけられ、神の意思に反する「妖術」を駆使する者として処断された。
昨日、民主党の倫理委員会は、さながら異端審問の場と化した。
「検察審査会による起訴手続きと、検察による通常の起訴の違いについて、どのようにお考えになっているのか」
「検察審査会の起訴議決の有効性について、どのように判断されているのか」
「党員資格停止は最長六ヶ月とされているものを、判決確定までの間とするのはなぜか」
小沢氏は上記を含む5つの質問に対する回答を文書で求めたが、渡部恒三倫理委員長は「先例がない」と突っぱねたという。このあとの常任幹事会で、民主党は小沢氏の「党員資格停止」を決めた。
質問に答えもせず、問答無用で資格停止処分にする。いったい小沢氏が何をしたというのか。
はっきりしているのは、東京地検特捜部が、政治資金収支報告書の記載方法に関する些細な解釈の違いを事件にして、小沢氏の元秘書3人を逮捕、起訴し、その三人とも無罪を主張していること。三人の元秘書と小沢氏が共謀しているかどうかを裁判所で判断してもらう権利が国民にあるとして、検察審査会が起訴議決をしたこと。それだけである。
民主党の倫理規範にある「汚職、選挙違反ならびに政治資金規正法令違反、刑事事犯等、政治倫理に反し、または党の品位を汚す行為」 に今の時点で該当すると判断できる材料は何もない。
魔女狩りの広報機関でありながらその自覚さえないマスメディアは、相も変らず感情むき出しの論説を繰り返している。
「極めて甘い処分にとどまった。国会での説明責任に背を向けたまま、これで幕引きすることは許されない」(日経社説)
「元秘書3人の逮捕・起訴に加え、本人が刑事被告人となった以上、本来は自発的に政治的なけじめをつけるのが国会議員として筋である」(読売社説)
なかでも朝日社説は極めつきのヒステリー症状を呈する。「党員資格を停止される人物が、闇将軍のように党内で影響力をふるう。異様な光景というほかない」
さて、その朝日、同じ日の天声人語で「無菌化」の危うさを書いている。
◇「ハックルベリー・フィンの冒険」の黒人への差別語を、無難な語に換えた新版が米国で出版され論争を呼んでいる(中略)今は禁句の「ニガー」という言葉が200カ所以上使われている。これを「スレーブ(奴隷)」とした(中略)言葉のために名作が読まれないのは残念、というのが新版の趣旨らしい(中略)「無菌化」とはニューヨーク・タイムズ紙の新版批判である▼あらためて日本語訳を開くと、差別語に限らず、雑菌の森を行くような奔放な言葉は面白さの一つだ。◇
何か気に障るもの、害があるのではないかと思えるものを見つけたら、繰り返し繰り返し「除菌」しようとする「無菌社会」志向はいまの日本が抱える深刻な病的風潮である。集団ヒステリー、または潔癖症的な精神状態がさまざまな難題を生み出している。
天声人語はこう締めくくる。「事なかれ主義で安易にタブーを生む社会は、優しげに見えてその実危うい。無論米国だけの話ではなく」。
まさにその通りである。ところで、この国の言論界において、小沢一郎擁護はタブーのようになっていないだろうか。
小沢氏をイメージだけで細菌のように毛嫌いする世間の風潮をつくりだし、悪乗りし、さらには「闇将軍のようにまだ影響力をふるう」のはけしからんと、政界から「除菌」するかのごとく追放を声高に叫んでいるのは、朝日新聞をはじめとする大手メディアであろう。
「無菌化」は人を、社会をひ弱にする。些細なことに過剰に反応し、重要なことに考えが及ばない。
単純な善悪二元論で、つねに誰かを悪者にし、それを徹底的に攻撃することで部数を伸ばし、「無菌社会」の製造を続けてきたのが、実は自分たちの言論であるという自覚もなしに、「安易にタブーを生む社会は、優しげに見えてその実危うい」と書いてみても、どれほどの説得力があるだろうか。
せっかく「無菌化」を取り上げた機会に、朝日新聞は「無菌化」がおよぼす社会の病理について、わが身を振り返りながら紙面で掘り下げてみてはどうだろう。
さしずめ「小沢バッシング」などは、格好の材料だ。そのさい、民主党議員の会派離脱などさまざまな動きを、すべて小沢の差し金だと決めつける思考回路に詰まりがないかどうか、よく点検されることをおすすめしたい。
新 恭 (ツイッターアカウント:aratakyo)
http://ameblo.jp/aratakyo/entry-10810595780.html
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