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菅政権断末魔の裏側で民主・自民が目指す「増税大連立」という茶番−政界再編の軸は増税か、減税か
現代ビジネス ニュースの深層 2011年02月22日(火) 長谷川 幸洋
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2130
菅直人首相に残る選択肢は3つに絞られた、という点で大方の見方は一致している。すなわち衆院解散・総選挙か内閣総辞職、あるいは居直りである。私はいずれにせよ、解散・総選挙が近いとみる。
菅が居直ってみたところで、もはや予算関連法案は成立する見通しがない。そうなると、金融市場が悲鳴を上げる。政権の経済財政運営能力が失われたとみて、株価は下落し、長期金利は上昇するだろう。
ただでさえ民主党内に菅不信の声が高まっているのだから、居直り姿勢がはっきりすれば、金融市場からの警告を受けて、両院議員総会で退陣を求める流れになるのは時間の問題である。
菅には解散を避けて、内閣総辞職を選ぶ道もある。民主党議員は「いきなり解散すれば、自分の議員バッジが危ない」というのが本音だから、解散よりも内閣支持率が少しでも高まる(それで自分が当選する)可能性がある総辞職のほうがベターと考えるだろう。
その場合、ポスト菅はだれか。
思いつくのは岡田克也幹事長か前原誠司外相、仙谷由人党代表代行あたりだが、この3人に菅を加えた4人は「民主党の4人組」と言われていた。だから、3人のうちだれに代わっても「菅亜流政権」になるだけで、基本的な党内権力構造と政策路線は変わらない。
それでは、小沢一郎元代表を支える小沢グループと小沢に近い鳩山由紀夫前首相らの鳩山グループらは反執行部姿勢を続けるだろう。彼らの大義名分は「2009年政権公約(マニフェスト)を守れ」であり、政策路線も4人組とは異なる。
仙谷は小沢支持グループの反発を和らげる効果を狙って、野田佳彦財務相を担ぐという見方もある。それも意図が見え透いている。結局、野田が仙谷を軸とする「4人組の傀儡」になるのはあきらかである。
結局、だれが見ても「鳩山、菅と続いた民主党政権が3.0にバージョンアップした」と思えるような首相候補は見当たらない。民主党も人材が種切れなのだ。
では、ポスト菅が菅亜流政権にならない可能性はあるか。
ないとみる。なぜなら、それはすなわち党の実権を握る仙谷の政治的失墜を意味するからだ。それでは仙谷にとって、菅を交代させる意味がない。
結局、元に戻ってポスト菅が菅亜流政権にならざるをえない以上、仮にミスターX(岡田?)に表紙を代えてみても、自民党や公明党など野党が予算関連法案に賛成する可能性はない。
とくに自民党の谷垣禎一総裁は「菅政権を解散・総選挙に追い込む」ことに政治的生命を賭けてきた。「菅が辞めれば、ポスト菅の亜流政権が続いてもいい」では話にならず、自民党内で自分の身が危なくなってしまう。
というわけで、菅が解散・総選挙に踏み切る。あるいは菅自身の手で解散しないとしても、事実上、次が選挙管理内閣になることを野党に確約したうえで、予算関連法案を処理し話し合い解散になる可能性が高い。多少の時間のずれがあったとしても、ようするに解散・総選挙である。
自民も民主も過半数をとれない
ここからが本題だ。解散・総選挙になった場合、どの党が第一党になるのか。
各種世論調査をみると、民主党の政党支持率は落ちているが、同時に自民党も低迷している。たとえば時事通信の2月調査では、民主党が11.9%であるのに対して、自民党は14.9%しかない。しかも昨年12月、ことし1月に比べると、民主党と同じように支持率が続落しているのだ。
これでは仮に総選挙になったところで、自民圧勝とはいかないだろう。むしろ民主党も自民党も過半数を握れず、みんなの党や公明党の第3極がキャスティングボートを握る可能性がある。
そうなれば、必然的に衆院の過半数を目指して政党間で合従連衡が起きる。そこで、もっとも政策的に近いのはどことどこか。実は自民党と民主党である。両者はともに増税路線を掲げているからだ。すでにヒントも示されている。
自民党の谷垣総裁は2月9日、菅との党首討論でこう述べた。
「自民党は昨年の参院選で当面10%の消費税は必要という案を掲げた。次の衆院選マニフェストも当然、それを踏まえたものになる。民主党も方向性はそんなに違わないだろう。選挙の後、勝った方がそれをやって、負けた方も腹いせだなんてことはやめにする。それが、この問題を解決する近道だ」
この発言をとらえて「自民党は解散・総選挙を求めた」と理解するのでは、谷垣の真意を半分しかとらえていない。残り半分が重要である。谷垣は「選挙が終わったら、どっちが勝っても一緒に増税をしよう」と言っているのだ。つまり、最終的には自民と民主による増税大連立政権の樹立である。
いま谷垣自民党はとにかく菅政権を倒して解散・総選挙に持ち込みたいから、激しい言葉で民主党を攻撃しているが、選挙が終われば、さっさと手を握る公算が高い。そもそも、最重要課題である増税路線で一致しているのに、選挙の後もけんかしているほうが理屈に合わないのだ。
党首討論の核心部分
政策が同じなのに「とにかく解散・総選挙を」という基本戦略も、政党の言い分としては根幹の部分でゆがんでいる。本来は、目指す政策がまったく違うから「一刻も早く国民の意志を問え」という主張に政治的正統性が出てくるのだ。
その点で、菅が「まず解散だというのは、国民の利益よりも党の利益を優先している提案としか思えない」と反論したのは正しかった。ほとんどのマスコミはこのやりとりが持つ重要な意味合いを正確に伝えなかったが、まさに、ここが党首討論の核心部分である。
仮に解散・総選挙となれば、自民党と民主党の戦いは非常に奇妙なものになるだろう。互いに相手をけなしながら、政策はともに増税を主張するのだから。両者はいったい、どこが違うのか、国民は判断に迷うに違いない。
これに対抗する政治勢力はといえば、増税よりも改革を優先する渡辺喜美のみんなの党、そして河村たかし名古屋市長の「減税日本」のような地域勢力が軸になるはずだ。自民、民主の「増税派」VS「改革+減税派」というのが、国民にとって大きな選択肢の構図である。
自民党にも谷垣の増税路線を牽制して改革を目指す勢力がいる。民主党にも菅・仙谷ラインの増税路線に異を唱えるグループがいる。小沢・鳩山グループがそうだ。先に会派離脱声明を出した「16人の反乱」は先駆けだった。
そうした党内異分子はいざ総選挙、その後の政権奪取プロセスで、増税一本槍でいくのかいかないのか、大きな決断を迫られるだろう。
国会は菅政権と谷垣自民党の間で、もうしばらく「解散か総辞職か」と激しいやりとりが続きそうだ。だが、華々しく火花が飛び散る表舞台とは裏腹に「選挙が終わったら仲良くやろうぜ」とサインを送り合っている茶番劇にだまされてはいけない。
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