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渦にのまれた
国政与野党
注目されていた二月六日投票の名古屋市長選、愛知県知事選、名古屋市議会リコールのトリプル投票は、自ら任期半ばで市長職を辞任し市議会リコールとの抱き合わせで信を問うた河村たかし候補が、名古屋市長選としては史上最高の六六万二二五一票を獲得して圧勝した。河村の得票率は六九・八%とほぼ七割に達し、民主党と自民党愛知県連が推した第二位の石田芳弘候補を三倍以上引き離した。
同じく愛知県知事選では、自民党国会議員の職を辞して河村とブロックを組んだ元厚労副大臣の大村秀章が、自民、民主、みんなの党、共産党の各候補に圧勝した。大村の得票は一五〇万二五七一票で得票率は五〇・四%。二位の自民推薦候補との差は三倍近い。名古屋市議会リコールを問う住民投票でも賛成が七三・三五%に達し、市議会解散が成立することになった。
名古屋弁丸出しのズケズケした物言いで人気のあった河村は日本新党公認で一九九三年の総選挙に初当選して以来、新進党、自由党を経て一九九八年に民主党に入党した。彼は盗聴法や住民基本台帳法改悪に反対する論客として、市民の院内集会や議面行動にも積極的に顔を出し、市民運動の活動家にも一定の人気があった。その一方で彼は、「南京大虐殺などなかった」と言い放つ右翼史観の信奉者でもあった。
河村は二〇〇九年二月に、民主党愛知県連の推薦候補を差し置いて四月の名古屋市長選への出馬を表明、当時の小沢一郎幹事長の支持を得て県連の決定を覆し、民主党推薦候補として市長に当選した。市長になった河村は「市民税一〇%減税」「市議報酬の半減」を掲げて自民党、民主党が中心の名古屋市議会と激しく対立した。彼は自ら地域政党「減税日本」を結成し、市議会リコールの署名運動を組織するとともに市長の職を辞して市議会をターゲットにした挑戦に踏み切ったわけである。
河村は三月一三日の出直し市議選で自分の党である「減税日本」から四〇人以上を立候補させ、定数七五の名古屋市議会の過半数を獲得することを目指している、と報じられている。自民党議員をやめ、河村人気に相乗りして愛知県知事の座を射止めた大村も四月の愛知県議選で、自らの地域政党「日本一愛知の会」から候補を出して足場を固めようとしている。
名古屋市長選、愛知県知事選における民主党の惨敗は、四月地方選における民主党の大敗をさらに確実なものにしてしまった。菅政権の窮地は一層深刻化している。
利権となれ合い
への反発組織化
河村のやり方は、彼の最大の応援者として登場した橋下徹大阪府知事の手法と共通している。橋下もまた昨年春に自らの地域政党「大阪維新の会」を旗揚げし、昨年五月と七月の大阪市議補選に「維新の会」候補を当選させた。かれらが大阪市政のムダと公務員労働者をターゲットに絞り、その「既得権」に焦点をあてて対立を意識的に作り出していく方法は、鹿児島県阿久根市の竹原信一前市長とも似通ったものである。こうした首長新党の動きは埼玉県の五市町長(さいたま市、和光市、ふじみの市、深谷市、神川町)が統一地方選に向けて結成した政治団体「埼玉改援隊」の動きとも連動している。
地域経済の疲弊が深まる中で、利権配分を通じた自治体首長と議会のなれあいの基盤が崩壊している。財政難に直面した自治体では住民の不満をかわすためにも公務員の人件費削減、民営化・民間委託を進めつつ、議員の高額報酬・議員年金・政務調査費などの議員特権をやり玉にあげ、議会批判を市民に直接的に働きかけ、首長の行政基盤を強化しようとする方法が目立っている。
自治体での首長と議会の対立の構造は、長野県の田中康夫知事の例にも見られたことであった。しかしそのあり方は愛知や大阪と大きく異なっている。
長野県の場合、知事と議会多数派のなれあい・癒着構造がもたらす利権・腐敗のあり方(長野冬季五輪招致費用など)への住民の側の批判の運動を背景として、住民自身の参加型民主主義に基づく草の根からの県政批判の運動が、田中康夫を押し上げた。知事に当選した田中と県議会多数派の対決の構造を県民自身が作り上げたのである。田中の手法に多くの批判があるのは確かだろうが、しかしそのあり方は河村と名古屋市議会の関係とは大きく異なる。
名古屋の場合は明らかに、市長と市議会との対決にあたって河村が自らの政治目標を達成するために上から市長主導で住民に働きかけて「リコール」運動を組織した。それは首長主導の強権的手法であって、住民の民主主義的参加とは別物である。
橋下や河村の手法は、小泉流の「ワンフレーズ・ポリティクス」で「敵」を選び出し、煽情的な方法でそこに打撃を集中し、人びとの不満を解消するというデマゴギー政治である。自民党を二〇〇九年の総選挙で大敗北させ政権交代を実現した民主党が、鳩山・菅政権の相次ぐ自壊状況によって有権者から完全に見放されている。人びとの間では議会政治・二大政党へのフラストレーションがたまっている。そうした時に矛先を民主・自民両党の支配する市議会に絞り、「市民税減税」を唯一のキャッチフレーズにして「血税」を食い物にする議員たちを攻撃する手法は、「わかりやすい」ものであったに違いない。
「市民税一律一〇%減税」がもっぱら富裕層に有利な税率削減であり、「市議報酬半減」が名古屋市の財政危機の改善それ自体にとってはほとんど無意味であることは言うまでもない。名古屋市長選の応援演説で岡田民主党幹事長が「この選挙は『パンとサーカス』だ(ローマ帝国時代に民衆をつなぎとめるために食料と娯楽を与えたこと)」と河村の手法を批判し、仙谷民主党代表代行が「河村の独裁的なやり方はヒトラー、ナチスと同じ」と攻撃したのは、河村のそうしたデマゴーグ的手法が民主党の金城湯池だった愛知県の党支持層に浸透していることへの危機感から発している。
われわれは河村や橋下のやり方が、地域住民の自治と民主主義の基盤を、強権的「指導者」の上からの民衆動員によって根底から破壊するものでしかないことを厳しく批判しなければならない。
地域自治を解体
する「道州制」
大阪の橋下、愛知・名古屋の大村・河村は、地域新党を基盤にした大都市圏連合で「日本改造」に乗り出す構想を打ち出した。大村は、昨年一二月の「大阪維新の会」の会合で大阪・愛知による「平成の薩長同盟で幕府を倒す」と訴えたという。こうした構想は橋下の持論である大阪府・大阪市を一体化した「大阪都」、大村・河村の「中京都」、さらには今年一月に新潟県の泉田知事と新潟市の篠田市長が提起した「新潟州」などとして次々にアドバルーンが上がっている。
橋下大阪府知事のブレーンである大阪府特別顧問の上山信一(慶応大教授、旧運輸省出身、経営コンサルタント、「脱藩官僚の会」発起人)の著書『大阪維新 ――橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)によれば、「大阪維新」とは、「『国鉄改革』と同じスケールの改革を日本でもやろう、そのためにはまず大阪から変えよう」というものであり、「硬直した“社会主義国家”の日本国を各地域に“分割”し、自主独立経営していこうという運動」だそうである。そこでは徹底した企業経営の観点から日本を四つの州(九州、西日本、中部、東日本)とそれ以外の二つの地域(北海道、沖縄)に分割・連合させることになる。なぜ北海道と沖縄が「州」に含まれないかといえば、双方ともに独立経営するための経済的基盤がないからであり、ただ軍事的に重要なので他の四州がカネを出して支えるのだという。
「大阪都」や「中京都」は、そこに向かう一環であり、昨年末に発足した「関西広域連合」(大阪、京都、兵庫、滋賀、和歌山、鳥取、徳島の二府五県で構成)は、日本経団連も提言している「道州制」への一歩として位置づけられるものであろう。
一部ではこうした「道州制」や「四州+二地域」構想が、国家の権限を地方に移譲する「分権改革」として歓迎する向きもあるようだ。しかしこれらの提言は、完全に企業経営合理化のための「分社化」でしかなく、地方・地域自治とは何の関係もないどころか住民自治と住民の権利を根本的に否定するものだと言わなければならない。
全国の自治体を一九九九年の三二七二から二〇一〇年三月の一七二七へ一〇年でほぼ半減させた「平成の大合併」は、医療・福祉・教育など地域に密着した公共サービスを大きく削減する結果をもたらした。こうした効率性の観点からする「道州制」や「州連合」の提言が、地域住民の自治の基盤をさらに大きく低下させ、地域社会の解体を促進していく結果しかもたらさないことは火を見るよりも明らかである。ちなみに人口が日本の半分強であるフランスの地方自治体(コミューン)は全国に約三万八〇〇〇存在し、うち人口二〇〇〇人以下の自治体が九割を占める。各自治体は直接選挙で議員を選出し、それが地域自治の強固な基盤となっている。
われわれは何よりも地域住民自身による自治と民主主義の運動を草の根のレベルから再建し、行政主導のデマゴギーに満ちた動員、あるいは経営的「効率性」重視の「広域自治体再編」の企図を打ち破っていく必要がある。それは四月統一自治体選挙の重要なテーマなのである。
(平井純一)
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