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特捜部と闘った「会計のプロ」が解明した「朝鮮総連詐欺事件は無罪」という「決定的証拠」有罪の根拠となった自白調書をつくったのは、あの「割り屋」前田検事
2011年02月15日(火)会計評論家 細野祐二
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074
1.前田検事の証拠改竄
大阪地検特捜部前田検事の証拠改竄事件を受けて、本来それとは何の関係もない朝鮮総連詐欺事件の帰趨が、俄然注目を浴びている。
朝鮮総連詐欺事件は、元公安庁長官の緒方重威弁護士が、不動産会社社長の満井忠男被告と共謀して、朝鮮総連ビルの買戻条件付売却取引に乗じ、朝鮮総連より4億8400万円の現金(現金詐欺)と朝鮮総連ビル(不動産詐欺)を騙し取ろうとしたとして逮捕・起訴されたものである。
事件では、両被告の他に経営コンサルタントの河江浩二被告が不動産詐欺の共犯として起訴され、一審・控訴審ともに有罪判決が出ている。公判では、緒方・満井両被告とも無罪を主張したものの、東京地裁は、両被告の自白調書の任意性を認め、平成21年8月10日、緒方被告に懲役2年10月執行猶予5年、満井被告に懲役3年執行猶予5年の有罪判決を出した。
一審判決に対して、被告側は有罪認定を、そして、検察側は執行猶予を不服として控訴しており、事件は現在、東京高等裁判所において控訴審係争中である。本件は東京地検特捜部起訴による自白事件で、特捜検察の検面調書に絶対的な信用力を認める現行の司法実務を勘案すれば、そもそも無罪判決など端から出るはずもなかった。
一審東京地方裁判所とすれば、執行猶予も付けたことだし、これでも精一杯の温情判決のつもりなのである。一審判決に対しては被告・検察共に控訴したものの、それは行きがかり上の勢いというもので、控訴審は無風裁判で、早晩控訴棄却になるというのが大方の予想であった。
大阪から駆り出された「特捜のエース」
控訴審は平成22年9月14日に初公判が始まったが、ちょうどこのころ、前田検事による証拠改竄疑惑が特捜検察を直撃する。厚生労働省の村木元局長の無罪判決が9月10日のことで、朝日新聞がフロッピーディスクの改竄疑惑をスクープしたのが9月21日、翌9月22日には大阪地検特捜部の前田検事が逮捕されている。
そして、朝鮮総連事件の実行犯とされる満井被告の自白調書を取ったのが、なんとその前田検事だったのである。当時、前田検事は、特捜検察のエースとして、大阪から朝鮮総連事件の応援捜査に駆り出されていた。
検察ストーリーに合わせるためには平気で物証の改竄までやらかすというのであるから、前田検事の取った検面調書が真実を語っているかどうかは大いに疑わしい。そして、朝鮮総連事件では、その前田検事の取った検面調書が被告人有罪の最大の証拠とされているのである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=2
前田検事逮捕の衝撃映像を見て、被告人側弁護団は小躍りしたのではないか?その後、前田検事の証拠改竄事件は、10月1日の大坪弘道前大阪地検特捜部長及び佐賀元明前大阪地検特捜副部長の逮捕へと発展し、10月4日、緒方被告は、前田検事らを偽証罪で刑事告発している。
2.被害者意識なき一項詐欺罪
そもそも詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させた者(一項詐欺罪)、あるいは、人を欺いて財産上の利益を得た者(二項詐欺罪)について成立する犯罪(刑法第246条)で、未遂も処罰される(刑法第250条)。
そこで、この事件の詐欺罪の成立について検討してみると、朝鮮総連は平成19年4月18日から24日にかけて合計4億8400万円の現金を満井被告に交付しており、朝鮮総連ビルの登記は、同年6月1日に、緒方被告が代表取締役のハーベスト投資顧問に移転された。一項詐欺の前提となる財物は、事実として交付されている。
事実上の司法取引が行われていた ところが、この事件の平成19年における関係者間の資金移動を複式簿記で集計してみると、次の通りとなる。なんと満井・緒方両被告人連合は財産上の利益を得ていない。朝鮮総連から出された4億8400万円の現金のうち、3億9400万円は、平成19年6月12日以降、緒方・満井両被告より朝鮮総連側に返金されており、残金の9000万円についても同年12月17日付の満井被告による債務弁済確認書が差し入れられている。
また、朝鮮総連ビルの登記は、一旦ハーベスト投資顧問に移転登記された後、同年6月18日に解除を原因とする所有権移転登記の抹消登記が行われている。
ここで、現金による利害得失だけを考えれば、朝鮮総連側の被害額は9000万円となり、これに対して緒方被告は5000円万円の持ち出し、満井被告は1000万円の受取超過となっている。それでは、いったい朝鮮総連の9000万円はどこに消えたかと見ると、不動産詐欺の共犯者とされる河江浩二被告が1億3000万円の正味受取超過となっている。そして不思議なことに、その河江被告は金銭詐欺では起訴されていないのである。
不動産詐欺で起訴された河江被告は、検事から、「お前は金銭詐欺では起訴されていないのだから、不動産詐欺では協力してもらうぞ。」
と再三にわたり迫られ検面調書をとられたと証言している。これを一般に司法取引と言い、日本では、もちろんやってはいけないことになっている。
被害者に被害意識のない不可思議な詐欺事件
朝鮮総連の詐欺事件では、緒方・満井両被告の利得行為は認められない。しかし、一項詐欺罪では、返金等の事情にかかわらず、財物の交付行為だけが問題とされる。被告人両名が朝鮮総連を欺いて4億8400万円の現金と朝鮮総連ビルを交付させたとすれば、それでも詐欺罪は成立する。
この事件では財物の交付に争いがないので、それが人を欺いた結果かどうかだけが問題とされることになる。本件は、緒方・満井両被告人の当時の言動が、人を欺く(欺罔)行為に当たるかだけが有罪無罪の分岐点になっているのである。
緒方・満井両被告が朝鮮総連を欺いて金と不動産を騙し取ったというのであるから、朝鮮総連は緒方・満井両被告から欺かれたということになる。ところが、この事件の馬鹿馬鹿しさは、その被害者である朝鮮総連側に欺かれたという被害者意識がないという点にある。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=3
朝鮮総連の代理人で元日弁連会長の土屋公献弁護士は、報道機関に対して、
「総連当局も、私自身も、現在のところ、緒方弁護士による詐欺の被害者であるという実感が湧かないのです。この事件が、政府と官憲による国策訴追事件ではなかろうかとの疑いが残ります」
との意見表明を行い、取調でも同様の供述を行なっている。本件は詐欺の実害が認定できず、被害者側に被害者意識も存在しないという、まことに不可解な詐欺事件なのである。
3.自白調書の証拠能力
こんなものでよく起訴にまで持ち込めたものだと感心するが、そもそも、“商取引における駆け引き、商品の広告・宣伝における誇張は、日常生活において一般的に認められるものなので、それが社会生活上許容される程度のものであれば詐欺罪には当たらない"(三省堂、法律学用語辞典)とされている。
欺罔行為の認定は、社会通念上の許容などいう曖昧模糊とした主観的判断に過ぎず、従って、「悪いこととは知りながら騙し取りました」などという本人の自白でもないことには、欺瞞行為の有罪立証など、とてもではないけれどできるものではない。だから、特捜検察はなりふり構わず緒方・満井両被告の自白調書を取りにかかったのであり、そこで「割り屋」として評判の前田検事を、なりふり構わずわざわざ大阪から呼び寄せたと考えるべきであろう。
さて、ここでの特捜部の基本戦略は、河江被告を金銭詐欺から逃がして自白を取り、その河江被告の自白を梃子にして満井被告を落とし、最後に本丸の緒方被告の自白を取るというものだった筈である。自白の時系列はほぼこの順番になっている。金に決定的な弱みのある河江被告は、金銭詐欺から逃れるためにはどんな自白調書にも署名する。
河江被告の自白調書こそ特捜部作成による検察ストーリーなのである。ここで最も自白調書が取りにくいのは元検事の緒方被告であり、だからそのためには、なんとしても満井被告を先に落としておかなければならない。そして、前田検事は、特捜検察の期待に見事に応え、満井被告から立派な自白調書を取った。
脅迫、恫喝を用いた取り調べで署名してしまった
緒方被告は、「それまでの脅迫・恫喝等を用いた取調べの影響に加えて、河江及び満井が自白していると再三聞かされる中で、家族のことを持ち出され、激しく動揺し供述の自由を喪失した状態で犯罪事実を認める供述調書に次々と署名、押印してしまった」として、堪らず自白調書に署名した心境を公判廷で供述している。
さて、ここで、前田検事が証拠改竄事件で逮捕された。常識的に考えれば、物証改竄犯の前田検事が取った自白調書に証拠能力など認められるはずがない。そうすると、満井被告の自白調書は証拠から排除されなければならず、それと全く同じ検察ストーリーに基づく緒方被告の自白調書も証拠価値がなくなる。残るは金銭詐欺で司法取引に応じた河江被告と、被害者意識のない朝鮮総連サイドの証言くらいのもので、まさかこんなものだけで有罪判決など書けるはずがない。
当然に緒方・満井両被告は逆転無罪を期待しているであろうが、残念ながら、事はそう簡単には進まないであろう。なぜなら、有罪判決は既に原審東京地裁で出ているのであり、東京高等裁判所は、何も新たに有罪判決を出し直す必要などないからである。
これが日本の控訴審の悲しいところで、被告人は、「原審判決に事実の誤認があってその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであること」(刑事訴訟法代382条)を、自ら立証しなければならない。弁護側は、原審判決の事実誤認を立証する必要があるが、前田検事の別件証拠改竄はここでの事実誤認の立証にはならない。
ここで呆れた事には、緒方・満井両被告の自白調書は既に原審で証拠採用されてしまっている。事ここに至った以上、前田検事が控訴審に出てきて、「満井被告の自白調書は検察ストーリーに合わせて全部私がでっちあげたものでした。」などと証言してくれない事には、もはやどうしようもないではないか。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=4
だからといって前田検事がこんな不利益証言をする動機は全くなく、そもそも前田検事の身柄を押さえる検察庁が、そんなことをさせるはずもない。
結局、前田検事の暴露証言は出ない。だから、控訴審には新証拠がない。新証拠なき控訴審では、弁護側は一審と同じ弁論を繰り返すだけのことで、それでは一審有罪判決を覆す事はできない。朝鮮総連詐欺事件は、前田検事の別件証拠改竄では勝てないのである。
4.原審判決の有罪構造
平成18年当時、朝鮮総連は、整理回収機構から約627億円の譲受債権請求訴訟を提起されており、これに対して朝鮮総連側は、和解案を提示して、和解成立の可能性を模索していた。ところが、整理回収機構がこの和解案に応じず、和解交渉は平成19年2月中旬ころには打ち切られることとなった。この結果、朝鮮総連側は譲受債権請求訴訟に敗訴し、朝鮮総連ビルの土地建物が強制競売に付される危険性が増大した。
このような状況のもとで、朝鮮総連側は、許宋萬責任副議長、趙孝済中央常任委員会財務担当常任理事及び代理人の土屋公献弁護士の3名が中心となって対策を練ったところ、問題の朝鮮総連ビルを一旦第三者に任意売却してその売却代金を整理回収機構に支払い、5年後にはこれを買戻すことにより、強制競売を合法的に回避することを計画した。この場合、朝鮮総連は、売却後5年間は使用損害金(家賃)を支払うことにより、引続き朝鮮総連ビルの使用を続けることになる。
朝鮮総連はこの計画に基づき、平成18年11月ころより、朝鮮総連ビルの買主を探していたが、いずれも失敗に終わっていた。そのころ、かつて朝鮮総連と不動産取引の実績のある満井忠男被告を紹介され、平成19年3月上旬ころ、満井被告に本売買案件を持ち込むことになった。満井被告は、不動産業を営む株式会社三正の代表取締役社長であり、平成10年に強制執行妨害罪等により懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を受けている。ちなみに満井被告は、平成16年に破産宣告を受けている。
緒方弁護士は、平成9年に広島高等検察庁の検事長を定年退官し、弁護士として活動していたところ、平成10年の強制執行妨害事件で満井被告の弁護人となり、満井被告の執行猶予判決を勝ち取った。その後、満井被告と緒方弁護士は、家族ぐるみの交際となり、本件当時は、六本木のSKTビルの地上げを共同して行うまでの関係にあった。
否定された自白調書の中身
さて、一審判決文に記載された犯罪事実によれば、満井被告と緒方被告は、朝鮮総連ビルの買戻条件付売却案件の依頼に乗じ、朝鮮総連の趙財務担当常任理事から金員を搾取しようと企てたという。両者共謀の上、満井被告又は満井被告の支配する投資家グループが運用している資金を振り替えて朝鮮総連ビルの購入代金を支払うという事実無根の話で朝鮮総連側の関心を引いた。そのためには運用資金引き上げの際の違約金等が必要との虚言により、平成19年4月18日から24日までの間の3回にわたり、趙財務担当常任理事から現金合計4億8400万円の交付を受け、もって、人を欺いて財物を交付させたとされている。これが第1の犯罪事実としての現金詐欺である。
同様に、満井被告と緒方被告は、元安田信託の銀行員で経営コンサルタントの河江浩司被告と共謀の上、平成19年5月31日、緒方被告が代表取締役となっているハーベスト投資顧問が、米国在住でヘリコプター会社を経営する森憲吾社長からの資金提供により、朝鮮総連ビルの購入代金を支払うとの事実無根の前提で、朝鮮総連とハーベスト投資顧問との間で朝鮮総連ビルの売買契約を締結させた上、翌6月1日、趙財務担当常任理事から所有権登記済権利証等の交付を受けて朝鮮総連ビルの所有権移転登記を行い、ハーベスト投資顧問において朝鮮総連ビルを取得し、もって、人を欺いて財物を交付させたとされている。これが第2の犯罪事実としての不動産詐欺である。
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そこで、犯罪事実において欺罔行為として指摘されているのは、緒方・満井両被告人の次の言動である。
現金詐欺
●「中国とか韓国で200億以上のファンドを動かしています。国内においても三、四人のグループで四、五十億のファンドを動かしています。だからそのくらいのお金はすぐ用意できます。」
● 「もうこれで代理人も決まったことですし、4月末までに成約できるでしょう。」
● 「満井さんがおっしゃっていることは大丈夫です。」
● 「売買代金を用意するにおいて、今運営しているファンドを切り替えて持ってこなきゃならない。」
● 「動かしているプロジェクトを中断して組み替えるとなれば、違約金がどうしても発生します。そのお金がなければファンドのお金を持ってきづらい。」
●「それにおいて、恥ずかしい話だけれど、手元に自分には現金がない。そういうお金を一時預らせていただけますか。」
●「30億なら、おおよそ、まずその全体の1割、プラス、確定した金額でこれだけということはまだ確定できないので、余分なものを約一億二、三千万円ぐらいみていただきたい。」
●「後5900万円ほど準備して私の方にお預けいただきたい。」
不動産詐欺
●「森さんと話をしまして決まりました。契約できます。確実です。」
●「森さんの方で、資金の準備はもうすぐ終わるので、35億円をお支払できます。ただ、売買契約の内容は、先に所有権移転登記をして、それが済んだのを買主が確認できてから、売買代金を支払うという形にしてもらいたい。先に登記を移して、それを金主が登記簿謄本で見て確認してから代金を支払うというのが、買主側の要求している絶対条件です。森さんは、登記簿謄本ができて、登記が移ったのを確認できたら、ちゃんとお金を出すと言ってます。」
緒方・満井両被告は、こんな事は言っていないと主張しているのであるが、両被告人の自白調書では言ったことになっている。そこで一審判決では、このような密室内の会議における「言った」、「言わない」の争いを、関係者証言の信用性に基づいて判定している。
金銭詐欺については、趙財務担当常任理事の公判証言と土屋弁護士の検面調書における供述が取り上げられ、両人が嘘を付く理由がないとのことで、両関係者の証言・供述に高い信用性が認定された。そこで、緒方・満井両被告の自白調書は、信用できる趙証言と土屋供述と符合するので、従って信用できるということになっている。
不動産詐欺については、河江被告と森憲吾社長の公判証言が取り上げられ、両人の証言が首尾一貫しているとのことで、その証言に信用性が認定された。これまた、緒方・満井両被告の自白調書は、信用できる河江・森証言と符合するので、従って信用できるということになっている。要は、緒方・満井両被告は、「こんな事」を言ったことになり、従ってそれは欺罔行為に当たるので、有罪ということになる。
5.欺網の社会的許容度
原審判決は全167頁にも及ぶ長大なものであるが、このうち39頁から105頁にかけての66頁(40%)を、現金詐欺における緒方・満井両被告の共謀の認定に費やしている。しかも、そのうち39頁から84頁は、共謀の間接事実を45頁にわたり延々と積上げるものとなっている。原審判決は、間接事実のテンコ盛りで、かろうじて現金詐欺の共謀にたどりついているのである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=6
これに対して、満井被告の現金詐欺の認定には9頁から39頁にかけての30頁分(18%)が、不動産詐欺の認定には105頁から137頁にかけての32頁分(19%)が使われているに過ぎない。
ということは、裁判所とすれば、満井被告の現金詐欺と不動産詐欺については有罪認定が比較的容易だったということで、これに対して、緒方被告の金銭詐欺の共謀の認定はいかにももどかしい。この有罪判決の最大の弱点は緒方被告の共謀の認定にある。
ここで、仮に、本件で緒方被告の金銭詐欺への共謀が認定されないと、事件全体の有罪構造が一気に崩壊してしまいかねない。満井被告や河江被告はそもそも不動産ブローカーであり、不動産ブローカーが、不動産取引に際して際どい駆け引きを駆使したり大げさな誇張を用いるのは、一般的に広く行われている不動産業界の(好ましいとはいえない)商慣習となっている。
共謀を否定する「決定的な証拠」がある
犯罪事実に記載された調子のよい発言の数々も、これが天皇陛下の認証官まで勤めた元検事の緒方被告の言動と言うから「とんでもない」ということになるだけのことで、これが不動産ブローカーの言動とすれば、さして驚くようなこととも言えない。現に朝鮮総連側はさして驚いていない。満井被告や河江被告だけであれば、本件は事件にもならなかったであろうし、起訴しても有罪判決が出たかどうかは疑わしい。
ところが緒方被告が共謀していればそうは行かない。満井被告や河江被告については社会通念上の欺罔行為の許容度が広く、元公安庁長官の緒方被告にはその許容度が極端に狭いからである。すなわち、特捜検察は、欺網許容度の極端に狭い緒方被告を共謀に持ち込むことにより、事件全体における欺網行為の立証レベルを大幅に下げることに成功している。
ならば、弁護側は、緒方被告の共謀をこそ集中的に反証すべきであろう。緒方被告の共謀は、間接事実をテンコ盛りに積上げてやっとのことで認定されているに過ぎないので、弁護側は、まことにひ弱なこの一点を突き崩すことにより、事件全体の逆転無罪が見えてくる。そして、本件では、(弁護側は気付いていないものの)実は緒方被告の共謀を否定する決定的な客観証拠が存在する。緒方被告に銀行送金された1億円の会計記録である。まことに僭越ながら、以下に論証する。
6.詐欺報酬の認定
朝鮮総連ビルの任意売却計画は、当初案が売買代金30億円、賃料相当額の使用損害金年3億円の5回前払い、5年後の買戻価格35億円であったが、その後売買代金が35億円に引き上げられ、これに伴って、使用損害金が3億5千万円、買戻価格は38億5000万円へと、その時々の交渉結果に応じて変更されていく。この過程で満井被告に交付された4億8400万円は、次の3回にわたり、朝鮮総連側より全て現金で手渡しされている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=7
さて、金銭授受の1回目は平成19年4月18日午前のことで、満井被告が実質支配する株式会社医療電子科学研究所の事務所において、現金3億円が趙孝済朝鮮総連常任理事から満井被告に手渡しされている。この3億円は当初案による売買代金30億円の1割で、趙常任理事は、「満井被告運営による別ファンドの資金を朝鮮総連ビルの売買資金に振り替えるための違約金相当額」として支払ったと証言するが、三井被告の公判供述では、これは売買に伴い発生する登録免許税等の諸経費の総連側負担金の前払金とのことである。
2回目は同じ4月18日の午後で、同じく医療電子事務所において、現金1億2500万円が趙常任理事から満井被告に手渡しされた。趙常任理事は、この金は午前中に支払われた3億円に対する余裕金で、満井被告が「一億二、三千万円ぐらいをみてほしい」と要求したものと証言するが、満井被告の公判供述では、これは朝鮮総連側の負担すべき費用補填額で、その明細は次の通りとなっている。
三回目は4月24日で、場所は同じく医療電子事務所において趙常任理事から満井被告に手渡しされたが、今度は現金5900万円と中途半端な金額となっている。趙常任理事は、この5900万円は、前日の4月23日の夜の会合で売買代金が30億円から35億円に増額されたことに伴う「別ファンド振替違約金相当額」の追加額と証言するが、それがなぜ5900万円という半端な金額となったかの理由を説明できない。満井被告の公判供述では、5900万円の内訳は次の通りである。
満井被告の公判供述によれば、三回目の5900万円は、朝鮮総連ビルの平成19年1月から4月までの固定資産税相当額1400万円と、満井被告の不動産仲介手数料補填額4500万円の合計となる。
前日の会議で、朝鮮総連ビルの売買代金は35億円に増額となり、これに伴い年間賃料相当額も3億5000万円に値上がりすることになった。ところが総連サイドは年間賃料相当額の3億5000万円への増額に難色を示し、そこで満井被告が年間2000万円の賃料相当額を負担することで何とか取引の合意を得たと言うのである。
ビジネスの常識では考えられない検面調書
満井被告が本来得るべき仲介手数料は、売買仲介と賃貸仲介を合わせて1億1500万円となるべきところ、こんなことをしてしまうと、5年分の賃料補填で1億円が消えていくので、満井被告の実質手数料は1500万円に激減してしまう。満井被告がこの点を朝鮮総連の許宗萬責任副議長に直接訴えたところ、許責任副議長の裁定で、満井被告に対する追加手数料4500万円が決まったと言う。ちなみに、許責任副議長はこの事件での証言を一切行なっておらず、供述調書も取られていない。
ビジネス上の常識で考えれば、この3回の金銭授受は、1回目の3億円については趙常任理事の証言が正しく、2回目の1億2500万と3回目の5900万円は満井被告の法廷供述が正しいであろう。ところが現行司法実務では、ビジネス上の常識には配慮がないので、およそ商慣習上の常識では考えられないような検面調書が正しいことにされてしまう。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=8
原審判決では、趙常任理事の証言に対して、
「格別不自然とまではいえない。」(原審判決29頁5行目)
「それなりに合理的な説明であると思われる。」(原審判決30頁21行目)
などと苦しい言訳を積み重ね、趙常任理事の証言を採用してしまうのである。この結果、4億8400万円は「別ファンド振替違約金相当額」となり、これは嘘なので、従って、金銭詐欺の金となってしまった。
ところで満井被告は法廷で、「捜査段階における取調べの中で、取調官である前田恒彦検事から、朝鮮総連の責任副議長である許を証人として呼ぶことになれば国際問題となるから、許の代役として趙を立てることに協力してほしいなどと説得されて、これに沿う供述をした」
旨を述べている。また、満井被告は、一貫して、総連側との金銭の交渉は全て許責任副議長と直接交渉しており、趙常任理事は金の運び屋に過ぎなかった旨を述べている。満井供述によれば、趙常任理事が金の内容を知らないのは当たり前なのであるが、原審判決では、この満井被告の法廷供述を、「およそ信用しがたい。」(原審判決36頁2行目)
として一蹴している。もちろん、原審判決時には、前田検事による別件証拠改竄事件は発覚していなかった。
7.詐欺金の会計処理
検察ストーリーでは、満井被告の受けたった4億8400万円のうち、緒方被告並びに河江被告の分け前はそれぞれ1億円ずつということになっている。
実は河江被告には、平成19年4月26日、5月18日、5月31日の3回にわたり、それぞれ5000万円ずつが現金で満井被告から手渡しされている。河江被告の証言によれば、最初の5000万円は、4月26日の午前11時ころ、医療電子事務所において、満井被告よりキャリーバックから手渡しされたとのことである。河江被告は、その際、現金を持ち歩くのに不安があったことから、愛人を新橋第一ホテルに呼び出してこの金を預けたと証言している。
河江被告が受け取った1億5000万円の現金は、このうち4500万円が朝鮮総連ビルの所有権変更登記料として使われ、さらに事件発覚後の6月12日には、その時点での手持残金2000万円が満井被告を経由して朝鮮総連側に返却されている。この間、河江被告は8500万円(1億5000万円−4500万円−2000万円)の現金を使ったことになるが、その金は右から左へと河江被告の借金の返済に廻されている。
なぜ所得税を納税していないのか
河江被告は当時2億円ほどの借金を抱え、二進も三進も行かない厳しい資金状況にあったことが判明している。
河江被告は、検察官との司法取引に応じることにより、不動産詐欺を認めて金銭詐欺では起訴されていない。そして公判では、金銭詐欺事件で受け取った1億5000万円は正当な報酬で、個人使用分の8500万円についても返還するつもりはないと証言している。判決では、罪を認めた河江被告の証言が信用できるとされているのであるが、実は河江被告のこの公判証言は嘘である。
なぜなら、もしこれが返還義務のない正当な報酬と本当に思っていたのなら、河江被告は3000万円程度の所得税を納税していなければおかしい。2000万円返却後には一文無しとなった河江被告に納税資金など残されていない。弁護団が、一審でこの点を反対尋問で追求しておけば、河江被告はしどろもどろになって、その証言を有罪証拠から排除できたのである。
さて、河江被告は、満井被告より受けたった1億5千万円を現金のまま支払に廻している。現金のまま入出金されたということは、その会計記録が取られていないということであり、これを会計上裏金処理と言う。裏金は記帳されず、税務署もその資金移動を把握しようがないので、当然に税務申告も行なわれない。だから犯罪者に好まれる。
ここに驚嘆すべき事実が存在する。河江被告の山分け金は、犯罪会計の原則どおりしっかりと裏金処理されているものの、緒方被告に渡った1億円はなんと銀行送金されているのである。しかも、緒方・満井両被告サイドでは、それぞれに任意の会計記録が残されている。せっかく現金で受け取った詐欺の裏金を,わざわざ表金として銀行送金して会計記録を残す詐欺師が一体どこの世の中にいるというのか?弁護団は緒方・満井両被告の無実を立証するこの決定的事実を論証していない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=9
満井被告は、平成19年4月19日、朝鮮総連から受け取った金のうち1億円を、医療電子の石橋博代表取締役に指示して、一旦医療電子の銀行口座に入金させた。この金は、同じく満井被告の指示に基づき、同月25日に、7000万円が医療電子の銀行口座から緒方被告の銀行口座に振込送金され、残額の3000万円は医療電子の運転資金等に費消された。
同月27日、満井被告は石橋代表取締役に更に3000万円を渡してこれを医療電子の銀行口座に入金させ、同日同額を緒方被告の銀行口座に振込送金させた。緒方被告に対する合計1億円の送金は、いずれも医療電子の緒方被告に対する借入金の返済として経理処理されている。
この1億円を緒方被告側から解析すると、医療電子より4月25日に送金された7000万円は同日中に、4月27日に送金された3000万円は5月1日に、いずれも緒方被告の銀行口座に入金された。
緒方被告の現行通帳の入金欄の余白部分には、それぞれに「貸付金返済」との書き込みがある。緒方被告は入出金毎にその内容を書き込むことにより、銀行通帳そのものを会計帳簿としていたのである。税理士は緒方被告から銀行通帳のコピーをもらって、そこに書かれた記載に基づき税務申告を行っていた。
税務申告では、ここでの1億円は債権債務取引(非損益取引)として処理されているはずで、だから緒方被告の平成19年度個人所得税申告書の収入欄には、詐欺報酬1億円が計上されていない。緒方被告はこれが報酬などとは夢にも思っていなかったのである。
会計原理を知らない決定的誤審
本件1億円について、緒方被告は、7000万円が満井被告の代理送金のための預り金で、3000万円が医療電子に対する貸付金の返済であると法廷供述しており、一方の満井被告は、1億円全てが医療電子の緒方被告に対する借入金返済であると法廷供述した。
これに対して、原審判決では、「1億円という高額の資金が送金された理由について、その送金の当事者であり、報酬性を強く否認する被告人両名の当公判廷における説明内容が相互に大きく食い違っている」として、自白調書通り詐欺分配金としての認定が行われている。
気は確かか?緒方・満井両被告の法廷供述は、この1億円が両者間の債権債務取引であるという点について会計上完全に一致しているではないか。この供述を聞いて「両者の説明内容が大きく食い違っている」などと言うのは、会計原理の基礎理解に欠けた決定的誤審であろう。
もとより、満井被告は、自己破産により銀行取引に不都合があったため、緒方被告を代理人として事業資金のやり取りを行っていた。このため、両者間には数千万円単位の事業資金のやり取りが頻繁に行われており、貸借関係も複雑なものとなっている。
このような中で行なわれる債権債務取引は、それが債権債務取引で損益取引ではないという点さえ確認されていれば、仮に個々の取引内容について誤解があろうと、実務上何らの支障も生じない。なぜなら、損益取引と貸借取引の区分さえ明確であれば、両人の損益と最終決済額には一切の影響がないからである。債権債務残高に影響なき取引内容の認識の相違は、両者間の経済的負担額に何らの影響を与えず、従って、本件における会計上の意味を持たない。
ここでの緒方・満井両被告間の供述の相違など、7000万円部分の送金について、片や新規預り金と主張しているのに対して、もう一方が借入金返済と主張しているだけのことで、両者の差など、単なる簿記記帳上の勘定科目の違いに過ぎない。どのように認識しようが、両人が最終決済すべき相手方債権債務残高は常に一致しているのである。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/2074?page=10
本件の取引時点では、両者共にこの金が損益取引ではないこと(=緒方被告に対する報酬ではないこと)だけが重要なのであり、そして両者ともその認識の下、首尾一貫して債権債務取引としての会計処理を行ない、その通りに税務申告が行われている。
ならば、本件1億円は朝鮮総連詐欺報酬の分配金ではあり得ず、緒方被告に対する現金詐欺共謀は成立しない。ということは、緒方被告に対する現金詐欺共謀を前提として成立する満井被告の現金詐欺もなく、現金詐欺を前提として成立する両被告の不動産詐欺も成立しない。本件は、緒方・満井両被告共に無実なのである。
なぜわざわざ足のつく銀行振り込みにしたのか
考えても見よ。満井被告は朝鮮総連からの4億8400万円を現金で受け取っている。この中から河江被告への分け前は現金で支払われた。それを緒方被告に対する分け前だけは、なぜわざわざ足のつく銀行振込にして会計記録まで取らなければならないのか?原審判決は、この至極当自然な合理的疑いに全く答えることができない。
当時、この二人はいくらでも密室で会う機会があったのである。銀行振込にする以上、満井被告はこの取引を多くの人目に曝すことになり、その事情は緒方被告も同様である。裏金として処理できるものを敢えて表金で処理する以上、この1億円は、両人とも表金としての額面通りに認識していたことになる。
そもそも本当にこれが詐欺分配金報酬であるというのなら、緒方被告は平成19年度の税務申告において脱税をしたことになる。1億円の収入の無申告というなら立派な脱税事件で、税収に悩む税務当局とすれば、原審有罪判決により緒方被告から5千万円を超える追徴金をせしめることができる。
なぜ追徴課税しないのか?緒方被告の現金詐欺共謀罪は、現行司法実務でこそ成立するように見えるだけの事で、会計上そんなものは成立しない。そしてその事は、税務当局が誰よりも良くわかっているのである。
公判供述を読む限り、満井被告は実に胡乱な不動産ブローカーに見える。その満井被告とズッポリの関係となった緒方被告もなんとなく胡散臭い。しかし、胡散臭いからと言って無実の国民を冤罪に陥れてかまわないという事にはならない。幸い緒方被告の平成19年度個人所得税申告書は証拠提出されておらず、控訴審では新証拠として扱われる。
緒方・満井両弁護団は、この税務申告書に会計専門家の鑑定意見書を沿えて証拠提出するが良い。平成22年度の厚生労働省村木局長事件に引き続き、衝撃的な逆転無罪への幕が切って落とされるであろう。弁護団の検討を祈る。
細野祐二(ほそのゆうじ)
昭和28年生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、公認会計士登録。KPMG日本(現あずさ監査法人)およびロンドンにおいて会計監査並びにコンサルタント業務に従事した後に独立、有能な会計士として知られた。しかし、シロアリ駆除の上場企業「キャッツ」経営陣による株価操縦事件に絡み、東京地検特捜部に粉飾決算の容疑で逮捕。裁判では会計学者から粉飾ではないとの鑑定意見が出され、また他の容疑者のよる被告に有利な証言が相次いだにもかかわらず、敗訴。その不可解な捜査の内幕と裁判の過程を描いた『公認会計士vs特捜検察』は話題になった。
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http://www.videonews.com/interviews/001999/001364.php
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