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平成23年1月31日発売
小学館 通知
小沢一郎と上杉隆が宣戦布告
記者クラブと最終戦争」全内幕
「カルテルに似た利益集団」
小沢一郎・民主党元代表が、「最終戦争」に打って出た。といっても直接の相手は、管直人首相ではない。かねてより小沢バッシングを繰り広げてきた、新聞・テレビという記者クラブメディアに対してである。
1月27日午後5時過ぎより、都内にて、これまで前例のない形での「小沢一郎記者会見」が行なわれた。主催したのは、記者クラブでも民主党でもなく、フリーやネットの記者有志。代表(暫定)の上杉隆氏をはじめ、神保哲生氏、岩上安身氏ら、これまで「記者会見オープン化」に尽力してきたジャーナリストたちが顔を揃えた。官公庁でも党本部でもない場所をフリー記者らで借り、独自に政治家を呼んで記者会見を開くという。しかもこれは、毎週行なわれる予定の「定例会見」である。
今後も、小沢氏が頻繁に登場するほか、大臣や与野党の政治家からすでに会見の内諾を得ているという。
官邸や各省庁の大臣会見は記者クラブ主催で、自民党政権では長らく記者クラブに加盟する新闇・テレビ・通信社の記者が他メディアを会見から排除してきた。
記者クラブは官庁の記者室を無償で使用し、公的機関からの情報を独占。しかも加盟するには、加盟社の推薦やクラブ総会の承認など高いハードルが課せられている。
「記者クラブ制度」は先進国では日本にしかなく、「カルテルに似た最も強力な利益集団のひとつ」(ニューヨーク・タイムズ)など海外メディアから批判を受けている。上杉氏らが訴えてきた「記者会見オープン化」とは、これまで記者クラブ以外の参加が許されてこなかった政府の公的会見に、フリーやネット、雑誌などの記者たちが参加できるようにする運動である。
その意味で、政治家の記者会見を記者クラブ以外が主催するという試みは、記者クラブの既得権益を奪う明確な「挑戦」にほかならない。しかも、菅政権が「排除」を唱える小沢氏の会見からスタートするというのだから、官邸も穏やかではない。フリーの記者らにとっても小沢氏にとっても、記者クラブメディアと菅政権の双方を「敵」に回すことになるのではないか。
それでも踏み出した意図を、上杉氏はこう説明する。
「長年、記者会見のオープン化を訴え交渉を重ねてきましたが、記者クラブ側は既得権益を守ることに終始し、一向に開放しょうとしなかった。そこでやむを得ず、これまで会見取材ができなかったフリーやネットなどの記者が誰でも参加できる、公平で開かれた言論の場を自分たちで作ることにしたんです。
新聞・テレビの記者たちも、個人としての参加なら認めますが、申し訳ないけど優先順位は一番下。これまで記者クラブに差別されてきた順に、まずフリーやネット、次に雑誌や海外メディアというふうに広げていくつもりです。むしろ記者クラブは、これを機に公的会見をすべて開放すればいいんです」
確かに、政権交代から1年以上経つにもかかわらず、首相官邸での官房長官会見や首相のぶら下がり会見などは、いまだに記者クラブしか参加が許されていない。
枝野幸男・官房長官は1月14日、「記者会見のオープン化を進めたい」と表明したが、「菅政権になってから記者クラブ問題は後退している」(上杉氏)という。
だからこその「実力行使」というわけだ。
その仕掛けに乗ったのが小沢一郎というのが興味深い。なぜなら小沢氏こそ、「記者会見オープン化」を民主党政権の事実上の「公約」とした張本人だからだ。小沢氏は民主党代表を務めていた09年3月、上杉氏の「政権交代後の記者会見オープン化」に関する質問に対し、「どなたでも会見においでくださいということを申し上げております。その考えは変わりません」と答えていた。
メディアによる言論統制
そしてまた小沢氏ほど、記者クラブメディアに苦しめられてきた政治家はいない。実態なき「政治とカネ」のバッシングや、菅政権に「小沢切り」を促す新聞・テレビの報道については、本誌既報の通りだ。
小沢氏は本誌1月1日/7日号乃インタピニーで「僕は記者会見のフルオープンを主張しているから、これまで通り会見をクローズドにして情報の独占を続けたい大メディアにやられている(笑い)」と語った。
実は小沢氏は、日本でいち早く記者会見をオープン化してきた政治家である。自民党幹事長時代から記者会見乃開放に踏み出し、新進党時代にはすでにオープン会見を定着させていた。
1月11日に上杉隆氏がキャスタ1を務める『ニュースの深層』に生出演した際、小沢氏はこう述べている。
「新聞・テレビというのは、旧体制の中での既得権を持っている、そのシンボリックな存在なんですね。ですから、この社会を変えようとすれば、旧体制既得権を持っている人たちの反撃に遭うのは、これはしょうがないんです。それに負けたんじゃ、改革維新はできませんから、頑張る以外ないですよ」
いま考えれば、これは記者クラブへの「宣戦布告」だったのかもしれない。一方、同番組キャスターの上杉氏もまた裏で、ある仕掛けを行なっていた。数十人に及ぶ記者クラブの番記者らに対し、控え室やスタジオへの立ち入りを禁止したのだ。これもまた、今回に向けての布石であった。
その背景には、今年になってから起こっている、記者クラブとフリー記者らとの対立再燃があった。
総務省では昨年1月、原口一博・前大臣のもとで記者会見がオープン化されたが、その際、記者クラブ側は「個人のフリー記者による動画撮影の禁止」などを条件としてきた。ところが今年1月5日の記者会見で、フリーライターの畠山理仁氏がネット中継したことをクラブ側が問題視。フリー側も反論し、場が紛糾した。
そして1月11日の会見前、フリー記者らは入り口付近に1枚の紙が張り出されているのを目撃する。総務省記者クラブからの通達だった。
〈個人のフリー記者による動画撮影というルール違反や、記者クラブ問題に関する同趣旨の質問が繰り返されるなどの事態があったことは、きわめて遺憾です〉
〈議事の円滑な運営にご協力をいただけないと判断した場合は、会見への参加を認めないこともある〉
畠山氏は憤慨した。
「記者会見がオープンになってから1年問、交渉してきましたが、さしたる理由もなく一向に撮影は認められなかった。実は原口前大臣に聞いたところ、こうしたルールがあることすら知らなかったのです。要するに、総務省ではなく、記者クラブ側が勝手に決めた『ルール』なんです。
驚いたのは、記者クラブ問題に関する質問を『遺憾』といったことです。メディアがメディアを言論統制する。それがどれほど問題か、記者は誰ひとり疑問を呈さなかったのでしょうか」
総務省記者クラブは動画撮影を認めない理由について、「認めることが記者クラブの総意としてまとまっていないから」というが、クラブ側の執拗な抵抗に、フリー側の不満は頂点に達している。
なぜ記者クラブや政治家、官僚はこれほどまでに会見のオープン化を拒むのか。その理由は上杉氏が「官報複合体」と称した、持ちつ持たれつの醜い構造にある。
記者クラブ制度は、新聞・テレビにすれば政治家や官僚の情報を独占でき、一方の政治家や官僚からすると、記者クラブを通じで情報をコントロールすることができるメリットがある。損するのは、公権力に情報操作され「知る権利」を奪われる国民だけだ。
そんななか、1月17日、小沢氏を囲むフリー記者らの懇談会の席で、畠山氏と小沢氏はこんな会話を交わしたという。
小沢「別に私は太鼓持ちしてくれっていっているわけじゃない,いっていることをありのままに正確に伝えてくれるメディアがあれば、(会見を)なんばでもやりますよ」
畠山「じゃあ、定期的にやってください」
小沢「いいよ、なんばでもやりますよ。過に1回でもいいよ」
小沢氏とフリー記者らの思惑は合致。これを受け、上杉氏を中心にフリー記者らが奔走し、急転直下、この記者会見がスタートすることになった。
岸博幸・慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授は、今回の取り組みをこう評価する。
「従来の記者クラブは特権階級化し、それによって情報の閉鎖性が生まれた。公権力と結託して役人から聞いた情報をそのまま書くことで、国民に価値観を押しつけてきたんですね。その既得権益に穴を空けた意味では画期的です。ただ、フリーの記者たちが権力と癒着することはないにしても、小沢さんはフリーを受け入れてくれた、ということで小沢さん贔屓になってしまったら記者クラブと同じになってしまう」
菅政権と記者クラブの癒着
その危惧は確かだが、見逃せないのは、むしろ記者クラブと菅首相との関係だ。
本誌前号では、菅首相に与謝野馨・経財柏の起用を進言したのが朝日新聞の編集幹部だったことをスクープしたが、記者クラブメディアはここにきて「親菅」を鮮明にしてきている。
菅首相は官邸からのテレビ演説を検討しているそうだが、既存メディアとのつながりを深める首相と新規メディアを受け容れる小沢氏の姿は、ここでも対極的である。1月27日、フリーの記者ら主催による小沢氏の会見の様子は、ネット上の動画配信サービスのニコニコ生中継やUSTREAMなどを通じ配信された。
二コ二コ生中継だけでも、約6万人の視聴者が、歴史的な会見の現場を目にした。
その記者会見冒頭、小沢氏はこう語った。
「メディアというよりもその報道の中身が、正しいか間違っているかは別にしまして、それを受け取るのは国民のみなさんですから、できるだけ既存のメディア、あるいはいろんな形で、特に最近はインターネットを始め、いろんな形の媒体が増えていますので、少しでも国民の皆さんに正確な、そして公屈な情報が伝わるようにしなくてはいけない。そのために我々もできるだけ、気分的には多少嫌々ながらでも(笑い)、一生懸命努めなければならないと思っております」
小沢氏は会見で、記者クラブメディアに対して「もう、あまり記者会見する意味がないですね」とも語った。小沢氏とフリー記者らが仕掛けた新聞・テレビとの最終戦争。どちらが勝つにせよ、「記者クラブ崩壊」の]デーは確実に迫っている。
(写真あり)
会見は上杉隆氏(上)ら記者有志が主催
フリー記者主催の会見に踏み出した小沢氏(左)
新開・テレビとのつながりを深める菅首相(上)
熱気に包まれた1月27日の小沢会見(撮影/小川裕夫)
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