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何が「人生90年を前提に」だ
男性79歳強、女性86歳。09年7月に厚生労働省が発表した08年の日本人の平均寿命である。戦後間もない昭和22年の日本人の平均寿命は男性50歳、女性54歳弱であった。いわゆる団塊の世代である。そしてその団塊の世代である60歳代前半の平均余命は、平成19年の厚労省データから類推するに、男性が20歳以上、女性が25歳以上ある。つまり人生80年の時代だと言われる所以である。
処で、与謝野経済財政担当相が1月21日、政府の新成長戦略会議で、「人生90年を前提にすると定年延長を考えないといけない。年金支給年齢の引き上げも考えなければいけない」と発言した。そして、年金支給開始年齢65歳を70歳にし、企業にも定年延長を求める考えを示したらしい。与謝野氏は72歳。だから簡単に「人生90年を前提」などと言うが、あまりにも国民を馬鹿にした話ではないか。
年金支給開始年齢を引き上げれば、年金支給額を抑制できる。他方、年金保険料の納付期間40年を45年に延ばせば、年金財源が増大する。与謝野氏はそう云うソロバン勘定をしたのだろう。また、「成長型長寿経済をつくっていかなくてはならない」とも宣まわったそうだが、まず訊くが、菅首相が「雇用。雇用」と叫んでいたが、その(若者の)雇用の拡大はいったいどうなっているのだ。
あまりにも社会の実情を無視した与謝野発言ではないか。企業に定年延長を求めたらどうなるか、そのことに考えが及んでいるのか。与謝野氏は、63年から5年ほどサラリーマンの経験があるそうだが、その時代の企業と今は違う。企業が高齢者の雇用を継続すれば、新規採用を控える。今、建前では定年退職は65歳(13年から)になっているが、民間企業の定年は実質60歳である。65歳は公務員だけだ。
日経新聞朝刊1月22日号には、この与謝野発言を菅首相は、「大変正しい言葉をもらった。積極的に高齢者に経済活動に参加してもらう構想は魅力的だ」と絶賛したと書いてある。菅直人という人間は、日本語を知らないようだ。65、70歳になっても年金も貰えず、働かなければならないのが「魅力的」な社会なのか。そのどこを叩けば「大変正しい言葉」になるのだ。
人生80年でも、徘徊老人を介護する家庭、寝たきり老人を介抱する老々介護など、介護保険では解決できない問題が沢山ある。まず、人生90年に備えた社会態勢を整えるのが先だ。また、積極的に高齢者に経済活動に参加してもらうと言うが、青壮年の雇用も満足でないのに、高齢者が積極的に参加できる経済活動の場が、どこにあるのだ。それらを考えたら、軽々しく「人生90年を前提」などと言えないはずだ。
筆者は、長寿社会や高齢者を否定するのではない。「人生90年を前提」などと、さも分かったことを言いながら、その実、高齢者をいたぶるような政策を口にする大臣を否定しているのである。宜しいか、人生80年と言われても、人によってその受け止め方は違うのだ。悠々自適で生活をしている者だけではないのだ。
これから国会審議が始まると、より鮮明になると思うが、与謝野氏が何か発言するたびに、今の菅内閣が正統性を持たない民主党政権だと言うことがよく分かる。国民が政権を負託したのは、「国民の生活が第一」を掲げた民主党である。その民主党の政策理念と相反する「立ち上がれ」なかった政治家が、変節して民主党に来て、訳の分からぬことを言っている。国民の多くは、この大臣の発言を信用してはいない。
<徳山 勝> ( 2011/01/31 18:15 )
http://www.olive-x.com/news_30/newsdisp.php?n=103320
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