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昨年来、政府・与党幹部が来年度予算案の修正で観測気球的に野党に秋波を送っていたと思ったら、国会対策委員長・安住淳が20日のNHK討論で明言して、“公約化”してしまった。作ったばかりの予算案を修正とは前代未聞の珍事であり、菅政権は鼎の軽重を問われる。自らの否定、つまり自ら政権を不信任したに等しい。野党はこれだけでも解散要求に値する。マニフェスト修正、与謝野馨人事、政倫審の小沢一郎招致議決断念に次ぐまぎれもなき「変節」である。
安住の発言は確信犯的である。「野党に賛同してもらわなければ、法案は1本も通らず、折り合いをつけていくことが新しい国会のあり方だ。どの程度修正するかは、予算委員会などでしっかり話し合えばいい。子ども手当法案は、修正するのであれば、平成23年度予算案と並行する形で話し合う土俵を作ってもらえれば、大変ありがたい」と言い切った。まぎれもなく政権公約の本丸、子ども手当明け渡し宣言である。しかし安住は自分の発言の重大さが分かっていない。
予算編成は内閣最大の課題であり、歴代その命運をかけて国会審議で死守してきた。通常国会における予算修正は小規模の字句修正的なものは数例あったが、本予算の根幹をいじる話が政権の側から持ち出されたのは極めて異例である。そもそも予算の承認は議会が政府の行政を統制する大きな手段であり、特に議院内閣制の議会においては、その否決は内閣の不信任を意味する。それを自ら“否決”することが珍事でなくて何であろうか。
安住の発言からすれば、与野党に予算の枠組みを変えるような大がかりな修正を呼びかけたことになる。民主党政権が初めて基礎から作った予算案はマニフェストにとらわれすぎて整合性に欠ける部分が多い。まず子ども手当は財源難から中途半端に継続させた感が濃厚であり、主婦は継続性への警戒心からこれを使わず貯金に回してしまう傾向が強いとされる。従って民主党が主張してきた経済的な波及効果などはほとんどない。農家の戸別所得保障も、零細農家が潤った結果農地集約化の障害となり、農業の効率化への逆行となっていることが分かって来た。高速道路有料化の社会実験継続も財源、渋滞、他の交通機関への影響などで弊害ばかりが目立っており、実態は破綻状態にある。マニフェストの破綻と同時にマニフェストを基盤とする予算案も矛盾に満ちているのだ。
野党に修正を呼びかける以上、野党がこれらの民主党政治の根幹的な政策に触れないで安易な修正に応じることなどとてもあり得ない。だいいち首相・菅直人は「子ども手当や戸別所得補償政策は、歴史の上で画期的政策だったと胸を張っていい」と発言しており、これまた政権内部での整合性に欠ける。あまりにも場当たり的な修正発言に野党も一斉に反発、自民党国対委員長・逢沢一郎は「政権与党が国会が始まる前に修正に言及することは、絶対の自信作でないことを明らかにしている。通常国会で政権与党を必ず解散・総選挙に追い込みたい」と反発。民主党が修正提案の照準を合わせたとみられる公明党も否定的だ。国対委員長・漆原良夫も「予算案に反対である以上、予算を執行する関連法案にも慎重にならざるをえない」と厳しい。
民主党が臆面もなく予算の母屋を明け渡そうとしている背景には、自民党が通常国会での早期解散獲得を最大の戦略とし始めており、予算案はもちろん関連法案の成立阻止も辞さない勢いとなって来ていることが挙げらあれる。小泉進次カの「自民党はもう開き直った方がいい」という発言が同党の“徹底攻勢”を象徴している。民主党は自公の攻勢に対処する道は予算修正しかないとの判断に傾いたのだ。しかし冒頭述べたように、自らの予算を否定するなら、菅は解散・総選挙で国民の信を問うのが筋であろう。
しかし修正は政権にとって、最後の手段に誘導される危険性も秘めている。その最後の手段とは与野党が修正に合意した上での“話し合い解散”だ。民主党幹部の読みがそこまで深いとは思えないが、引きずり込まれる可能性は否定できない。
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