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平野貞夫の「永田町漂流記」
「日本一新運動」の原点(37)── 「国会崩壊」から「国家崩壊」へ
■「国会崩壊」から「国家崩壊」へ
平成20年6月、私は『国会崩壊』(講談社+α新書)を刊行した。福田自公政権が、参議院で否決した「テロ対策新給油法案」を衆議院で再議決して、議会政治の基本を崩壊させたことがきっかけであった。同著の中から、長くなるが、今日の民主党に通じる部分を紹介する。
「現在の"衆参ねじれ現象"は、きわめて深刻な事態である。しかし、議会政治の本旨からいえば、政党内の理念や基本政策のねじれの方が問題である。自民党と民主党の理念や政策の"ねじれ"を分析してみよう。
まず民主党だが、大きく三つのグループに分類できる。それは、1、共生社会派、2、市場経済優先派、3、既得権保護派となり、それぞれ、一部理念がわずかに重なり合っている。しかし、市場経済優先派と既得権保護派は理念に重なりがなく、明確に分離している。
一方の自民党は、1、共生・絆派、2、市場経済優先派、3、利権保護派で、多少の呼称は異なるものの、その分類は民主党と大差はない。ただ一点違うところは、この3つのグループの一部がほぼ均等に重なり合っていることであり、この重なりは民主党よりも幅が広いことが特長である。
要するに、このままの政党構成で政権交代が行われても、同じような政治が続くだけである。政党の結成は共通の理念と政策によって行われるべきものだ。わが国では政治家の理念や政策は建前だけで、感情論や当選のしやすさという便宜的なもので政党が結成される場合が多い。福田総理と小沢代表による率直な意見交換は、これまでのわが国の政党政治を突き崩すきっかけになったかもしれない。
しかし、結果は政策協議が行われる見通しもなく、国会は"衆参ねじれ現象"を抱えたまま、デスマッチを続けることになってしまった。与野党が国民生活をかえりみず、この現状を続けるならば、国家の機能は崩壊するといえる。
この"国会崩壊"の原因をつくったのは誰か。平成19年の参議院選挙で民主党を圧勝させた有権者なのか。あるいは平成17年秋、小泉郵政解散で自民党と公明党に、衆議院の議席3分の2以上を与えた有権者に責任があるのか。徹底した検証が必要である」というものだ。
その後の政治状況だが、平成21年8月の衆議院総選挙で、民主党が大勝利し、民衆が初めて政権交代を実現させた。参議院は、社民党と国民新党を連立政権に入れ多数を確保した。鳩山連立政権が政治運営に失敗し、鳩山首相と小沢幹事長が、挙党体制で参議院選挙(平成22年7月)に勝利するために辞任し、菅政権と交代した。
ところが菅首相は政権交代の歴史的意義を踏みにじり、市場経済優先の米国金融資本の手先となり、国民と約束したマニフェストの根幹を無視し消費税率のアップまで参議院選挙の公約とした。さらに最悪の選択は、麻生自民政権が政権交代を阻止するため、政治謀略として仕掛けた「小沢の政治とカネ」を、マスメディアと共謀して継承、「小沢排除」を断行したことである。
メディアの世論調査では成功したかに見えたが、有権者には理解されず、民主党は参議院選挙で歴史的敗北を喫することとなった。菅政権はこの敗北を反省するどころか、同年9月の民主党代表選挙では、メディアを利用した詐欺的行為で勝利し、臨時国会に臨むこととなった。3年前に自民党が辛酸をなめた「衆参ねじれ現象」が再現することなる。今回の「ねじれ」が前回と違うのは、衆議院で与党が再議決(3分の2で法案を成立させる)を行う大多数を持っていないことである。さらに政治の本質に無知な「菅・仙谷政権」は、国内外の重要政策を混乱させ、「国家の崩壊」といわれる深刻な事態を生じせしめた。
私は『国会崩壊』を執筆した平成20年の時点で、わが国での政治混迷の主たる原因を、国民の民主政治に対する未成熟な意識にあると考えていた。この時期、私は菅氏本人と小沢代表からの要請で、菅氏の国会運営などについてアドバイザーをやっていた。その後の政治状況を改めて分析すると、私の考えに誤りがあったと反省している。
私の誤りは、第一に国民有権者の政治意識について完璧ではなくても、多くの有権者はそれなりに健全な政治選択を行っていることに気がつかなかった。第二の問題は、それを受け止める政治家側に原因があるということも見落としていた、自民党政権の福田・麻生内閣が「ねじれ国会」で苦しんだのは、政治運営や政策協議で民主党に真摯な妥協をしなかったことに原因があった。そこには政権政党としての奢りがあり、また政権交代などは起こってはならない不条理だという意識があった。民主政治の理解不足は、有権者側より政治家側にあったといえる。
そこで、民主党に政権交代して、どうしてこうまで政治が混迷し、「国家崩壊」の危機となったか検証しなくてはならない。自民党政権の失敗は指導者たちの政治能力の幼稚性にあった。菅民主党政権の混迷は指導者たちの「人間性の欠陥」にあると私は確信している。私の生涯の師・前尾繁三郎元衆議院議長の遺言は「政治家である前に人間であれ」というものであった。前尾さんほど立派な人間は少ないが、それにしても国会議員なら人間としての仕種を知ってほしい。
菅首相の最大の問題は、政権発足に仙谷由人と枝野幸男という二人の弁護士政治家をブレーンとしたことにある。かつてマックス・ウェーバーは「弁護士は政治家に適する」と言ったようだが、その時代の弁護士は「正義感」があったのだ。21世紀の現代、正義感のある弁護士は政治家にならない。政治家になりたがる弁護士は、自己顕示欲が強いくせに人間を知らない人種で、屁理屈と正論の区別すらできないのである。
しかも、この二人は弁護士界でも真っ当な仕事をしていないことで知られており、常識を大事にして活動したことのない人たちである。政権運営の相談相手にはしてはならないことは、民主党の多くの議員が知っていたことだ。それを承知で菅首相が何の事情があってか、参謀としたことに民主党政権混迷の原因がある。
認知症に近い言語を時々吐く偽黄門、アルコール依存症で知られている官僚OB議員など、菅・仙谷政権の背後霊役の人たち、読売新聞社出身の議員などを別にして、民主党のほとんどの国会議員は「人の道」を心得た人たちである。この人たちが志をもって自由闊達な活動をすれば、国民の期待に応えることができるのである。これを妨げているのは、挙党体制に反対して「小沢排除」を第一の政治目的とする、菅・仙谷政権のごく一部の「心の曲がった」指導者たちである。政治権力の組織とはかくも恐ろしいものだ。
昨年末、私は『日本一新--私たちの国が危ない』を、民主党の国会議員に贈呈したところ、礼状や電話など驚くほど多数いただいた。その多くは代表選で「菅直人」と書いたと思われる人たちで、改めてびっくりした。民主党の若い国会議員は、政治のあり方や新しい国家の理念を学ぼうと必死になっていることがわかった。「国家崩壊」が回避できる道は必ずあると感じた。そのためには、民主党の再生がなんとしても喫緊の課題である。
■菅体制を変えない限り民主党再生はない
1月12日の民主党両院議員総会、翌13日の党大会後、菅政権は政権の浮揚を賭けて内閣を改造した。ある精神科医が「葬式躁病」(AERA・1月17日号)と診断したとおり、政治上あってはならない『葬式躁病内閣』が成立した。
人間には「躁的防衛、俗に葬式躁病といわれる心のメカニズムがあって、たいていの人は葬式みたいな状況になると落ち込むが、神経が高ぶっていると逆にはしゃいだり、強気になったりする人がまれにいる。(中略)『仲間』である仙谷官房長官自体が批判の矢面に立たされている。このままだと最後が近いんじゃないかと動揺して気持ちが不安定になり、孤独にもなっている。だから防衛的に自分の弱みを見せないように『権力』とか突拍子もない強気の発言をする。そんな憶測ができます」(同誌・香山リカ氏)
これは1月4日の菅首相の年頭記者会見に対するコメントである。さすがの卓見で、両院議員総会や党大会の挨拶も、神経が高ぶりハイになったためか、同じ党の仲間への話が街頭演説のようになり、思想も論理もまったく無茶苦茶なものであった。その、「葬式躁病」と診断された菅首相のやった内閣改造が、政治史上噴飯ものであった。
主要な問題点を指摘しておく。
1)与謝野馨氏については親しい知人なので、悪口は言いたくないが、彼は自民党の政策的首脳で、安倍・福田・麻生自公政権の中心人物であった。それを「増税のための財政再建」ということで入閣させた。まず、政権交代の歴史的意義を完全に菅首相は否定した。私は財政再建のために、「増税を唐突にやってはならん」という論者で、その解決の具体案を持っている。「小沢排除」をやめれば教えてもよい。与謝野氏入閣は、ポストを変えられた海江田氏が「人生の不条理」と言ったが、英国の保守党の政策首脳が労働党で入閣したと同じこと。この世でやることではない。それこそ「葬式」の後の、悪霊の世界の話だ。
2)枝野幹事長代理を仙谷氏の後任に抜擢したが、幹事長で参議院選挙に大失敗した人物が、まっとうに官房長官が勤まるわけがない。そもそも弁護士の感性は官房長官という職務に適しないのが、憲政の常識である。私の記憶では官房長官に就いた弁護士政治家は、かの有名な問責決議で交代した仙谷氏だけである。
3)藤井裕久元財務大臣の官房副長官も噴飯ものの最たるものだ。自社55年体制の政策には詳しいが、政治判断や政治仕種についてはほとんど感性のない人物だ。官房副長官といえば、政治の根回し役である。菅首相は官僚との調整役として活躍してもらうとのことだが、結果は財務官僚らの振り付けで踊る「老猿」である。
今回の組閣は徹底した「増税・小沢排除」の改造劇であった。菅首相の政治手法は、だんだん独裁者・ナチスに似てきた。連日のように朝日新聞は「社会心理的暴力装置」として、ファシズム化を進める論説に終始している。「私たちの国が危ない」、これを忘れてはならない。
■「日本一新の会」のこれから
菅首相の「葬式躁病政治」をこのまま看過できない。実は当会の維持会員で、地方選挙に出馬予定の人たちが多数いて、「菅政治に反対する民主党公認・推薦の候補者が多くいる。選挙では増税・小沢排除政治をやめるべしと訴えたいので、『日本一新の会推薦』という仕組みを創れ」との強い要望が、年明けから寄せられている。
当面は任意団体ではあるが、地方選挙に出馬する維持会員には「日本一新の会推薦」を行うことにしたいので、ご理解をいただきたい。
なお、維持会員以外の出馬予定候補者については、先に制定した規約に基づき、当会の趣旨を理解して頂くことを条件に推薦することを検討したいと思う。仔細は、後日事務局から報告するので、多数の応募をお待ちしたい。
投稿者: 平野貞夫 日時: 2011年1月17日 10:14
http://www.the-journal.jp/contents/hirano/2011/01/37.html
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