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週刊・上杉隆 【第157回】 2011年1月13日
小沢一郎氏が「ニュースの深層」に生出演。番記者の現場立ち入りを禁じた筆者の真意とは
■ 普通の感情を持った普通の政治家としての小沢一郎を報じないマスメディア
「20年以上もマスコミからずっと批判されているとさすがに草臥れますよ。正直に言えば、永田町に行くのがバカバカしくて政治家を辞めたくなる時もあります。でも、そこで逃げたんじゃ、応援してくださっている地元の支援者にも申し訳ないと思って、がんばっております」
昨夜(1月11日)、筆者がキャスターを務める「ニュースの深層」(朝日ニュースター)に一時間の生出演を果たした小沢一郎氏は、番組冒頭、こう漏らした。
傲慢で恐ろしい権力者と呼ばれている小沢氏が弱音を吐き、素顔を見せた一瞬だった。
いや、実は小沢氏のこうした発言は決して珍しくない。小沢氏の記者会見に出ている記者ならば、普通の感情を持った普通の政治家だとわかるだろう。
実際、筆者の番組では笑い、嘆き、そして政治家として目指している夢を語った。
だが、その翌日にあたる今日12日、昨夜の小沢氏の姿を伝える記者クラブメディアの報道は一切なかった。小沢氏の語った政策は完全に黙殺され、その代わり、案の定ではあるが、政倫審の出席はいつか、などの小さな政局報道に終始している。
筆者は自分の番組をなぜ取り上げないのか、などというケチなことを言っているのではない。きちんと伝えない記者たちに心から失望しているのだ。
こうした現象は断じて小沢一郎という政治家の問題ではない。もはやメディアの報じ方の問題なのである。
最新版の『ニューズウィーク』(日本版)が次のような特集を組んでいる。
〈「だから新聞はつまらない」 横並びで一方的な報道は記者クラブだけのせいじゃない。現場主義と客観報道の盲信で記者の劣化が進んでいる──〉(2011年1月19日号、1/12発売)
まさしくこの特集がその問題の本質を指摘している。記者クラブ批判についての理解と「メモ合わせ」の事例などに、事実関係で間違いがあるものの、まぁ、総じて良質なリポートだといえよう。
問題は「横並びで一方的な報道」という文言に集約できる。
■ 小沢氏も筆者も憂うる「横並びで一方的」な日本の病理
昨夜の「ニュースの深層」生放送開始30分前、出演者控室での小沢氏と筆者の雑談も、まさしく、この「横並びで一方的」という日本社会全体に蔓延る「意識」を話題にしていたのだった。
「怖がって、他人と違うことをしないようにというのが日本社会に蔓延る病理かもしれないね。他人と違うことをするとすぐ叩かれるから、結局みんな一緒のことをしようとする。こうした慣習をなんとか変えようとずっとやってきたんです――」
その政治生活の40年間で、小沢氏は世界中の政治家や官僚、経営者やジャーナリストたちと触れ合ってきた。その経験を語る中で、小沢氏は筆者にこう漏らし、日本社会の特異制とその限界について嘆いたのであった。
昨夜、小沢氏と筆者の発言を、スタジオ横の調整室でずっとつぶやいてくれていたのはフリーランスライターの畠山理仁氏だ。畠山氏のツイッターから、小沢氏のメディアに関する発言をいくつか抜き出そう。
〈小沢「なかなか、国民自身の政治意識が高くならないと、既存のメディアを敵にしたらとても政治活動はできないでしょうね」〉
〈上杉「新聞は読んでますか?」。小沢「最近は読まない。政治の記事も真実を伝えているとは思えない。とくに自分に関しては全く違う。読んでも意味が無い」〉
〈上杉「記者会見を最初にオープンにした政治家」。小沢「いろんな考え方の人が報道することがいい。既存メディアは同じような記事しかない。本当の意味での真意が伝わらない。民主主義的ディスカッションの場にならない」〉
〈小沢「既存メディアを通してのワンパターンでは伝わらない。(一方でマイクロメディアは)言葉をきちっと伝えてくれている。昔は少数の人だったが今は多くなった。そのまま、ありのまま真実のまま伝えてもらえる媒体じゃないかと思ってできるだけ」と〉
〈上杉「既存メディアに出るつもりはないか」。小沢「一定の意図を持っていたら意味が無い。中立公正で粉飾もなく伝えていただけるのなら既存メディアでも出る機会があれば出たいと思います」〉
――http://togetter.com/li/88302より
■ 問題は、持論以外を一切排除する“寛容さの欠如”にある
小沢氏の言う通り、今の日本社会、いや記者クラブメディアに欠けているのは、議論の場を作ろうという寛容さだ。
持論以外は一切排除し、自らの正当性ばかりを声高に主張する。それは狂信的であり、欺瞞に満ちている。
たとえば、この10年間、筆者が主張してきた「記者クラブ論」についてもそうだ。
筆者が言い続けてきたのは、「記者会見に出席したい」、それだけである。記者クラブに入りたいとも、記者クラブの記者たちの仕事を邪魔しようとも思ったことは一度もない。
仮に、その要求を、権力者である政治家や官僚が拒否すればなんら問題はない。反論権を放棄したとみなして、それまでに行なった取材の成果を原稿用紙にぶつけるだけである。
それは世界中で普通に行なわれているジャーナリズム活動である。
ところが、彼らは税金で賄われている政府の公的会見を、何の権限もなく不正に独占し、筆者の仕事の邪魔をしてきたのである。
この10年間、筆者は我慢に我慢を重ね、紳士的に交渉を続けてきた。だが、それも限界に達した。筆者は小沢一郎氏ほど我慢強くない。
■ 公的な政府の記者会見から同業者を閉め出すという仕打ち
昨夜、朝日ニュースターに集まった40人ほどの小沢番の記者クラブ記者の控室、スタジオ、サブ調整室入りを拒否したのは筆者だ。
その代わり、フリーランスの畠山理仁氏と村上隆保氏だけに、スタジオ以外の自由な取材を許可した。よって、畠山氏のツイッターだけがCFや放送以外の雑談まで報じることができたのだ。
こうした措置を講じるのはもちろん初めてのことだ。こんなことは決してやりたくなかった。案の定、記者クラブの記者たちはその扱いに怒り、「ふざんけんな、上杉!」と陰で勇ましく悪口を言っていたという。
だが、これで分かっただろう。筆者はこれとまったく同じ仕打ちを10年以上受け続けてきたのだ。
しかも、それは自分の番組やプライベートな記者会見ではない。公的な政府の記者会見において、このような仕打ちを受けてきたのだ。
それでも怒りを抑えて、筆者は交渉を繰り返してきたのだ。
被害者になってみて、初めて自分たちのしていた恥ずかしい行為に気づいた者がいることを願う。ぜひ、記者クラブの記者たちはみずからの過ちに気づき、自ら行動を起こしてほしい。
新年の、しかし10年来のこの小さな願いは叶うだろうか。
あるいは今年もまた、取材する自由と権利を同業者が邪魔することだけはやめてくれ、といい続けなければならないのか。
小沢氏ではないが、「バカバカしくて草臥れる」不毛な争いは、もう止めようではないか。
http://diamond.jp/articles/-/10731
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