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70年代に広く読まれた「日本人とユダヤ人」(イザヤ・ベンダサン著)を読み返して日本特有の「法外の法」という言葉に目を引かれた。戦時下ではヤミ米を禁じる法律もあったが、庶民はどこからか手に入れて生き延びた。ヤミ米を拒否して餓死した裁判官もいるにせよ、「満場一致の決議さえ、その議決者をも完全に拘束するわけでない」などと日本人のメンタリティー(心的傾向)を分析しているのは興味深い。
無論、生死を分ける局面なら他国の人もヤミ米に手を伸ばすだろうが、日本人は概して神や戒律とは縁が薄く、ベンダサン氏のようなユダヤ人や欧米人に比べて法にも縛られにくいと言われれば、その通りだと思う。突き詰めると、日本人が何かを決めても、それは外国人が言う「決定」とは趣が異なる場合もあるということだろう。
ここで連想するのは米軍普天間飛行場の移設問題だ。かつて自民党政権も、今の民主党政権も、辺野古(沖縄県名護市)周辺への移設で米政府と合意した。なのに昨年5月の再合意後も辺野古への移設は無理だと言う人が少なくない点に「法外の法」の気配を感じる。それは一概に悪いことではない。私自身も沖縄県外か国外への移設を望んできたが、日米合意が結ばれた以上、それを簡単に変えていいのかという問題も重いのだ。
立場を変えてみよう。北方領土をめぐる日露間の合意や了解事項について、ロシアが「もう無効だ」と宣言すれば(既に言い始めているが)日本人は怒るだろう。国家間の合意や了解を変更するのは、大変なことなのだ。普天間問題に限らず、政府はできない約束をしてはいけない。国際的な約束をおろそかにすれば他国も日本との約束を守らなくなるのは当然である。
さてベンダサン氏によると、日本人のもう一つのキーワードは「台風一過」である。日本人が忍耐と言う場合、それは「首をちぢめてじっと台風一過を待つこと」であっても、ユダヤ人のように「何千年でもつづく人災に対処するため、何代にもわたって重荷を負いつづける」ことではないという。
これも正しい指摘だろう。多くの日本人は尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件やロシア大統領の国後島訪問、北朝鮮の韓国領砲撃などに驚いても、やがて「のど元過ぎれば」で忘れるか、忘れたように暮らす。日本人の関心は、放っておくと外交・安保から身近な生活関連事項に移りがちで、それが日本人のデフォルト(初期設定)のようにも思える。だが、それでは長期的な対処を要する問題が解決しないのは言うまでもない。
ところで、ベンダサンは山本七平氏の筆名と考えるのが常識らしい。つまり、本書は日本人による日本人論ということになるが、この辺で正真正銘のユダヤ人識者に登場願おう。ヘブライ大名誉教授で勲二等瑞宝章を受けたベン・アミー・シロニー氏は言うのである。
ユダヤ人はホロコースト、日本人は原爆投下。ともに大きな悲劇を経験したが、第二次大戦後は正反対の道を歩いた。ユダヤ人はイスラエルを建国し、「自分たちは弱すぎたから悲劇を味わった」と考えて外敵(アラブ諸国)に身構えた。日本は逆に「軍事力への信頼が強すぎた」と反省して軽武装国家の道を選んだが、尖閣事件後は「自分たちは弱すぎる」と感じているかもしれない−−と。
パレスチナを占領し、敵対国の核施設などを「防衛的先制攻撃」で破壊して安全を担保してきたイスラエルに対して、日本は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」して「安全と生存を保持しようと決意した」(憲法前文)国である。
その日本も戦後65年にして考え込まざるをえない点に、今の国際情勢の危うさがあるように思える。そもそも中国やロシア、北朝鮮を「平和を愛する諸国民」とみなしていいのか。重大な疑問が平和立国・日本を立ちすくませる。
「日本人とユダヤ人」が出版されたのは、東京五輪(64年)を経て大阪万博(70年)が開かれた頃だ。上げ潮ムードの日本では70年安保をはじめ左派系の社会運動もさかんで、日本人は安全と水は無料だと思い込んでいるとの指摘が話題を呼んだ。その後日本はいろいろと変わったはずなのに、久しぶりに同書を開くと40年後の日本の検討課題を予見しているように思われた。それは日本人が基本的に変わっていないせいだろうか。さすがに「安全は無料」とは考えないにしても。
毎日新聞 2011年1月9日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/opinion/hansya/news/20110109ddm004070048000c.html
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