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強盗殺人罪で、一審の裁判員裁判で死刑判決が出た事案である。
メディアは、裁判員裁判での死刑判決が覆ったことを大きく扱っているが、この事案にはもっと奥深い問題があると思っている。
というのは、被告は、当初から南青山のマンションで起きた殺人事件の被疑者として逮捕されたわけではなく、別件で逮捕されたのち、南青山での殺人事件の被疑者となり逮捕されたいきさつがあるからである。
南青山(東京都港区)のマンションで強盗殺人事件が発生したのは、09年11月15日午後3時ごろとされている。
一審で死刑・二審で無期懲役の判決を受けた被告は、南青山で殺人事件が起きた翌日16日夜、上野公園の前で酒に酔って暴れたため、上野署員に保護された。
被告は、翌17日に上野署を出たが、署の前にあった警察の掲示板に投石しガラスケースを割ったため、器物損壊罪の容疑で現行犯逮捕された。
今回の二審判決とも絡むことなので被告の前科について簡単に書くと、1988年、浮気を疑い口論となった妻を包丁で刺殺し、妻の殺害で将来を悲観し、長男(当時8歳)と二女(当時3歳)の口に都市ガスゴムホースを押しつけるなどして、室内に灯油をまいて放火。二女を焼死させ、自分は自宅ベランダから約15m下の芝生に飛び降り1か月の重傷を負った。(長男は無事)
被告は、この殺人及び“無理心中”殺人・殺人未遂で、20年間服役した。今回の事案である南青山マンション殺人事件は、被告の出所からわずか半年後に起きている。
被告が南青山殺人事件と結びつけられ(再)逮捕されたのは、警察署の前で器物損壊罪を犯し逮捕されてから2ヶ月経った10年1月20日である。
警察が被告を被疑者とした根拠は、被告の履いていた靴底に男性のものとみられる微量の血痕(のちにDMA鑑定で被害者のものと型が一致)が付着していたこと、被害者のマンションの手すりに被告の指紋があったこと、南青山殺人事件発生現場付近の防犯カメラに被告とよく似た男が写っていたことである。
この事案で何より強く疑問を感じるのは、泥酔して保護された翌日に起こした器物損壊事件である。
ざっくり言えば、前日に強盗殺人を犯したとされる男が、酒に酔って暴れたため警察の厄介になってしまい(ここまでは殺人犯でもあり得る話)、翌日せっかく警察の手から離れることができたのに、出てきた警察署の目の前で器物損壊事件を起こし、自から警察の“管理下”に戻ってしまったことである。
泥酔して暴れたとしても保護の範囲で罪には問われていない。前日に強盗殺人を犯していたとしても、そのような振る舞いに及ぶ可能性がある飲酒も考えられる。
しかし、器物損壊罪とは比較もできないほど罰が重い強盗殺人を犯した“しらふ”の男が、無思慮に警察の掲示板に石を投げ、再び警察に拘束されるようなことをするだろうかという疑問をぬぐい去ることはできない。
被告は、09年5月に旭川刑務所を出所し、上京して就職活動をしていたと言われる。複数の建設会社で働いたが、なにやかやの事情で首になったり、寮から姿を消したりして、長くは続かなかったようだ。
そのため、生活保護を受給しながら、社会福祉施設に居住し仕事を探していたという。そして、南青山での殺人事件が起きた日に、突然その施設から姿を消したとされている。
ただ、南青山殺人事件が起きた翌日に上野で泥酔し警察の厄介になり、その翌日さらに器物損壊罪で拘束された経緯を考えると、被告が社会福祉施設から出てしまう判断をしたかどうか定かではない。
死刑判決が出された一審は、検察側の「被告の靴に付着していた血液のDNA鑑定(被害者の血液のDNA型と一致)」、「被害者のマンションの手すりに被告の指紋」、「殺人現場付近の防犯カメラに被告とよく似た男が写っていたこと」、「事件当日に被告が購入した包丁は形状的に見て殺人で使われた包丁であったしても矛盾しない」という主張を採用し、「状況証拠を総合すると被告が犯人と認められる」と有罪を認定した。
さらに、「出所して半年で冷酷非情な犯行に及んだ。自分の利益だけを考え、人の命という最も重要な価値を軽く見た冷酷非情な犯行。2人殺害の前科は特に重視すべきで、生命をもって罪を償わせるほかない」と死刑判決の妥当性を述べた。
一方、弁護側は、一審でも、「事件当日、現場には行っておらず、殺害もしていない」と無罪を主張した。
今回出された二審(東京高裁)の判決は、一審の死刑判決を破棄し無期懲役とした。
二審も事実認定として被告の犯行を認めており、その上で、「前科は夫婦間の口論の末の殺人とそれを原因とする無理心中で、今回の強盗殺人との間に社会的にみて類似性はない。更生の可能性がないとは言えない」という理由で死刑から無期懲役に減刑している。
弁護側は、控訴審でも、「被告と犯行を結びつける直接証拠はない。被告は犯人でない」として無罪を主張。仮に犯人だとしても、「被害者が1人であることなどを考えると、死刑を選択すべき事案ではない」と訴えている。
被告が実際に強盗殺人を犯したどうかはわからないが、殺人罪の前科を持つ男が長期にわたって警察の“管理下”にあったことを考えると、未解決の重大犯罪と少しでもつながり(防犯カメラに映っていた人物と被告が似ていないこともないレベル)があれば、その男を南青山で起きた強盗殺人の犯人と考え、その他の証拠をでっち上げることも不可能ではないと思われる。
一審の裁判長は、「状況証拠を総合すると被告が犯人と認められる」と有罪を認定したが、直接の証拠が不十分であり、強盗殺人犯としては不自然な警察掲示板への投石行為などを勘案すると、強盗殺人事件と無関係とは断定できないが、有罪と判断することはできないと思う。(このようなケースは無罪となるのが近代法の論理)
事件の事実関係はともかく、二審が死刑判決を破棄し無期懲役にした理屈が腑に落ちない。
被告側は無罪の主張だから、あくまでも有罪であるならという前提条件になるが、二審(東京高裁)が一審の死刑判決を破棄し無期懲役にした理由として、「前科は夫婦間の口論の末の殺人とそれを原因とする無理心中で、今回の強盗殺人との間に社会的にみて類似性はない。更生の可能性がないとは言えない」という論理を持ち出した。
減刑の理由付けはものは言いようの典型であり、「夫婦喧嘩でキレたとはいえ妻を殺し、将来を悲観した無理心中とはいえ、二人の子どもを殺そうとし一人は実際に殺してしまった。被告人は、無理心中で子ども二人がいる部屋に放火しながら、死なない可能性が十分に考えられる15mの高さから芝生に飛び降りる行為で生き残った。それらの罪のため20年にわたり服役しながら、出所後わずか半年で強盗目的で殺人を犯した。被告は、いろいろな原因、様々な状況で殺人を犯す危険な性格を有しており、それを理性で抑えることもできない人格の持ち主と認めることができ、死刑が相当と考える」と説明することもできる。
一審の死刑判決に与した裁判員の方々は、二審の減刑判決を知ってどう思っているだろう?
[一審判決当時の裁判員の思い:記事は既に消去されている]
南青山の男性強殺:裁判員裁判 黙秘の男に死刑 裁判員ら会見 /東京[毎日新聞]
2011年3月16日
◇「冷静に証拠見た」
港区南青山の男性殺害事件で強盗殺人罪に問われ、完全黙秘のまま死刑が言い渡された無職、伊能和夫被告(60)の裁判員裁判。13日間の審理と評議を終えた裁判員らは15日、判決後の会見で「黙秘は判断に影響していない」「証拠を冷静に見た」と落ち着いた表情で口をそろえた。
裁判員らは結審後、計5日間の評議を経て判決に臨んだ。被告は判決言い渡しにも無言だった。「感情が全く分からない」。裁判員を務めた50代女性は首をかしげた。補充裁判員を務めた男性教員(36)は「被告がしゃべってくれたら何か分かると思ったが……。逆に証拠だけで判断できた」と話した。一方、40代男性は「黙秘を不利に考えてはいけないと(裁判官から)聞き、理性的に判断できた」と振り返った。
死刑判断にかかわった精神的負担については、20代の男性裁判員は「話し合った結果。今のところ負担はない」と話した。一方で「評議を重ねて決めたこと。今はあまり今後の負担を考えないようにしている」(40代女性)「明日からの日常生活に戻った時に、負担を感じることもあるかもしれない」(50代女性)との声もあった。【伊藤直孝】
http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20110316ddlk13040222000c.html
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青山強盗殺人:死刑破棄し無期 裁判員裁判で初 東京高裁
毎日新聞 2013年06月20日 12時33分(最終更新 06月20日 13時12分)
妻子に対する殺人罪で20年間服役し、出所半年後に東京・南青山で男性を殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われた無職、伊能和夫被告(62)の控訴審判決で、東京高裁は20日、死刑とした裁判員裁判の1審・東京地裁判決(2011年3月)を破棄し、無期懲役を言い渡した。村瀬均裁判長は「殺意は強固だが、被害者が1人の事案で、死刑は選択しがたい」と述べた。最高裁によると、裁判員裁判の死刑判決が破棄されたのは初めて。
村瀬裁判長は「前科と新たな罪に顕著な類似性が認められる場合に死刑が選択される」とした上で、心中目的などで妻子2人を殺害した前科と今回の強盗殺人に「類似性は認められない」と指摘。「1審は前科を過度に重視しすぎた。裁判員が議論を尽くした結果だが、刑の選択に誤りがある」と判断した。
判決によると、伊能被告は09年11月、金品を奪う目的で東京・南青山の五十嵐信次さん(当時74歳)方に侵入し、首を包丁で刺して殺害した。
1審で弁護側は無罪を主張、伊能被告は完全黙秘し、控訴審には出廷しなかった。【山本将克】
◇解説 「前科重視し過ぎ」極刑回避
一般市民が参加する裁判員裁判のスタートから4年。刑事裁判では「1審重視」の傾向がうかがえるが、今回の東京高裁判決は「究極の刑罰」の選択にあたって、より慎重な判断が必要との姿勢を示したといえる。
最高裁によると、裁判官だけで担当した1審判決が高裁で破棄される割合(破棄率)は17.6%(2006〜08年)。これに対し、裁判員裁判の破棄率は制度開始から12年4月末現在で6.6%となっている。最高裁は12年2月、1審判決を覆すには「論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要がある」と判示し、市民の判断を重視する姿勢を鮮明にした。
それでも今回、高裁は「裁判員と裁判官が評議において議論を尽くした結果である」と1審に配慮しつつ、前科と出所後の事件の性質が異なることを踏まえ、「1審は前科を重視し過ぎている」と指摘。極刑を回避する結論を導いた。
無罪を主張する弁護側と、量刑を不服とする検察側の双方が上告するとみられ、最高裁の判断が注目される。
http://mainichi.jp/select/news/20130620k0000e040232000c.html
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