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【第9回】 2012年11月15日 井部正之 [ジャーナリスト]
石巻市で発生した“典型的”アスベスト飛散事故
「特殊事例」として処理したい行政の怠慢(1)
相次ぐアスベスト飛散事故を引き起こす要因はいったい何か。その構造的な問題を、被災地の石巻市で起こったアスベスト飛散事故の背景を分析することで、あぶり出していく。第1回目は、「典型例」な飛散事故として再三にわたり地元行政に報告と指摘が伝わっていたにもかかわらず、いつの間にか「特殊事例」にすり替わっていた顛末を解説する。
解体現場に散らばるアスベスト
また被災地でアスベスト飛散事故が起きた。
10月25日、厚生労働省は東日本大震災の被災地でアスベスト除去が適切に行われなかった結果、これに続く解体工事でアスベストを飛散させてしまった事例が報告されたとして、関係団体に再発防止を求める通知を出した。
通知には宮城県石巻市で8月に起こったアスベスト飛散事故の概要が示されている。それによれば、アスベストを〈取り残しているところは鉄骨の柱に吹き付けをして、さらにモルタルの化粧壁で仕上げ、その後コンクリートブロックで覆っている状況であった〉などの特殊事情があったから、飛散事故につながったとしている。
通知はそうした特殊事情を説明・周知するとともに、アスベスト除去工事に先立つ事前調査で、見落としやすい例を列挙して注意を促している。
だが、アスベストの調査・分析に詳しい専門家で、NPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏はこう警告する。
「国はこの件を特殊な事例と説明していますが、まったく違います。今回の件は明らかに典型例です。国は通知まで出して再発防止を求めていますが、これでは同じことがまた起きます」
いったい、どういうことなのだろうか。まず、厚労省が通達を出すことになった経緯から説明しよう。
アスベスト飛散事故が起きた現場は石巻駅からもほど近い、商店街に位置する店舗跡地。昨年の東日本大震災とそれにともなう津波によって、外壁が割れ落ちるなどの被害を受け、所有者からの申し込みにより石巻市が解体することになった。
建物に吹き付けアスベストが確認されたため、今年3月に除去工事が実施され、その後8月から解体工事が始まった。
ところが、解体工事中の8月30日、吹き付けアスベストが散乱していると通報があり、石巻労働基準監督署が現場に急行。その事実を確認し、工事を中止させた。
宮城県石巻市でのアスベスト飛散事故の現場。コンクリートがらに細かいアスベスト片が散らばっているという
コンクリートがらに散らばるアスベスト
鉄骨には取り残しのアスベスト、下には20センチはあるというアスベストの塊が落ちている
現場に残る鉄骨にはアスベストが付着したままだった
鉄骨ちかくに大量に散らばるアスベスト
Photo by Naoki Toyama
除去工事で見逃し
もともと現場の建物は増改築がされたらしく鉄骨造の2階建てなのに、一部木造だったりと複雑な構造だった。また2階の屋上に突き出た塔屋があった。
じつはアスベストが飛散している状況を通報したのは前出の外山氏である。外山氏が現場を訪れた段階で「すでに3分の2ほどがなくなっていた」という。塔屋は解体済みで、2階もほぼなくなり、鉄骨の柱が残っている程度だった。
「たまたま石巻を訪れた際に見たのですが、解体中の鉄骨の下に20センチくらいのアモサイト(アスベストの一種、茶石綿)の塊が落ちているし、別の鉄骨のわきにも大量にアモサイトが塊で落ちていた。鉄骨に吹き付け材のアモサイトも残っていた。ほかにも数センチ程度の細かいアスベストの破片がいたるところに散らばっている、本当にひどい状態でした」(外山氏)
石巻労基と石巻保健所によれば、鉄骨の梁や柱にアスベストが吹き付けられており、除去工事で取り残しがあったにもかかわらず、解体業者はそれに気づかずに作業に入ってしまい、吹き付けアスベストを飛散させたのだという。
こうしてみると典型的な飛散事故なのだが、今回は事情が違うというのである。
その理由が厚労省の資料からの引用として冒頭に示した〈取り残しているところは鉄骨の柱に吹き付けをして、さらにモルタルの化粧壁で仕上げ、その後コンクリートブロックで覆っている状況であった〉との説明だ。
厚労省資料から吹き付けアスベストの使用状況を示す写真と図を引用する(図の見にくい部分は修正した)。
つまり、鉄骨などに直接吹き付けられて、むき出しになっている一般的な吹き付けアスベストとは違って、モルタルや化粧壁で覆われていてわからなかったというのである。
拡大画像表示
外山氏は委員をしている厚労省と環境省による「東日本大震災アスベスト対策合同会議」で、ちょうどその直後に石巻の視察があったので、委員や両省の担当者に現場を案内し、この件を議題にした。
「合同会議ではこれまでの経緯も説明してひどい状況だと伝えた。被災地の問題というより、日本全国のアスベスト除去の現状を示している典型例として、真相究明をすべきだと指摘しました」(外山氏)
ところが、10月5日の合同会議で厚労省が出してきたのがすでに述べたような「特殊事例」としての報告資料だった。
「特殊と直接は言ってませんが、厚労省はしきりに特殊な事情を説明していて、通常とは異なると印象づけようとしていた」(外山氏)
厚労省資料には〈吹き付け石綿は被覆材として吹くことが通常であり、除去業者のこれまでの経験では、今回のようなコンクリートブロックの内側に吹き付けられている構造のものをあつかった事例はなかった。また、構造図面などの書類も震災の際流されていて、目視のみの調査しかできなかった〉と説明が付されている。通常とはかなり異なる事情があったとの書きぶりである。
飛散事故だが「失敗ではない」
本当に特殊な事例なのか。関係者に片っ端からあたった。
石巻労基によれば、「こういう状況がありましたという報告をあげただけ。これが特殊かという判断は監督署レベルではできない。監督署の判断として特殊とは言ってない」という。ただし、「施工業者の言い分としては伝えたかもしれない」とも話す。
石巻保健所は「外から見える部分は最初の除去工事で除去している。目視で見えないところ、吹き付けの上にモルタルやコンクリがあった。そこははがしてみないとわからない。通常じゃわからないところにあったと聞いている」と認める。
発注者である石巻市災害廃棄物対策課課長補佐の鎌田清一氏も「建材のコンクリをはがした中に残っていたものがあった。コンクリをはがしての検査まではしてない。そこに使われているという予測もしてなかった」と保健所と同意見だ。
このように、特殊かどうかの判断をしていない石巻労基以外は「特殊な事例」との見解である。では、工事をした事業者はどうか。
除去工事も含む解体工事を請け負った元請けの菅野工務店(石巻市)の菅野俊雄社長もやはり「隠ぺいされている部分は解体しないとわからなかった」と説明する。
同社の下請けとして除去工事を請け負った環匠(埼玉県川越市)の伊藤基之社長も典型例ではないと強調する。
「この除去は失敗ではございません。建物内部の除去は完了しています。外壁の中のあり得ないところに今回のアスベストが入っております。建物の内部の工事は終わっておりますが、外壁の下地に吹き付けがあることは当社でも初めてです」
モルタルやコンクリートブロックで隠されていたのみならず、建物外側に面した「あり得ないところ」にアスベストが使われていたことが問題なのだという。
だが、外山氏は「あそこの現場では3月にもアスベスト除去の見落としを指摘して、監督署が立ち入りして指導していたはず。厚労省の資料でも実際にはコンクリートで隠れていたところ以外にもいくつも見落としがあった」と反論する。
たしかに厚労省資料には、建物外側のコンクリートやモルタルで隠れた部分以外でも、〈はりと壁の間に隠れていた部分、鉄骨階段で隠れていた部分に石綿が吹き付けられていた〉とされ、これらも見落とされていた。このあたりは労基や保健所、環匠の話からも間違いない。
「要するに、吹き付けがむき出しのところだけしか見ていなかったことの言い訳をしているだけ。明らかに典型例です。これは何も除去業者だけの問題ではありません。あの現場は、もともと昨年12月から何度も問題があることを監督署や保健所に指摘してきた。それなのに結局飛散させてしまった。だからこそ典型例として真相究明が必要なんです」
じつは筆者もこの現場は今年1月からたびたび訪れ、異常な状況を目の当たりにしている。またその間の行政対応についてもつぶさに見てきた。その経験からも「典型例」と感じている。
次回以降、施工業者の言い分や行政対応の状況などに明らかにしていきたい。
http://diamond.jp/articles/print/27979
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