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朝日新聞デジタル朝刊 2012年11月803時00分
木谷明さんに聞く なぜ、検察官の主張ばかり通るのか
(元東京高裁部総括判事)
再審で無罪となったゴビンダ・プラサド・マイナリさんの裁判をめぐっては、真相解明より有罪判決の維持を優先させた検察の姿勢だけでなく、検察の主張通りに有罪と認めてしまった裁判所にも疑問が投げかけられた。
刑事裁判ではなぜ、検察官の主張ばかりが通るのか。
30件以上もの無罪判決を出した木谷明さんに聞いた。
■マイナリさん勾留、検察に応じた高裁 迎合生む「仲間意識」
――マイナリさんの再審までの検察側の姿勢をどう見ましたか。
「弁護団が再三、被害者の遺体から採取された付着物などの証拠の開示を求めてきたのに、小出しにして再審決定を先延ばししようとした検察のやり方は強く批判されるべきです。
少なくとも、体液などからマイナリさんとは違うDNAが検出された昨年7月の段階で再審開始は必然でした。
マイナリさんが1年も長く不当に服役させられることになったわけですから、検察の責任は大きい。
なぜあのような開示の仕方をしたのか検証すべきです」
――検察に対して「証拠隠しではないか」との批判もあります。
「過去に、松川事件で被告人のアリバイを示す『諏訪メモ』が上告審段階で明らかになったことや、布川事件のように、被告人に有利な証拠が隠されていたことが再審請求審段階で明らかになったケースなど、検察が被告人に有利な証拠を隠した事例は枚挙にいとまがありません」
――裁判官当時に経験は?
「証拠隠しとはいえませんが、ある女性が覚醒剤の共同譲り受けの罪で起訴された事件の裁判で、本人が『尿検査を受けた』と法廷で供述したので、検察官に聞くと『検査は実施していない』と反論。
即座に警察の科学捜査研究所(科捜研)に照会したところ、『尿検査をしたが、覚醒剤は検出されなかった』との回答があったケースがあります。
尿から覚醒剤反応が出れば、証拠の薄い譲り受けも有罪らしく見えるので、反応が出ることを期待して検査したのでしょう。
この時はすぐに照会したので科捜研と口裏合わせをされずに済んだのですが、のんびりと構えていたらウソをつかれたままでした」
――東京地裁の無罪判決後、検察は控訴した後に、東京高裁に職権でマイナリさんを勾留するよう求めましたが、木谷さんが勾留を認めませんでした。
「直接の理由は『裁判記録が高裁に届いていないので、現時点では職権で勾留する権限がない』ということでしたが、無罪判決の重みを考えて勾留すべきではないと考えました。
刑事訴訟法は無罪判決によって勾留状が効力を失うとしているのに、その直後に勾留したのでは、意味がなくなる。
検察官は『早く勾留しないと帰国してしまう』と急いでいましたが、外国人だからといって別にするのはおかしいのです」
――ところが、約3週間後に別の刑事部が勾留状を発付しました。
「通常、地裁から高裁に記録が移るのに1カ月以上かかるのですが、この時は控訴から約2週間という異例の早さで高裁に移り、第4刑事部が記録だけで心証をとって勾留状を出しました。
同じ部が控訴審も担当するのですが、勾留状を出してしまえば、無罪判決は出しにくくなる。
高裁は、最初に記録を読んだ時の心証に引きずられて逆転有罪判決まで行ってしまったと見ることもできます。
検察の意向に迎合した拙速な勾留状発付だったように思います」
――検察官主導で進められる現在の刑事裁判を「検察官司法」と名付けて批判していますが。
「現行制度では、起訴便宜主義といって、検察官は犯罪の嫌疑があっても起訴しないことができますから、有罪の確信が得られた事件だけを起訴します。
その結果、起訴される事件はほとんど事実認定に問題のない事件ばかりになり、有罪率99.9%という現状が生まれました」
「裁判官も日常的に、争いのない事件ばかり扱っていますから、検察官の言うとおり有罪判決を出していれば間違いないという『有罪ボケ』のような状態になります。
まれに被告人が無罪を主張しても、その弁解を素直に聞けない。
『罪から逃れたくてウソをついている』と見て、取り合おうとしない態度が裁判官に生まれやすいのです」
――マイナリさんの一連の裁判を見ると、控訴審以降の裁判官は検察官の言いなりのように見えます。
「裁判官は伝統的に検察官に対する親近感が強いのです。
戦前は、司法省という同じ役所の同僚でしたから。
戦後、裁判官は最高裁、検察官は法務省と役所は分かれましたが、同僚意識は連綿と続いています。
ある事件の合議で、検事に違法行為があったのではないかという意見を述べたら、裁判長から『検事がそんなバカなことをするはずがないじゃないか』と一喝された経験があります。
また、起訴された犯罪事実の立証が弱いと感じると、検察官に電話して、予備的に別の犯罪事実を加えるよう忠告する裁判官もいました」
――なぜでしょうか。
「ある時、友人の検事から忠告を受けたことがあります。
『裁判官は検事の主張と違うことをしない方がいいぞ。
我々は難しい問題については庁全体、高検、最高検も巻き込んで協議してやっている。
それに比べ、裁判官は1人かせいぜい3人じゃないか。
そんな体制で俺たちに勝てるはずがない。
一審で無罪判決を出しても、俺たちが控訴すれば、そんな判決は吹っ飛んでしまう』と。
裁判官が検察官の主張を否定しそうになると、高圧的で威迫するような態度になることさえあります」
――裁判でも経験はありますか。
「私が扱った事件で、うつ病にかかった母親が3人の子を殺した上で自分も自殺しようとしたことがありました。
捜査段階の鑑定では『うつ病はそれほど重くなく、限定的な責任能力がある』とされていました。
ところが、裁判所が鑑定を命じた鑑定人は『うつ病は相当重く、責任能力はない』という趣旨の鑑定書を提出。
私は後者の鑑定の方が説得力があると思い、無罪に傾きました。
それを感じた検事が、再鑑定を請求してきます。却下してもまたしつこく請求します」
「最後に論告で『懲役13年』を求刑した揚げ句、『再鑑定をしないまま無罪判決をしたら審理不尽になる』とまで声高に叫びました。
これは、『再鑑定しないまま無罪にしたら控訴するぞ。
そうしたら、お前の無罪判決などすぐ吹き飛んでしまうぞ』という意味の恫喝(どうかつ)です。
結局、無罪判決をしましたが、検事は控訴できず、無罪が確定しました」
「そこまで検事に抵抗されると、それを振り切って無罪判決に踏み切るにはかなりの勇気が要ります。
結局検事に妥協してしまう人がかなりいるだろうと思いました」
――無罪判決を多く出しました。
「十分な審理を尽くし穴のない判決を書くようにしています。
審理・判決にスキがあれば、控訴審で検察官に必ず突かれます。
だから、考えられるあらゆる点を審理して、想定される検察官の反論にもすべて答えるような判決文を目指しました」
――「検察官司法」の現状を打破するには、何が必要ですか。
「取り調べの完全可視化(録音・録画)や証拠開示の一層の拡大は当然ですが、それと共に上訴審の運用改善がとりわけ重要です。
日本では、一審の無罪判決に対して検察側が控訴することができます。
そしてその場合に高裁で破棄される割合は、被告人が控訴した場合よりはるかに多かったのです。
しかし、裁判員裁判で無罪とした判断をプロの裁判官だけの高裁が覆すようなケースが相次げば、裁判員制度の意義が失われてしまいます。
さすがに最高裁も、今年2月に言い渡した判決でこの問題に一応の決着をつけました」
――どんな判決ですか。
「裁判員裁判の無罪判決第1号となった千葉地裁の覚醒剤密輸入事件です。
被告人が荷物の中にあった缶に覚醒剤が入っていることを知らなかった可能性があるとして無罪を言い渡しましたが、東京高裁は被告人の弁解は信用できないとして逆転有罪判決を言い渡しました。
これに対し上告審で最高裁は『一審判決を高裁が破棄するには、一審判決の事実認定が論理則、経験則などに照らして不合理であることを具体的に示す必要がある』、
つまり、よほどおかしな事実認定でなければ破棄してはならないとして、高裁判決を破棄し一審判決を支持しました」
「この判例によって、検察官控訴で一審判決が破棄される割合が、被告人控訴の時の破棄率と比べ圧倒的に高い現状は解消されるのではないかと期待しています。
マイナリさんの控訴審判決もこの最高裁判決の後だったら、全く違った展開になっていただろうと悔やまれます」
■取材を終えて
新たなDNA鑑定の結果を待つまでもなく、12年前に東京地裁は「現場に第三者がいた可能性」を指摘して無罪判決を出していたのだ。
それを東京高裁が逆転有罪として、最高裁も追認した。
今回の再審無罪は、検察官だけでなく、検察の主張に安易に追従した裁判官にも、大きな課題を突きつけたと言える。
(山口栄二)
◇
〈きたに・あきら〉 1937年生まれ。
63年判事補任官。最高裁調査官、水戸地裁所長、東京高裁部総括判事を経て、今年3月まで法政大法科大学院教授。現在は弁護士。
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