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誤算 遠隔操作事件
(上)誤認招いた拙速捜査 取り調べの検証 急務
遠隔操作ウイルスに感染したパソコンから襲撃予告が送信された事件は19日、警察や検察が誤認逮捕を認めて謝罪する異例の事態となり、サイバー犯罪捜査の難しさを浮き彫りにした。なぜ真犯人の存在を見抜けなかったのか、なぜ身に覚えのない容疑を認める供述が得られたのか――。捜査の問題点と課題を検証する。
「迷惑かけて申し訳ありませんでした」。19日午前7時前、三重県内の住宅を訪ねた県警幹部2人は深々と頭を下げた。
謝罪の相手は、インターネット掲示板に「伊勢神宮爆破」と書き込んだとして威力業務妨害容疑で逮捕、9月に釈放された男性(28)。「逮捕されたことはショックだが、真犯人を挙げてほしい」と応じた。
同日夕、大阪市のホームページに殺人予告を書き込んだとして逮捕・起訴された男性(43)に対しても、起訴を取り消した大阪地検の幹部は「心よりおわびしたいと思います」と語った。
一連の犯罪予告事件では男性4人が逮捕され、警視庁と神奈川県警も近く謝罪する。サイバー犯罪捜査の「敗北」が明らかとなった。
「パソコンを立ち上げてみなさい」。突然訪ねてきた警視庁の捜査員の言葉に福岡市の男性(28)は当惑した。お茶の水女子大付属幼稚園(東京)に始業式の襲撃予告メールが送信されてから5日後の9月1日だった。
予告メールはすでに削除されていたが、同じパソコン内に別の脅迫メールの下書きのような文書ファイルが残っていた。「これは何だ」。捜査員に指摘され、男性は容疑を認める上申書を提出してしまう。
しかし、文書ファイルは警察を欺くために意図的に残された「証拠」だった。19日の警視庁の再聴取に対し、男性は「同居する女性が(メールを)送ったと思い、かばうために作り話をした」と説明。東京地検は男性に嫌疑がないとして近く不起訴処分にする方針だ。
今回の事件では、発信元のパソコンの特定など従来のサイバー犯罪捜査の手法が逆手に取られたうえ、取り調べが適正だったのか疑問も生じる事態となった。
神奈川県警が小学校への襲撃予告メールを送ったとして逮捕した少年(19)も容疑を認め、「楽しそうな小学生を困らせたかった」などと具体的な供述をしたとされている。
元東京地検特捜部検事の中村勉弁護士は「捜査技術が不十分であり、逮捕せずに任意捜査を優先すべきだった」と批判する。
大阪府警幹部は「発見してしまえば、解析が難しいウイルスではなかった」と後悔をにじませる。実は府警はウイルスでパソコンを乗っ取る手口の事件を経験していた。
年初に府警が逮捕、起訴した男(28)がアニメ関連サイトの運営を巡ってトラブルとなっていた知人男性を加害者に仕立てるため、パソコンを遠隔操作ウイルスに感染させ自分あてに脅迫メールを送らせたとされる。
警視庁、大阪府警、神奈川、三重両県警は19日、合同本部を設置し再捜査を本格化。警察庁の片桐裕長官は19日、全国の警察本部長を集めた会議で「これまでに検挙した犯罪予告事案について調査、検証をしてほしい」と指示した。最高検は来週にも全国の検察幹部を集め、再発防止などの検討に入る。
捜査当局には、誤認逮捕の徹底した検証と再発防止が求められている。
[日経新聞10月20日朝刊P.39]
(下)海外経由が障壁に 「公開捜査」求める声も
パソコン遠隔操作事件の合同捜査本部がある警視庁の会議室。捜査員が深夜まで、通信履歴とパソコンに残ったデータの照合やウイルスの感染源などの追跡を続ける。
警視庁、大阪府警、三重、神奈川両県警から140人を投入、真犯人の特定に全力を挙げる。異例の態勢は、遠隔操作という新たな手口に対応できず4人を誤認逮捕した警察の衝撃の大きさを物語る。
「威信をかけた捜査」「警察の失地回復を図る」。警察幹部の言葉とは裏腹に、想定外の巧妙な遠隔操作で警察を陥れた真犯人特定までのハードルは高い。警視庁幹部も「人海戦術で聞き込みや証拠集めを強化できる殺人事件の捜査とは違う」と漏らす。
サイバー空間に国境はない。この利便性が捜査の壁となって立ちはだかる。「海外サーバーを経由すれば、発信元の特定は不可能というのが定説になってしまった」。捜査幹部は苦々しげに打ち明ける。
真犯人が使ったのは、海外の複数の国のサーバーを自動的に経由させる「Tor」と呼ばれる暗号化ソフト。世界中から無作為に複数のサーバーに転送させることで、発信元の特定を妨げる。
Torの存在が知れ渡ったのは今から2年前。警視庁公安部の内部文書とみられる国際テロの捜査情報流出事件だった。同庁は欧米など約50カ国に捜査協力を要請。だが今もなお、発信元は特定できていない。
海外のサーバー捜査では必ずしも相手国の協力を得られるわけではない。通信履歴も暗号化されるため、真犯人を特定することは困難との見方が支配的だ。
大手セキュリティー会社「ラック」(東京)の西本逸郎専務理事は「今回の事件でもすべての遠隔操作にTorが使われたとみられ、本当の発信源には事実上、たどり着けない」と指摘する。
三菱重工業や衆参両院などを狙った標的型ウイルス、国際的なハッカー集団「アノニマス」のサイバー攻撃――。Torの使用は不明だが、海外サーバーを経由しているという点では共通している。ともに容疑者検挙には至っていない。
真犯人を特定するために突破口はあるのか。捜査当局が注目するのは犯行声明メールだ。遠隔操作で閲覧した画面や操作マニュアルなど複数のヒントを残しているほか、過去のインターネット掲示板の書き込みなどと文章表現が酷似していれば、真犯人に結びつく可能性はある。
捜査幹部は「ネットを舞台にしているといえども人間の犯罪。どこかに綻びがあると信じて解析を進める」と期待を込める。これに対し西本専務理事は「犯人像を絞り込んで書き込みの内容や癖を列挙し、ネットユーザーからの情報提供を求める“公開捜査”など新たな捜査手法が必要」と提案する。
今回の目的は犯行予告だったが、遠隔操作ウイルスで他人になりすます手口は様々な危険をはらむ。サイバー空間という日常の安全をいかに守るか。捜査手法の抜本的な見直しが迫られている。
[日経新聞10月21日朝刊P.35]
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