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誰でも「犯人」にされる恐れ PCを遠隔操作の「殺人予告」なりすまし事件
http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20121008/dms1210081117001-n1.htm
2012.10.08 夕刊フジ
大阪市のホームページに7月、無差別殺人を予告する書き込みをしたとして偽計業務妨害罪でアニメ演出家の北村真咲(まさき)被告(42)が起訴された事件で、書き込みに使われたパソコン(PC)が新種のウイルスに感染し、別人がなりすまして遠隔操作できる状態だったことが7日、大阪府警への取材で分かった。北村さんは事件と無関係の可能性があり、大阪地検は勾留取り消しを請求、9月21日に釈放した。
府警によると、外部からPCを完全に乗っ取ることができる不正プログラムが仕込まれていた。北村さんになりすました第三者が書き込んだ疑いがあり、府警は実際になりすましが可能か再現するとともにウイルスの感染経路を調べる。
また、ネットの掲示板に伊勢神宮の破壊予告を書き込んだとして三重県警が9月、威力業務妨害の疑いで逮捕した無職男性(28)のPCからも同じウイルスを検出、逮捕から1週間後に処分保留で釈放されていたことも判明した。
県警が男性のPCを解析する過程で不正プログラムを発見。北村さんの起訴後に情報提供を受けた府警が再捜査した結果、同じファイル名のプログラムがあることを確認した。
両府県警によると、北村さんと男性は当初から一貫して「身に覚えがない」と容疑を否認していた。
大阪と三重で発覚した、パソコンがウイルス感染で何者かに乗っ取られ遠隔操作された可能性。今回のケースでは、誰もが知らないところで犯人に仕立て上げられ、逮捕・起訴までされてしまうネット空間の危うさがあらわになった。
情報セキュリティー会社「ネットエージェント」(東京)の杉浦隆幸代表によると、他人のパソコンを乗っ取り、遠隔操作できるようする「なりすましウイルス」は、海外で1999年ごろに登場。08年ごろから急激に進化して英国を中心に広まり、現在では世界各国で被害が確認されている。
日本では遠隔操作を意味する「リモートコントロールソフト」という名前で知られる。昨年、三菱重工業など日本の防衛産業メーカーがサイバー攻撃を受けたり、衆議院と参議院のパソコンがウイルス感染したりした事件でも、同種のなりすましウイルスが使われ、海外から攻撃を受けていたとみられる。
しかし、今回のように乗っ取られたパソコンから日本語で書き込まれるなど、日本人の犯行とみられるケースは珍しいという。ネット事情に詳しいフリーライター、渋井哲也さんも「他人にパソコンを完全に乗っ取られ、気付かないまま犯罪行為をして起訴までされたケースは初めてではないか」と指摘する。
杉浦代表は今回の事案が明るみに出た経緯について、「政府などへの大規模なサイバー攻撃の調査で、捜査機関の調査能力が上がったため、見つけられたのではないか。今後も同様のケースが明らかになる可能性は高い」と推測する。
感染の方法は、勤務先の上司の業務連絡を装ったウイルスを添付したメールを送りつけたり、特定サイトを閲覧させたりするなど巧妙で、所有者が感染に気付くことはほとんどない。
パソコンを乗っ取れば今回のような殺人予告だけでなく、パソコン内の情報を盗み見することもできる。
杉浦代表は「ウイルス対策ソフトを入れていれば、少しはいいかもしれないが、今のところ絶対的な対策はない。スマートフォン(高機能携帯電話)でも今後、被害が出てくる恐れもある」と話した。
一方、堀部政男一橋大名誉教授(情報法)は「捜査機関は誤認逮捕防止のため、捜査手法を検討し直す必要がある。誰もが容疑者にされ得る非常に恐ろしい時代になったことを社会全体が認識し、議論を始めるべきだ」と指摘した。
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