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死刑執行文書開示:死刑順序 基準は闇
http://mainichi.jp/select/news/20120601k0000m010137000c.html
毎日新聞 2012年06月01日 02時50分(最終更新 06月01日 08時21分)
関連文書から分かった死刑執行手続きの流れ
http://mainichi.jp/graph/2012/06/01/20120601k0000m010137000c/001.html
死刑執行はどういう手続きを経て行われるのか。毎日新聞の情報公開請求に対し、法務省が開示した文書の半分余は黒塗りだったが、開示された部分からだけでもベールに包まれてきた流れがつかめる。一方、関係者や専門家からは開示について慎重な意見と、さらなる情報公開を求める意見が出された。【伊藤一郎】
死刑確定後、確定判決を出した裁判所に対応する検察庁の長(検事正や検事長)は、法相に死刑執行の伺いを立てる「上申書」を提出する((1))。開示された事例では、刑の確定から上申までの期間は1カ月半から5カ月半まで幅があったが、いずれも「執行命令は6カ月以内にしなければならない」と定めた刑事訴訟法の期間内に行われた。
その後、数年を経て同省刑事局の起案に基づき、執行に向けた審査や決裁が行われる。今回、「起案書」の開示請求に対し開示されたのは「死刑執行について」と題された文書((2))。表紙に「起案部局・課 刑事局総務課」の記載とともに、矯正・保護両局の幹部の押印があり、1ページ目に死刑確定者の氏名や本籍、犯罪事実の概要を記載。だが、その後のページは黒塗りで不開示が続き、最後の「執行命令書案」が開示されただけ。このため刑事局がどのような理由で執行対象者を選んだのかは不明だ。
アムネスティ・インターナショナル日本の若林秀樹事務局長は「一連の執行手続きは密室で行われてきた。運用実態や執行対象者の選定基準が分かったかもしれない起案書の内容が不開示だったことは残念」と話した。
法務省の決裁ラインは二つ。「死刑執行について」と題された起案書には▽矯正局長▽矯正局総務課長▽成人矯正課長▽保護局長▽保護局総務課長▽保護局恩赦管理官−−の6人が押印。「死刑事件審査結果(執行相当)」と題された決裁文書には、法相と副法相が署名し▽事務次官▽官房長▽秘書課長▽刑事局長▽刑事局総務課長−−の5人が押印していた((3))。
一連の決裁を経て作成される「執行命令書」((4))に法相の署名がないが、刑事局は「刑事訴訟法にそうした定めはない」という。これに対し、諸沢英道・常磐大教授(被害者学)は「厳粛な刑罰権の行使を命じる文書だけに、執行命令書にも法相のサインが付されてもいいのでは」と問題提起した。
執行命令書は同日中に死刑執行を指揮する検察庁に届けられ、検察庁は「受領書」を返送((5))した上で、担当検事が拘置所長宛てに「執行指揮書」を作成((6))。執行後は検察庁の長が法相に「執行報告書」を即日提出する((7))。報告書には、執行に立ち会った検察事務官が作成した「死刑執行始末書」も添付され、中には「千葉景子大臣が立ち会った」と手書きされたものもあったが、執行経過が書かれている始末書の「別紙」は全面的に黒塗りされていた。
執行後の文書に関して「全国犯罪被害者の会(あすの会)」の松村恒夫代表幹事代行は「事件の当事者である被害者はマスコミで執行を知るのが現状。希望者に法務省が直接、執行報告書を送るような措置を取ってもいいのではないか」と語った。
◇識者ら「もっと透明に」
死刑執行を巡る情報は長い間、秘密とされてきた。今回開示された文書にも実質的な起案書の「死刑執行について」や執行命令書に「秘」の記載がある。
今回の開示について土本武司・筑波大名誉教授(刑事法)は「開示できる行政文書の範囲を広く捉え、国民の知る権利に応えようとした姿勢の表れだ」と評価。一方で「(決裁者の名前など)関係者のプライバシーを公にすることで不測の事態を招きかねない危険もある。公益目的でない開示請求があった場合にどこまで公開するかについて、今後も議論の余地があるだろう」との見解を示した。
法務省の幹部によると、開示の範囲が広がったのは、07年に執行対象者の氏名などを鳩山邦夫法相(当時)が公表するようになったことで「不開示とする意味がなくなった」ためという。
これについて、約1年の法相在任中に13人に執行を命じた鳩山氏は「事務方から説明を受けた後、自分でじっくりと記録を読み込み、どの事件も『これだけの凶悪事件で執行しなければ正義が実現されない』と確信して決裁文書に署名した」と話す。執行対象者の氏名などを公表した理由についても「世の中が『正義が実現された』と実感する必要があると考えたからだ」と説明し「情報開示が進んだのは結果論だと思っている」と語った。
一方、約11カ月の法相在任中に執行命令を出さなかった杉浦正健氏は「死刑に関する情報開示の現状はあまりに閉鎖的」と指摘。「国民の間で死刑制度の是非をきちんと議論するためにも、被害者やメディアが執行現場に立ち会う州もある米国のような透明性の高いやり方を見習うべきではないか」と提言した。
03年以前の文書を04年に開示請求し、ほとんど不開示とされ裁判で争った新谷桂弁護士は、市民が裁判員として死刑の是非を判断するよう迫られている現状に言及。「重い判断を委ねている国民に、執行時の手続きなどの情報を十分に提供することは国の義務。現行の絞首刑が本当に憲法が禁じた『残虐な刑』に当たらないのかどうか、国民が判断できるよう、情報開示がさらに進められても良い」と述べた。
また、諸沢教授は「被害者の多くは(刑事訴訟法で規定された)6カ月を超えても執行されないことに疑問を感じている」と指摘。「今回の開示では確認できなかったが、確定から6カ月の時点で執行されていない場合、『なぜまだ執行されないのか』を記載する文書が存在してしかるべきだし、その理由が被害者側に伝えられるべきだ」と話した。
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