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http://journal.mycom.co.jp/news/2011/07/25/074/
アナログテレビのブラウン管が放射線を遮蔽 - NIMSが効果を確認
2011/07/25
地デジ NIMS 東日本大震災 原発 放射能 原子力発電所 放射線
物質・材料研究機構(NIMS)の元素戦略材料センター 資源循環設計グループは、原子力発電保守管理・放射性物質関連業務のATOXと協力して、家電リサイクルで集められた使用済テレビのブラウン管ガラスから得られるガラスカレット(ガラス破砕くず)が放射線の遮蔽に有効であることを確認した。
原発事故に対処するためには放射線を遮蔽することが必要となる。多量の放射性物質が作業環境下に存在している福島原発の事故対策では、大量の遮蔽材料が必要となるが、通常よく用いられる放射線(特にガンマ線)の遮蔽材料は鉛は、中国などでの鉛バッテリ需用の急騰などで品薄感が強く、価格もリーマンショック前の2006年の水準に戻ってきている。代替としてタングステンやバリウムも候補とされるが、価格面でも中国依存度の面でも、厳しい状況と言ってよいのが現状である。
しかし、鉛を含んだ資源が都市鉱山として期待できるようになってきた。それはリサイクル法に基づいてリサイクルされているテレビのブラウン管ガラスで、テレビのブラウン管には視聴者を電磁波から守るために鉛が10数%から 25%入ったガラスが用いられており、研究チームでは、現在、ブラウン管テレビを製造している国々に輸出しているこれらの部材を、遮蔽材としての積極利用を推進すべきだと提言している。
特に2011年7月24日でアナログ放送が終了、地上デジタル放送の移行に伴い、電子情報産業技術協会(JEITA)の見立てでは、1550万台のブラウン管テレビがリサイクル対象となり、ブラウン管で20万トン、鉛分だけでも2万トン近くがそこに含まれると見込まれるという。
図1 アナログテレビの排出予測(出所:NIMS Webサイト。「地上アナログ放送終了に伴うテレビの排出台数予測」電子情報産業技術協会2010年5月24日より)
これは、現在の国内の鉛需用(27万トン)で鉛バッテリ用途(23 万2000トン)以外の50%超に相当する。このような事実は、2011年4月の未踏科学技術協会・エコマテリアルフオーラムにて提案されていたものの、実際の遮蔽効果の有効性は確認されておらず、今回、研究グループがその実験的検証を行った。
遮蔽能力の測定は、ATOX技術開発センターの照射試験実験室内で行ない、0.8ペタベクレル(PBq)のコバルト線源から空間線量約40Gy/hの位置に線量計を設置し、その前方に試験体として、様々な厚みで箱詰めしたガラスカレットを置き、その時の空間線量率の減少から遮蔽能力を調査した。
調査の対象となったのは以下の8点。対照として鉛ブロック(Pb)を用いた。
(a). 破砕カレット粒径 20mm-50mm
(b). 粗篩分カレット粒径 5- 20mm
(c). 細篩分カレット粒径 5mm以下
(d). ビリガラス粉
(e). a+b+c混合 1:1:1
(f). b+ d混合 1:1
(g). a+d混合 1:1
(h). d+シリコン樹脂 2:1
試料の厚みを変えて測定した結果、同一試料の場合には厚みが増えるに従って指数関数的に空間線量が減少することが確認された。この関係は厚みをt(cm)の時の空間線量率をFとすると。試料の違いに応じて
F=exp(-μxt)
の関係で表れされる。
各試験体の厚みと遮蔽能力
このμX(単位:cm-1)は遮蔽体xの線減弱係数とも呼ばれる。表1はそれぞれの試料の線減弱係数を見掛け密度とともに示したものだが、見掛け密度が高いほど線減弱係数が大きくなり、粒径の異なるものを混合して緻密にして使用するほど効果がでることから、この関係を用いると鉛板を用いた場合の遮蔽効果と比較できる。
表1 試験体の見かけ密度と線減弱係数
表2は遮蔽効果の典型的な例を示したものだが、これに基づくとブラウン管ガラス粉砕カレット(a)をそのまま積みあげても約55cmで約9cmの鉛の厚板と同等に放射線を約100分の1まで遮蔽する能力があることが分かる。また、粉砕時に生じるビリガラスと呼ばれるガラス粉と粉砕カレットをブレンドして密度を上げると(g)、約40cmの厚みでも100分の1までの遮蔽能力を発揮することができることが分かる。
表2 遮蔽効果の例
また、ビリガラス粉を重量で66%の配合でシリコン樹脂に練り混んだ材料も28.5cmの厚さで、鉛4.4cm厚に相当する10分の1の遮蔽能力を持ち、これらの特性から、ガラスカレットをコンクリートの骨材に用いた場合の遮蔽効果も推定でき、例えばコンクリート全体の半分の重量の骨材をこの鉛ガラスカレットで置き換えた場合の厚さt(cm)での遮蔽効果は、
F=exp(-μc・t/2)・exp(-μg・t/2)
となり、ここでμcとμgはコンクリートと鉛ガラスカレットの線減弱係数で、μcを0.093cm-1と仮定し、μgを今回の結果から0.115cm-1とすると、普通のコンクリートの20cmの厚みの場合の遮蔽効果、
F=exp(-0.093×50)=0.096
に対し、鉛ガラスカレット代替の場合は
F=exp(-0.093・50/2)・exp(-0.115・50/2)=0.0045
と放射線量を半分に減弱できることが期待されるという。
今回の結果は、地デジ化に伴って大量に発生すると予測されるアナログブラウン管テレビなどの鉛ガラスカレットが、そのまま袋詰めなどの形で用いても放射線遮蔽効果を持つことを示したもので、例えば、袋に詰めてマット状にして土嚢のようにして瓦礫を覆うだけでも、鉛板を敷き詰めるのに匹敵するような効果も期待されるという。
また、今回はシリコン樹脂で練り混ぜたが、他の安価な樹脂を使っても同じ効果が得られるものと期待できるほか、プレキャストコンクリートの遮蔽効率改善などへの応用も考えられることから、研究チームでは、今回確認された放射線遮蔽特性に合わせて原発事故現場の厳しい作業環境を緩和させるための多様な適用を図っていければとしている。
なお、研究チームでは、最初の提案者であるエコマテリアルフォーラムや各企業や経済産業省、リサイクル関係などの多くの関係者および仲立ちを務めた原子力研究バックエンド推進センター(RANDEC)に感謝の意を表すほか、日本国民に向け、「地デジ化にともなって不要となったテレビをきちんとリサイクルすることが原発事故対策にもささやかな貢献になることを理解し、使用済みテレビを必ず家電リサイクル制度に基づいたリサイクルに廻すようにお願いしたい」とコメントしている。
廃ブラウン管処理の流れの例
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