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2009年01月01日
アメリカ合衆国が6つに分割される日
2009年01月01日 12:00
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アメリカの経済紙Wall Street Journalでちょっとした記事が話題を呼んでいる。その記事曰く「アメリカ合衆国は2010年に6つの国に分割する」というものだ。その予想を立てたのが、単なるSF小説家やアナーキストではなく、ロシアの重鎮的なアナリストであることも注目を集めている要素の一つとなっている(【As if Things Weren't Bad Enough, Russian Professor Predicts End of U.S.】)。
アメリカ合衆国分割の図
この予想を発表したのは、ロシアの元KGBのアナリストで、今はロシアの外交官を育成する外務省付の大学で学部長の座についているIgor Panarin氏。アメリカとロシア両国間についてはスペシャリストの一人である(いくつもの書籍を発刊しているし、クレムリンにもレセプションに、専門家として招待された経歴も持つ。政治学の博士号も持ち、アメリカの国家安全保障局(NSA)と同等のロシアのFAPSIにも勤務し、ボリス・エリツィン大統領のもとで戦略構築の経験も持つ)。また、今回の予想をして「中東情勢の不安定さや世界的な経済危機がアメリカに責があるような状況の現状は、まるで1990年代前後の世界中のごたごたと同じようなものだ。そして1990年代においてはすべてソ連(今のロシア)に責があるかのように結論付けられ、それが元でソ連そのものが崩壊しただけでなく、多くの『搾取された』領土から兵を引くことになった」とその前提を説明している。
また、アメリカに嫌悪感を持つがための予想でもなく、「アメリカ人は嫌いじゃないよ、でも見通しは決して明るくはないね」(he does not dislike Americans. But he warns that the outlook for them is dire.)と自分の予想に対し悲しみと共に肯定の言葉を告げている。
Panarin氏の具体的な予想は次の通り。
・2009年後半までに「移民の数が急増」「経済上の破たん、低迷が続く」「モラル、民意がさらに低下する」などの現象が発生。
・州単位での経済格差が拡大し、裕福な州は連邦政府との金銭的連携を遮断し、事実上連邦を脱退する。民族間の対立も激化する。
・これらが引き金となり、アメリカで内戦が発生し、当然のことながらドルが崩落する。
・2010年6月〜7月までにアメリカ合衆国は6つに分断されることになる。
・このシナリオは(Panarin氏曰く)45〜55%の発動確率。
・ロシアとしては強敵が勝手に倒れるのは悪い話ではない。ただし、ベストシナリオではない。相対的にロシアの存在価値、立ち位置は向上するが、ドルの崩落と貿易相手国としての「(まとまった形としての)アメリカ」の喪失はマイナスに他ならない。
そして具体的な分割内容は次の通り。
・カリフォルニア領域……「カリフォルニア共和国」(中国支配下、あるいは影響下)
・テキサス領域……「テキサス共和国」(メキシコ支配下、あるいは影響下)
・中央アメリカ領域……「中西部アメリカ共和国」(カナダ支配下、あるいは影響下)
・東海岸都市領域……「大西洋アメリカ(アトランティック・アメリカ)」(EUへの加盟、協力関係強化)
・ハワイ……ハワイ(中国か日本の保護下)
・アラスカ……アラスカ(ロシアに合併)
もちろんこのような話について「荒唐無稽(こうとうむけい)以外の何物でもない」という意見も多い。ロシア国内ですらテレビジャーナリストのVladimir Pozner氏などは「最近日に日に増加している反米主義をあおり立てるだけの論調で、こんなクレイジーな考えにはまともに論ずる価値もない」と吐き捨てている。
一方でこの「予想」はPanarin氏が昨年秋にイズベスチア(ロシア最大の日刊紙)掲載した論調にもスポットライトをあてている。そこで氏は「アメリカの対外負債はねずみ講のようなもの。中国とロシアが中心になって、財務的な監視をしなければならない」「アメリカ人はオバマ新大統領が奇跡をもたらすと信じている。しかし(2009年の)春が来たとき、その奇跡への想いが期待外れに終わっていることを認識せざるを得なくなる」とコメントしている。
Panarin氏は自分の「荒唐無稽」な予想に対し、元記事では次のように締めくくっている。
「かつてフランスの政治学者エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)氏は1976年にソ連の崩壊を正しく予想したんだ。15年も前に、だ。でも予想した時、トッド氏は皆の笑いものになったんだよ。
(He cites French political scientist Emmanuel Todd. Mr. Todd is famous for having rightly forecast the demise of the Soviet Union -- 15 years beforehand. When he forecast the collapse of the Soviet Union in 1976, people laughed at him.)」
と。
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架空戦記やボードゲームで「マニア」パラメーターがちょっと大きい当方(不破)としては、「アメリカ合衆国分割」というと、太平洋戦争における連合軍による日本分割統治案や、架空戦記小説の【侵攻作戦パシフィック・ストーム】に登場する「アメリカ合衆国」と「アメリカ南部連合」、【遥かなる星】に登場するぐちゃぐちゃになったアメリカ、【アップルシード】に登場する「アメリカ帝国」と「米ソ連合」(!)、さらには古(伝説の、という意味)のボードゲームの「Invasion America(アメリカ侵攻作戦。アメリカを世界各国が侵攻するゲーム)」(SPI)などが頭に思い浮かぶ。
ただしロシアなどの事例を見れば分かるように、多少国内でごたごたがあったとしても国は「大きくまとめられているほど国力も、意見力も、他国への圧力も、独立性も高まる」というのが大前提として存在している。日本の戦国時代や、南北朝時代も想像すれば、よりよく理解できるだろう。意見の対立や経済上の困難が生じても、「分割」はアジテーションの声としてはウケが良いが、「当事者にとっては」マイナス要素が大きすぎる事は誰にも理解できる話。
また、Panarin氏のような戦略研究員(特に国家意思にアドバイスする立場にいる・いた人)は、ありとあらゆる事態を想定し、その結果を予想し、それに備える案を立案するのが一つの仕事。いわばあらゆる可能性をめぐらしてその対処法を考えておくもので、その「可能性」「選択肢」の数が多ければ多いほど(もちろん荒唐無稽な話は別)、その人の力量として他から評価される一面もある。
だから今回記事にされた「アメリカ6分割」という未来も、それらの「可能性」の一つでしかなく、それがたまたまPanarin氏が得意分野としており、話題に富んでいるアメリカ方面のものだからこそ、話題に登っているといえる。Panarin氏、あるいは同じ立ち位置にいる戦略研究員(やその類の人)の頭、想定案には、ロシア分割、中国分割などの案もあるだろう(先のボードゲームでもリターンマッチ的な話として「Objective Moscow(モスクワ侵攻作戦)」という、ソ連を世界各国がタコ殴りするゲームもある)。
しかし、このような記事がイズベスチアや人民日報ならともかく、「アメリカの」Wall Street Journalで話題になるあたり、アメリカ人自身にとっても「情勢が安定しているわけではない」という心境の不安がある証なのだろうか。さらに考えれば、だからこそ身を引き締めるため、このような記事が読まれているのかもしれない。
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