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http://jp.fujitsu.com/group/fri/column/opinion/201106/2011-6-4.html
高齢者の負担増なしには税と社会保障の一体改革は成功しない
2011年6月24日(金曜日)
2010年秋、菅総理は『税と社会保障の一体改革』をTPP と並んで政権の二枚看板として掲げ、2011年6月までに改革案を提示することを約束しました。そのため民主党の財政政策を厳しく批判していた与謝野馨氏を任命するというサプライズ人事を敢行し、超党派で知恵を結集して案をまとめたいという強い意欲を示しました。その後、3月11日に東日本大震災が起こったため、議論は止まったかに見えましたが、4月末から集中討議が再開され、予定通り6月末には骨格がまとまる予定です。ここで何が重要なポイントか、私見を述べさせていただきます。
1.実は税金で支えている社会保障
税と社会保障とは本来別のものです。税は国が国民から強制的に所得の一部を取り上げ、インフラ建設や公的サービスを提供するものですが、個々人のレベルで見ると、支払う額と受け取る弁益は必ずしも対応しません。これに対して社会保障は国民が納めた資金をプールして、高齢者、病人など、一定の条件を満たした人に対して現金を給付するものです。言い換えれば所得の再配分であり、政府自らそれを使うわけではありません。社会保障は一種の保険ですから、収めた額をすべて受け取れるとは限りません。長生きした人の場合、受取額は支払額よりも大きくなりますし、早死にすれば、ほとんど何も受け取らないで人生を終えることになります。だからと言って、自分が納めた金は回収しないと損だ、などと考えてはなりません。日本の場合、「自分が納めた金は当然返してもらえるはずだ」と考える人が多いのは、かつて年金の支払金を「積立金」と称した時代があったからです。言い換えれば『積み立て方式』をとっていたのです。これは、個々人が納めた金はいずれ返してもらえる、という制度です。しかし、今の日本ではそのようにはなっていません。現役世代が納めた保険料はそのまま同じ時点における高齢者に支払われます。このような制度は『賦課方式』と呼ばれますが、納めた金額と将来受け取る金額とがリンクしていないという問題点があり、「積み立て方式に戻るべきだ」との意見も少なくありません。しかし、それでは銀行預金と同じことになり、保険としてのリスクヘッジ機能や、再配分機能が生かされないことになります。どちらがいいか、これは永遠の神学論争です。
積み立て方式にせよ、賦課方式にせよ、本来、目的も制度も異なる税と社会保障を関連づけて扱わなければならないのは、保険料を納める現役世代の数が減り、年金や医療保険を受け取る高齢者の数が増えているからです。既に保険料だけでは増大する年金支払額や医療費をカバーすることは出来ず、国庫からの支出でかろうじて回しているという状態です。日本の社会保障の規模は平成22年度で約100兆円となっており、他方財源として保険料で徴収できるのは59兆円、残りの40兆円は税収から補填しています。将来的には現役世代が減少し、保険料収入は減る一方ですが、給付の方は増え続けます。とすれば、税で負担する額は急速に増えていかざるを得ません。既に世界最高の水準に達している財政赤字はますます増えてしまいますが、これはどこかで歯止めをかける必要があります。どうするかといえば、税収を増やすか、社会保障支払金を削減するか、あるいはその組み合わせとなります。こうして、税と社会保障は両方議論の俎上に載せる必要があります。議論の主流は、「消費税を上げてその増分を社会保障の財源に充当する」というものです。日本の消費税率が他の先進国に比べると大分低いので、この議論は国際的な税制に近づける、という意味でも説得力を持ちます。
2.高齢者の社会福祉にも所得制限を
社会保障費の増大を消費税の引き上げだけで対応するとすれば、少子高齢化は今後とも続いていくので、税率も際限なく上昇することになります。これを避けるためには並行して支払額も減らさざるを得ません。今のままだと、現在70歳以上の高齢者は支払額の8.3倍受け取るのに対して、20歳以下の若者は2.3倍受け取るに過ぎないことになります(【図表1】)。この世代間格差は明らかに不公平です。将来世代の負担をなくすためには、現在支給を受けている高齢者への支給額を減らし、将来世代の負担を減らすこと、これこそが社会保障改革の本質です。日本の社会保障の8割は高齢者向けの支出であり、子育て、教育や失業保険など、働く世代向けの支出は2割に過ぎません。これは他の先進国と比べても著しく高齢者に偏っています。
【図表1】世代別年金負担額と受給額
出所:厚生労働省
とすれば、税と社会保障の一体改革は高齢者にとって厳しい話にならざるを得ません。「お年寄りが安心できる改革」などという売り文句を額面どおり受け取ってはなりません。どんな厳しい話が来るかと思えば、給付金額のカット、年金開始年齢の引き上げ、患者自己負担の引き上げなどです。これでは文句も出るでしょう。しかし、家計の貯蓄額を年齢別に見ると、一番の大きいのは世帯主が70歳を超えた世帯です(【図表2】)。本来であれば貯蓄を取り崩している世代のはずですが、毎月40万円〜50万円の年金や利子・配当所得を受け取っており、貯蓄額はどんどん増えています。現役世代は長時間働かされても、月給は親より小額です。これはどう考えてもおかしいです。人間70〜80歳を超えれば夫婦合計で月30万円もあれば十分です。引退した世代についても、所得全体を把握し、所得額に従った累進課税を適用するか、年金や介護、医療の保険金支払いには所得制限を設けるなどすべきではないでしょうか。
【図表2】年齢別金融資産保有額
(備考)総務省「家計調査(貯蓄・負債編)」(2004年)により作成。
出所:内閣府 平成17年版 経済財政白書(http://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je05/05-3-2-19z.html)
3.高齢者も働く社会に
現在、かなりの先進国が年金受給開始年齢の引き上げに向かって進んでいます。世界一長寿の日本は70歳にまで上げてもいいでしょう。そして浮いた金は子育て世代に再配分されるべきです。もちろん、そのためには雇用機会が提供されなければなりませんが、熾烈な国際競争を戦っている民間企業に長居をして負担となるようなことはよくありません。気力、体力の十分な若者に席を譲るべきです。高齢者は介護施設などで自分の生活に必要なだけの賃金で働くことにしてはどうでしょうか。いずれは自分たちもお世話になるであろう施設で半ば社会貢献的に働くことで、意義ある生活を送ることが出来ます。公的介護施設に入居するための資格要件として、2年程度このような介護施設で勤労することにすれば、老後の生活についても理解が深まるし、人手不足も解消できます。
今回の東日本大震災では、日本人の共助の精神が発揮され、世界から賞賛されました。この精神は社会保障と税の一体的改革においても必要な精神です。
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根津 利三郎(ねづ りさぶろう)
【略歴】
1948年 東京都生まれ、1970年 東京大学経済学部卒、通産省入省、1975年 ハーバードビジネススクール卒業(MBA) 国際企業課長、鉄鋼業務課長などを経て、1995年 OECD 科学技術産業局長、2001年(株)富士通総研 経済研究所 常務理事、2004年(株)富士通総研 専務取締役、2010年 経済研究所エグゼクティブ・フェロー
【執筆活動】
通商白書(1984年)、日本の産業政策(1983年 日経新聞)、IT戦国時代(2002年 中央公論新社) など
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