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http://mimas.web.infoseek.co.jp/sentan/papers/jisin/jisinyot.htm
衛星による地震予知の可能性を求めて
−もしくはある4級開発部員の漂泊の日々−
by T. Kodama
あれは3年前、筑波宇宙センターで将来型の地球観測ミッションを検討して
いた頃、筑波研究コンソーシアム(1) のフォーラム(参加料1000円でワインが
飲み放題!)で、機械技術研究所の榎本祐嗣さんから地震に伴う電磁気放射の
話をお聞きしたのがそもそものはじまりだった。もし、低軌道衛星で観測でき
れば地震予知が可能ではないか。単純というかオメデたい私はそう考えた。
翌月、ボアホールアンテナで地震電磁気の観測をしている、防災科学技術研
究所の藤縄幸雄さんから、"VLF emissions associated with earthquakes and
observed in the ionosphere and the megnetosphere", Michel Parrot, M. M.
Mogilevskyという1枚の論文を紹介された。たしかにそれらしい放射が観測さ
れているようだ(藤縄さんからは某社のテザーで繋いだ2つのSAR衛星からリ
アルタイムでインターフェロメトリ観測するコンセプトを見せてもらったが、
それは後にSIDUSS(2)のヒントとなった)。
その夏はフランスで開催される小型衛星シンポジウムに、回帰軌道による高
頻度観測衛星(3) のシステムコンセプトについて発表することになっていたの
で、帰りにパリのCNES本社で Michel Parrotに会うことができた。そこで既に
地震電磁気の観測を目的とした衛星がフランス、ロシア、ウクライナで提案さ
れていると聞いて驚いた(これはあとで判ったことだが、ウクライナは日本に
共同開発の提案をしていたらしい。ただウチではなく宇宙科学研究所のある文
部省に行ったのだが。結果?門前払いだったそうな…(^^;)。
帰国後、地震電磁気観測をミッションとした衛星の研究をしたい旨、上司に
提案したところ全くとりあってもらえなかった。一介の開発部員の言うことに
しては、話が突拍子もなかったようだ。
そこで月・惑星ミッションで顔馴染みでだった地質調査所の古宇田亮一さん
を口説き落とし、彼を主査として地球環境観測委員会の固体地球サイエンスチ
ームに地球電磁気ミッション調査サブグループ(長い名称だ…)を編成するこ
とにした。今思えば、非常にいい人選だったと思う。半年間に4回の議論を行
い、衛星観測を提案する報告書(4)ができた。
その間に95年1月17日に兵庫県南部地震が発生し、国内でも地震電磁気現象
が注目されるようになったのは御存知の通りである。
95年の夏に本社に異動となり、地震電磁気からは手を引かざるを得なくなっ
てしまったが、地球観測推進部には情報だけは流しつづけた。すると、来年か
ら科学技術庁の「地震総合フロンティア研究」の一環として、NASDAが「地震
リモートセンシングフロンティア研究」を開始することになったでわないか!
地震電磁気というアヤシゲなものをやりそうな奴が他にいなかったようで、年
度あけには六本木のEORC(地球観測データ解析研究センター)に異動させてもら
えました(その節はワガママ聞いていただきありがとうございました→北原@
ETS-8[当時]さん)
地震フロンティアとは
よく地球フロンティアと間違えられますが(;_;)、地震フロンティア(NASDA
のは地震リモートセンシングフロンティア研究(5) )とは、平成8年度から5
年期限で科学技術庁が主導する「地震総合フロンティア研究」の実行部隊であ
る特殊法人の5つの研究です。
地震フロンティア研究 アプローチ 研究対象 担当機関 研究名称
新手法に関わる研究 地電流や電磁界等の
前兆現象の基礎研究 理化学研究所 地震国際
フロンティア研究
衛星データを活用し
た地殻変動観測 宇宙開発事業団 地震リモートセンシング
フロンティア研究
新観測研究 地層深部の観測研究 動力炉・核燃料開発
事業団 陸域地下構造
フロンティア研究
海底ステーションに
よる観測研究 海洋科学技術センター 海底地下構造
フロンティア研究
新地震防災研究 リスク評価手法によ
る防災対応研究 日本原子力研究所 耐震安全・防災
フロンティア研究
NASDAはEORC(地球観測データ解析研究センター)において、SAR(合成開口レ
ーダ)インターフェロメトリによる地殻変動観測技術と電磁場変動観測技術に
よる地震研究を行っています。
理化学研究所の地震フロンティア研究は上田誠也さんをリーダーとする「地
震国際フロンティア研究」で、これはギリシャの VAN法(地中の直流電流を測
定)を国内に適用する。こちらは力武常次プロジェクトリーダー(今思えばよ
く引き受けてくれたものだと思う)さんの下に、地震電磁気のチームは電気通
信大学の早川正士さんがリーダーである。偶然か必然か、力武さん以外の先生
は例の委員会のメンバーだったのである。
最初の半年は体制作り(招聘研究員のVISA取得のため書類作成:これがシャ
レになんない位手間!、アパートの手配:短期滞在の外国人はまず断られる)
で研究どころではなかったが、年があけて(年末にモスクワ行ったおかげで風
邪こじらせて大晦日まで悲惨だったなあ…)、IKI(Institute of Space
Research)からValeryi Afonin(土日もEORCに泊まってよー働くオッサンやっ
た。広尾に月15万のマンション借りたのに)を招聘した辺りから一気に結果が
出始めた。インターネット経由でIntercosmos等の衛星データを六本木で解析
したのだが、全球の地震の分布と電離層イオン密度の変化に関連があることを
発見した(これは年内に連名で発表予定)。
Oleg Molchanov(EORC招聘研究員)は言う。「10年前だったら、国外でこの研
究ができるとは夢にも思わなかったよ!」そう、旧ソ連では軍事機密だったの
です。残念なことに、これら衛星の健康状態は問題ないのだが、予算と人員の
不足で観測機器のスイッチはoffにされているのだ。これも共産主義崩壊の光
と陰か。
ISTC-417R "Feasibility study of seismo-electromagnetic phenomena by
satellite observation"
NASDAで地震なんかやっているといろんなことが舞い込んでくるようで…。
もともと衛星システム開発の提案だったのだが、それじゃウチはお金出しゃし
まへんで、ということでF/Sに変えてもらったわけ(それでRがついてる)。以下、
マジな解説。
ISTC(国際科学技術センター)(6) は、旧ソ連の軍事技術者の平和的産業への
転換を目的に、米、露、EU及び日本の4極により1994年に設立された。平成8
年度、NASDAはISTCに対しIZMIRAN(Institute of Geomagnetic, Ionosphere
and Radio Propagation)の提案する標記研究を含む3件の委託研究を実施中。
ここ10年間に渡り多くの地球観測衛星により、電離層及び磁気圏における地
震に伴う現象が発見されている。特に ULF/ELF/VLF帯の放射がIntercosmos-
19、Intercosmos-Bulgaria 1300、Aureol-3、Cosmos-1809、Intercosmos-24、
OGO-6等の衛星によって観測されている。
旧ソ連においてこれらは地震に伴う電磁放射として既に確立されており(ち
なみにIPE(Institute of Physics of the Earth)では電磁気をやってないと地
震研究者の主流とはいわないそうだ)、特にELF放射については数百の地震に
対する定量的解析によって明らかとなっている。そのほか準定量的な地電流、
電離層プラズマ、地磁気脈動、ホイスラ変調等の電磁気放射、大気中の発光現
象、電離層E及びF層の擾乱、電離層上部のプラズマ成分及び温度変化、震央近
傍におけるVLF及びHF波の強度及び位相変化、大気成分変化、或る種のエアロ
ゾル雲の形成、地下水の重元素成分の増加他、非常に多くの事項に関して報告
されている(7)。
以上の様々な現象は、地震に先行して地上もしくは衛星によって観測されて
おり、これが電磁気観測が地震予知に期待されている大きな理由となっている。
また、近年では原子力発電所事故、核爆発及び人間活動が環境に与える影響等
の監視といった観点からも、電磁場及びプラズマ擾乱に関する研究が行われて
いる。
電離層及び磁気圏における地震及び人為的影響に関する利用可能な衛星デー
タは、これまで地震とは全く関連しない分野における研究の付加的な成果とし
て取得されている。これが地震前兆電磁気現象の有無に関する議論の分かれる
大きな要因となっているが、現時点では適切な観測計画や体制に基づかずに実
施された、いくつかのイベントに関する地上観測によるデータがあるに過ぎな
いのである。
このことから衛星による地震電磁気観測の研究計画が必要とされており、そ
の科学的立証は本研究の基本目的の1つである。
ISTC-417Rは旧ソ連における地震電磁気研究のレビュー、衛星データと地震
の定量的解析、既存及び計画中の衛星システムのレビュー(Satellite
Systems Engineerとしてはコイツが楽しみ)の各テーマをIPE、IKI、IZMIRAN
が担当するというゴージャスな構成となっており、今年中にレポートが得られ
る筈である。
第1回地震電磁気国際ワークショップ(8)
既に早川さんと藤縄さんの主催で1993年9月に同様の会議を開催していまし
たが、Sponsored by NASDAということで、地震フロンティアとしては第1回の
ワークショップを調布の電気通信大学で開催しました(もともとEORCでやるは
ずだったのに、某APEC会議のおかげで急遽変更となったのさ)。そこで発表さ
れた衛星計画を紹介しましょう。
COMPASS(9) 提案機関:IZMIRAN
打ち上げ:1998年
原子力潜水艦ミサイルにより打ち上げられるユニークな小型衛星。ICBMの弾
頭にパッケージングされる。重量70kg。軌道傾斜角78度/高度400kmの軌道に
打ち上げ、250kmに低下するまでの半年間がミッションライフ(大胆というか
アバウトというべきか)。構造重量低減に構体及び太陽電池パドルにハニカム
複合材料を使用。
Precursor-E(9) 提案機関:IZMIRAN
打ち上げ:T. B. D.
COMPASSに続いて計画されている小型衛星。軌道高度がCOMPASSより高いので
重力傾度安定方式でも軌道精度要求を満足できる(とは担当者の弁)。
Predvestnik(10) 提案機関:IZMIRAN, Arsenal design bereau
打ち上げ:1999年
Predvestnikとはロシア語で予言者という意味(ネーミングのセンスにはつ
いていけないものがあるが… )。昨年の海外宇宙短信第 234号(ネタもとは
Russian military paperの「赤い星」)で報告された米ロの地震予知衛星とい
うのがこれ。Sapojnikov@Arsenal さん曰く、「アメリカの地震学者の圧力で、
協力はオジャンになった(苦笑)」そうです。
(98年2月19日にモスクワで計画に関する記者会見を行うらしい。#企画倒れ
になんなきゃいいけど…)
WARNING(11) 提案機関:ウクライナ宇宙庁
打ち上げ:1999 or 2000年
ウクライナ宇宙庁では最優先のミッションらしい。CESAR(Central European
Satellite for Advanced Research12):そういえば例の小型衛星シンポで
Aleniaのイタリア人が発表してたな)と、OSSI(Observation with Small
Satellites in the Ionosphere)という小型衛星と一緒に打ち上げられる。ち
なみにOSSI搭載のプラズマ観測装置は宇宙研が提供。
昨年のURSI(国際電波科学連合)ではメキシコ政府がスポンサーになったと
かいう話を聞いたが、その後どーなったのであろうか?
Project GEO 提案機関:The Aerospace Corporation
打ち上げ:?
業界では有名なこの会社、独自のリサーチの末にNASAのMTPE(Mission to
Planet Earth)のAOに応募、しかし残念ながら一次選考で没。え、何故か?そ
りゃアメリカは地震予知不可論者の国だもの(日本の比ではない)。NASAでも
地震電磁気モノは(NASDA以上に)プライオリティ低いみたいです(;_;)。
What we should do
平成10年度の某事業団の新規計画の策定方針は、
1.「具体的な」、「目に見える」、「社会に役立つ」計画の推進を図る。
2.社会に役立つ(実用)計画を推進する。
3.科学研究を推進する。
4.効率的かつクリエイティブな最先端技術を目指す。
5.次なる飛躍のための布石を打っておく。
言ってることとやってることの矛盾についてはコメントしません(笑)。ただ、
現時点では衛星で地震予知が可能とは口が裂けても言いませんが、地震に伴う
電磁波放射が地上及び衛星で観測されていることは事実であり、フランス、ロ
シア、ウクライナで多くの衛星計画が検討されています。実際、わずか半年の
研究でもそれを裏付ける結果(13)が出ています。観測対象は磁場、電場、プラ
ズマ、電子密度等であり、ISS/電離層観測衛星で既にSpace Provenな技術で充
分達成可能です。また、これによって得られるデータは地球科学研究における
磁場変動研究や、地球環境観測における高エネルギー放射線モニターという観
点でも非常に有用です。加えてADEOSの様な大型衛星と違い、100kg程度の小型
衛星でミッション達成が可能なためプログラムコストは100億程度でしょう。
地震電磁気に懐疑的な地震学者も多いことは知っていますが、元NASAエイム
ス研究所所長のハンス・マーク博士はこう看破しています。
「ほとんどの物理学者は、物理における新しいアイデアを好きではありません。
ほとんどの化学者は、化学における新しいアイデアを好きではありません。彼
らは自分たちが打ち立てた業績によりかかっているのが一番心地よいのです。
アインシュタインが物理の世界に革命をもたらした論文を1905年に書いたとき、
物理学者は誰も彼を助けようとはしませんでした。」
科学は多数決ではありません。かつてはコペルニクス、ウェーゲナーも最初
は異端者扱いされたように、地球科学の歴史はパラダイム・シフトの歴史では
ありませんか。
未知の現象だからこそ、そこに科学のメスを入れる必要があるのではないで
しょうか?
世界に先駆けてNASDAがそれをやるのは素晴らしいとは思いませんか。
References
1) http://www.trc-net.co.jp/
2) NASDA-GAS-95034
3) The concept of recurrent orbit earth observation satellite -DUOS:
Domestic Urban area Observation Satellite-, Small Satellites
Systems and Services, 1994
4) NASDA-SPP-950002
5) http://www.eorc.nasda.go.jp/Sciences/ERSFR/index.html
6) http://www.istc.ru/
7) Electromagnetic Phenomena Related to Earthquake Prediction, Terra
Scientific Publishing Co.
8) NASDA-CON-960003
9) The COMPASS Small Satellite for Investigation of Ionospheric
Earthquake Precursor
10) unknown
11) WARNING MISSION - PRESENT STATUS AND DEVELOPMENT -
12) CESAR PROGRAM - A CENTRAL EUROPEAN SATELLITE FOR ADVANCED RESEARCH
OPPORTUNITIES, Small Satellites Systems and Services, 1994
13) http://mentor.eorc.nasda.go.jp/Sciences/ERSFR/summary.html
[宇宙先端 第13巻第4号(1997年7月号)初出]
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