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人工地震と自然地震の比較、―近地地震の複雑度とスペクトル比―、気象庁精密地震観測室技術報告
http://www.asyura2.com/11/lunchbreak45/msg/290.html
投稿者 小沢内閣待望論 日時 2011 年 3 月 24 日 19:28:05: 4sIKljvd9SgGs
 

http://www.grn.janis.or.jp/~matu-jma/gijyutsu24-koyama.html
気象庁精密地震観測室技術報告 第24号 61〜66頁 平成19年3月


人工地震と自然地震の比較
― 近地地震の複雑度とスペクトル比 ―

小山 卓三

Comparison of an artificial earthquake and natural earthquakes
- Complexity and Spectral ratio of near field earthquakes -
Takumi KOYAMA


1.はじめに
 砕石発破や地下核実験といった人工的な爆発(以下、人工地震)に伴う震動波形は,同じ場所で発生した自然地震のものと比べると波形の様相が違っていることが多い.そのため,観測される相や振幅スペクトルなど波形の特徴を調べることにより,そのイベントが人工地震によるものかどうかの識別がしばしば試みられている.当室では,1950年代から1990年代にかけてアメリカ西部(Nevada Test Site: 以下,NTS)・旧ソ連(Novaya ZemlyaおよびKazakh)・中国(Lop Nor)などで実施された地下核実験の震動波形が数多く観測されており,それらの波形の特徴や自然地震との違いについて多くの調査がなされている[山岸・他(1973),関・他(1980),涌井・柿下(1986),鎌谷(1998)].それらの中で,人工地震に伴う震動波形は自然地震と比べて短周期が卓越していることや,爆発の場所や規模の違いにより相の現れ方も異なること,また,爆発の規模が大きいものほど自然地震との識別が容易であること,などが指摘されている.
 地下核実験のような人工地震と自然地震の識別に関する最近の研究は鎌谷(1998)によるものがある.鎌谷は群列地震観測システムの短周期地震計で観測されたNTSとkazakh地域の地下核実験の波形について,複雑度[Dahlman and Israelson (1977)]・スペクトル比[Kelly (1986)]・周波数3次モーメント[Weichert (1971)]という3つの量を計算し,自然地震との識別の可能性について議論している.その中で,識別には複雑度がもっとも有効で,爆発の規模がmb5.3以上であればほぼ識別可能であることや,地下核実験の複雑度は自然地震よりも小さいこと,そして,スペクトル比は地下核実験の方が大きいこと,などが結論として述べられている.
 しかし,当室でこれまでおこなわれてきた調査は,いずれも震央距離が当室から30度以上離れた遠地地震を対象としたものしかなく,日本周辺のイベントについて調査事例はなかった.
 2006年10月9日に朝鮮半島北東部を震源とする震動波形が群列地震観測システムの短周期地震計で観測された際も,波形の様子などから人工地震による可能性が高いと考えられていた.しかし,観測された波形のシグナルは微弱でP相の立ち上がりも明寮ではなかったことや,震源付近の地震活動は極めて低調で過去の自然地震の観測事例もほとんどなかったため,観測された波形が本当に人工地震によるものかどうか区別することは容易ではなかった.このため,近地領域における人工地震についても,複雑度やスペクトル比などを計算し,波形の特徴を定量的に評価しておくことは,今後の判断のためにも有益と思われる.
 そこで今回は,鎌谷(1998)の手法に従い近地地震(松代のS-P時間が10秒〜2分30秒のイベント)の複雑度とスペクトル比を求め,自然地震の複雑度とスペクトル比の特徴を踏まえた上で,2006年10月9日の朝鮮半島北東部の人工地震と比較した.

2.朝鮮半島北東部の震動波形記録
 群列地震観測システムの松代短周期地震計で観測された,2006年10月9日朝鮮半島北東部の人工地震の波形3成分をFig.1上に示す.比較のため,震央距離とマグニチュードがほぼ等しい地殻内の自然地震(2005年3月3日根室半島mb4.4)を下に並べて示した.ただし震源要素は両者とも米国地質調査所(USGS)のPDE震源による.
 人工地震の波形は地動ノイズに比べてシグナルが小さく,P波の立ち上がりが明瞭ではないものの,両者を比べると波形の様相がかなり違うことが分かる.人工地震の波形には短周期成分が多く含まれ,P相の発現から10秒程度で振幅も弱まるなど減衰も早い.一方,自然地震は比較的周期の長い波が卓越し,しばらくは後続相も見られる.このような人工地震と自然地震との波形の違いは,前者は点震源から一瞬でエネルギーが放出されるのに対し,後者は有限の長さを持った断層が有限の時間をかけてエネルギーを放出していくといった震源過程の違いに起因するものと考えられている[例えば,山岸・他(1973)].
 Fig.2はFig.1で示した人工地震と自然地震の波形の上下動成分について,P波部分(12.8秒間,1024サンプル/80Hz)の振幅スペクトルをとったものである.これからも人工地震の波形は短周期成分が卓越していることがわかる.また,スペクトルのピークは自然地震が1〜2Hz付近と2〜3Hz付近に大きく分けて2つあるのに対して,人工地震は3〜5Hzにシャープではないもののピークは1つ見られるだけで,スペクトルの形状は人工地震の方が単純である.このことは山岸ほか(1973)でも指摘されている.なお,人工地震と自然地震の両方で10Hz付近に見られるピークは、両方に共通して現れていることから震動波形の有意なシグナルではなく,観測点付近のバックグラウンドノイズの可能性が高い.

3.複雑度(C:Complexity)
 複雑度(C)とは,主にP波部分の波形の複雑さを数値化したもので,次式で定義される[Dahlman and Israelson(1977)].

 C=∫[t1,t2]s2(t)dt/∫[t0,t1]s2(t)dt (1)

 (1)式中のt0はP波の発現時刻であり,t1,t2はt0からの時間およびsは波形の振幅である.定義から,複雑度とはP波の前半部分と後半部分の二乗振幅和の比を取ったものであるので,P波の減衰の程度を表現した量ということもできる.すなわちP波の減衰が早ければ複雑度は小さく,減衰が遅い場合や,徐々に振幅が大きくなる場合では複雑度は大きくなる.したがって,深発地震のようなP波部分が単純(パルス的)で減衰が早いイベントでは,複雑度は小さくなることが予想される.
 ここで時間間隔t1およびt2の値としてどのくらいが最適か,ということについては注目する波形の特徴を考慮して試行錯誤で決める以外にないが,一般的な値としてはt0とt1の間隔は2秒〜5秒,t1とt2の間隔は25秒〜35秒が使われているようである[Dahlman and Israelson(1977)].また,鎌谷(1998)はt0とt1の間隔を5秒,t1とt2の間隔を30秒として解析を行っている.これらの時間間隔は,いずれも遠地で行われた,規模も今回の朝鮮半島北東部のものより大きな人工地震と自然地震の識別に設定されたものであった.今回はS-P時間が10秒から2分30秒の近地地震で規模も小さなイベントを対象としているため,時間間隔は遠地地震の場合よりも短めに設定するのが適当である.そこで解析期間はS波が含まれない範囲で設定することも考慮して,今回はt0とt1の間隔を2秒,t1とt2の間隔を8秒として解析をおこなった.

4.スペクトル比(SR:Spectral Ratio)
 スペクトル比(SR)は,波形をフーリエ解析して得られたスペクトルの高周波帯域と低周波帯域の振幅比をとったもので,次式で定義される[Kelly(1986)].

 SR=∫[h1,h2]A(f)df/∫[l1,l2]A(f)df (2)

 (2)式中のl1とl2は低周波帯域の周波数,h1とh2は高周波帯域の周波数,A(f)はフーリエ解析したときの周波数fの振幅値である.(2)式の定義から,スペクトル比(SR)は高周波成分の振幅和と低周波成分の振幅和の比であるので,波形の低周波成分が卓越すればSRは小さくなり,高周波成分が卓越すればSRは大きくなると期待される.
 ここでもパラメータl1,l2およびh1,h2の値としてどのくらいが適当かという問題が生じるが,複雑度と同様に様々な波形事例を解析して識別に最適な値を見つける以外にないが,鎌谷(1998)はパラメータの値をそれぞれl1=0.1,l2=0.8,およびh1=1.0,h2=1.7としている.今回は近地地震を対象としていることから,周波数も高めに設定しl1=0.5,l2=1.5,およびh1=2.0,h2=4.0として解析をおこなった.

5.解析結果
 今回,調査対象とした自然地震は,2006年3月1日から10月30日までに群列地震観測システムで決定された近地地震(S-P時間10秒〜2分30秒)のうち気象庁マグニチュード2.0以上,かつ波形が比較的明瞭なイベント133個とした.一方,人工地震は2006年10月9日の朝鮮半島北東部のイベント1個である.

5.1 複雑度(C)
 Fig.3は気象庁マグニチュードと複雑度の関係を示したものである.人工地震の気象庁マグニチュードは4.9という値が計算されているが,USGSの実体波マグニチュード(以下,mb)4.3や群列地震観測システムのマグニチュード4.1と比べて大きな値となっている.今回の調査では,人工地震のマグニチュードはUSGSのmbを用いている.また,震央距離が朝鮮半島北東部と同程度の(8〜9度)の自然地震も4イベント含まれているが,それらは特に黒塗りで図中に示した.自然地震についてはかなりばらついており,複雑度とマグニチュードに明瞭な対応関係は認められない.震央距離が朝鮮半島北東部と同程度のイベントに着目すると,いずれも人工地震より大きな値をとっている.鎌谷(1998)でもNTSと中国の地域について複雑度とmbの関係を議論しているが,そこでも核実験の複雑度が自然地震よりも小さくなる傾向が見られた.今回は地域が異なるものの鎌谷(1998)の結果と矛盾しない.
 Fig.4は震央距離と複雑度の関係をプロットしたものである.自然地震の複雑度は震央距離が大きくなるほど下限値は大きくなる傾向が見られるが,震央距離7〜8度付近を超えるとイベント数も少なくはっきりとした傾向は見られなくなる.人工地震の複雑度は,震央距離が同じ程度の自然地震と比べると最も小さく,特にマグニチュードが大きいイベントとの違いが顕著で3分の1程度しかない.一方,マグニチュードが同じ程度の自然地震と比べるとその違いは僅かだった.この差異がマグニチュードの違い以外にも震源の位置,すなわち方位角の違いによることも考えられるため,判断にはもう少し事例が必要である.いずれにせよ震央距離とマグニチュードが同じ程度の自然地震と比べて人工地震の複雑度は小さかったことから,識別に利用できる可能性はある.
 Fig.5は震源の深さと複雑度の関係を示したものである.自然地震では深さ300kmくらいまで深いイベントほど複雑度が小さくなる傾向が見られる.人工地震については複雑度と深さの関係を見る限りでは,人工地震と自然地震との目立った違いは認められない.

5.2 スペクトル比(SR)
 一般的に規模の大きな地震ほど長周期の波が卓越するため,スペクトル比は小さいことが考えられる.Fig.6は気象庁マグニチュードとスペクトル比の関係をプロットしたものであるが,これからも同様の傾向がはっきりと現れている.震央距離が同じ程度の自然地震についてみてみると,人工地震よりも規模が大きいものはスペクトル比も大きくなるのは不思議ではない.しかし,マグニチュードが同程度(4.2程度)の自然地震と比べれば,人工地震のものは大きな値を示している.すなわち,人工地震はマグニチュード4.2という規模にしては高周波成分が卓越していることになる.
 Fig.7はスペクトル比と震央距離の関係を示したものである.一般的に遠方のイベントほど波が伝搬する際に短周期成分が減衰するため,観測される波形には長周期の波が卓越することになるため,スペクトル比も震央距離が大きいほど小さくなると予想される.Fig.7にはその傾向が明瞭に現れているが,人工地震と同じ程度の震央距離をもつ自然地震と比べると,人工地震のスペクトル比は明らかに高くその違いは自然地震の2倍近い値をとる.
 Fig.8はスペクトル比と震源の深さの関係を示したものである.自然地震は震源が深いほどスペクトル比が小さくなる傾向が見られる.しかし,人工地震に関しては自然地震との明瞭な違いは見られない.
 以上のことから,人工地震の波形は自然地震と比べて地震の規模,震央距離の割に高周波成分が卓越しているといえる.結論として,今回のようなシグナルの微弱な人工地震の識別には,複雑度よりもスペクトル比の方が有効であると思われる.しかし,今回調査した近地領域における人工地震の事例は一つしかないため,統計的な有意性を高めるためにはもう少し事例を増やして解析する必要がある.

6.まとめ
 2006年10月9日に観測された朝鮮半島北東部の人工地震の波形と日本国内およびその周辺で発生した自然地震の波形について,複雑度とスペクトル比の観点から比較をおこない,近地領域における人工地震の波形の特徴を調査した.その結果,今回の事例については以下のことがいえる.
 (1)人工地震の複雑度は震央距離が同じ程度の自然地震よりも小さく,波形は単純である.
 (2)人工地震のスペクトル比は震央距離が同じ程度の自然地震よりも大きく,短周期成分が多く含まれている.
 (3)複雑度よりもスペクトル比の方が人工地震と自然地震の違いが明瞭に現れている.
 (1)と(2)は鎌谷(1998)と同様の結果であり,近地領域においても人工地震と自然地震の違いは,遠地領域と同様の傾向があることが確かめられた.このことから,複雑度やスペクトル比といった波形を定量的に評価する手法によって,観測された波形が人工地震によるものか,自然地震によるものかの判断に利用できる可能性が示唆された.しかし,今回の調査では,近地領域における人工地震の事例は一例のみで,観測された波形のシグナルも弱かったため統計的な有意性は高いとは言えない.今後,同様の事例が観測された場合には再度検証しなおさなければならない.

謝辞
 気象庁地震火山部地震津波監視課の公賀智行氏,同地震予知情報課の鎌谷紀子氏には有益な助言を頂きました.ここにお礼申し上げます.

参考文献
Dahlman, O. and H. Israelson, 1977, Monitoring underground nuclear explosions, Elsevier Scientific Publishing Press, 405pp.
鎌谷紀子,1998,地震波形による核実験の識別,気象庁精密地震観測室技術報告,15,25-36.
Kelly, E.J., 1968, A study of two short period discriminants, Massachusetts Institute of Technology, Lincoln Laboratory, Technical Note 1968-8. 関彰・涌井仙一郎・北村良江,1980,松代における核実験の記録,気象庁地震観測所技術報告,1,22-30.
涌井仙一郎・柿下毅,1986,松代群列地震観測システムによる核実験の記録,気象庁地震観測所技術報告,7,34-41.
Weichert, D.H., 1971, Short period spectral discriminant for earthquake and explosion differentiation, Z. Geophys., 37, 147-152.
山岸要吉・泉末雄・山本雅博,1973,松代地震観測所で観測した地下核爆発と自然地震の地震波動について−(1)おもにW.W.S.Sを用いた場合−,験震時報,38,37-46.  

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