http://www.asyura2.com/11/kokusai6/msg/883.html
Tweet |
実存的な苦悩に苛まれる韓国
2012年09月28日(Fri) Financial Times
(2012年9月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
韓国の1人当たり所得はEU平均に迫っている(写真はソウルの夜景)〔AFPBB News〕
韓国のラップ歌手PSY(サイ)が制作し、2億8000万回という再生回数を記録したビデオ「江南(カンナム)スタイル」の驚異的な成功は、韓国の高まる富を示す風変わりな(そして、かなりキャッチーな)兆候だ。
このダンスビデオは、あまりに目覚ましいために「漢江の奇跡」として知られる経済変革により可能になった、美容整形で増強された成金のライフスタイルをやんわりとからかっている。
ところが今、興味深いことが起きている。韓国が国際舞台で文化的、経済的、外交的に自信を深めている時に、国内ではちょっとした実存的な危機が起きているのだ。自殺は劇的に増加しており、出生率は危険なほど低く、有権者は、伝統的な大統領候補を見限って、まだ実力が試されていないIT起業家を支持するという考えを弄んでいる。
豊かになり、世界的に影響力が増す韓国がなぜ神経衰弱に?
国家的な神経衰弱にかかるにしては、おかしなタイミングに思える。サムスンと現代は、キャンベラからクパチーノに至るまで、世界各地で一流ブランドとしての地位を確立している。韓国の1人当たり所得は3万ドルと、欧州連合(EU)の平均3万3000ドルに急速に接近している。
さらに、アブダビで200億ドルの原子炉建設契約を獲得するにせよ、インドや中国、ブラジルといった新興国に大金をつぎ込むにせよ、米国にとってアジアで一番の友人であることを日本と張り合うにせよ、韓国はかつてないほどの世界的な影響を与えている。
これは韓国が国内で感じていることとは異なる。おしゃれな江南地区の住人が贅沢な暮らしをすればするほど、韓国人は自国の経済モデルが特権的エリートに偏っていると感じる。一部の統計は、韓国が先進国の中で最も不平等な国の1つであることを示している。
海外で国の誇りとなっているチェボル(財閥)は、国内では多くの人に経済的な暴君と見なされており、サプライヤーを圧迫し、中小企業を倒産に追い込んでいると非難されている。
素晴らしいマクロ経済の統計が何を物語ろうと、自分たちが貧しく、働き過ぎで、社会的圧力にさらされていると感じる韓国人が増えている。彼らにとって最大の不安は、あまりに多くの大卒者があまりに少ない高収入の仕事を追い求めていることを知りながら、自分の子供に「受験地獄」を経験させるというストレスと出費だ。
韓国の出生率が急激に低下しているのも無理はない。韓国の出生率は現在1.23と、人口を維持するために必要な2.2を大幅に下回り、日本の1.4よりも低くなっている。
李明博(イ・ミョンバク)大統領は国際的なショーが得意だった〔AFPBB News〕
近く退陣する李明博(イ・ミョンバク)政権は、国際的なショーを演じるのが得意だった。自信を持って主要20カ国・地域(G20)首脳会議を主催し、「グリーン成長」戦略でも注目を集めた。
だが、延世大学のジョン・デラリー助教授は、李明博政権は国内の社会問題や経済問題をないがしろにしたと話す。
自殺率は過去10年間で2倍に高まり、今では自殺が40歳未満の国民の主な死因になっている。女性の地位は、経済に比べてはるかにゆっくりとしたペースでしか向上していない。
大統領選に見る国民の不満
12月の大統領選に向けた選挙運動ほど不満感がはっきりと表れている場所はない。びっくり箱になっているのは、特に韓国の若者の間で熱狂的な人気を誇る、ウイルス対策ソフト会社アンラボの創業者で大学教授の安哲秀(アン・チョルス)氏だ。
50歳で無所属の――「反政治家」のような――同氏は、9月に大統領選への出馬を表明したばかりであるにもかかわらず、40%を超える支持率を誇っている。安氏は、既成勢力2人の対立候補になっている。朴槿恵(パク・クネ)氏は、現大統領と同じ政党の保守派だ。既成勢力の改革派の側では、民主統合党が前大統領の元秘書室長、文在寅(ムン・ジェイン)氏を大統領候補に選出している。
朴氏が今週、1979年に暗殺されるまで18年間韓国の大統領を務めた独裁者の父・朴正熙(パク・チョンヒ)氏の人権侵害について謝罪することが適切だと考えたのは、韓国人がいかに過去との決別を望んでいるかを示す1つの目安になるものだ。
(父親の死を聞いて、現実的な娘が最初に口にした言葉は、「国境は大丈夫か」だったと言われている)
朴槿恵氏は、中道へと動くことで、完璧なまでに保守的な資質を捨て去ることが必要だと感じた。同氏はしきりに「経済民主化」について話すようになった。経済民主化とは、財閥による締め付けを弱め、より公平な富の分配を醸成するという考え方を意味する流行語だ。
支持者がバラク・オバマ氏――コルク臭のする2012年物ではなく前途有望だった2008年物――になぞらえる安氏は、旧来型の政治に対する拒絶反応を表している。「文氏は過去の人物、朴氏は過去の遺物、安氏は未来の人物」と、元国会議員の張誠a(チャン・ソンミン)氏は表現する。
三つ巴の戦いは、大統領選の結果を非常に予想しにくくしている。多くの人は、安氏と文氏が土壇場で何らかの協定を結ぶと見ている。そうしなければ、両者は改革派の票を分裂させ、朴氏に勝利をもたらす危険を冒すことになる。それは、反体性的な雰囲気とは相容れないように見える結果だ。
政治的な混乱と安旋風が意味するもの
一般的な政治的混乱と特に新米政治家である安氏の人気を説明する1つの解釈は、韓国が民主的な正当性の危機を経験しているというものだ。これは、全く間違った結論だろう。
1987年に独裁政治を打ち破った韓国は今や、不完全だとしても、アジアのどの国にも劣らないくらい強固な民主主義国家であり、儒教社会や「アジア的価値観」は投票箱とはどうも両立しないと主張する人たちに対する戒めになっている。
大統領選を巡る騒々しく激しい闘いは、民主主義が韓国の期待を裏切っていることを示すどころか、制度が民意に適合していることを示している。少なくともそのことは、国民のムードを明るくするはずだ。
By David Pilling
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36207
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。