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2012/09/21
会田弘継 Aida Hirotsugu
共同通信論説委員長
「櫛の取り合いをしている禿頭2人」と野次ったのはアルゼンチンの作家ボルヘスだ。ちょうど30年前にフォークランド島をめぐって戦争に至った英国とアルゼンチンを指してのことだが、誰も住まない尖閣諸島をめぐって日中が繰り広げるさや当ても、この禿頭2人に似ていなくもない。ただ、尖閣の意味は見かけよりはるかに大きい。海底油田、ガス田があるだけでない。周辺海域の支配は、米中のアジア戦略にもかかわるからだ。
9月6日付の英紙「インディペンデント」は、日本政府の尖閣買収決定とクリントン米国務長官の訪中を受け、この尖閣をめぐる紛糾を、南シナ海やインド洋まで広がる米中の戦略ゲームの中で分析した。中国が周辺海域へ支配を広げようとするのは「急激に増えつつあるエネルギー需要をまかなおうと必死なのが見え見えだ。他方でアメリカは、経済的に衰えても主義主張や戦略は変わらないところを見せようとしている」と同紙は見る。 【The islands that divide superpowers, The Independent, Sept. 6】 http://www.independent.co.uk/news/world/asia/the-islands-that-divide-superpowers-8107033.html
「困った日本」
尖閣だけでない。終戦記念日を前にした韓国の李明博大統領の突然の竹島上陸と天皇への「暴言」。7月にはロシアのメドベージェフ首相の北方領土訪問もあり、北東アジアが急にきな臭くなってきた。欧米やアジアのメディアや識者らは、この事態をどんな眼差しでみているのだろうか。
タイの英字紙「ネーション」は、尖閣・竹島をめぐる紛争は、日本がまだ戦後処理を終えていないことを示すとともに、「日本の凋落、新たなパワーセンターの出現、ナショナリズムの台頭」を反映していると見る香港在住のジャーナリスト、フランク・チンのコラムを載せた。【Old wounds open in East Asia, The Nation, Sept. 4】人口が減り、経済は停滞する中で東日本大震災、福島第1原発事故に見舞われた日本で、毎年のごとく変わる指導者が外交をうまくこなせるわけがない。アジア重視の姿勢をいったんは見せたが、結局は、相も変わらぬアメリカ頼り。ともに重要な同盟国である日韓が喧嘩しては、そのアメリカも大弱りだ。中国も、各地の反日デモを見せつけて「こっちも困っている」と日本に迫る。「天然資源争奪戦、中国と韓国で高まる一方のナショナリズムに解決策を見つけるには、日本に一貫性のある長期政権が出来ることが不可欠だ」とチンは言う。もともと米イェール大学グローバリズム研究センターのオンライン論壇に出たコラムだが、「困った日本」という視点がタイの気分を代弁したようだ。 【East Asia’s Free for All, YaleGlobal, Aug. 30】http://yaleglobal.yale.edu/content/east-asias-free-all?utm_source=YaleGlobal+Newsletter&utm_campaign=5817b69c6a-Newsletter9_14_2010&utm_medium=email
韓国にも「許す」責任
その日韓のいざこざに大弱りのアメリカを代弁しているのが、韓国の英字紙「コリア・タイムズ」に掲載された米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)太平洋フォーラム所長ラルフ・コッサの寄稿「もう沢山だ!」。日韓ともに選挙を控えており、事態の収拾は選挙が終わるまで難しいだろう。だが、李明博大統領が竹島を「命を懸けて防衛するに値する」と言っているのは、いったい何事か。「何から防衛するのだ」とあきれる。日本は武力行使の構えなど見せたこともないではないか、とコッサは言う。 【Korea-Japan: enough is enough!, The Korea Times, Sept. 6】 http://www.koreatimes.co.kr/www/news/opinon/2012/09/160_119270.html
日韓軍事情報保護協定の調印を韓国が突然取り止めたのも、とんでもない、とコッサは続ける。協定は日米韓の防衛協力を促進する。いざ北朝鮮有事ともなれば、日本のお世話になるのは韓国だということが分からないのか。大統領の竹島上陸の背景には慰安婦問題があり、日本が謝罪していないと韓国側は不満を言うが、日本は繰り返し謝っているではないか。特に重要なのは1993年の河野談話だ。だが、日本側のフラストレーションも高まっている。主要メディアまでが河野談話の見直しを求めだした。日本のためにならない、とコッサは警告する。一方で韓国には、今日の繁栄と民主化は、日本という「素晴らしい、援助を惜しまない隣人の助けがあってこそではないか」と諭す。まさにアメリカの大弱りが滲み出た寄稿だ。
8月17日付のシンガポール紙「ストレーツ・タイムズ」の編集委員によるオピニオンも日韓の喧嘩には困った様子だが、第2次大戦で日本占領下に置かれた経験からか、「韓国の日本への怒りは理解できる」と言う。この編集委員は最近、アジア地域での日本の役割の重要性を指摘する記事を書いたら、読者から「戦時の大東亜共栄圏を思い出す」という手紙を受け取った。日韓紛争解決のカギは歴史問題であり、日本の謝罪がまだ必要だと編集委員はいう。ただ、韓国にも「許す」責任があると論じる。「つまるところ、日本と韓国が過去を片付けて、協力できなければ困る」。日韓はアジアの安定と繁栄に貢献する力強い民主主義国であり、米国と軍事同盟を結ぶ日韓の連携こそが、中国の野望を押しとどめる力だ、と主張する。過去の日本への不満を残しながらも、中国のやりたい放題を止めてほしいという期待。これが東南アジアの率直な視点だろう。 【Old wounds cripple new Korea-Japan ties, The Straits Times, Aug. 17】http://view.koreaherald.com/kh/view.php?ud=20120821001033&cpv=0
「日中海戦」の勝敗は?
知日派大物知識人であるハーバード大学のジョセフ・ナイはカナダ紙「グローブ・アンド・メール」への寄稿で、尖閣はアメリカ政府が日米安保条約の対象範囲だとしているから、あまり騒ぎ立てる必要はないとしながらも、中国が今年7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で、議長国カンボジアに圧力を掛けて南シナ海での行動規範策定の文言を含む共同声明採択を阻んだことに、注意を喚起した。ASEAN創設以来の共同声明不採択だ。尖閣についてナイは、英誌「エコノミスト」の提案をなぞり、中国艦船は日本領海への侵犯を控え、民間人の強硬派が問題を起こしそうな場合は日中間ホットラインを使って処理し、東シナ海での資源共同開発の方向で日中が協力を進めるよう促した。
【A war over desolate Asian islets, The Globe and Mail, Sept. 5】http://m.theglobeandmail.com/commentary/a-war-over-desolate-asian-islets/article4518739/?service=mobile なるほど「大人」の提案だが、日中ともに「大人」になっていないところが問題である。
中国では人民日報系でナショナリズムが色濃い「環球時報」が8月21日付の社説で、中国は尖閣をめぐり日本との戦争による解決を恐れているわけではない、日本が自衛隊を出せば、中国は海軍を出すなどと威勢のいい論陣を張っている。 【環球時報日本語版、「日本の挑発に団結と実力で対処」参照】http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2012-08/21/content_26292304.htm この社説に先立って8月20日、米外交専門誌「フォーリン・ポリシー」のオンライン版は「まず起きないだろうが、起きたとしたらどちらが勝つか」という問い掛けで、日中海戦での勝敗を予想した。すでにあちこちで報じられたから詳細はサイトで確認願うが、海上自衛隊は艦船数では中国海軍にはるかに劣るが、艦船の能力、兵員の練度ではずっと優れており、日本の力が上回るという結論だ。 【The Sino-Japanese Naval War of 2012, Foreign Policy, Aug. 20】http://www.foreignpolicy.com/articles/2012/08/20/the_sino_japanese_naval_war_of_2012
中国を取り囲む「4つの危険の輪」
日中のこうした事態を予想したかのように、米外交専門誌の大御所「フォーリン・アフェアーズ」は米中関係に関する2つの論文を掲載した。1つはコロンビア大学とランド研究所の専門家による論文「中国はアメリカをどう見ているか」。アメリカが中国の意図をはかりかねているように、中国もアメリカの意図が読めずに困っているという。 【How China Sees America, Foreign Affairs, Sept./ Oct.】http://www.foreignaffairs.com/articles/138009/andrew-j-nathan-and-andrew-scobell/how-china-sees-america
中国の世界観は、国内外で4つの同心円的な「危険の輪」に取り囲まれているというものだ。まず、国内の政治的安定が諸外国からの投資や開発援助で知らぬ間に脅かされている。これが第1の輪。次の輪は、隣接する14カ国。うちインド、日本、ロシア、ベトナム、韓国の5カ国とは過去70年の間に戦火を交えた。国益が中国と一致する隣国はない。第3の輪は、6つの地政学的地域で、北東アジア、オセアニア、東南アジア大陸部、同海洋部、南アジア、中央アジア。中国はそれぞれと複雑な地域外交・安保問題を抱えている。その向こうに第4の輪があり、中国はその中の諸地域から石油など天然資源を得たりしている。これらすべての「危険の輪」にアメリカが関与している。
その一方で、ニクソン訪中以来、中国の近代化にもっとも貢献してきたのもアメリカだ。国際経済システムに中国を取り込み、その製品に市場を与えてきた。日本の完全再軍備を阻止し、朝鮮半島の安定にも寄与している。アメリカは中国に対し「敵意を持っていない」と安心させる一方で、中国が台頭してもアメリカの権益には触れさせないという姿勢を貫いている。中国側はこれを「砂糖をまぶした脅迫」と感じている。
米の国際関係理論に影響を受ける中国
中国人が国際関係を見る目は、アメリカの国際関係理論に相当影響されているという。中でも、国家は常に安全保障面で最大限に有利な環境をつくろうとするという「攻撃的リアリズム」の影響が強い。この理論に従うと、アメリカは中国の台頭を好まず、中国の現体制弱体化と親米化を図っていると考えがちになる。若手理論家には、米中の利害はそれほど懸け離れていないと主張する声もあるが、少数派だ。
こうした中国と共存するには「現在の世界システムを維持しながら、新しい均衡をつくり、その中で中国により大きな役割を与える」しかない。では、そこで日本はどうなるのか。論文は、たとえ中国が世界最大の経済大国になろうと、繁栄を維持するためアメリカや日本との相互依存関係を続け、豊かになるほどシーレーンの安全や国際貿易・金融制度の安定から核不拡散、疾病対策まで利害を共有するだろうと見る。ただ、そうした方向に中国を導くには、アメリカが同盟国との関係を含め、しっかりとした軍事力を維持することが欠かせないと説く。
「関与」も「均衡」も目論見はずれに
「フォーリン・アフェアーズ」は同じ号で、ブッシュ前政権のチェイニー副大統領の国家安全保障担当次席補佐官を務めたアーロン・フリードバーグ氏(プリンストン大教授)の論文「中国に抗して」も掲載した。こちらはタカ派色が強い。【Bucking Beijing, Foreign Affairs, Sept./Oct.】 http://www.foreignaffairs.com/articles/138032/aaron-l-friedberg/bucking-beijing
アメリカの対中政策はこの20年、「関与と(力の)均衡」という二面作戦をとってきた。現存の国際システムを一緒に維持する、「責任ある仲間」にしようという狙いだったが、「関与」も「均衡」も目論見ははずれてしまったようだ、とフリードバーグは言う。いくら貿易を増やし対話を繰り返しても、中国の政治的自由は前進しない。北朝鮮やイランの核開発問題解決にもほとんど協力しない。軍事力を増強し周辺海域と資源の支配を広げようとしている。東アジアの力関係は急速に中国優位へと傾きだしている。こうなってしまったのは、米中の利害が基本的に異なり、イデオロギーの違いも大きすぎるからだ。
オバマ政権は最近になって東アジアへの戦略シフト(pivot)などと言っているが、オーストラリアに少数の海兵隊を配置換えする程度で、「エア・シー・バトル(空海作戦)」という新戦術も概念があいまいだ。周辺海域で「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略をとる中国に対抗するには、空母や最新鋭戦闘機の増派だけでなく、長時間飛行可能な無人機、次世代型爆撃機、ステルス性能のある新型戦闘艦などが必要だ。さらに日豪印の海軍との協力強化も進めるべきだという。「関与」も続けるが、「均衡」に力を注ぎ、中国が軟化せざるを得ないように持って行く、という主張だ。
「フォーリン・アフェアーズ」の2つの論文を見ると、中国の台頭にどう対応するか、アメリカもまだ方針を決めかねていることが分かる。たしかに言えることは、冷戦後に始まった世界システムの再編は終わっておらず、まだまだ模索が続きそうだということだ。
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