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韓国で増え続ける10代の自殺
小学生までが「生きるのが大変」
2012年9月12日(水) 趙 章恩
9月10日は世界自殺予防の日(World Suicide Prevention Day)だった。韓国保健福祉部(部は省)は、9月10日から1週間を自殺予防週間に指定し、全国で啓発活動を行っている。9月7日にはソウル市が自殺予防学術フォーラムを主催し、日本の精神科医を招待して日本の自殺予防策を紹介した。
OECD加盟国の中で、韓国は自殺率1位である。2010年は、人口10万人当たり31.2人が自殺した。2位はハンガリー(10万人当たり)で23.3人、3位は日本21.2人、4位はフィンランド17.3人、5位はフランス16.1人だった。
統計庁によると、すべての死亡者の死因に占める自殺の割合は、2001年には8位だった。これが2010年には4位に上がった。15〜24歳の場合、2008年からは自殺が1位になった。死因の1位は、かつは交通事故だった。2010年に自殺した人のうち、4割は15〜24歳だったという。2006年から2011年までに自殺した小中高校生は合計885人に上った。
また、統計庁が2012年5月に発表した青少年統計によると、小中高校生の8.8%が「自殺しようと思ったことがある」と答えた。韓国青少年相談院の相談統計によると、全国に166個所ある青少年支援センターに「死にたい」と相談した生徒・学生が大きく増えたという。小学生は、2008年には37人だったものが2011年には99人に。中学生は2008年256人から2011年627人に。高校生は2008年214人から2011年476人に増えた。ハンリム医科大学が2012年7月、小学1年生700人を対象に調査したところ、27人が「死にたい」と思ったことがあると答えた。
スマホが自殺を見えなくする
11月の大学入試を前に、9月1〜3日の間に3人の高校生が「親の期待に応えられないのがつらい」と遺書を残して飛び降り自殺した。2012年8月にはスマートフォンのメッセンジャーアプリ「カカオトーク」を使ったいじめが原因で女子高生が飛び降り自殺した。物理的な暴力はなく、十数人がカカオトークを使って悪口を書いたメッセージを絶えず送信し続けるといういじめだった。親友までもカカオトークに「友達をやめる」と書き込み、大勢が「よくやった」と書き込んだ。これを見て女子高生は自殺した。スマートフォンのアプリを使ったいじめによる自殺は初めて。当事者が公開しない限りいじめの実態が全く見えないことが問題になった。
2012年7月には小学校4年生の女の子が「生きるのが大変」という遺書を残して、学校の期末テストの日、自宅マンションから飛び降り自殺した。インターネットで「痛くなく死ぬ方法」を検索していた。2012年6月にはサッカーの部活をめぐり同級生から暴力をうけ、高校生が自殺した。
2012年4月には中学生の男の子が近所のマンションから飛び降り自殺した。遺書には「いじめに耐えられない」「終わりそうにない」といじめの内容を詳細に書き残していた。遺書には学校名と自分の名前、住所を書き、自分の自殺を捜査することを契機に学校のいじめをなくしてほしいと訴える内容もあった。
2011年12月にもいじめにより中学生の男の子が自殺した。遺書には誰にどのようにいじめられたかが書かれていて、親には「天国で再会したい」と書き残した。この事件が報道されてから、近隣の中学生10人がいじめを苦にマンションから飛び降り、7人が死亡した。「私もいじめられてつらい、死にたい」と後追い自殺する中学生が増えたことで大問題になった。
「学歴と結果重視が自殺を生む」
これを機に、青少年の自殺を防止するべく、いじめを根絶するための取り組みが拡大している。裁判所では未成年者であってもいじめの加害者を厳しく処罰するようになった。2011年12月にいじめに耐えられず自殺した中学生の事件をめぐり、加害者の中学生2人に対してそれぞれ2年6カ月と2年の懲役刑を課した。判事は、「(被告は)自分より弱い友達を常習的に暴行・脅迫していじめた。その結果、被害者は極端な方法で命を絶った。その罪は大変重いく実刑は逃れられない」とした。
マスコミに登場する教育専門家らは、青少年の自殺が増え続けるのは、人性教育( 人としての道徳性、社会性、礼儀、他人への気配りといったひととなり)よりも学歴を重視する「大学入試が全ての成績競争」「結果がよければ全てよし」とする社会文化に問題があると指摘する。
どんなに勉強をがんばっても成績が良くないと何の意味もない、競争に勝たないといけない――というストレスから弱いものいじめが始まる。いじめを目撃しても、他人と共感する力が足りないので、どうしたらいいのかわからず見て見ぬふりをする。親も、子供の日ごろの生活よりも、他の子供より成績が上か下かだけを見ている。これらの理由で、青少年のいじめ、うつ病による自殺は増えるしかない、という話だった。
専門家らは、青少年の自殺を防止するためには、国と地域社会が「(親と)一緒に子育てをする」という責任感を持たないといけない主張した。親と学校だけに負担を強いても、問題は解決しない。日本の文部省が発表した「いじめ・自殺問題重点施策」も、「いじめの問題の原因・背景には、学校・ 家庭・地域社会のそれぞれに要因が存在しており、これらの要因が相互に連関している」と指摘している。いつも思うのだが、韓国と日本は本当によく似ていて、いつも同じ課題を抱えている。
EBSという教育放送がある。大学入試のため勉強に韓国の全ての小中高校生が利用するものだ。このEBSが2012年9月末から、青少年の自殺や学校のいじめを予防するための特別番組を放映する。いじめにあったときにはどう対処したらいいのか、具体的な解決案を実際の学校に導入して、学生の反応を見る教育実験を行い、それを基に番組を制作するという。保護者のための番組も増やし、家族とは何か、学校とは何か、地域社会とは何かを考えさせる内容にする意向だ。
SOS命の電話に連絡した少女との会話
世界自殺予防の日を迎え、韓国のマスコミは「韓国命の電話」が運営している「SOS命の電話」を大々的に紹介した。ソウル市内の真ん中を流れる漢江(ハンガン)にかかる全ての橋に、飛び降り自殺を防止するため、社会福祉法人命の電話は生命保険社会貢献財団が支援して「命の電話」を設置した。公衆電話のような形で、命の電話につながるボタンと119救急センターにつながる2つのボタンがある。
「飛び降りる前に話しを聞いてほしい」と橋の上から命の電話に電話をかけてきた人はこの1年間32人。中には中学生の女の子もいた。命の電話の所長とこの中学生の会話を、9月1日付けの韓国日報が紹介し、反響を集めた。
「離婚した親はどっちも自分を引き取ろうとしない」
「祖母と地方で暮らしていたが、小学校5年生になって突然母に引き取られた。ソウルに来たがなじめない」
「家庭は貧しい」
「自分は嫌われものだから生きていてもしょうがない」
「色々自殺を試したけど今日は最後の手段として飛び降りるためやってきた」
「でも怖い」
少女の会話を紹介した記事に対して、少女を応援するコメントが300件近く書き込まれた。自殺を止めた後、この少女が二度と自殺しようと思わず生きていけるようにするにはどうしたらいいのか、を気にする書き込みも多かった。
韓国は2012年3月31日から「自殺予防法」を施行した。それでも、自殺は増えるばかりである。自殺予防法は、次のことを盛り込んでいる。「自殺予防のための相談電話などのインフラを国家レベルで拡充する」「保健所などで心理検査を行い自殺する可能性の高い人は特別にケアする」「保健福祉部は5年ごとに自殺予防総合対策を発表し、実績を評価する」「保健福祉部は12月に国家レベルの自殺予防総合対策を発表する」。
韓国青少年相談院と教員団体は、「小学生の自殺相談が急増している。自殺予防対策は中高校生に限らず、小学校低学年も対象にするべき」「学校で形式的に行われている自殺予防教育を、もっと具体的な内容――こういう場合はどうすればいいのか――にすべき」であると保健福祉部と教育庁に提案した。
趙 章恩(チョウ・チャンウン)
研究者、ジャーナリスト。ソウルで生まれ小学校から高校卒業まで東京で育つ。韓国ソウルの梨花女子大学卒業。現在は東京大学社会情報学修士。ソウル在住。日本経済新聞「ネット時評」、西日本新聞、BCN、夕刊フジなどにコラムを連載。著書に「韓国インターネットの技を盗め」(アスキー)、「日本インターネットの収益モデルを脱がせ」(韓国ドナン出版)がある。
「講演などで日韓を行き交う楽しい日々を送っています。日韓両国で生活した経験を生かし、日韓の社会事情を比較解説する講師として、また韓国のさまざまな情報を分りやすく伝えるジャーナリストとしてもっともっと活躍したいです」。
「韓国はいつも活気に溢れ、競争が激しい社会。なので変化も速く、2〜3カ月もすると街の表情ががらっと変わってしまいます。こんな話をすると『なんだかきつそうな国〜』と思われがちですが、世話好きな人が多い。電車やバスでは席を譲り合い、かばんを持ってくれる人も多いのです。マンションに住んでいても、おいしいものが手に入れば『おすそ分けするのが当たり前』の人情の国です。みなさん、遊びに来てください!」。
日本と韓国の交差点
韓国人ジャーナリスト、研究者の趙章恩氏が、日本と韓国の文化・習慣の違い、日本人と韓国人の考え方・モノの見方の違い、を紹介する。同氏は東京大学に留学中。博士課程で「ITがビジネスや社会にどのような影響を及ぼすか」を研究している。
趙氏は中学・高校時代を日本で過ごした後、韓国で大学を卒業。再び日本に留学して研究を続けている。2つの国の共通性と差異を熟知する。このコラムでは、2つの国に住む人々がより良い関係を築いていくためのヒントを提供する。
中国に留学する韓国人学生の数が、日本に留学する学生の数を超えた。韓国の厳しい教育競争が背景にあることを、あなたはご存知だろうか?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120910/236588/?ST=print
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