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米大学の終身在職権はなくすべきか―賛成論と反対論
2012年 6月 25日 20:52 JST
記事
米国での高等教育に関する議論は、ときに教授の終身在職権を巡る議論になることがある。またその意見の対立はまったくの平行線をたどることになる可能性が高い。
The Wall Street Journal
終身在職権に反対する向きからは、数百万人の学生の教育を台無しにしているとの声が出ている。終身在職権を追い求める教授たちは、学生たちを教育する義務を無視し、その価値に疑問が残る研究を大量生産する専門家になっているというのがその理由だ。
それに加え、カリキュラムや運営方法、財政について現状路線から逸脱しない教授に限り重用することで、終身在職権が高等教育界の主流派を硬直化させる道具となってきた、と批判派は指摘する。
一方、賛成派は、終身在職権こそが米国で高等教育の質を保つ唯一の方法だと主張する。真に優秀な教授のみに与えられるため、教授たちにとってはハードルが高いというのがその理由だ。
また、終身在職権は多くの分野で知識を向上させることになる草分け的な研究を追求する自由を教授に与えるほか、経営者や学生たちに最大限の努力をするよう求められる地位の安定を手に入れることができるという。
作家で『The Faculty Lounges and Other Reasons Why You Won't Get the College Education You Paid For』を執筆したナオミ・シェーファー・リリー氏は大学教授の終身在職権は廃止すべきだと主張する。
一方、イリノイ大学の英語教授で大学教授協会(AAUP)の会長を務めるキャリー・ネルソン氏は、終身在職権は存続すべきだと主張する。
それぞれの論点要旨は以下の通り。
ナオミ・シェーファー・リリー氏
終身在職権については多くの問題があるが、そのすべては最大の問題に行きつく。つまり学生に良くない、ということだ。
James Allen Walker
ナオミ・シェーファー・リリー氏
終身在職権は主に教授が出版した研究を根拠に与えられることが多い。これは学生たちの教育より研究に評価を与えるシステムを作り出し、さらにそれを強化することになった。
2005年に出版された「高等教育ジャーナル」によると、教室で過ごした時間が長い教授ほど、報酬が低いことがわかった。これは研究が盛んな大規模大学だけでなく、小規模な文系大学でも同様だった。
だから教授たちは、誰にも読まれないような研究をせっせと大量生産しているのだ。
学生たちの教育はほとんどが高等教育界の底辺にいる非常勤講師によって行われているのが現状だ。今日、非常勤講師は大学教員の約半分を占めており、学生の学習に対する彼らの影響はすでに十分証明されている。非常勤講師の増員は低い卒業率と成績の大盤振る舞いにつながっている。
非常勤講師は教授たちよりも学生から良い印象を得なければというプレッシャーにさらされている。彼らは学生からの評価以外に判断される材料がないからだ。このため、成績の大盤振る舞いが発生する。しかし、学生たちと関わりを持てる時間は、教授たちより少ない。このため、卒業率の低下につながる。非常勤講師は通常、自分のオフィスを持たず、決まった勤務時間もなく、多くの場合、生活するために大学をかけもちしている。
新システム
大学教育の質を向上させる最良の方法は、教授たちにもっと教育に焦点を絞らせることだ。そうするためには、終身在職権を捨て、必要とされるだけの能力がなければ、雇用の保証はないという前提で、指導能力に基づいた評価方法を始める必要がある。
反対意見が排除された自由
教授たちは学術上の自由を守るとして終身在職権を擁護する。しかし実際には、この点で失敗している。今日の大学はおそらく、米国で最も知的単一化された機関である。その最大の理由は終身在職権にある。
物理学から音楽に至るあらゆる学部で、教授たちのクローンである人材に終身在職権が与えられる。そのクローンたちは数十年にわたって居心地の良い場所に居座り続けるのだ。
終身在職権のある教授には確かに自由がある。多くの教授がそうしているように、大部分の学生にとってほとんど興味がないか、価値のない狭い分野を研究する自由が。しかし有識者や学生の両方に対し、全く異なる研究方法を提示することになる新しい考えや、その分野の多くの人にとって居心地の悪い結論という形で表れる真の異論は、ほとんどがその先の議論を許されない。異論を唱(とな)える者は終身在職権がもらえないからだ。
終身在職権による硬直化した影響は教室の外にも及んでいる。カリキュラムや財政、運営面などを巡るあらゆる戦いは消耗戦だ。終身在職権のおかげで、教授陣が常に勝つからだ。彼らはどの学長、どの理事、どの評議員、どの保護者、どの学生よりも長く大学にいる。彼らこそが、ほとんどどんな意味深い改革も実質不可能にさせている原因だ。最後にもう一度言おう。最も被害を受けるのは学生たちだ。
キャリー・ネルソン氏
無用な人材が大学にいるという神話が、神話ではなかった時代があった。つまり、終身在職権がそもそも雇用されるべきではなかった人材を守るということだ。
University of Illinois at Urbana-Champaign
キャリー・ネルソン氏
そういう時代は去った。才能あふれる教育者が潤沢にいるなかで、終身在職権は究極の品質チェック機能を果たしている。また終身在職権は教授らが知的好奇心を失わないよう鼓舞し、長期的な地位保証がないところでは達成できないような非伝統的な研究に勤(いそ)しむ機会を与えている。
ここ40年以上、新しく博士号を取得した人材の数は教員の求人数を超えている。いきおい熾烈(しれつ)な就職競争が生まれている。1つの教授のポジションに対して500〜1000人の応募者は尋常ではない。確かに、無能な教授も残っているが、もはやシステム上の問題ではない。ほとんどの批判派は、それはシステムの問題だと、まだ時代遅れの議論をしているが。
もちろん、雇用する側が過ちを犯すこともあるが、その際は終身在職権のシステムがその過ちを正してくれる。また終身在職権は、雇用する側に人材の精査を強いている。一度下した決断の結果は、かなり長い期間影響するからだ。終身在職権の付与を決定する際の真剣さは、数年ごとに更新される契約システムでは存在しないものだ。
リスクテイカーを守る
批判派は、終身在職権が教育ではなく研究に報いていると言う。しかし給与の比較は、研究がより高く評価されているというのは誤りであることを示している。ある分野の教授は研究量に関係なく、ほかの分野より高い給与を得ているほか、分野が違えば授業や研究に費やす時間も違う。だから授業の量と給与の間に直接、線を引くのは困難だ。
終身在職権はすべての教授が勇敢であることを保証しないが、勇敢な人材を守ってくれる。すべての教授が押しの強い経営陣の悪い提案に異を唱(とな)えるわけではないが、終身在職権はそうした異を唱える教授を報復措置から守ってくれる。すべての教授が学生に挑戦するようなリスクを冒したりはしないが、多くの教授はリスクを冒す。終身在職権は学生や保護者、政治家によるイデオロギー上の恨みから教授を守る。
新鮮さを保つ最良の方法
良い人材に終身在職権を与えた後、彼らに再度会ってみると、終身在職権の資格審査に合格した彼らが決して古びていないことを知るだろう。知的好奇心を維持し、全キャリアを通して教育と研究に情熱的な同僚が選ばれるだろうからだ。終身在職権が居心地の良さを助長するという証拠はない。逆にその反証は山ほどある。教授は研究分野の変更を盛り込むため、カリキュラムは定期的に変更される。さらに言えば、ほかの終身在職権を持つ教授がすでに行っていることの単純な再生産ではなく、最前線の仕事をしている人材が最良の候補者だ。
終身在職権の利点にかかわらず、その支援者を見つけるのは困難だ。1975年以降、終身在職権かそれに準じる資格を持った教授の数は、大学教員全体の3分の2から、3分の1未満に減った。多くの優秀な大学では終身在職権は健在だが、ほかの大学では消えつつある。教授陣はいずれ、カリキュラムと雇用の管理能力を失うことになるかもしれない。
カリキュラムを構築し、人材を雇う能力を持った人が、専門知識のある分野で権限をなくすことにより、最終的に世界で最も優れた高等教育の質の低下を招くことになるのではないか。米国の高等教育の歴史は、教授が調査し、討議し、教え、そして発表する自由が守られたときに、教育と研究の質が最大になることを示している。終身在職権以外にこの結果が得られることを示した人は誰もいない。
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http://jp.wsj.com/Life-Style/node_466930
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