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日米同盟など妄想にすぎない。アメリカが守ってくれるなどといった奴隷根性は捨てねばならない。今こそ日米同盟を破棄し、日本の自立を取り戻すべきときである。
『月刊日本』6月号より
http://gekkan-nippon.com/?p=3864
世界各地で繰り広げられる米中代理戦争
―― 日米両政府は4月19日、米自治領・北マリアナ諸島のテニアンの米軍基地に自衛隊を駐留させ、共同訓練や演習を実施することを合意した。一方、同月22日には、黄海で中国とロシアの海軍の合同軍事演習が行われた。国際情勢はめまぐるしく変化している。
【奥山】 今日の国際社会で行われていることは、衰退するアメリカと台頭する中国による、熾烈な権力闘争だ。これは日本近辺だけでなく世界各地で見られるものだ。いくつか例をあげてみたい。
3月29日、インドの首都ニューデリーでBRICs(インド、中国、ロシア、ブラジル、南アフリカ)の首脳たちによる会合が開かれた。そこではデリー宣言が採択され、「BRICs銀行」を創設して途上国のインフラを支援することが検討された。
また、フォークランド紛争開戦から30年目の4月2日には、アルゼンチンのフェルナンデス大統領が改めてフォークランド諸島の領有権を主張した。フォークランド紛争は、1982年に、イギリスが実効支配していたフォークランド諸島にアルゼンチンの軍事政権が侵攻したことから始まったものである。
これらの出来事は一見すると何の関連性もないように思えるが、リアリズムという観点に基づけば、その背景に米中による権力闘争が存在することが明らかとなる。
BRICs銀行創設の動きについて、世界中のメディアでは、彼らが「同意したこと」よりも「同意できなかったこと」を大々的に報じられた。
確かに、彼らは合意を巡って幾度となく衝突を繰り返した。しかし、その裏では、彼らはドルへの依存を減らすべく、自国通貨の相互信用供与の拡大については合意していた。これは明らかに、アメリカが主導する「ドルの基軸通貨体制」への挑戦である。
また、フォークランド紛争30周年を契機に、アルゼンチンはイギリスに対して「英国の植民地主義は人類の恥」と強い反発を表明し、自国内でイギリスと取引している企業に対して制裁措置をとる考えを示した。
この背景には、大統領選を控えているオバマ大統領がこの問題への介入に及び腰になっている一方で、そのようなアメリカの事情を見透かした中国がアルゼンチンの領有権を支持している、という事情がある。つまり、フォークランド諸島をめぐって米中の代理戦争が行われているのだ。こうしたパワーバランスの変化が起こっているからこそ、アルゼンチンは強硬な態度に出ることができるのである。
TPPもアメリカによる対中政策としての側面が強い。国力が低下しているアメリカは、台頭する中国に対抗すべく、何とか自国の権益を囲い込もうと必死になっている。
国際関係論という学問のリアリズム(現実主義)理論では、ある強大国に対して、周辺の国々はその国の力と均衡(バランス)がとれるような行動を本能的にとる、というメカニズムの存在が指摘されている。そのような行為は、あたかもシーソーのごとくバランスをとるように見えるため、「バランシング」と呼ばれている。
「バランシング」は、平時よりも、戦時のような緊迫した状況下において現れる傾向が強く、軍備増強など安全保障的な側面が強いものを「ハード・バランシング」という。
それに対して、軍事力のような目に見える具体的なものではなく、対外政策など、より柔軟なものによって平時から脅威に対抗しようと行動するものを「ソフト・バランシング」と呼ぶ。
上記でとりあげてきた事例は、軍事力というハード面ではなく、経済や外交というソフト面によってアメリカに対して勢力均衡が図られていることから、典型的な「ソフト・バランシング」であると言えよう。
「想定外」に対応できない日本
―― 野田政権はTPP参加に向けて舵を切った。
【奥山】 TPPへの参加は、世界がブロック化している中で、日本がアメリカ・ブロックに入ることを選択したことを意味する。これにより、日本政府は従来通りアメリカが日本を守ってくれることを期待している。要するに、日本は対外政策をアメリカに丸投げし、自分の頭で物事を考えつつ冷酷な国際社会を生き抜くことを放棄したということだ。
これはこれで、台頭する中国に対抗するための一つの選択肢ではあるだろう。しかし、このブロックのボスであるアメリカが衰退しつつあるため、これまでのようにアメリカが日本を守ってくれるとは断言できない。
もちろん、ある日突然、日本から全ての米軍が撤退するとは考えにくい。しかし、そうした事態も想定し、米軍の力を借りずとも自衛隊だけで敵対勢力に対処できるよう独自の戦略を構築しておくべきだ。
―― 日本政府は「想定外」について考えようとしない。福島第一原発をめぐる問題でも、政府は「想定外」という言葉を繰り返した。
【奥山】 私は先日、元某国駐日本大使の講演会に参加したが、彼はモットーとして「国際政治では“ありえない”はありえない」という言葉をあげていた。要するに、「想定外」を想定してはならないということだ。
私は石垣島でこのことを実感した。3月中旬、取材のために石垣島を訪問した時、地元の有力者の方々から直接、「自衛隊をここに駐留させるのは、メディアの影響などもあって、未来永劫不可能だ」という趣旨の話を聞いた。
このように、石垣島に住む人々は、「石垣島に自衛隊が来ることはありえない」という認識を持っていた。
ところが、北朝鮮による「人工衛星」発射という安全保障上の重大事案が発生するやいなや、あっという間に、石垣島への自衛隊のPAC3部隊の派遣が決定されたのである。
大変動が起こりつつある国際政治においては、今後もこのような「想定外」の事態が頻発することになるだろう。しかし、常日頃から自らの頭で考えるという訓練をしていなければ、いざ事が起こった時に柔軟に対処することは困難である。
PAC3について付言しておきたいことがある。PAC3が配備されたことに関して、PAC3で北朝鮮のミサイルを撃墜することは物理的に不可能だ、といった技術や性能をめぐる議論が多くなされていたが、これはテクノロジーを「道具」程度にしか考えていないことの表れだ。
しかし、テクノロジーとは単なる「道具」や「技術」の問題ではなく、「哲学」や「世界観」の問題であり、「政治」の延長なのだ。その点、「日本がPAC3を沖縄にスムーズに配備することができた」という事実は、周辺諸国、とりわけ中国に対して、大きな政治的インパクトを与えたはずである。
この政治的側面こそが重要なのであり、実際にミサイルを撃ち落とせるかどうかは、実は本質的な面から考えれば、単に二義的な問題にしかすぎない。〈以下略)
*本稿は編集部の許可の下投稿しています。
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