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台頭する中国、多極化する世界構造という実態をますます見せつけられたイベントが、4月21日、22日の2日間、この東京で開催されていたので、それを報告したい。
3年か4年おきに、東京・霊南坂のアメリカ大使館前にある老舗ホテル「ホテルオークラ別館」では、日本、アメリカ、欧州の政治家、財界人、知的エリートが一堂に会する「日米欧三極委員会(トライラテラル・コミッション)」というイベントが開催される。日米欧の先進経済国の三極が世界の今後の秩序を話し合おうということで、1973年から開催されている国際会合だ。
このイベントは、75年に始まった先進国首脳会議(サミット)にも大きなインスピレーションを与えたと言われ、80年代には中曽根康弘首相、90年代に入ると細川護煕首相、野党であった新生党の羽田孜元首相、現在も自民党のリベラル派のご意見番的存在となっている加藤紘一元外務大臣らが発言し、その発言内容は時折、記事になってきた。
私が知る限り、この会合についていちはやく記事にしたのは、あのジャーナリストの田原総一朗氏で、『日本のパワーエリート』(光文社・カッパ)である。この本のなかでは当時若手ジャーナリストだった田原氏は、「世界を動かす経済マフィアの組織」としてこの三極委員会を取り上げている。時は大平内閣の時代、現在のTPP(環太平洋経済連携協定)のひな形とも言われる「環太平洋経済構想」が打ち出され、オイルショック後の新しい世界秩序に日本が主体的に関与していくべきという声も上がっていた時代だ。
田原氏は、三極委員会(当時は日米欧委員会と呼ばれていた)と並び、「ビルダーバーグ会議」を経済・金融マフィアの集う2大会合と呼んでいる。今ではこれに、スイスで開催される「世界経済フォーラム(ダヴォス会議)」を加えてもいいだろう。
世界のパワーエリートたちは、ダヴォス会議、三極委員会、ビルダーバーグ会議と3つの会合を日米欧のいずれかの都市にあるホテルや避暑地で繰り返し、「世界経営」のブレインストーミングを行なってきた。これが1945年から2000年くらいまでの世界の動きをある程度実質的に決めていたと言っていい。
これらの会合のうち、ダヴォス会議以外の2つの会合に共に深く関与してきたのが、"世界金融マフィアの総帥"とも一時は呼ばれた、デイヴィッド・ロックフェラー元チェース・マンハッタン銀行頭取であり、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官やズビグネフ・ブレジンスキー元大統領補佐官といった人々であった。
3つの会議のうち、もともと一番最初に開催されていたのがビルダーバーグ会議で、これはオランダの開催地のホテルの名称からこう呼ばれるようになった。主催者はオランダのベアトリックス女王の一族であり、米国財界の名家であったロックフェラー家や、イタリアの自動車メーカーのフィアットを率いてきたアニェリ家が主体的に関与し、時にロスチャイルド家なども巻き込んで、戦後ヨーロッパ復興と欧州共同体の礎を築いたわけである。
ビルダーバーグは白人・キリスト教という共通項を持ち、ヨーロッパ統合運動という共通目標を抱いた財界人や政治家の集まりで、冗談ではなく本当にここからヨーロッパ経済共同体(現在の欧州連合)が生まれたのである。ソ連という異なる政治・経済体制の浸食から西側世界を守るために、アメリカが欧州統合を支援したということである。
日本も、当初はロックフェラーの計らいでこのビルダーバーグ会議に参加するはずだったが、戦争のわだかまわりもあって欧州側が難色を示したため、ロックフェラーが欧州の有志と日本の政財界を抱き込んで新しく始めたのが三極委員会であるが、そのためにビルダーバーグとメンバーは大きくかぶっている。
日本側で創設に携わったのは、政治家では宮沢喜一元蔵相であり、大平内閣の大来佐武郎外務大臣といった政治家、そしてこの三極委員会の開催日の一週間前にガンで死去した山本正・日本国際交流センター理事長である。近年は明石康氏、小和田恒氏、緒方貞子氏といったソフトな「人間の安全保障」という外務省系の元官僚やNGOトップや、外務省の田中均・外務事務次官、川口順子元外相らが参加者である。この人々は皆、"山本正"という人に見込まれた人たちだ。
今年はちょうど前回の09年から3年目ということもあり、東京で年次総会が開催されることになっていた。ただ、基本的にマスコミはここ最近はこの三極委員会について大きく報じたりはしない。ただ、ホテルオークラの別館の地下で開催されることは恒例になっていたので、私は数回前から独自に会場での取材を行なっていた。今回は、ジャーナリストの岩上安身氏が率いるメディア集団IWJの協力を得て、実際に会合の一部をカメラで撮影する取材に成功した。
とはいえ、"マフィアの会合"といっても田原氏が言うようなおどろおどろしいものではないし、ましてや一部の陰謀論者が言うような世界支配の密謀をめぐらせている組織ではない。ただ、言えることは、参加者の顔ぶれが一線で活躍する次のリーダーたちであり、欧米の多国籍企業のCEOたちやシンクタンクの研究員たちであるということだ。
そのような意思決定の現場に近い人々が「三人寄れば文殊の知恵」どころか、120人も集まり数日にわたって、安全保障、経済、金融の分野で議論を行なう。その議論は一部を除いては非公開であり、会場では英語のみで議論が行なわれる。しかも、参加者の座席割は毎回異なっており、何度も参加する参加者は毎回別の分野のエキスパートと席を共にする。そのような状況であれば、日米欧の先進国の勢いが新興国よりもあった時には、当然、政策や企業方針にその議論の中身は反映される。その意味では、世界の秩序に確実に影響を与えていたのである。
学術会議ではあるが、過去には2000年に、当時、新生銀行買収が話題になっていたハゲタカファンドのリップルウッドのオーナーであるティモシー・コリンズ氏が参加し、その新生銀行の株主には三極委員会メンバーが多数参加していた。今回の会合でも、セッションのなかには、経済同友会代表幹事の長谷川閑史氏(武田薬品代表取締役)ほか、TPPを熱心に推進する新浪剛史氏(ローソン社長)や、山本正氏との縁戚関係にある投資家の渋澤健氏が参加するものもあった。渋沢栄一一族は戦前から米国との人的交流が深かった。
会合のイメージを掴みやすくするために、今年の三極委員会の日程について、当日配布の資料から抜書きしてみる。
まず、現役大臣の古川元久・国家戦略担当大臣と自民党の次期首相候補とも言われる林芳正・参議院議員が日本の政治について議論するセッションが初日の一番最初にあり、その司会を務めたのが、小泉進次郎氏をコロンビア大学留学時に指導したほか、自民党や旧社会党にも人脈を持つ、ジェラルド・カーティス教授であった。田中角栄失脚後、カーティスは日本の政界に保守・左翼を問わずに人脈を持っており、CIAにも情報を提供していたことはよく知られている。
また、初日にはゴールドマン・サックス証券副会長の杉崎重光氏が北山禎介・三井住友銀行会長(同友会副代表幹事)、2日目には前出の新浪、長谷川といった財界人が登壇しているが、経歴を見ると同友会系が多く、いずれもTPP推進によって利益を得る立場にある。TPPはアメリカ財界と日本の財界の合作であり、こういった国際会議で非公式に浸透するように進んでいることがよくわかる人選だと言えるだろう。ゴールドマンというと、竹中平蔵氏、西川善文氏といった郵政民営化の際に名前が挙がった人々とのつながりがどうしても連想される。
その他、尖閣諸島問題とも密接に関わる、東南アジアと中国が関わる南シナ海の領有権問題のセッションもあった。アメリカとしてはオバマ政権も共和党のロムニー候補もアフガニスタンに割いていた米軍資源を、今度は東アジア、東南アジアに配分するという「アジア回帰」の宣言を昨年秋のAPECで行なったばかりである。このソフトな対中牽制は、TPPとあわせて、アメリカの超党派のアジア戦略のコンセンサスであると言える。
三極委員会が典型的な国際会合と違うのは、晩餐会や大使公邸や日本の外務省の飯倉公館での歓迎レセプションが開かれるという点だろう。この点では、社交界の様相も持っているのである。その晩餐会への最高のゲストとも言えるのが、その開催国(ホスト国)の国政における最高指導者である総理大臣であるというわけだ。数年前にアイルランドで開催された年次総会でも、時の総理大臣がスピーチしているので恒例なのだろう。
今回も野田首相は、三極委員会の最終日の晩餐会(ホテル・オークラ)にわざわざ党首脳が集まる民主党懇親会のホテル・ニューオータニから出向いている。
マスコミ各社も全テレビ局が取材しているようだったが、その時の映像はおろか、記事にもほとんどなっていない。唯一記事にしたのは日経新聞だけで、それも電子版(インターネット版)でわずか数行の記事だった。だが、その内容は、かなり重要なものだったように筆者には思えた。
その発言を箇条書きにしてみる。
<野田首相発言要旨・22日三極委員会東京総会>
◯ジョセフ・ナイ北米委員長、小林陽太郎アジア太平洋委員長はじめ、ご出席の皆様、世界最高峰の叡智とも言うべき、三極委員会のメンバーをお迎えでき、誠に光栄に存じます。
◯三極委員会発足から半生記近い年月が経ちました。この間、世界は大きく変容を遂げております。経済的にも政治的にも多極化する世界。地球の有限性がより強く視覚される世界。
◯私達は排外主義や保護主義の誘惑を廃し、自由と民主主義という、共通の価値基盤のもとに国際協調の枠組みを再構築しなければなりません。
◯そのための「ルール作り」にも具体的な行動を起こさなければなりません。新たな秩序を導くためにはリーダーシップが必要であります。そのために日米欧の三極が果たすべき役割はいささかも小さくなっておりません。
◯三極の叡智の代表が一同に介し、率直な話し合いを通じて相互理解を深めることは大変意義深いことであります。総会の提言は、私も大いに参考にさせて頂きます。
◯我が国は人類全体の未来を切り開くために率先して貢献していく決意を持っていることをここに改めてお誓いを致します。
私が一番気になったのは、「排外主義や保護主義の誘惑を廃し」という部分と、「そのためのルール作りにも具体的な行動」という部分である。
普通に読めば、何ということのない、至極当然のステートメントのように見える。しかし、「ルール作り」という言葉を頻繁に日経新聞は、首相の言葉としてTPPの枕詞として報じている。
たとえば、以下の通り。
◯野田佳彦首相は7日に開いた国家戦略会議の「平和のフロンティア部会」初会合で「日本がもう一回元気を取り戻すためには(世界の)ルールメーキングに主体的に関わることだ」と強調した。例として環太平洋経済連携協定(TPP)を挙げ「アジア太平洋地域におけるルールづくりを貿易投資の面でやっていこう」と交渉参加に意欲を示した。(4月7日・日経)
◯TPP交渉 ルール作り、21分野で作業部会(2011年11月15日・日経見出し)
このように、TPPといえば関税交渉ではなく、「ルール作り」――つまり世界経済秩序の構築の問題であることは、識者には共有されている認識である。
ところで、その野田首相は30日から、ワシントンでオバマ大統領と首脳会談を行なう。朝日新聞(4月19日)などの報道では、この訪米時に具体的なTPPへの参加表明を行なうことは見送るという方針が官僚サイドからリークされている様子がうかがえるが、三極委員会の参加者であるアメリカ人たちは、「これは首相のTPP参加」の発言と普通に考えれば受け取るはずである。
仮に、ここまで言っておきながら、首相がTPPを先送りするのであれば、アメリカ側から「やはり日本人は言うことと行動が逆」というように批判されるだろう。この日本的な「なあなあの言行不一致」は、小沢一郎が常に批判してきた日本の政治家の悪い点である。
ただ、野田首相の演説を後で映像でじっくり見る限り、この人も「自分の意志ではなく官僚にされるがまま」であるという印象を強くした。野田首相は消費増税でさえ、官僚の「耳元ささやき」攻撃によって、一定の情報ばかり与えられて"洗脳"されたという説が高橋洋一氏などから唱えられている。官僚の言いなりになる総理はもちろん問題だが、一方で総理大臣の孤独さというものもまた、私には野田演説から感じられてしまうのだ。
野田首相を晩餐会の客に紹介した三極委員会アジア太平洋議長の小林陽太郎氏は、野田首相のことを「ここ数年で最も賢明な首相(most sensible leader)」と評したワシントン・ポストのつい最近の記事を紹介して、招待客一同の笑いを誘った。賢明ではない首相とは、鳩山・菅の両首相であることは言うまでもないだろう。"賢明"とは、アメリカや財界の意図を察し、向こうにとって"御し易い"という意味である。
しかし、その野田首相は、原発再稼働問題では仙谷由人・政調会長代行の暗躍を許し、消費税問題では財務省の言うがままになっている。野田政権は、実質は"仙谷政権"と言ってよいし、22日からの議員訪米団が仙谷氏の引率によるものであることを考えると、自身も「黒幕」であることをやめ、実質的に主導権を誇示するようになっている。アメリカとしては、仙谷氏を日本の代表者であると暫定的に認めているということだ。三極委員会に出た古川元久大臣も、仙谷氏が領袖となっている「凌雲会」のメンバーである。
一方で、三極委員会は日本側のホストである山本正氏の死去、創始者のロックフェラー、キッシンジャーらの世代の本格的な退場、マクロ的には台頭する中国やBRICSとアメリカの金融覇権のゆらぎという状況もあり、これまでのパラダイムの変化についていけていない部分もある。私は3回ほど取材してきたが、今年はこれまで参加していた主要なメンバーの顔がほとんど見られず、開催日程も3日から2日に短縮されている。
一方で、BRICSグループを見れば、ブラジルを抜いたインド・中国・ロシアがこの前の週に三極会合(RICミーティング)を開催するほか、インド・米国・日本の三極会合も出現しつつある。ダヴォスだけではなく、ロシアではサンクトペテルブルクで国際経済会議が開かれ、そこに欧米大企業の経営者たちが殺到する。中国では、ボアオ国際フォーラムが日本の福田康夫元首相の司会で開催される。
世界は正に多極化に進んでおり、そのなかでアメリカと中国とが二大巨頭となっている。多極化の時代は、三極会合を開くにしても組み合わせが多数考えられる。野田首相ですら「三極」委員会の挨拶の場で、「多極化する世界」について述べている。
要するに、世界の秩序は大移行期にある。三極委員会もかつてのメンバーが久闊を叙す「同窓会」のような存在になりつつあるということだ。そして、移行期には日本もうまくやれば、自立外交を実現できる。TPPだけに限らず外交政策でも、日本はアメリカの意向を「勝手に忖度」して自らに縛りをかけている。習い性というのは恐ろしいものだ...。
小沢一郎の陸山会事件の無罪判決が出た。どのような結果になるのであれ、そろそろ日本の政治も新しい段階に入っていくことが必要だろう。
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