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北朝鮮ミサイル発射 戦略なき日本の悲劇  菅沼光弘 
http://www.asyura2.com/11/kokusai6/msg/553.html
投稿者 大塩 日時 2012 年 4 月 26 日 15:26:07: .cSQld2Pk8LuA
 

沖縄に配備されたPAC3の標的は、北朝鮮ではなく中国である。ロシアでもそのように報道されている。そうした中、野田政権だけが、自らの政策が何を意味するかについて全く理解できていないのである。


『月刊日本』2012年5月号より
http://gekkan-nippon.com/?p=3729


日米ミサイル防衛の標的は中国だ
―― 北朝鮮の「人工衛星」発射、日本国内報道では長距離弾道ミサイル発射をめぐって、政府はPAC3を配備するなど、対応に追われた。
【菅沼】別の言い方をすると、北朝鮮のミサイル発射を契機として、日米ミサイル防衛の合同演習が行われているということだ。
 状況を整理すると、北朝鮮側は「人工衛星を迎撃すれば、宣戦布告とみなす」と宣言している。すなわち、日本を軍事攻撃するとしているのだから、打ち上げられた「人工衛星」が日本国土に着弾する軌道を描かない限り、これをPAC3もしくはイージス艦搭載の迎撃ミサイル(SM3)で迎撃することはありえない。
 「人工衛星」が不具合で本体や部品が落下するのに備えてPAC3などを配備するのだとされている。しかし、これは極めてナンセンスだ。打ち上げられたミサイルでさえ、そのスピード、軌道を瞬時に計算して迎撃するのはきわめて難しい。まして、重量もスピードも軌道も不明確な落下物を空中で打ち落とすことは、まったく不可能といっていい。
 それにもかかわらず、国土防衛という大義名分の下に迎撃体制を整えているのは、これを日米ミサイル防衛体制強化の好機ととらえているからだ。これは、東アジアの安全保障、具体的には中国のミサイルに対してどのように防衛していくかということが念頭にある。
 すなわち、北朝鮮の「人工衛星」問題は、日米にとっては対中牽制を意味するミサイル防衛システムの絶好の予行演習となっている。それに際しては、実際に「人工衛星」を打ち落とす必要はない。PAC3などの運営のためには、アメリカの早期警戒衛星からの情報、そして米軍と防衛省の緊密な連携が必要となる。この予行演習の場として北の「人工衛星」はうってつけなのだ。すでに航空自衛隊の航空総隊司令部は米軍横田基地の中に組み込まれ、米軍との共同運用体制が整っている。
―― 実際には日本政府側の「J-ALERT」(全国瞬時警報システム)は機能しなかった。
【菅沼】沖縄県宮古島の基地では、北朝鮮の発射直後に信号弾が打ち上げられ、石垣島でも午前7時50分には自衛隊から石垣市長へ連絡が入っている。現場レベルでは予行演習はうまくいっていたということだ。「J-ALERT」は政府の危機管理対応の問題で、今回の演習によって、政府こそが問題だという点が明らかになったのだから、価値はあったといえる。


米朝は暗黙のうちに「人工衛星」発射に合意していた
―― アメリカは、北の「人工衛星」発射そのものに反対しているわけではない。
【菅沼】米朝は野合とまでは言わないが、暗黙裡のうちに、互いに了解を得ていると見るのが妥当だ。
 アメリカは本年2月29日に第三回米朝高位級会談を行い、合意に達している。そこではアメリカが食糧援助を行う代わりに、北朝鮮は核実験、長距離ミサイルの発射、ウラン濃縮活動を一時停止することが記されている。
 ところが、この合意後の3月16日に北朝鮮は「人工衛星」の発射を発表した。北朝鮮は、3月の米朝会談で、「人工衛星」発射は長距離ミサイル発射には含まれない、と終始一貫明らかにしてきたと主張している。
 アメリカはさきの玄葉外相とクリントン国務長官との会談において懸念を表明したが、本気で怒っているのならば米朝合意の破棄、制裁に踏み切るはずだ。実際、そうなっていないということは、これは日本へ配慮して儀礼的に怒りを表明したものに過ぎないということで、北朝鮮の「人工衛星」発射を事実上許容しているということだ。
 国務省で対北外交を担当してきたエバンス・リビア元国務次官補代理が明らかにしているところによると、すでに昨年12月の段階で、北朝鮮は人工衛星発射を「主権国家として固有の権利」として、近い将来の発射を示唆していたという。
 これが事実ならば、2月の米朝合意の段階で、アメリカは北朝鮮による「人工衛星」発射があることを承知していたことになる。


アメリカ、イラン、北朝鮮
―― なぜアメリカは北朝鮮に対して融和的なのか。
【菅沼】融和的というよりも、今、北朝鮮問題に割くエネルギーがないということだ。今アメリカにとって最大の懸念はイラン問題だ。
 ここで、アメリカにとってイラン問題がどのような意味を持つかを整理しておこう。
 イランが核開発を続行した場合、直接、イランの核を脅威に感じるのはイスラエルだ。なにしろアフマディネジャド大統領はかつて、「地球上からイスラエルを消してやる」とまで言った人間だ。
 イスラエルからしてみれば、なんとしてでもイランの核開発を食い止めなければならない。そのためには先制攻撃も、ミサイルによる核施設の破壊も辞さないという構えだ。
 万が一イスラエルが強硬政策に踏み切れば、アメリカも引きずられてイランに対して軍事制裁をせざるをえない。
 これに対してイラン側は、イスラエルが攻撃を行った場合、ホルムズ海峡を封鎖すると言っている。ホルムズ海峡封鎖などわけないことで、一基の機雷を海上に流すだけで、油を積んだタンカーは一隻も海峡を通行できなくなる。
 ホルムズ海峡封鎖は、サウジアラビアをはじめとするペルシア湾岸一帯の産油国から石油が供給されなくなることを意味している。そうなれば、石油価格は世界的に高騰せざるを得ない。
 アメリカは極度の車社会だ。生活に車は必需品で、それは石油価格がアメリカ国民生活を直撃するということだ。1ガロンあたり4ドル以上に石油価格が上昇すればアメリカでは暴動が起きるといわれている。今現在、すでに3ドル以上だから、ホルムズ海峡封鎖ということになれば、まさに暴動級の衝撃だ。
 さらに今年は選挙の年だ。オバマ大統領は秋の大統領選挙での再選を目指しているが、選挙を前にして石油価格が暴騰するようなことがあれば、ダメージははかりしれない。
 オバマ政権はなんとしてでも、せめて、選挙が終わるまでイスラエルによるイラン攻撃を食い止めたいというのが本音だ。
 このようにイラン情勢のコントロールに手一杯な中、北朝鮮問題に割く余力はないというのが実情だろう。すでに、アメリカの対北朝鮮政策の重点は「非核化」から、「核拡散の阻止」へと変化しつつある。
 イランの核開発の裏には、北朝鮮からの核技術流出があると言われている。これ以上イラン情勢を悪化させないためには、北朝鮮からの核技術流出を止めなければならない。
こうした情勢を踏まえると、核不拡散を条件に、アメリカは北朝鮮との合意に達したと見るのが妥当だ。
 気をつけねばならないのは、イスラエル側は現在はアメリカの要請に応じているものの、「免疫圏」、すなわち耐えられる限界を超えつつある、とも言っていることだ。すなわち、イラン問題、そして中東情勢は常に暴発の危機にあるということだ。(以下略)

*本稿は編集部の許可を得て投稿しています。
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