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1994年8月 TVニュース画面
「次のニュースです。”熱過ぎるコーヒー”を巡る裁判でマクドナルドに290万ドルの賠償金支払いが命じられました。乗車中の事故でした」
TVのコメディ番組
「100万ドルの訴訟を起こすぞ」(笑い)
「なんでさ?」
「コーヒーが熱過ぎた!」(大爆笑)
CBSニュースキャスター「私も仕事を辞め、大企業を訴えて暮らしたいです。訴訟は今や人気の娯楽。楽に大金を稼げます」
ABCニュースキャスター「『ルームメイトがうるさい』と大学を訴えた学生。『髪形が変』だと美容院を訴えた男性。多くは敗訴しますがまれに勝つことも。ステラ・リーベックの裁判がそうです。バカな訴訟に費やす時間をほかのバカな訴訟に分けてあげたい」(笑い)
「『コーヒーが熱い』? 当たり前だ!」
中年男性、「自分のミスでこぼしたんでしょう? 店員が女性にコーヒーを投げつけたわけじゃない。」
若い女性「人間は欲深いからお金のために何でもするわ。」
「正義と民主主義のためのセンター」所長(全米規模の消費者団体) ジョアン・ドロショー「アメリカ人の多くが民事裁判で争われる事件は取るに足らないものばかりだという先入観を持っていますが、それは誤解です。」
「テキサス・ウォッチ」代表(消費者団体) アレックス・ウィンスロー「宝くじ裁判などの大衆受けするフレーズが繰り返されました。そうして市民が民事訴訟制度という強力なシステムに頼らないように仕向けたのです。」
「パブリック・シチズン」元代表(消費者団体) ジョーン・クレイブルック「要するにビジネス界は消費者を法廷から遠ざけたいのです。そのため、あの手この手を使って市民が法に訴える手段を断とうとしています。」
アルバカーキ(米ニューメキシコ州)
ステラの娘 ナンシー・ティアノ「79歳の母はかくしゃくとしていて車の運転もなんなくこなしました。物を取り落としたり物をこぼすようなこともめったになくて、とにかくとても79歳とは思えないほどしっかりしていたのです。それにあの事件が起きる1週間ほど前まで、フルタイムで働いていました。」
証拠物件1 報道の操作 ステラ・リーベックの事例
1995年3月、裁判法廷ステラの義理の息子 チャールズ・アレン「チャールズ・アレンです。妻のジュディと義母ステラ・リーベック。義母は3年前、コーヒーでやけどを負いました。秘密保持契約を結んだ義母代わり、妻と私が発言します。」
ジュディ・アレン ステラの娘 現在、自宅にて「驚いたのは、あの裁判がどれほど知られていて、しかもどれほど誤解されているかということでした。誰と話しても『あぁ、あの事件ね。知っているよ』と言われます。でもいったい何を知っているというんでしょう。」
中年女性A「車が止まったのでコーヒーを飲もうとしたのよ。」
中年男性B「ドライブスルーで買ったんだ。」
中年女性C「運転中に」
中年男性D「飲もうとした。」
中年女性C「フタが外れたの。」
中年男性D「両足を」
中年女性E「やけどした。」
中年男性F「裁判で」
中年男性D「ボロもうけ。」
ナンシー・ティアノ「『その女性は運転していなかったんですよ』というと、誰もが否定します。ですから私は言うんです。『それは間違った情報で、彼女は助手席に座っていました。運転していたのは私の甥なんですから』と。」
ステラの孫 クリストファー・ティアノ「あの日、おじさんを空港に送った帰り、近くのファストフード店に寄りました。この店です。祖母はハンバーガーのセットとコーヒーを注文して、コーヒーに入れるクリームと砂糖を頼みました。僕の車にはコーヒーを置ける場所がなくて、カップホルダーも付いていませんでした。食べながら運転できるようにちょっと準備しようと思いました。祖母はコーヒーにクリームと砂糖を入れたいでしょうし、だからこのあたりに車を止めました。祖母にはもうコーヒーを手渡していました。そこで身の回りを片づけていたんですが、そしたらまもなく祖母が悲鳴をあげたんです。」
ステラ・リーベック「クリームと砂糖を入れるため、ひざでカップを支えフタを開けようとしました。そしてこぼしてしまったんです。」
中年女性E「やけどの写真?」
中年男性F「えっ?」
インタビュアー「見方が変わりました?」
中年男性G「マスコミの報道とは全然印象が違う。」
中年男性F「こりゃひどい。」
当時の治療写真 両太ももの内側が広範囲に真っ赤に腫れ上がり、ところどころが黒く壊死している。一見して広い面積に重度の熱傷を負ったことが分かる。
ステラ・リーベック「拷問のような痛みでした。ひどいやけどで命も危ないだろうと言われました。」
テラの義理の娘 バーバラ・リーベック「私は看護師ですが、患部を見てがく然としました。やむを得ず皮膚移植まで受けることになりました。ただやけどをしたと聞くのと症状を目の当たりにするのとでは大違いです。本当にショックでした。」
ステラの娘 ジュディ・アレン「あまりにも症状が重かったのでマクドナルドに医療費を請求すべきだと話しました。」
ステラの義理の息子 チャールズ・アレン「母はマクドナルドを訴えようなんてまったく考えていませんでした。医療費を負担してくれればそれで終わるはずでした。」
ジュディ・アレン「私たちはマクドナルドに手紙を書きました。」
チャールズ・アレン「御社のコーヒーは熱過ぎる。機械の故障かもしれないので調べて下さいと。異常があるはずで。もし機械の故障でないなら、会社の方針を見直して下さい。被害者が1人では済まなくなります。」「明らかにほかにも被害が出ていると思いました。」
ジュディ・アレン「驚いたことにマクドナルドは800ドルしか出そうとしなかったのです。その時点で治療に1万ドルかかっていたというのに。
ジャーナリスト ステファニー・メンシマー「一般の人に経済や医療、教育の分野で関心事は何かと聞けば、民事訴訟なんて20番目にすら挙がらないでしょう。でも、いざ自分の身に問題が降りかかってきたら、アメリカ人の大半は真っ先に弁護士を探そうとします。」
「正義と民主主義のためのセンター」所長 ジョアン・ドロショー「相手に過失があったり、意図的なものであった場合、あなたには相手の責任を追求する権利があります。これが民事訴訟制度であり、こうした問題は法廷で裁かれます。この制度は憲法の人権保証規定に由来し、すべての市民が持つ基本的な権利です。」「アメリカの司法府は1人の市民が大企業を相手に互角に闘える非常に限られた場所のひとつです。立法府と行政府は金と権力に支配されますが、司法府は別です。陪審みなを買収することはできませんから。」
「パブリック・シチズン」元代表 ジョーン・クレイブルック「法廷では個人と自動車メーカ、個人と大銀行が闘います。そして訴えの正当性をきちんと示すことができれば、大企業にも遜色なく勝つことができるのです。こんな場所はほかにはありません。」
ステラの代理人 ケン・ワグナー「私はステラ・リーベックの主任弁護士から連絡を受けて、あの訴訟に関わることになりました。ステラと面会し、資料に目を通したところ、実に興味を持ちました。なぜなら問題のコーヒーの温度は非常に高かったからです。車通勤をする人が家からオフィスまで車を走らせた時のラジエータと同じくらいの温度でした。その証拠となったのが企業が各店舗に配布しているマニュアルでした。コーヒーに使うお湯の温度を規定していますが、こう書かれていたのです。”お湯の温度は82℃から87℃を保たねばならない”と。」
ステラの担当医 デヴィッド・アレドンド「コーヒーに限った話しではありませんが、82℃以上の液体がわずか2〜3秒でも皮膚に触れていれば非常に深刻な熱傷を引き起こすでしょう。表面だけのダメージにとどまれば運がいいほうです。通常は皮下組織にまでおよぶ熱傷になり、皮膚移植や手術が必要になります。」
マクドナルドは、過去700件以上やけどの苦情を受けていたことが裁判で明らかになった。
陪審員「1983年1月から92年3月までに会社には700件以上のやけどの報告が寄せられています。これは驚きではない?」
マクドナルド品質管理グループ責任者 クリス・アップルトン「何とも言えません。もっと多くなくて良かったです。その点は喜ばしいです。」
陪審員 マージョリー・ゲトマン「あまりの無関心ぶりに呆れました。たとえけがをしたのが1人だったとしても、対策をとるのが当然でしょう。声をあげる人が1人いるならもっと多くの被害者がいるに違いないのですから。危険な温度と知りながら彼らは何の対策もしようとしなかったのです。」
陪審員「コーヒーをごくりと飲み込むとします。82℃から87℃ではやけどしますよね」
クリス・アップルトン「お勧めしませんね」
マクドナルドはこの番組の取材を拒否した。
陪審員 ベティ・ファーナム「私たち陪審は、ステラ・リーベックの過失とマクドナルドの過失の割合について考えました。最終的にステラ・リーベックには20%の過失があったと判断しました。コーヒーをこぼしたのは彼女自身ですから。そしてマクドナルドの過失を80%としました。コーヒーでやけどをした客が大勢いることを知りながら、ささいな問題だと黙認していたことがはっきりしたからです。彼らはコーヒーの売り上げだけを重視して金儲けを続け、まったく問題を改善しようとしてきませんでした。個人的にはやけどの苦情を会社側が記録していたのが決め手になりました。問題を把握しながら放置していたことは明らかでした。消費者の安全など気にも止めていなかったのです。」
陪審はマクドナルドに
補償的損害賠償 16万ドル
懲罰的損害賠償 270万ドル
を命じた。
陪審員 ベティ・ファーナム「懲罰的損害賠償額を決めるに当たって、私たちはコーヒーの売上高に目を向けました。売上高の2日分が妥当だろうと考えて270万ドルを産出したのです。」
ジョアン・ドロショー「この損害賠償は重い過失をおかした側に今後の改善を促すもので、めったに命じられることはありません。」
ベティ・ファーナム「大企業を戒める唯一の方法は懲罰的損害賠償を科すことです。私たちは比較的少ない額を算定したつもりでした。」
裁判官は懲罰的損害賠償を48万ドルまで減額したが、マクドナルドの怠慢に言及。ステラとマクドナルドは最終的に非公開の金額で和解した。
ベティ・ファーナム「私たちが算定した損害賠償額は確実に世間の注目を集めたでしょう。残念ながら好意的なものとは言えませんでしたが。」
♪『訴えてやる』 アル・ヤンコビック
ドリンクを膝にこぼしちゃった ああ冷たい 訴えてやる! 訴えてやる! 訴えてやる!
ステラの代理人 ケン・ワグナー「あの裁判はビジネス界にとって痛手になるはずでした。ところが彼らはマスメディアを利用し、不利な状況を一転、有利な状況に変えました。ステラ・リーベックと陪審団を世間の笑い者にしたのです。あの表決はニューメキシコ州の12人の実直な市民が全員一致で下したものでした。しかしメディアは巧みにその意図をねじ曲げ、ステラ・リーベックのような人達が司法制度を悪用し、金儲けをしているかのように報道したのです。」
ジャーナリスト ステファニー・メンシマー「この裁判は『不法行為法改革(Tort Reform)』を目指す団体にとっては格好の材料でした。」
ステラの娘 ジュディ・アレン「『不法行為法改革(Tort Reform)』という言葉は聞いたことはありましたが詳しい内容までは知りませんでした。」
中年女性「”tort"の意味? お菓子でしょ?」
中年男性「企業に投入される公的資金のことでしょう。」 中年女性「それは”TARP"よ。」 中年男性「"tort"だよ。」
中年男性「知らないな」
「パブリック・シチズン」元代表(消費者団体) ジョーン・クレイブルック「これは不法行為を意味する言葉で、法的権利の侵害を意味します。」
老夫婦「”不法行為法改革”?」
インタビュアー「ご存知で?」
老夫婦「いいえ」
中年男性「訴訟手続きに関する運動でしょう。簡単にするのか、複雑にするのか知らないけど。」
ジョーン・クレイブルック「不法行為法改革というのはビジネス界が盛んに広めようとしている用語で、個人が訴訟を起こす可能性を抑えようとするものです。」
「正義と民主主義のためのセンター」所長 ジョアン・ドロショー「基本的に市民が法的手段に訴える権利を制限する法律です。」
「テキサス・ウォッチ」代表(消費者団体) アレックス・ウィンスロー「私は不法行為法改革という言葉を使いたくありません。実際にはこの運動の内容を正確に表しているとは思えないからです。」
不法行為法改革協会 法律顧問 ヴィクター・シュワルツ「ラルフ・ネーダーはこれを”不法行為法改悪”と呼んでいます。しかし70年代以降、司法システムはあまりにも原告側に有利に働いてきました。その制度を変えようというのですから改革という言葉は適切だと思いますよ。」
ジョーン・クレイブルック「不法行為法改革法案は、まず連邦議会の通過を目指しました。その際、推進派が説得の材料に利用したのが ”ホットコーヒー裁判” でした。損害賠償額に上限を設ける法案を通すため、ビジネス界は大々的なキャンペーンを打ちました。企業を訴える人間は異常だという偏見を植え付け、陪審をはじめ議員たちにも影響を及ぼそうとしたのです。」
ワシントン大学 政治学教授 マイケル・マッキャン「公聴会では不法行為法改革を正当化するため、ホットコーヒー裁判が頻繁に引き合いに出されました。あの有名な裁判が不法行為法改革の必要性を示している、というのが推進派の主張でした。」
共和党下院議員 ジョン・ケイシック「女性がコーヒーでやけどしただけで訴訟で多額の和解金を得た。この事例が法案の必要性を物語っています。」
ジョーン・クレイブルック「法案は上院を通過しましたが、大統領が拒否権を発動しました。」
クリントン大統領のスピーチ「この法案は難解かつ複雑で抜け穴が各所に見られる。何より罪のない市民に多大な不利益を及ぼしかねない。」
弁護士 ポール・ブランド「そこで企業側は次の作戦に移りました。今度は州議会に働きかけ、個人の権利や救済策を制限する法案を可決させようとしたのです。」
ジョーン・クレイブルック「広告代理店を使って多くの州で積極的なプロモーションを展開しました。」
TVのCM「マクドナルドを訴えた女性に290万ドルの賠償金。訴えた理由は『コーヒーが熱過ぎる』。馬鹿げた裁判のツケは市民に回ってきます。もうごめんだと州議会に訴えましょう。」
ジョアン・ドロショー「運動の先頭に立ったのはアメリカ不法行為法改革協会、通称 ATRA でした。」
ヴィクター・シュワルツ「これは数百の企業や大学からなり、私は法律顧問を勤めています。私たちが目指すものはアメリカの司法制度を公正かつバランスのとれたものにすることです。」
ジョアン・ドロショー「1986年およそ300の企業が集まって協会を立ち上げました。メンバーは保険会社、化学メーカ、石油・ガス会社、製薬会社など全米規模で運動を展開し、企業の責任を制限する法案作りを訴えました。『訴訟濫用に反対する市民』という団体も立ち上げました。広告代理店を使い、一般の市民が自発的に立ち上げたかのように見せかけたのです。」
ジャーナリスト ステファニー・メンシマー「一見、草の根から生まれた団体のようですが、メンバーに一般市民は含まれず、広告代理店が運営していました。」
ジョアン・ドロショー「運動資金のほとんどはタバコ会社が提供していました。タバコマネーがワシントンD.C.にある法律事務所を経由して全米各地の関連団体に流れていたんです。」
不法行為法改革協会 法律顧問 ヴィクター・シュワルツ「マスコミや政治家、不法行為法改革の推進派が事実を歪曲しているという指摘があります。確かに根拠に欠けた話しが繰り返し引用されたことはありますが、意図的なものだったとは思えません。」
レーガン大統領のスピーチ「ご存じかもしれませんが、ひとつ事例を挙げます。カリフォルニア州の男性が電話ボックスに入ったところ、飲酒運転の車がボックスに突っ込んできました。男性が訴えるのは当然ですが、問題はその相手です。彼は電話会社とその関連会社を訴えたのです。」
「パブリック・シチズン」元代表 ジョーン・クレイブルック「その電話ボックスは交通量の多いロサンゼルスの交差点にありました。男性は車に気付いて逃げようとしましたが、ドアが開かなかったんです。過去にも何度か同じような事故が起きていて、設置場所が悪いのは明らかでした。そのうえドアが開かなかったことから、管理不充分だと指摘されました。男性は片足を切断する大けがを負いました。」
ステファニー・メンシマー「少なくとも大統領がユーモア交じりに話すような事故ではありませんでした。ジャーナリストという立場から言えば私たちは事件を正確に伝え切れていません。不勉強なために広告代理店の策略にまんまとはまってしまったんです。」
ヴィクター・シュワルツ「芝刈り機で生け垣を刈ってしまったといって訴訟を起こした人の話もありましたが、それは事実ではありません。こうしたデマが横行したのは確かです。」
消防士が出演したTV CM「私は消防士として働きたい。過度の訴訟は職務の妨げです。あなたの命を救いたい。」「訴訟制度の濫用を防ぎましょう。」
ダラス・モーニング紙 ウェイン・スレイター「表向きには財界人や企業家、コミュニティが自発的に立ち上げた組織のように見せながら、実はワシントンの息がかかった団体がいくつもありました。政治コンサルタントのカール・ローヴをはじめ、不法行為法改革が実現すれば得をするであろう人達が裏で糸を引いていたのです。」
ジョージ・ブッシュの市民を前にしたスピーチ「訴訟を滞らせ製造業を脅かすそんな訴訟は阻止すべきだ。」(拍手)
「テキサス・ウォッチ」代表 アレックス・ウィンスロー「テキサス州の知事に立候補したジョージ・ブッシュは、カール・ローヴの助言を受け入れ、不法行為法改革を公約に掲げるようになりました。」
「正義と民主主義のためのセンター」所長 ジョアン・ドロショー「ローヴは90年代初め、フィリップ・モリスの法律顧問をしていました。」
ステファニー・メンシマー「ジョージ・ブッシュに仕えるとともに同時にタバコ業界とのつながりも保っていたのです。」
「公正正義のためのテキサス人」代表(行政監視グループ) クレイグ・マクドナルド「ローヴはブッシュを勝たせるために不法行為法改革の推進をアピールさせ、企業の支持を取付けようとしました。」
「テキサス・ウォッチ」代表 アレックス・ウィンスロー「ブッシュが知事に当選すると、万事休すでした。テキサス州は保険会社や医療機関など業界側の要求に次々と応え始めたのです。」
ジョージ・ブッシュのスピーチ「懲罰的損害賠償額に上限を定めるこの州法は、州の経済に貢献するだろう。」(拍手)
ステファニー・メンシマー「ブッシュは大統領になってからも知事選で自分を支持した人達の期待通りに突っ走りました。」
2002年 一般教書演説 ブッシュ大統領「訴訟で病気は治らない。医療責任改革法案の可決を要請する。」(大きな拍手)
2005年 一般教書演説 ブッシュ大統領「無責任な集団訴訟や賠償請求が経済の足かせとなっている。司法システムの改革を議会に要請する。」(大きな拍手)
2006年 一般教書演説 ブッシュ大統領「訴訟が医師の不足を招き産婦人科医がいない郡は1500にも上る。医療責任改革法案の可決を議会に要請する。」(大きな拍手)
ステファニー・メンシマー「彼は不法行為法改革の騎士としての役割を見事に演じました。」
ブッシュ大統領のスピーチ「優秀な医師が離職しています。多くの産婦人科医が女性たちに貢献できないのです。」「誰も彼もが訴える社会。アメリカには訴訟が多すぎる。」
カリフォルニア大学 神経言語学教授 ジョージ・レイコフ「ある問題を理解するためのキーワードがあって、それが何度も繰り返された場合、脳の回路に変化が生じます。その言葉と問題とが強く結びつき、完全に固定化してしまう場合もあるのです。」
ブッシュ大統領のスピーチ「私は同じことを何度も繰り返します。真実として浸透させ、主張を遠くまで飛ばすために。」(拍手)
「正義と民主主義のためのセンター」所長 ジョアン・ドロショー「こうしたメッセージの影響を受けた人達は賠償責任などに上限を設けるよう、地元の議会に圧力をかけ始めました。ですから法案が可決した州では推進派のアピールが功を奏したといえるでしょう。」
証拠物件2 損害賠償額の上限 コリン・グーリーの事例
オハマ(ネブラスカ州)養護施設 教員「16歳のお祝いだからロウソクを16本立てるの。こっちが上、逆さまね。ここを持ったまま差してみて。好きなところに。」
コリン・グーリーはロウソクの立て方が分からない。ケーキの上にロウソクを落としてしまう。
コリンの母 リサ・グーリー「不法行為法改革のことも、ネブラスカ州で損害賠償額に上限があることも知りませんでした。」
中年男性A「『損害賠償額の上限』は権利の濫用を防ぐ制度だと思う。僕たちには訴訟を起こす権利があるが、それが悪用されないように規制する必要もある。つまりおおやけに監視するための制度だ。」
中年男性B「違うよ。例えば配偶者が肺がんで死んだとき、タバコ会社からもらえる賠償金に限度があるってこと。医者を訴えるときもだ。」
中年男性A「つまり悪用をを防ぐためだろ?」
「正義と民主主義のためのセンター」所長 ジョアン・ドロショー「損害賠償額に上限を設ける制度は、不法行為法改革のもっとも一般的な例だといえます。何らかの被害にあって裁判で勝っても相手からもらえる賠償金が一定の額以下に限られてしまうのです。」
オバマ大統領のスピーチ「私は医療過誤の賠償額制限に賛成しません。被害者に不利益になる危険があるからです。
リサ・グーリー「私は一卵性の双子の男の子を妊娠して、36週目に入っていました。定期検診の前の日でした。夜ベッドに入ったとき、何かおかしいと感じたんです。いつもなら私が横になると赤ちゃんは元気に動くのに、その時はとてもおとなしくて不安になったので、翌日の定期検診で担当医師にそのことを相談しました。でも赤ちゃんの心音を聴いて正常ですと言われました。何も問題ないですよと。その言葉を聞いて私はすっかり安心してしまったのです。」
担当医師は胎盤が2つあると診断したが、実際には1つだった。
リサ・グーリー「赤ちゃんが双子で胎盤が1つしかない場合は、リスクが高くなります。胎盤の数を見極めることはとても大事なことなのです。不安を感じて医師に相談したとき、その場で超音波検査とストレステストを受けるべきでした。そうすれば双子の1人に栄養のすべてがいってしまっていて、もう1人には何も届いていない状態だと分かったはずですから。次の日とその次の日も様子を見てみましたが、赤ちゃんの動きはだんだん弱くなるばかりで、本当に不安になりました。それで病院に電話し、別の医師の診察を受けました。超音波検査を受けると赤ちゃんの心拍がとても遅くて今にも止まってしまいそうでした。医師に言われました。赤ちゃんの1人は羊水が足りない状態だ。すぐに分娩を始めなければと。」
リサは別の病院に搬送された。通常なら10分以内に緊急帝王切開手術が行なわれるべきケースだ。しかし、双子が取り出されたのは2時間後。コリンはその間、酸欠状態が続いた。
リサ・グーリー「生まれてきたコリンの脳には重い障害がありました。」
コリンの父 マイク・グーリー「病院は酸素不足のせいだろうと繰り返すばかりで、どうしてそんなことになったのか原因を説明してくれませんでした。ですから私たちは質問を繰り返し、回答を求め続けてきました。双子の1人は完全な健康体で、もう1人は脳に重い障害を負って生まれてきたのですから、当然なにか問題があったはずです。」
グーリー夫妻が訴えた医師は過去に2度、医療過誤で訴えられていました。医師は1987年と89年に骨盤手術の失敗で訴えられ、両件とも公表されず、和解で決着しています。
マイク・グーリー「コリンの障害は胎盤からの血流が阻害されたせいだと明らかになりました。5分から8分間、酸素が供給されず、脳がダメージを受けたのです。」
リサ・グーリー「今思えばあの待ち時間が運命の分かれ道だったのです。すぐに分娩をしてくれさえすれば、こんなことにはならなかったのです。看護師たちの話によると、手術室の準備は整っていたのに医師がその場にいなかったそうです。色々なことを考えます。どうして異常を訴えたときに超音波検査をしてくれなかったのか。あれから3年ほど繰り返し考えました。なぜ検査してくれと頼まなかったのかと自分を責め続けました。ずっとです。とにかくあの時に戻ってやり直したい。あの事故は防げたはずなんですから。」
マイク・グーリー「賠償金は600万ドルが妥当だと言われました。それだけあればコリンが介護を一生受けるのに十分だろうと。」
陪審は医師側の過失を認め、560万ドルの賠償を命じた。しかし、ネブラスカ州では損害賠償の上限が定められているため、夫妻が実際に受け取ったのは125万ドルだった。
アラバマ州最高裁 元判事 ラルフ・クック「陪審員の多くは損害賠償額に上限があることを知りません。陪審員が限度を上回る賠償を命じた場合、どうなるかというと、後で裁判官が定められた上限まで減額するのです。つまり、公正で妥当な賠償額を決定する権利が陪審員から奪われていることになります。
2007年5月 議会にて ブレイリー下院議員「『法廷での決定者は陪審であり、法の制定者ではない』とある。民事裁判での重要な決定事項のひとつは、被害者が受け取る損害賠償額だ。異論はないですね?」「ええ」「ではなぜ全米商工会議所は大金をかけアピールするのか。『我々議員のほうが人間の命やけがの対価について市民よりも詳しいのだ』と。市民は憲法に基づき陪審員席に座っているのです。」
リサ・グーリー「ネブラスカ州ははじめ賠償額に上限を設けることに反対でした。市民が陪審裁判を受ける権利を侵害するものだ、憲法違反だと。でも医師や保険会社が州の最高裁まで上訴して憲法違反ではないという判決が下ったのです。」
ネブラスカ州 医療協会 ピーター・ウィッテド「私はネブラスカ州の不法行為法改革問題に携わってきました。医療機関や賠償金を支払う保険会社の代表としてです。ネブラスカ州では財産的損害か精神的損害かに関わらず、損害賠償の額に上限を設けています。」
ペンシルバニア法科大学院 保健学教授 トム・ベイカー「懲罰的賠償額を制限する州、精神的賠償額を制限する州、そしてごくわずかですが損害賠償の総額を制限する州もあります。財産的損害賠償とはかかった医療費や損害を補償するものです。一方、精神的賠償は痛みや苦しみなどお金に換算しづらい損失に対するものです。」
ブッシュ大統領のスピーチ「精神的損害賠償にはルールが必要だ。上限を25万ドルとするよう提言した。」(大きな拍手)
ピーター・ウィッテド「精神的損害に対して25万ドルという上限は妥当なものだと思います。これは感情に左右されるたぐいの損害で判断が難しいからです。」
ペンシルバニア法科大学院 保健学教授 トム・ベイカー「原告の苦しみを少しもくみ取ろうとしない一方的な金額設定です。被害の状況によってはまったく不充分となる恐れがあります。」
「正義と民主主義のためのセンター」所長 ジョアン・ドロショー「失明したり、身体が不自由になったり、身体の一部を失ったり、生殖機能に障害をきたした場合、経済面以外の損失について充分な補償を受けることは当然のことです。」
マイク・グーリー「息子たちは一卵性の双子なのにまったく違います。コナーはごく普通の男の子です。たくましく成長し、野球やサッカーをして遊んでいます。でもコリンのほうは。最初に手術をしたのは1歳の時でした。目の手術をしたんです。」
リサ・グーリー「脳の障害で視神経に異常が見つかって。」
マイク・グーリー「だからコリンはあまり目が見えません。2歳の時には特別な治療を受けるようになりました。集中的に訓練を受けるようになって顔を上げられるようになったし、支えなしで座っていられるようになりました。でも成長につれ、知的障害のあることがはっきりしました。」
リサ・グーリー「曜日も分からなかったのです。」
マイク・グーリー「陪審はコリンの症状を聞いて560万ドルの賠償金を妥当だと判断しました。それだけあれば私たちが死んだ後のことも心配いらなかったでしょう。コリンが一生介護を受けることができる額でしたから。ところが賠償額の上限の問題が出てきて、勝手に金額を決められ、そこから弁護士費用と医療費を払うよう言われました。残ったのは数十万ドルです。この額では公的な医療制度を利用しなければやっていけません。その費用を負担するのは一般の納税者なのです。」
ジョアン・ドロショー「これは倫理的な問題でもあります。過失を償うための賠償に上限ができるということは、大企業や医療機関の責任が軽くなることにつながるからです。」
2003年5月 TVニュース「ネブラスカ州医療協会は州最高裁の判決を歓迎。これは医療費の削減にもつながると語りました。」
医師の平均保険料(2008年)
賠償額に上限がある州 46,336ドル
賠償額に上限がない州 45,449ドル
トム・ベイカー「損害賠償額の制限と医師が払う保険料額に関連性はありません。」
アメリカ保健・福祉省 ジェイ・アンゴフ「賠償額に上限が設けられたことで、保険会社が支払う保険金は少なくて済むはずです。しかし、浮いたお金を契約者に還元しなければならないという決まりはないのです。」
マイク・グーリー「保険会社が丸儲けしているのです。医師から多額の保険料を得る一方で莫大な保険金を払う必要は無くなったんですから。」
ジョアン・ドロショー「保険協会はこう反論しています。『保険料が高額なのは自分たちのせいではない。陪審や弁護士や訴えをおこす人が悪いのだ』と。
ブッシュ大統領のスピーチ「陪審が命じる多額な賠償金は私たちの負担となり、医療制度のコストを押し上げている。」
テキサス州医療費増加率(対全米平均)
不法行為法改革前 0.44%
不法行為法改革後 1.40%
「テキサス・ウォッチ」代表 アレックス・ウィンスロー「訴訟のせいで医療費が高くなっているというのが彼らの理屈です。それが本当なら賠償金が制限され、医師や病院の責任が軽減されることになった2003年以降、テキサス州の医療費は下がっていなければおかしいでしょう。ところがテキサス州で患者の権利が制限された後も州の医療費の増加率は全米を上回っているのです。彼らの理屈は矛盾しています。」
マイク・グーリー「賠償金が制限されてしまったことで、私たちの家庭がどれほどの打撃を受けたのか、色々な思いがあり過ぎてうまく説明できそうにありません。コリンは自立することはできないし、仕事につくこともできません。大学にも行けないし、自分の家庭を持つこともできません。一生ほかの人の助けを借りるほかないんです。賠償金が減らされたことでコリンの未来が見えなくなってしまいました。私たちが死んでしまったら残されたあの子がどういう境遇に置かれるか、まったく分からないのですから。もしこれがあなたの子供だったら自分が死んだ後のことは州にまかせておけと思えますか。私はわが子をそんな不安定な状況に置きたくはありません。コリンの将来が心配です。賠償額に上限を設けることの悪影響はこんな形で起きているんです。」
元ジョージア州裁判官推薦委員 ケネス・キャンフィールド「こうした制限は憲法が保障している市民の権利の侵害にあたります。ですから当然法廷で異議がとなえられる可能性があります。そこでビジネス界は自分たちに有利となる新しい法令を守るため、州の最高裁をコントロールしようと考えました。つまり企業側にとって都合の悪い裁判官を法廷から締め出すことしたのです。」
証拠物件3 裁判官選挙 オリヴァー・ダイアズの事例
ジャクソン(ミシシッピ州)オリヴァー・ダイアズ「ここにあるのはジョン・グリシャムの本です。2年前、『謀略法廷』という小説に取り掛かったグリシャムから連絡を受けました。細かい描写をするにあたって私の話を聞かせてほしいと。私の実体験と重なるストーリーです。ミシシッピ州最高裁の裁判官が再選を目指して出馬するんですが、他の州から進出した大企業グループから攻撃を受けます。法廷を自分たちに有利な場にしようと画策するんです。」
プロスペリティ・アジェンダ」代表(消費者団体) ケヴィン・ジーズ「議会は消費者の権利を制限する法律について検討を行ないました。そして法廷での判断にゆだねたところ、国中で違憲だという見解が出始めました。」
「パブリック・シチズン」元代表 ジョーン・クレイブルック「そこでビジネス界は法律が憲法違反かどうか判断を下す裁判官を保守的で企業よりの人間にしようと考えたんです。」
「プロスペリティ・アジェンダ」代表(消費者団体) ケヴィン・ジーズ「政治コンサルタントのカール・ローヴは、全米商工会議所と連携し、各州の裁判官選挙に影響を及ぼそうとしました。どの州が重要かを決め、年に何千万ドルも投じてキャンペーンを展開しました。」
「ダラス・モーニング」紙 ウェイン・スレイター「80年代の半ばから終わりにかけ、カール・ローヴが接触してきました。当時ローヴはテキサス州裁判官候補の代理人を務めていました。彼は共和党の候補者を何人も当選させました。ネットワークと豊富な資金が強い武器になったのです。こうしてビジネス界は自分たちに有利な判決を下してくれる裁判官を手に入れました。90年代のテキサス州では不法行為法改革を支持する裁判官たちが大企業に圧倒的に有利な判決を下すようになっていきました。」
カール・ローヴは取材を拒否した。
行政監視グループ クレイグ・マクドナルド「この戦略を他の州にも広げたんです。」
ケヴィン・ジーズ「企業にとっては実に割りのいい献金です。10万ドルを支援した候補が当選すれば、将来100万ドルの見返りが期待できるのですから。」
元アラバマ州最高裁主任裁判官 ソニー・ホーンズビー「こうした動きが多くの州で盛んになりました。この結果、数百万ドルの賠償を命じた陪審判決が最高裁で覆されることがかつてないほど増えました。」
2010年1月
オバマ大統領の議会演説「連邦最高裁が歴史ある法律を覆した結果、特定の利益団体の資金が際限なく選挙に流入する。」(拍手)
2010年 連邦最高裁の判断により、企業からの選挙運動への献金が無制限化。企業の影響力拡大が懸念される。
元ミシシッピ州最高裁裁判官 チャック・マクレー「ミシシッピ州最高裁の裁判官は9人ですから5人を取り込めば多数派になります。常に企業や医療機関の味方をする裁判官が5人いればそれで法廷の改革は完了です。不法行為法改革そのものよりも深刻な脅威です。これがカール・ローヴのそして全米商工会議所のやり口なのです。ミシシッピのように小さくて資金も乏しいような州を制するのは簡単だったでしょう。全米商工会議所が送り込んだ候補者のうち、落選したのはたった1人でした。その1人を打ち負かしたのがオリヴァー・ダイアズだったのです。」
『謀略法廷』著者 弁護士 ジョン・グリシャム「『謀略法廷』はフィクションです。しかし事実でもあるのです。ミシシッピ州最高裁裁判官の地位を金で買う話しです。オリヴァーは私の友人でしたからあのひどい事件は他人事ではありませんでした。」
オリヴァー・ダイアズ「私はミシシッピ州のビロシキで生まれました。大学のロースクールを卒業した後、地元で事務所を開きました。1987年にミシシッピ州の下院議員に選ばれ、政治家になりました。」
ダイアズはミシシッピ州控訴裁裁判官を務めた後、2000年に州最高裁裁判官の選挙に臨んだ。
オリヴァー・ダイアズ「全米商工会議所は自分たちに有利な判決を下す裁判官を選ばせようとしていました。そこで2000年の選挙では企業寄りでない私を落選させようとネガティブキャンペーンに金をつぎ込んだのです。」
当時のTV CM「麻薬事件の有罪判決を覆そうとしたダイアズ氏に判断は任せられません。」
当時の候補者討論会にて
オリヴァー・ダイアズ「私を個人攻撃するテレビCMが流され続けています。」
ダイアズの対立候補 キース・スタリット「これは事務所の品位を落とす行為であり、放送を中止すべくすでに対応済みです。」
オリヴァー・ダイアズ「全米商工会議所は私の対立候補であるキース・スタリットを支援するため、100万ドル以上投入したと思います。でもスタリットはその金を選挙資金報告書に載せていないのです。」
ダイアズの妻 ジェニファー・ダイアズ「全米商工会議所と聞けば地方の商工会議所の全米版みたいなものをイメージするでしょうが、実態はそんなものではありません。」
街頭インタビュー
”全米商工会議所”とは?
20代の女性「政府と関係あるものかな」
初老の女性「政府機関とか・・・。よく知らないけど。」
20代の男性A「そうだな多分・・・。何かの管理をしてるんだろう。」
その友人「アメリカじゅうの貿易を管理しているとか?」
全米商工会議所は会員制の民間機関。企業のためのロビー活動を行なう団体としてはアメリカ最大である。資金源は未公表だが医療・石油・タバコ・航空機産業など、大企業の役員が理事に名を連ねている。
ジョアン・ドロショー「全米商工会議所は不法行為法改革の推進に大きな役割を果たしています。裁判官選挙への資金投入もその1つです。」
ジョン・グリシャム「これが選挙の実態です。病院や製造業者、保険会社が全米商工会議所に資金を提供。企業寄りの候補者を支援します。一方、対立候補の支援者は法廷弁護士くらいで、法廷弁護士は企業寄りの裁判官が選ばれたら大変なことになると分かってます。」
ジェニファー・ダイアズ「私たちは選挙資金法にしたがって活動しました。資金の出所を明確にし、金額の上限に違反しないよう気をつけていました。」
チャック・マクレー「法廷弁護士からの献金が5000ドルを超えた場合、裁判官はその弁護士の訴訟を扱えない決まりになっています。一方、商工会議所からの資金は団体献金としてひとまとめにされ、献金元は確認できません。」
ケヴィン・ジーズ「全米商工会議所は資金団体を通して献金します。『強いオハイオのための市民』など、市民団体らしき看板を掲げてはいますが、実態は企業グループが立ち上げた団体なのです。」
全米商工会議所 会頭 トム・ドナヒューのスピーチ「次の裁判官選挙と州司法長官の選挙には1900万ドルを投入する。」
全米商工会議所は我々の取材を拒否した。
ジェニファー・ダイアズ「夫へのネガティブキャンペーンには大金がつぎ込まれました。ローカルテレビでは夫を攻撃するコマーシャルが15分おきに流されたんです。札束を見せて『ダイアズは買収されている』などというのもありました。」
当時のTV CM「人身事故専門の弁護士はダイアズに10万ドル以上を献金。」
ジェニファー・ダイアズ「ある朝、娘がやったーと喜んでいるのでどうしたのと聞きました。コマーシャルで父の名前と札束が映ったのを見て、うちはお金持ちになったんだと思ったんですって。」
元ジョージア州裁判官推薦委員 ケネス・キャンフィールド「彼らの常套手段は敵対する裁判官が犯罪に弱腰であることを見せることです。過去にその裁判官が下した判決を取り上げ、それが不適切だったとゆがんだ解釈を加えておとしめます。そして大金をかけてそのメッセージを有権者に広めるんです。テレビの力が選挙結果に与える影響というものは大変なものです。ほとんどの場合、最も多くのお金をテレビコマーシャルに費やした候補者が選挙に勝つのです。」
選挙で決着がつかなかったため、ダイアズとスタリットの間で決選投票が行なわれることになった。
ジェニファー・ダイアズ「決選投票を2週間後に控えて大変なことが分かりました。全米商工会議所がミシシッピ州のジャクソンからビロシキまでほぼすべてのコマーシャル枠を買い占めていたのです。」
オリヴァー・ダイアズ「私たちは選挙資金の工面のため、借金をしました。でも銀行は選挙で負けが予想される候補者には金を貸したがらないものです。返済能力のある連帯保証人が必要でしたが、親友の弁護士 ポール・ナイナーがそれを引き受けてくれました。彼のおかげで全米商工会議所のコマーシャル戦略を相手に戦うことができました。」
当時のTV CM オリヴァー・ダイアズ「スリット側が私の経歴を歪曲している。中傷には断固反論する。」
ジェニファー・ダイアズ「私たちは何とか選挙に勝つことができました。お祝いしながらなんて素晴らしい日だろうと思いました。実はあの日が私たちの人生で最悪の日々の始まりでした。」
オリヴァー・ダイアズ「連邦検事の捜査が入りました。ポール・ナイナーが連帯保証人になってくれたローンが賄賂にあたると言われたのです。おかしな話です。ポールが担当する訴訟を私がひいきしたり、根拠になる事例があるなら分かりますが、友人だからといって有利になる判決を下したことなど一度もなかったのですから。」
ジェニファー・ダイアズ「その年の夏、夫は起訴されてそこからは坂道を転げ落ちるようでした。思わず夫を問いただしました。私に隠していることがあるんじゃないのって。連邦刑務所に100年以上入ることになるほどたくさんの罪に問われたからです。」
当時のTVニュース「ダイアズは起訴内容を事実無根と主張するも本件の解決まで休職を余儀なくされます。」
オリヴァー・ダイアズの弁護人 ロバート・マクダフ「ダイアズ氏が起訴された背景には政治が動いていた可能性があり、不法行為法改革派の思惑があったんじゃないでしょうか。彼らは消費者寄りの判決を下すことの多い裁判官を最高裁から排除しようとしたんでしょう。この起訴には根拠となる証拠が何もなかったのですから。」
インタビュアー「ダイアズさんは政治的な理由で起訴されたと?」
作家 元弁護士 ジョン・グリシャム「もちろん、疑う余地はありません。」
ジェニファー・ダイアズ「私たちは政治の標的にされたんだと思いました。後になって他の州でも選挙に勝った裁判官や活躍中の裁判官が何人も同じような目にあっていることを知りました。」
オリヴァー・ダイアズ「裁判が始まってから3ヶ月後、陪審はすべての訴因について無罪の評決を下しました。ところが裁判が終わってわずか3日後、今度は脱税容疑で起訴されたんです。ようやく解放されたと思った矢先でした。この裁判には1週間かかりました。最後に陪審員が評議し、今回も完全に無罪の評決が下りました。それでようやく最高裁の裁判官として復帰することができましたが、3年近くも職務を離れざるを得ませんでした。つまり彼らは選挙で私を蹴落とすことができなかったから私を起訴し、裁判にかけたのです。そうして私の評判を徹底しておとしめ、2度とミシシッピ州最高裁の裁判官に選ばれないよう仕向けたのです。」
ロバート・マクダフ「企業寄りの裁判官が大勢当選して何年も居座ったせいで裁判のあり方は大きく変わってしまいました。」
ジャーナリスト ステファニー・メンシマー「ミシシッピ州では原告側を支持する判決が2年間下されませんでした。たとえ陪審員が原告を支持しても裁判所がそれを却下したからです。」
2008年、ダイアズは再選を目指す。全米商工会議所は再び対立候補に数百万ドルを投じた。ダイアズは敗れた。
ロバート・マクダフ「起訴されたという事実がダイアズ氏の汚点になり、きっと悪いことをしたんだろうと思い込む人もいました。そのせいで彼は再選を果たせなかったのです。」
オリヴァー・ダイアズ「資金集めにも大きく影響しました。前回の選挙の時の4分の1の額しか集まらなかったのです。」
不法行為法改革協会 法律顧問 ヴィクター・シュワルツ「現時点で裁判官選挙には数百万ドルがつぎ込まれています。10年後にはさらに10倍の額に増えるでしょう。こういうやり方は賢明ではないと思います。」(ニヤリとする)「でもそれが財界の常識です。」
全米商工会議所(ワシントンD.C.) ”法制改革 年次サミット” 続々と人が集まってくる。
インタビュアー「今日はなぜここに?」
オクラホマ商工会議所会頭 リチャード・ラッシュ「賞を受けるためです。私はオクラホマ州で民事裁判改革法を可決させ、我が州の企業を訴訟から守りました。」
「つまり?」
「くだらない訴訟を排除できます。」
「訴訟が多い?」
「ええ、そのせいで医療機関や企業のコストがかさんでいます。アメリカで操業している企業を被害から守るべきです。」
「誰が悪いと?」
「訴訟で儲けようとする人々です。」
「市民に利益は?」
「もちろんあります。くだらない訴訟の増加は物価や医療分野にも悪影響を及ぼしています。改革が必要です。」
「ご職業は?」
「弁護士です。」
「どちらの?」
「社内弁護士です。製薬会社。」
エモリー大学 ルービン教授「訴訟が多すぎます。」
「訴訟が減ると得をするのは?」
「皆です。法廷弁護士以外ね。」
「訴訟を起こす権利を市民から奪うのでは?」
「製品を買うとき契約書にサインするようになれば消費者の権利は明確にできる。
「”強制的仲裁条項”もその一例ですか?」
「ええ、あれは有益です。」
ノースウェスタン大学 プレッサー教授「問題を解決するのに訴訟が最良の手段とは限らない。仲裁条項など他にも方法は色々あります。急ぐので失礼しますよ。」
証拠物件4 強制的仲裁条項 ジェイミー・リー・ジョーンズの事例
ヒューストン(テキサス州)朝の食卓 夫婦の会話 妻が幼児に食べさせている。
ジェイミー・リー・ジョーンズ「雇用契約書にサインする前は、強制的仲裁条項という言葉を聞いたことはありませんでした。イラクの復興事業を手伝いたくてハリバートンという会社と契約したんです。病気の母のために治療費が必要だったし、イラクで危険な目にあう確率は自動車事故にあう確率より低いと言われて、私はまだ19歳だったので素直にその言葉を信じてしまいました。」
議会にて アル・フランケン上院議員「4年前、19歳のジョーンズさんはハリバートンの元子会社KBRと契約。契約書には以下の条項がありました。『会社と争いが生じた場合は仲裁により解決する』。不当な扱いを受けても訴訟を起こせないのです。」
若い女性「”強制的仲裁条項”? 何か訴訟に関係あることじゃない? よく知らないけどたぶん裁判関係。」
若い男性「分かる? 単語は知ってるけどね。」
「パブリック・シチズン」(消費者団体)元代表 ジョーン・クレイブルック「企業は人々を法廷から遠ざけるために、法廷ではなく仲裁で問題を解決するという項目を雇用契約に書き込むんです。」
弁護士 ポール・ブランド「私たちの法律事務所もこの問題に関連するトラブルをしょっちゅう受けるようになりました。相談に来る人は契約書に小さな文字で書かれた条項を知らずに署名していて、私たちが説明してはじめて気づきます。あなたは会社を訴えないと約束してしまっていて、この問題の解決を仲裁人にゆだねなければならない。しかもその仲裁人はあなたに不利益をもたらした企業サイドの人間なのですと。」
「テキサス・ウオッチ」(消費者団体)代表 アレックス・ウインスロー「誰もが自分はそんな契約とは無縁だと思っています。そこで私はこう訊くんです。ではあなたは携帯電話は持っていませんか。クレジットカードは。」
インタビュアー「”強制的仲裁条項”に合意したことはありますか?」
中年の男性「ないと思うよ。」
「カードは?」
「持ってる。」
ジョーン・クレイブルック「携帯電話やクレジットカードの会社は契約時には強制的仲裁条項には触れず、途中でこの条項を付け加えてきます。請求書と一緒にとても小さな文字で書かれた小冊子を送ってくるんです。ほとんどの人は請求書以外は読まずに捨ててしまうでしょうが、冊子にはこう書かれています。今後携帯電話を使った場合、あるいはクレジットカードを使った場合、あなたは強制的仲裁条項に合意したと見なしますと。いまやアメリカではあらゆる業界がこの条項を契約書に盛込んでいます。クレジットカード、小切手、ローン、携帯電話、インターネットでの買い物。例えばコンピュータ、本、レコード、ほとんどの老人ホーム、新車、スポーツクラブ、日焼けサロン。友人がペットホテルに猫を預けたとき、この条項にサインを求められたそうです。もし猫が死んだとしても訴えませんという内容です。」
ジョアン・ドロショー「消費者として従業員として交渉すら許されません。何も言えない状況に追いやられてしまうんです。」
2007年12月 議会にて
ファインゴールド上院議員「強制的仲裁条項はもはや例外ではない。従業員に仲裁を強いる傾向が広がりつつある。」
弁護士 ポール・ブランド「調査したところ、アメリカで働く人の3分の1が強制的仲裁条項を結んでいることが明らかとなりました。つまり、この条項に縛られている人は労働組合に加入している人よりもずっと多いことになるのです。」
ジェイミー・リー・ジョーンズ「ハリバートンに勤めて1年経った頃、イラクに行くことを決めました。それで当時子会社だったKBRに出向したんです。イラクから戻ったら昇進できることになっていました。私はハリバートンでの環境に満足していて、あの事件が起きるまではずっとここで働きたいと思っていました。現地ではトレーラーハウスで寝起きすることになる。でも両隣は女性で女性専用のバスルームもあると聞いていました。現地に着いてぼう然としました。その宿舎に女性は私一人で他は男性ばかりだったんです。すぐに上司数人にメールで訴えました。こんなところに居るのは不安です。約束していた宿舎に移して下さいと。すると一人がすぐに慣れるよと返信してきました。下着姿でうろついてからかってくる同僚もいました。」
ジェイミーによると彼女は着任4日目に同僚に薬を盛られレイプされた。
ジェイミー・リー・ジョーンズ「朝、目が覚めると私は裸でひどく殴られて胸の形が変わっていました。股間から出血し、手首にはあざができていて、自分の身に大変なことが起きたと分かりました。手を洗って自分の部屋に戻ると、ベッドに男が寝ていました。男が服を着ていたかどうかは覚えていません。あまりにもショックで記憶があちこち飛んでいるんです。人生で最悪の瞬間でした。レイプされた上にその犯人が堂々と部屋に居座っていたのですから。今になればその理由も分かります。その男はどうせ責任を問われることはないと甘くみていたんでしょう。私は診療所に行きました。女性の軍医の診察を受けたんですが、性器と肛門の両方にとてもひどい裂傷があると言われました。」
レイプの証拠を採取したキットはKBR/ハリバートンの警備員に渡され、その後、所在不明となった。
TV CM ハリバートンCEO デイヴ・レッサー「ハリバートンは批判を受け入れます。批判は成功への糧です。米兵の寝食を助け、イラクの再建に努めています。戦地では問題も起きますが、きっと解決してみせます。」
ジェイミー・リー・ジョーンズ「その後、私はKBRの警備員2人に連れて行かれ、コンテナの中に閉じこめられました。武装した警備員が見張っていて、私は出してくれと泣いて頼み続けました。それでとうとう同情した警備員が携帯を使わせてくれたんです。私の話を聞いた父はテッド・ボー下院議員に連絡しました。」
テッド・ボー下院議員「耳を疑うような話しでした。ある男性から連絡が入って、若い娘さんが派遣先のイラクで貨物用のコンテナに監禁されているというんですから。一刻も早く助けるため、ともかく誰かを送らなければと思いました。国務省はいい仕事をしてくれたと思います。」
ジェイミー・リー・ジョーンズ「政府の職員が私を助け出し、KBRとの話し合いの場を作ってくれました。経営陣はここで働き続けるか、帰国して解雇されるか、好きな方を選べと言いました。刑事事件にするのが難しくて民事訴訟を起こそうとしたんですがそれも行き詰まりました。雇用契約に含まれていた仲裁条項のせいです。」
ジェイミーはこの事件を公開の法廷で問うため、4年間闘い続けている。
アル・フランケン上院議員「これは予測不能なケースです。第一に自分がこんな目に遭うとは誰も想像しないでしょう。第二に自分をレイプされるような状況に置くような会社すら訴えてはいけない。そんな契約だとは夢にも思わないでしょう。誰にとっても想定外のケースだと思います。」
「正義と民主主義のためのセンター」(全米規模の消費者団体)所長 ジョアン・ドロショー「裁判制度から離れてしまったら、公正な裁きは望めません。仲裁の場合は特にそうです。」
ポール・ブランド「仲裁は大抵非公開で行なわれ、裁定をするのは仲裁人です。問題の会社自体が仲裁機関に依頼して申し立てを聞く仲裁人を決定するのです。」
「パブリック・シチズン」元代表 ジョーン・クレイブルック「仲裁機関にしてみれば消費者個人は一度相手にすれば終わりですが、大企業はいわば得意先になる訳です。ですからまたその企業から仕事をもらうために企業に有利な裁定をするんです。」
ポール・ブランド「実際、消費者や従業員に有利な裁定をした仲裁機関が二度と企業に使われなくなった例はいくつもあります。つまり、企業は消費者にとって根本的に不利なシステムを作り上げたのです。」
ジョアン・ドロショー「調査によると消費者に有利な仲裁は1割もありません。いつも銀行やクレジットカード会社が勝つのです。」
ポール・ブランド「仲裁機関がなぜそのような裁定をしたのか、理由は公開されません。単に勝ち負けが宣言されるだけです。」
「テキサス・ウオッチ」代表 アレックス・ウインスロー「不服の申し立てはできません。仲裁人があなたが支払うべきだと判断したらそれが最終判断になるのです。議会が強制的仲裁条項の制限に乗り出さない限り、消費者や従業員は条項に縛られたままです。」
CNNニュース「フランケン上院議員はレイプ被害すら訴えさせない企業に国防総省からの委託を禁じる法案を提出。」
NBCニュース ジェイミーが話す「”ジェイミー・リー財団”を設立しました。実態を広く知ってもらうためです。」
ニュースキャスター「今も法的処置の可能性を探り続けていますね。」
ジェイミー・リー・ジョーンズ「私がおおやけの場に出たのはアメリカの司法制度の現状を知ってもらいたかったからです。抜け穴があって一刻も早く修正が必要だということを。権限のある人達がこの状況を変えてくれることを願っています。」
フランケン上院議員が修正案を提出。レイプ、暴行、いやがらせ、監禁、差別に関し、仲裁条項を強制する軍事企業への政府からの委託が禁止される。
2009年10月 公聴会にて
ジェイミー・リー・ジョーンズ「刑事裁判にかけるのが難しく民事裁判に訴えました。ハリバートンは仲裁にしか応じないと主張しています。雇用契約時に署名した強制的仲裁条項のせいです。契約書への書名は必須でした。私は条項の存在を知らず、自分が受ける被害も予測不能でした。この条項が抱える問題は私の事例にとどまりません。仲裁の場で訴えても情報は封印されます。つまり仲裁制度は被害の証拠を闇に葬り、企業による従業員の虐待を可能にしているのです。」
議員の質問「社内で問題が起きた場合、訴訟以外の手段で解決を図るべきか?」
全米商工会議所 元労働法担当 責任者 マーク・ディ・ベルナード「もちろんそうすべきです。適切な仲裁は従業員にも利益になります。雇用者と従業員の意志疎通を促進する効果もあります。」
議員「つまり、あなたは・・・。仲裁制度は従業員を利すると? 雇用側から『性被害も職務の一部だ』と事実上宣告されたような今回のケースでも?」
マーク・ディ・ベルナード「私はその件とは無関係で誰の代理人でもありません。ジョーンズさんが主張の場を得て長々と語る気持ちは分かりますが法廷外の紛争処理が今回の議題です。」
フランケン上院議員「公聴会の開会を感謝します。ディ・ベルナードさん、あなたは仲裁制度がよりよい職場環境を作ると発言しましたね。」
マーク・ディ・ベルナード「「ええ」
フランケン上院議員「”より良い職場環境”? 彼女は400人の男性と一緒に宿舎に入れられ、『性的嫌がらせを受けた』とKBRに2度も訴えた。彼女は同僚に薬を盛られた。上層部は問題を把握していた。彼女は集団レイプされ、けがを負い再建手術を受けた。会社は ”より良い職場環境” を実現する仲裁制度を採用していた。彼女は武装した警備員によりコンテナに監禁された。教えて下さい。これが ”より良い職場環境” なら、これ以下の環境とは? レトリックです。答えは必要ありません。KBRは強制的仲裁条項に基づく裁定を主張し、過去に同様のケースは無いと断言した。ジョーンズさん。ほかの女性もレイプされていたと?」
ジェイミー「はい」
上院議員「彼女たちにも仲裁条項の縛りがあった。」
ジェイミー「はい」
上院議員「しゃべるなと言われていて、あなたは実態を知り得なかった。」
ジェイミー「そうです。公になっていませんでした。」
上院議員「ディ・ベルナード氏は、あなたが『主張の場を得た』と言ったが?」
ジェイミー「強い怒りを感じます。4年間も闘って裁判にさえこぎ着けていないのに。」
上院議員「私も怒りを禁じ得ません。これがあなた方の強制的仲裁が招いた結果です。ディ・ベルナードさん。ありがとうございました。以上です。」
アレックス・ウインスロー「被害者のほとんどが一番に望んでいるのは、高額な賠償金をもらうことではなく、責任の所在を明らかにすることです。それを実現する唯一の方法が裁判で闘うことなんです。」
元ジョージア州裁判官推薦委員 ケネス・キャンフィールド「不法行為法改革を支持する人々もいます。でも、いざ彼らが被害者の立場になったらこの改革を支持したことをきっと後悔することでしょう。」
アレックス・ウインスロー「テキサス州のある男性が医療過誤で身体を傷つけられ、医師の責任を追求しました。しかしテキサス州では患者の権利を制限する修正案が可決していて、彼自身も賛成票を投じていました。彼は言われました。修正案の規定があるのでこの件で訴訟を起こすのは難しい。あなたをはじめ、多くの住民が支持したからこそあの法案が実現したのですと。男性は反論しました。私のケースは当てはまらない。あれは取るに足らない訴訟をおこす人。金儲けのために制度を悪用する人を規制するための法案だ。私の場合は医師のミスで身体を傷つけられ、その責任を問おうとしているのだと。そういった瞬間、彼は気づいたんです。これまで批判されてきたのはまさに自分のような人達だったのだと。」
元アラバマ州最高裁主任裁判官 ソニー・ホーンズビー「不法行為法は改正するのではなく、逆に尊重すべきなんです。この法律の存在によって生活の安全が保たれているのですから。批判すれば民事訴訟と賠償金の支払いが待っています。そうならないために企業は安全なおもちゃを作り、安全な自動車を作る。うそやごまかし、搾取をなくすよう努力するのです。」
「公共正義のためのテキサス人」代表 クレイグ・マクドナルド「加害者の責任を追及できないような社会に市民の安全は守れません。民事裁判の陪審員は企業や医療機関の責任を追求できる唯一の存在です。企業にとってもっとも怖い存在なのです。」
「ダラス・モーニング」紙 ウェイン・スレイター「陪審員の裁定を制限しようとする人達の主張は理屈に合いません。死刑に関わる裁判でさえ陪審員に判断させるべきだという一方で、企業の責任がからんだとたんに陪審員を閉め出そうとするなんて。」
「陪審員以外、誰に判断をゆだねますか。企業、それとも仲裁人でしょうか。民事訴訟で企業の責任を追求できないのならいったい誰が企業を取り締まるのでしょう。企業は自己管理できるといいます。これが彼らの望みなんです。」
リサ・グーリー「息子のコリンが障害を負ったことで目を開かされました。私たちを守ってくれるはずだった制度が姿を変えてしまっていました。賠償額に上限が設けられていたことも知らなかったし、そのせいで息子の介護費用を一般市民の税金に頼らなければならないなんて、思いもしませんでした。」
高校2年生になったコリン・グーリーは10回目の施術となる大腿骨の手術を受けた。
「元ミシシッピ州最高裁 裁判官 オリヴァー・ダイアズ「企業の標的になったのはミシシッピ州の裁判官選挙だけではありません。企業側は選挙運動に何百万ドルもつぎ込んで自分たちよりの判決を下す裁判官を州の最高裁に送り込もうとしているんです。」
オリヴァー・ダイアズはミシシッピ州でえん罪を無くすためのプロジェクトに参加している。
ジェイミー・リー・ジョーンズ「今でもフラッシュバックがあるし、誰かが後ろにいるだけでもすごく怖いです。せめて自分をこんな目に遭わせた相手と対峙できれば自分を取り戻す助けになるのに。唯一の方法は法廷で相手と対決することです。それをいつか実現したいです。」
2011年6月 ジェイミー・リー・ジョーンズは法廷でハリバートンと対決したが訴えを退けられた。
ナンシー・ティアノ「母がマクドナルドに3000万ドル要求したとか、馬鹿げた作り話が飛び交いました。母が基本的に求めたのは保健でカバーされない医療費の負担と新たな被害を防ぐためのコーヒーカップのふたの改良。その2つでした。」
カリフォルニア大学教授 ジョージ・レイコフ「法廷に立つ市民は人には見えない負担を抱えています。訴えを起こすまでには複雑な手続きを踏まなければなりません。裁判が始まればさまざまな中傷や攻撃を受けます。正義を求めて法廷に立つのは英雄的な行為。その認識を広めるべきです。勝訴したときに、それは自分のためだけではなく、他の市民のためにも正義を勝ち取ったことになるからです。」
ステラ・リーベックは事故前のような快活さを取り戻すことなく2004年に91歳で亡くなった。現在、マクドナルドのコーヒーは以前より約5℃低い温度で保たれている。
「ホットコーヒー裁判の真相」 〜アメリカの司法制度〜
制作
Group Entertainment,
If Not Now Productions
(アメリカ 2011年)
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