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プーチン新政権とケリをつけよ! 北方領土を取り返す最後のチャンス
元外務省欧亜局長 東郷和彦
http://gekkan-nippon.com/?p=3389
『月刊日本』2012年4月号
プーチンの涙が意味するもの
―― 3月4日に行われたロシア大統領選挙の結果、プーチン首相が再び大統領へと返り咲いた。支持者の前で勝利宣言を行っている最中、プーチン首相が思わず涙を流すという場面も見られた。
【東郷】多くの方々が述べているように、プーチン首相が大統領選に勝利したことは驚くにあたらない。それは大方の予想通りである。しかし、あの涙を予想できた人はいないのではなかろうか。
プーチンは1999年に首相になるまでは、政治家としての経験はほとんどなかった。KGB時代は、対外諜報部という政治家とは異なる能力を必要とする部門にいた。それから12年経ち、様々なパフォーマンスなどは行ってきたが、それでも政治家としての老練さよりも生地のままの姿の方を感じさせる。
あの涙は演出であるという意見もあるようだが、私は安堵のために流した嘘偽りのない涙だったと思う。それだけ今回の選挙戦が厳しいものであったということだろう。
ロシア国内では、選挙戦で不正が行われたとして大規模なデモが起こっており、欧米からは公正な選挙が行われなかったなどと批判されている。
確かに、欧米の掲げる民主主義という観点からすれば、今回の選挙は未だ不十分なものであったかもしれない。しかし、民主主義の発展段階にあるロシアにおいて、民主主義の成熟という点において欧米と差異が生じてしまうのは、ある程度やむをえないと思う。
また、究極的には、国内の問題については、その国家に属する人々が自ら解決していくべきであろう。その意味で、プーチンが欧米からの批判を受け入れていないのも理解しうる。
ロシアは民主主義の価値を否定しているのではない。実際、今回の選挙では、投票場にウェブカメラを設置してライブ中継するなど、公正な選挙にしようとする努力の跡がうかがわれた。日本としては、そうした努力を評価してよいと思う。
日本もまた民主主義国家として、欧米を源とする民主主義を重視している。しかし、それと同時に、それぞれの国が持つ独自の文化や伝統も尊重してきた。この二つの視点をどう両立させるかは、日本にとって難しく重要な課題であった。そのため、外交政策面で常に「欧米一辺倒」となってきたわけではない。たとえば、天安門事件のあとの中国や、チェチェン問題によって国際社会から孤立したロシアに対して、日本は独自路線をとってきた。
それゆえ、日本は今回のロシア選挙の不正について、欧米の一部論調と歩調を合わせて批判する必要はない。玄葉外務大臣も3月6日の会見で、プーチンの圧倒的勝利というのが現実だと思う、というように、選挙を通じて表明されたロシア国民の民意を尊重する発言をされている。
プーチン新政権の対中国政策
―― プーチン新大統領は今後どのような外交政策を展開していくと考えられるか。
【東郷】それについては、大統領選前の2月27日にロシアの新聞に掲載された、プーチンの外交論文を見る必要がある。
彼はその論文で、ロシアが重視する地域として、アジア太平洋ではBRICsをあげ、さらにヨーロッパ、アメリカを挙げている。BRICsの中では、特に中国との関係について丁寧に述べている。急速に強大化する中国に対してロシアはどのように対峙していくべきか、これが今後のロシア外交の中心的課題となるだろう。
今後、中国は世界史上、類を見ないような国家になっていく可能性がある。13億もの人口を擁し、多くの矛盾を内包しながらも急速な経済成長を遂げている中国がどこまで強大化し、そしてどこへ向かっていくのか、誰にも予想ができない。恐らくそれは中国人自身にも予想できないことだろう。
その中国と最も長い国境線で接しているのがロシアなのだ。中国全体の力はこれからロシアを凌駕していく。人口やGDP、労働生産性、軍事力、あらゆる面において中国が優位に立っていく。こうした状況に於いて、中国と正面からぶつかり合うことは決してロシアがとるべき政策ではない。
先の論文の中で、プーチンは中国とは絶対に良好な関係を維持していくと、様々な表現を用いて強調している。そして、その後に、ロシアと中国との間に問題がないわけではないと、さらっと述べている。当然であろう。強大化している周辺国を、脅威だ、危険だ、と叫ぶのは、外交的には最悪の選択だ。
今後、ロシアは中国と良好な関係を維持すると同時に、中国に対抗すべく、中国の周辺国家とできるだけ提携関係を強化していくことになるだろう。その際に、プーチンがまず関係改善を試みようとしているのが日本なのだ。
日ロ間には北方領土問題という未解決の懸案が横たわっている。この問題を相互に受け入れられる形で解決し、経済協力を含む両国関係を一気に進展させる。そのために、プーチンは領土問題解決に向けて積極的にボールを投げてくるはずだ。
プーチンは領土問題の最終決着を望んでいる
―― 3月1日、プーチン首相は外国の主要紙編集責任者らと会見を行い、日本からは朝日新聞主筆の若宮啓文氏が参加した。その際、プーチン首相は若宮氏に対して、北方領土問題の解決について大胆な発言を行った。
【東郷】プーチン首相と若宮氏のやり取りは極めて重要なものだ。それは、今後のロシア外交を分析する上でも役に立つものであるから、詳しく振り返っておく必要がある。
若宮氏はまず、昨年の10月にロシアの新聞『イズベスチヤ』で、ロシアはヨーロッパとアジア太平洋地域のかけ橋としてのユーラシア共同体を目指すとプーチン首相が述べていたこと、今年の9月にロシアのルースキー島でAPECが開かれることについて言及し、そのためには日本との協力が不可欠であると思うが、2月27日の外交論文では日本について一度も触れられていない、日本のことは忘れてしまったのですか、と問いかけた。
それに対してプーチンは、日本のことを忘れるわけがないではないかと述べ、自身の柔道家としての歩みについて話をした。
私としても、プーチンが今回の外交論文で日本について触れなかったことに、「日本はずし」という悪意は感じられない。論文ではBRICs、欧米、WTOなど大局的な話を展開していたため、日本について触れることはかえって納まりが悪いようにも思う。
それから、プーチンは日ロ経済関係の発展の必要性について述べた後、おもむろに「あなたが礼儀正しくも領土問題についておっしゃらなかった以上、私が領土問題について取り上げなければ礼儀を失することになりますね」と、自ら北方領土問題について切り出したのである。
このやり取りは、90年代半ば、私が在ロシア大使館で外交をしていた時代に意識的に努力していた方策と類似している。ロシアの要人と会談する場合、もう一度この外交官と話をしてみたいと思ってもらわなければ、二度とコンタクトを取ってもらえなくなる。それを避けるためには、まず相手が一番関心のある話をする。そして、日本にとって最も重要な領土問題について、できれば相手側から話を持ち出してくるように仕向ける。この方策は上手くいくことが多かった。
その意味で、若宮氏のボールの投げ方はドンピシャと決まったと思う。北方領土問題についてではなく、まずプーチンが一番関心を持っているユーラシア共同体について問いかけ、先方から領土問題の話を引き出した。
プーチン首相は、日本との間にある領土問題を最終的に終わらせたいと強く願っており、両国にとって、また両国民にとって受け入れられるような形でそれを行いたい、そのための鍵となるのがより密接な経済協力である、と述べ、さらに「引き分け」を望むと言ったのである。(以下略)
*本稿は編集部の許可を得て投稿しています。
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