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『横田めぐみさんと金正恩』出版の意味するもの
『月刊日本』編集部
http://gekkan-nippon.com/?p=2938
『月刊日本』2012年3月号
2002年の小泉訪朝から10年が経過した。この10年で、拉致問題は「横田めぐみさん」という拉致事件最大のシンボルを巡って迷走し、何も進展しないまま、金正日はこの世を去り、金正恩という若者が三代目を継承した。
そんな中、本年1月18日に発売された一冊の本が一部で話題になっている。飯山一郎著『横田めぐみさんと金正恩』(三五館、外税1300円)である。この本については、その内容もさることながら、その出版の経緯についても不透明なことが多い。本誌編集部が『横田めぐみさんと金正恩』をめぐる問題を追った。
【1】異例の出版スピード
著者・飯山一郎氏はウェブ上で自ら運営するサイト「飯山一郎のLittle HP」(http://grnba.com/iiyama/)で、北朝鮮問題のみならず、健康食品や放射能汚染問題についても手広く意見を発信している。
氏についての情報を、本書末尾の著者略歴より次に引用する。
飯山一郎 (いいやま・いちろう)
一九四六年栃木県真岡市出身。立教大学卒業。元上海鉄道大学教授。国際アナリストにして、エコ推進実践家、古代史研究者、化学者、株式売買指南役、平和主義者……と超のつくマルチ人間。農業と環境の二十一世紀を見据えたバイオ技術の研究に注力し、一九九九年には自ら発明した「グルンバ・エンジン」による乳酸菌・発酵菌の大量培養法を確立。この技術が求められ、日中韓を忙しく飛び回る現在だ。「光合成細菌&乳酸菌」での「放射能浄化」にも救国の期待がかかる。
本書は、著者が「日中韓を忙しく飛び回る」中で出会った、韓国済州島出身の古代史研究者「ヤン教授」と、中国・丹東市の「金虎(ゴールデンタイガー、GT)」氏との間での情報交換、議論をベースにウェブ上で発表されてきた記事を、出版元である三五館が編集し、出版したものである。
昨年末、三五館から出版の打診があった折、飯山氏はこれを断ったという。ウェブ上の記事はあくまでもウェブ用の文章であり、もしも本として出版するならば、きちんとした形で書いて出したいと思ったからだ。
しかし、年が明けた一月五日頃、今度は氏が「断り切れない恩人」を介して再度出版の督促があり、やむなくこれを受諾した。
飯山氏本人は原稿をやりとりしつつ表現の修正、加筆などすることを想定していたが、すぐにゴーストライターによって「はじめに」と「あとがき」が加えられ、編集され、ほぼ完成されたゲラが送られてきた。氏は最小限の修正を、電話での口頭指示で行うことしかできなかったという。
さらに三五館はスピードを早める。タイミングが大事なので、二週間以内に発売をしたい、その際には大々的に新聞広告も行う、すでに表紙はできているとの旨が通知され、著者の出版受諾からわずか二週間で書店に著作が並ぶという、きわめて異例のスピードで出版が行われた。また、実際に新聞広告も主要紙に掲載され、大手書店では同書が平積みとなった。そして、書籍が流通しているにもかかわらず、著者である飯山氏は未だ版元と出版契約書すら交わしていないのだという。
【2】不利益もかえりみず
こうして異例のスピードで出版された本書の論点は、大きく三点ある。
一点目は、横田めぐみさんは生きており、金正日と並ぶ高い地位に付いているということ。ここからさらに、大韓航空機爆破事件にめぐみさん自身も関与しており、そのためにめぐみさんを北朝鮮は表に出すことができないとの論も披露されている。
二点目は、金正恩と胡錦濤主席との極めて深い絆である。昨年五月の金正日・金正恩親子の訪中に際し、胡錦濤は異例の歓待を行い、三代目への世襲を公式に認めたが、これには資源大国である北朝鮮との関係を良好に保つという以上の含意があった。その含意が第三点につながる。
三点目は、金正恩の母親は、巷間言われているように、高英姫ではない、という点である。
以上の情報は飯山氏、「ヤン教授」、「金虎」氏とのやりとりという形で示されているが、公的に明らかになっている情報以外の「秘密情報」について読者が裏付けを取ることも、情報提供者の「ヤン教授」、「金虎」氏の素性、そもそもその実在すらも確認することはできない。
従って、客観的に確認できる公的情報と公的情報との間をつなぐ、三氏が展開する物語の強度だけが、読者が本書の信憑性を測る尺度となる。だが、ブログを大急ぎで再編集したため、本書のみでは、物語の強度は弱まらざるをえない。結局、氏の膨大なウェブサイト上の情報を丹念に読みなおすという二度手間を強いられることになる。
だが、そんなことは三五館の編集部は百も承知だったろう。書籍としての完成度、物語の強度よりも優先すべきものがあったのだ。
本の作り自体は、『横田めぐみさんと金正恩』というタイトルが付された表紙の帯に「彼は誰の子か?」と付され、横田めぐみさんこそが金正恩の真の母親である、と匂わせる仕掛けになっているのだが、本文中でそのことを明示的に表現した箇所はない。あくまでも、金正日と横田めぐみさんが深い関係にあったことを匂わせる表現に留められている。
もっとも、飯山氏はウェブ上では「横田めぐみさんこそ金正恩の母親である」と明示し、横田めぐみさんに成り代わって横田ご夫妻への手紙まで代筆し、発表している。氏自身が臆することなく公言している明示的記述を避けたのは三五館の意図的編集であろう。
確かに、出版にはタイミングが重要である。いくら書籍の完成度を高めても、金正恩世襲直後という絶好のタイミングを逃してしまえば、続々と出版されるであろう類似の「金正恩本」に埋もれてしまい、インパクトも弱まる。実際、2月9日には重村智計『金正恩――謎だらけの指導者』(ベスト新書)、2月28日には辺真一『「金正恩の北朝鮮」と日本』(小学館101新書)が出版されるが、金正日死後の出版としては本書が一番乗りである。
だが、商機を逃さないという機敏さを割り引いても、本書の出版にはリスクがあったはずだ。まずその内容(というよりも匂わせるメッセージ)が刺激的であり、どのような反応があるか未知数である。さらに、大々的に新聞広告を打つ資金を回収できるのかという問題もある。
もとより、飯山氏の言論自体は、ネットで国際政治の闇を漁る好事家の間では有名であったが、「知る人ぞ知る」という状態から出版するということは、文字通り、飯山氏の説を公なものにすることであり、その影響がもたらす利益も不利益も出版社は著者と共有せねばならない。もとより三五館は北朝鮮専門の出版社でもなく、特定のイデオロギーを持って経済合理性をかなぐり捨てる特殊な出版社でもない。すると、予想しうるリスクを補うに足る利益が保証されていた可能性も考えられる。(以下略)
*本稿は編集部の許可を得て投稿しています。
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