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米大統領予備選 リバタリアン、ロン・ポールの挑戦
国際政治学者 藤井厳喜
http://gekkan-nippon.com/?p=2258
『月刊日本』2月号
共和党予備選の台風の目は、間違いなくロン・ポール下院議員である。1935年生まれの76歳。連続ではないが、78年以来、12期下院議員を務めている。ペンシルベニア州、ピッツバーグ生まれで、テキサス州第14選挙区の選出である。元来の職業は産婦人科医である。
予備選出だしの1月3日のアイオワ州党員集会では、彼は3位となった。1位ロムニー25%、2位サントラム25%(1位との差8票差)、3位ポール21%。
1月10日、ニューハンプシャー州の予備選挙では、1位ロムニー39%、2位ロン・ポール23%という結果であった。この数字だけ見ると、2番手候補ないし3番手候補で大したことはないと思ってしまうかもしれないが、アメリカ政治の内実を少しでも知るものにとっては、これは大きな驚きである。今や、ロン・ポール候補には、風が吹いている。
特に、支持者や運動員に若者が多いことに驚かされる。ニューハンプシャー予備選を終えてのロン・ポール議員の演説は、まるで勝利演説のようであった。彼は、88年には、リバタリアン党の大統領候補として、大統領選にチャレンジし、全米で43万票あまりを獲得したが、全くの泡沫候補扱いであった。08年には、共和党予備選に出馬したが、やはり弱小候補として終始した。その過去の実績から比べれば、彼の今回の選挙結果は、誠に驚愕に値する。
ロムニー元マサチューセッツ州知事のキャンペーンは、単なる選挙キャンペーンに過ぎないが、ポール下院議員のキャンペーンは熱狂的な大衆運動である。そもそも、ロムニーとオバマの間には、政策において大差はない。象徴的に言うならば、オバマに最大の政治献金をしている企業はゴールドマンサックスであり、ロムニーへの最大の政治献金企業も同社である。これでは、両者の間に、特に大企業優遇政策において、殆ど違いがなくなるのは当然の事であろう。
ロン・ポールは、リバタリアニズムと呼ばれる、アメリカ独特の政治思想の信奉者であり、徹底して「小さな政府」の実現を主張している。そして、連邦政府の権限を出来るだけ小さくし、個人の自由を最大限に拡大する事を訴え続けている。彼によれば、それこそがアメリカ憲法が規定した国の形なのである。国の原点に返ることによって、アメリカを再生させようというのが、ポール議員の主張の根幹である。
経済が、不況にあるにも関わらず、ポール議員は、福祉政策の充実を訴えていない。いや、全く逆である。連邦政府の福祉政策を大幅に削減し、予算支出をカットし、均衡財政を確立する事を訴えている。又、海外基地の全廃と対外干渉戦争の即時中止を訴えている。このようなラディカルな主張をする候補が、これだけの票数を集めるという事自体が、奇跡的な事である。
08年のオバマは、「CHANGE」を絶叫していたが、彼の政策は民主党左派路線の主張そのものであり、アメリカ政治の中においては何ら目新しいものではなかった。80年のレーガンは、大きすぎる政府を抑制し、「小さな政府」を実現する保守革命の旗手として颯爽と現れたが、ロン・ポール議員の主張ほどには急進的ではなかった。
ロン・ポールの主張は、ラディカルである。「ラディカルである」とは、急進的であると同時に、根源的であるという事である。マスコミは、「ロン・ポールの主張は危険である」と報道している。又、共和党エスタブリッシュメントや党組織のリーダーたちは、ロン・ポールを「党を破壊する人物」と見なしている。彼らの立場からすれば、予備選挙で勝つのは、ロン・ポール以外なら誰でもよいのである。
ロン・ポール候補が大統領に当選すれば、アメリカでは確かに、一大革命が起きることは間違いない。国家アメリカのありようが、根本的に変革される事になる。最近、選挙戦では「ロン・ポール・レボリューション」という言葉が響きわたっている。確かに彼は、アメリカの第二革命を目指している。アメリカの原点に戻り、アメリカを再生させようという第二革命である。30年代から続いてきた民主党を主力とする大きな政府路線を完全に転換する復古革命である。原点に出直して、革新するという意味において、これを日本風に呼ぶならば「維新」という事になるであろう。
ポール候補の主張は、日本人には一見、矛盾するもののように思われがちである。確かに「小さな政府」と均衡財政の実現は保守派の主張である。しかし、海外基地の全廃は、本来、アメリカの左派リベラル派の主張ではないのか。いや、アメリカ民主党の最左派ですら、海外基地の全廃は主張していない。であるとすれば、ポール議員の米軍海外基地全廃の主張は、あまりにハト派過ぎて、極左の様に思えるのである。レーガン大統領は、減税と「小さな政府」を訴えたが、対外政策は極めてタカ派的であった。ソ連共産主義との新冷戦を勝利する為に、レーガンは大軍拡を実行した。ポール議員の主張は、「小さな政府」という点ではレーガンと同じであるが、対外政策についてはレーガンと全く逆である。こういった事があるので、普通の日本人がポール候補を理解する事は極めて難しいと言わなければならない。ところが、リバタリアンの政治哲学を理解すれば、これらの主張には、何の矛盾もないことが分かる。
アメリカ原理主義者ポール候補の主張
ロン・ポール候補の主な主張を列記してみよう。
●あらゆる増税案に反対。(下院議員として12期の間、全ての増税案に反対してきた。)
●当然ながら、連邦政府の財政赤字幅拡大に反対。(2011年の7月から8月にかけて、連邦政府財政赤字上限の引き上げが、議会と大統領の間で大きな争点となった。この時、ポール下院議員は、財政赤字幅を引き上げず、寧ろ、連邦政府をディフォールトさせる事を主張していた。まことにラディカルな行動である。)
●人口妊娠中絶に反対。
●海外米軍基地の全廃。
●全ての対外干渉戦争に反対。(国連のPKO活動やNATOにも反対。)
●他国に対する経済制裁にも反対。(「経済制裁は戦争の第一歩である」という考えである。)
●強い国防政策。(ポール下院議員にとっては、国防とは、アメリカの国境線を守ることである。)
●金本位制への復帰。(FRBが恣意的に発行する通貨がドルの価値を低下させ、インフレを起こし、アメリカ経済を弱体化させていると考えている。)
●真の自由貿易を支持。
●ただし、NAFTAやTPPには絶対反対。(これらの貿易協定は、実は一部の多国籍大企業の利益になる管理貿易協定で、真の自由貿易協定ではないと考えている。)
●WTOや国連からの脱退。(国家主権を超越した国際組織が、国家アメリカを規制する事に反対している。)
●CIAの廃止。(インテリジェンス活動は必要だが、外国の要人暗殺を含むような現行のCIAの活動には反対で、抜本的な組織改編が必要であると考えている。)
●愛国者法の廃止。(個人の自由を侵害していることが明確である。)
以上、御覧頂いただけでも、彼の主張が如何にラディカルなものか、お分かり頂けると思う。
ロン・ポール大統領が実現すれば、アメリカの国の形が一変する。まさに「ロン・ポール革命」である。レーガン大統領といえども、連邦政府の赤字を削減する事は出来なかった。(以下略)
*本稿は編集部の許可を得て投降しています。
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