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http://jp.wsj.com/US/Economy/node_386057 【肥田美佐子のNYリポート】
米国の報道の自由度が世界47位に転落―反格差デモの記者逮捕で
2012年 2月 3日 11:32 JST
昨年、米誌『タイム』や米国方言学会が選んだ流行語大賞は「オキュパイ(占拠)」だった。だが、報道の自由を擁護するパリ本拠の非営利組織「国境なき記者団」いわく、2011年を象徴する言葉は「クラックダウン(弾圧)」だ。
民主化運動「アラブの春」や「1%対99%」の反格差デモが世界中に吹き荒れ、その報道が運動拡大への追い風となるにつれ、当局は締め付けの手を強め、情報を統制しようとする。
国境なき記者団が1月25日に発表した恒例の「世界・報道の自由指標」(179カ国対象)によれば、「メディア大国」米国も例外ではない。同国の言論の自由度は、今年、2010年の20位から47位へと、一気に27ランク転落した。反格差デモ「ウォール街を占拠せよ」(OWS)で、警察が記者やカメラマンを多数逮捕したり、取材活動を妨害したりしたのが原因だという。
ムバラク政権は追い落とされたものの、軍最高評議会の暫定統治下で民主化が遅々として進まないエジプトは、39ランク急落して166位に。反体制派への武力弾圧が続くシリアは3ランク下げて176位と、最後尾にまた一歩近づいた。シリアより自由度が低い国は、ワースト1のエリトリア(アフリカ)、そのあとに続く北朝鮮、旧ソ連のトルクメニスタンだけだ。
だが、問題は、こうした非民主主義国家以外の国でも、体制を脅かしかねない市民運動が起こると、運動のみならず、報道にも圧力がかかりかねないことである。
メディア改革を目指す米非営利組織「フリープレス」の副プログラムディレクター、ジョシュ・スターンズ氏が作成したリストによれば、OWSが始まった昨年9月17日から今年2月2日(米東部時間)までの間に、デモがらみで逮捕されたジャーナリストは、全米11州で44人に上る。市民ジャーナリストを入れると、57人だ。
逮捕者が最多なのはニューヨークで、フリー記者が目立つが、主要ファッション誌『バニティ・フェア』やAP通信、地元紙『ニューヨーク・デイリーニュース』のカメラマンや記者もいる。大掛かりな抗議活動が何度も行われ、警官とデモ隊の間で激しい衝突が報じられたオークランド(カリフォルニア)がそれに続き、所属先欄には、主要紙『サンフランシスコ・クロニクル』やABCニュースの名前も見える。
なかでも逮捕者が目立ったのが、昨年11月15日未明、ニューヨーク市警(NYPD)により、デモ参加者が寝泊りするズコッティパークが一掃されたときだ。逮捕された報道関係者は計26人。公園で取材していた記者やカメラマンは、抜き打ちでやって来た警官たちに強制排除され、ジャーナリストというジャーナリストが、ハッシュタグ#occupywallstreet(ウォール街を占拠せよ)や#OWS、#mediablackout(報道管制)を盛り込んだつぶやきを現場から発信した。
「ストレッチャーで救急車に担ぎ込まれる男性を撮影しようとしたら、警官に無理やり引き離された」
「#OWSにて。何度も警官に突き飛ばされた。プレスパスも役立たず」
映画監督のマイケル・ムーアは、「警察のヘリが何機も#occupywallstreet(の本拠地)の上空を飛んで、空撮中の報道ヘリをじゃましている」と、つぶやいた。
筆者をはじめ、速報で駆けつけた記者たちは、警官の列とバリケードに阻まれ、現場に近づけなかった。
「#occupywallstreetにて。NYPDの妨害で、急襲現場を見ることができない。(テレビ局の)CNBCやNBC、CBS、WSJやロイターの記者も一緒。#mediablackout(報道管制)だ」
米メディアによれば、その2日後、ブルームバーグ・ニューヨーク市長の広報担当者は、報道機関にメモを配布。NYPDが発行する正式なプレスパスを持っていたのは、26人中5人だった点を挙げ、残り21人については逮捕もいたしかたないといったニュアンスをにおわせたという。
これに対し、特に主要メディア以外の記者からは、プレスパスの発行条件が厳しく、申請後の待ち時間も長いという苦情が上がり、「カフカの小説ばりに『不条理な』官僚制度」を指摘する向きもある。
一方、ジャーナリスト逮捕の報を受け、筆者も所属するプロフェッショナルジャーナリスト協会(SPJ)やニューヨーク・プレスクラブ(NYPC)は、ニューヨーク市当局に対し、遺憾と抗議の意を表明。報道の自由を侵害しないよう、ブルームバーグ市長とNYPDに申し入れた。
だが、その後、オークランドやフィラデルフィアでも報道関係者の逮捕が相次いたことで、12月1日、フリープレスは、4万人の署名からなる陳情書をブルームバーグ市長とロサンゼルス市長に提出。言論の自由を保障した合衆国憲法修正第1条の順守を訴えた。
ちなみに前出の報告書によれば、日本は22位と、米国を大きく引き離しているものの、原発危機をめぐる情報公開の不透明性で、昨年より11ランク落ちている。経済産業省資源エネルギー庁が、原発報道の監視を外部委託し、反原発記事への否定的な報告が数多くなされていたことも明らかになった。
報道の自由なくして民主主義はありえず、逆もまた真なり――。反格差デモや原発危機は、この大原則を守るのがいかに難しいかを浮き彫りにした。
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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト
肥田美佐子氏 Ran Suzuki
東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などにエディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・トリノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。2009年10月、ペンシルベニア大学ウォートン校(経営大学院)のビジネスジャーナリスト向け研修を修了。現在、『週刊エコノミスト』 『週刊東洋経済』 『プレジデント』などに寄稿。『週刊新潮』、NHKなどの取材、ラジオの時事番組への出演、日本語の著書(ルポ)や英文記事の執筆、経済関連書籍の翻訳にも携わるかたわら、日米での講演も行う。共訳書に『プレニテュード――新しい<豊かさ>の経済学』『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』(いずれも岩波書店刊)など。マンハッタン在住。 http://www.misakohida.com
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