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http://tanakanews.com/111109iran.htm
田中宇の国際ニュース解説
2011年11月9日
イランの核開発疑惑をめぐる状況が、再びきな臭くなっている。米軍もしくはイスラエル軍が、まもなくイランの核施設を空爆すると、米英イスラエルのマスコミがたびたび報じるようになっている。米軍とイスラエル軍が史上最大規模の合同軍事演習をやったとか、イスラエル空軍機がイタリアのNATO基地から飛び立ってイラン空爆の練習をしているとか、米軍がイランを空爆するなら英国は支持することにしたとか報じられている。(Will Israel Bomb Iran?)(UK says it will support any US plan to bomb Iran nuclear facilities)
イスラエルがまもなくイランを空爆するという話がリークされて報じられたが、イスラエル政府は否定も肯定もしていない。イラク戦争の時と同様、先にイランを制裁し、その後で空爆して軍事侵攻するという流れになるという報道も出ている。イスラエルのペレス大統領は「イスラエルや他の諸国は、イランの脅威を取り除くために空爆する方向に進んでいる」と表明している。(Israel Faces Questions About News Reports of Eyeing Iran Strike)(Peres: I believe Israel, world approaching military option on Iran nuclear threat)
実際のところ、米軍がイランを攻撃する可能性は低い。米軍はイラクからもアフガンからも撤退する方向だ。オバマを批判している共和党のマケイン上院議員でさえ、米国が中東で新たな戦争を起こすことはできないと認めている。(US can't go to war in Middle East again)
米国の好戦派は、イスラエルに「早くイランを攻撃しろ」とせっついている。だが、イスラエルが先制的にイランを空爆しても米軍が動かないと予測される以上、イスラエルもイラン空爆をやりたくない。イスラエル政府は「世界がイランを制裁しないなら、もうすぐ空爆をやる」と脅しを発しているだけだ。とはいえ、何かの計算違いから、米軍もしくはイスラエル軍が、イランと戦争に入る可能性は残っている。
国連のIAEA(国際原子力機関)は11月9日、イランが核兵器を開発していると考えられる新たな「証拠」を報告書として発表した。テヘラン近郊の軍事施設に置かれたコンテナ内で、実験用の核兵器関連の爆発物を作っていることが衛星写真の解析からわかったとか、核弾頭を作るためのコンピューターのプログラムを開発しているとかいったことが、IAEAの報告書に盛り込まれている。(Mr Amano goes to Washington)(full IAEA report)
これらの証拠は米当局が用意したもので、亡命中のイランの反政府勢力(ムジャヘディン・ハルク)が、イラン政府からくすねてきて米当局にわたしたとされるノートパソコンに入っていたデータを「証拠」としている。米当局は数年前から、このパソコンから多くの「証拠」を出しているが、それらが捏造でなくイラン政府の本物のデータであると考えられる根拠が薄く、従来の他の証拠と同様に、あいまいなものだ。イラン政府は、証拠が捏造されたものだと反論している。また、イラン当局が軍事施設のコンテナ内で爆発物を開発しているとしても、核兵器用でなく国際的に認められた通常兵器用の爆発物かもしれず、これだけで核兵器開発の証拠とはいえない。(IAEA Poised to Release Iran `Evidence' Centering Around Computer Simulations)
米政界では、大統領候補として有力になってきた共和党の孤立主義者(リバタリアン)ロン・ポールらが「(イランは米欧に脅されて核兵器を開発したくなったのだから)核兵器開発をやめさせたければ、イランと外交的な対話関係を進めるのが良い。制裁や侵攻は逆効果だ」と主張している。まったく正当な考え方だが、米政府は聞く耳を持たず、イランに濡れ衣をかけて制裁し、侵攻する姿勢に徹している。(U.S. presidential hopeful Ron Paul: 'Friendship' is best way to deal with Iran)
米国は、イランの諜報機関(革命防衛隊)が米国内で駐米サウジアラビア大使の暗殺を計画したとして、米国籍のイラン人を逮捕したが、この事件もでっち上げと思われる部分が多く、米政府がイランに対してかけている濡れ衣の一つだ。(イランにテロの濡れ衣を着せる米当局)
イスラエルでも、モサド(諜報機関)のミエル・ダガン元長官が「イランは核兵器を開発していない。イランを攻撃するのは逆効果だ」と暴露的な発言をしている。これに対し、ネタニヤフ政権は「イスラエル政府はイラン空爆を検討している」という、自分たちがマスコミに意図的に流して書かせたリークを、ダガンのせいにするという報復を行っている。(Former Mossad chief: Iran far from achieving nuclear bomb)(Israeli PM orders investigation into Iran leak)
▼「イランを空爆するぞ」は口だけ?
米国がIAEAにイランの核兵器開発を非難する誇張的な報告書を書かせ、それを受けて米イスラエルがイランを空爆しようとする流れは、03年のイラク侵攻の直後から何度も繰り返されてきた。実際の空爆は行われず、オバマ政権になってからの近年は、騒ぎが低調になっていた。それなのに、今また騒ぎが再燃した背景には、米軍が今年末までにイラクから総撤退することがある。(イラクの夜明け)
米軍は、イラクに残っている3万人あまりの兵力のほとんどを12月前半までに撤退させ、クリスマスまでに撤兵を完了すると発表している。巨額の軍事費と国力をかけてイラクを占領した米国が、かんたんにイラクから撤兵するはずがないという思い込みから、マスコミや反戦運動家らの間には、イラク撤兵が持つ意味を考えない傾向がある。しかし実際のところ、イラク撤兵はオバマ政権が能動的に決めたことだ。("Vast Majority" of Troops Out of Iraq by December)
米国がイラクから撤兵することになった原因は、イラク政府が、自国内に駐留する米軍兵士に対する不逮捕特権を、来年以降認めないことにしたからだ。オバマ政権は、イラク政府と必死に交渉したが、イラク側が頑固で不逮捕特権を認めなかったと説明している。しかし実際のところ米国は、前ブッシュ政権の08年に、イラク政府に不逮捕特権を認めさせている。ブッシュ政権は必死に交渉したので不逮捕特権を勝ち取れたが、オバマ政権は今年夏までしか交渉せず、その後この問題を放置しており、必死さが感じられない。
米国は、他の中東諸国にも米軍を駐留しており、米政府はそれらの国々との間で、不逮捕特権を覚書として取り交わしている。08年にブッシュ政権が獲得したイラクでの不逮捕特権も、内閣と取り交わした覚書だった。しかしオバマ政権は今回、不逮捕特権を、イラク議会の批准が必要な条約として締結する必要があると主張し続けた。イラクのマリキ首相は米国の傀儡色があるので、内閣との覚書の締結は簡単だが、イラク議会はナショナリズムが席巻し、条約の批准は困難だ。(Obama's Tragic Iraq Withdrawal)
オバマ政権は、無理と知りつつ不逮捕特権を条約にしたがり、その結果、当然ながら締結に失敗し、イラク撤兵しか手がなくなった。大統領選挙の時からイラクとアフガンの戦争終結を標榜していたオバマは、能動的にイラク撤兵をもくろみ、政治力が強い軍産複合体や共和党を煙に巻くため、形式的にだけイラク側と交渉しつつ、条約締結という無理な条件をつけて交渉を意図的に失敗させたと考えられる。今の米政府は、イラクから撤兵したくてするのだ。
米撤兵後のイラクでは、米国の影響力が劇的に低下することが必至だ。米国の影響力低下の真空状態を埋めるのは、イラクの多数派であるシーア派とつながっているイランだ。今後、イラクがイランの傘下に入って安定すると、イランとイラクは、世界有数の石油利権を持つ勢力になり、中東の政治構造が大転換する。イランはイスラエル近傍のシリア、レバノン(ヒズボラ)、ガザ(ハマス)などに影響力を持っており、イランが強くなると、イスラエルにとって大きな脅威だ。
米国の中東戦略に大きな影響を与えてきたイスラエル政府は、米国のイラク侵攻前、イラクより先にイランを政権転覆した方が良いと米政府に伝えていたが、米政府は先にイラクに侵攻したがった。米政府は結局、イスラエルの要請で、イラクの後でイランを政権転覆する戦略をとり、イランに対し、核兵器を開発しているという濡れ衣を着せた。(Switching Focus from Iraq to Iran)
しかし今、イランの政権が転覆されないまま、米軍はイラクから撤退しようとしている。これはイスラエルにとって大きな脅威なので、イスラエルと、米国の親イスラエル勢力(タカ派)が、イランの核問題をさかんに蒸し返している。
IAEAでは、09年まで事務局長をしていたエジプト人のエルバラダイが、任期末にかけて、米国がイラン核問題で理不尽な圧力をかけてくることを暴露し、非難していた。後任の事務局長で現職の日本人の天野之弥は、対米従属を貫く日本外務省の官僚であるだけに、米国の言いなりになる傾向が強い。天野は、ワシントンDCに行って米政府から指示を受けた後、以前と同じ証拠を使いつつ、以前より強くイランを非難する報告書を作った。(Mr Amano goes to Washington)(IAEA事務局長に日本人選出の意味)
▼米国がイランを敵視するほど中露が優勢になる
とはいえ、米国に命じられて作るIAEAのイラン非難の報告書は、何度も似たような曖昧な根拠をもとにしているため、しだいに効力が薄れている。国連安保理は、これまで4回にわたってイランに対する制裁を決めてきた。安保理では5カ国の常任理事国のうち、米英仏がイラン制裁を提案し、中露がしぶしぶそれに従う構図だった。中国とロシアは、米国主導のイラン非難が濡れ衣に基づくものであることを知りつつも、圧倒的に強い覇権国である米国と強く対立してしまうことをと避けてきた。(Analysis - Russia, China may blunt Western pressure on Iran)
しかし今回、中露は、IAEAの報告書の信頼性の低さを指摘し、米国主導のイランへの追加制裁に反対する姿勢を見せている。IAEAの報告書の中に、旧ソ連(ウクライナ人)の科学者がイランに原子力の技術を提供したことが書かれていることもあり、ロシア政府は報告書を「政治的な悪意が込められている」と批判している。(China, Russia push IAEA to ease up on Iran)
米イスラエルのイラン敵視策に対する疑問を強めるロシア政府は、イランの原子力施設のコンピューターシステムを破壊しようとしたウイルス「スタックスネット」を開発したのが米イスラエルであると暴露している。(Russia 'believes US, Israel behind Iran worm attack')
イランは、米国に経済制裁されるほど、中国やロシアとの経済関係を強める傾向にある。米国はEUや日韓などの同盟諸国にも、イラン制裁に協力させているが、欧州や日韓の企業がイランとの契約を破棄して出て行った穴埋めは、多くの場合、中国企業の市場参入で終わる。中国とイランとの貿易額は1年間で3割以上増えた。米国がイランを敵視するほど、日韓や欧州諸国が不利益を被り、その分、中国が儲かる構造になっている。このような経済利得がある限り、中国はイラン制裁に参加しない。米国の戦略は、なかなか「隠れ多極主義」的だ。こんな状況なのに、対米従属のばかばかしさに気づかない人が多い。(China's Iranian Gambit)
中露は、中央アジア諸国も入れて「上海協力機構」を作っている。同機構は11月8日にロシアのサンクトペテルブルグでサミットを開いたが、そこで、今はオブサーバーとして参加しているインドとパキスタンを、正式な加盟国にすることが検討された。上海機構は、印パが和解したら正式加盟を認めることを決めており、その流れに沿って印パは、貿易面で相互の最恵国待遇を決めるなど歩み寄りを強めている。印パの正式加盟は時間の問題となっている。(Pakistan seeks full SCO membership)
上海機構には、印パのほか、イランもイランオブザーバー加盟している。印パが正式加盟したら、次はイランだ。中露は、米国がイラン制裁を強めるほど、イランをかばって上海機構に取り込む方向に動く。中国は上海機構を通じてユーラシア西部諸国との経済関係を強めたいのに対し、ロシアは同機構をNATOに対抗できる集団安保組織にしたい。経済と安保の両面で、中露はイランを取り込んでいくだろう。(Russia, China don't see US in SCO)
イラン国内では、大統領のアハマディネジャドが、最高指導者のハメネイをおしのけて権力を奪取しようとして、両者の対立が続いている。米国がイランと和解する姿勢を示し、両者の対立に便乗してどちらかに加勢すれば、イラン国内の分裂を強めることができ、政権転覆も夢でなくなる。だが実際には、米国は逆の道を進んでいる。米国が濡れ衣による茶番的なイラン敵視を強めるほど、イラン人は国内対立を乗り越え、反米ナショナリズムで結束してしまう。(Stoking Nationalism in Iran)
米軍のイラク撤退は、アフガニスタンにも影響を与える。米軍などNATOは2014年にアフガンから撤退する予定だが、米中枢には、15年以降も米軍のアフガン駐留を続けようともくろむ動きがある。だが、イラク政府が米軍の不逮捕特権を認めず、米軍を予定通りの日程で追い出すことにしたため、アフガン政府も同様に米軍の不逮捕特権の延長を認めず、予定通り14年末に米軍を追い出す可能性が一気に高くなった。これまで、米政府がイラク撤兵を素直に受け入れるとは、誰も思っていなかった。それだけに予定通りのイラク撤兵は、アフガンやパキスタン、ペルシャ湾岸諸国の軍関係者に衝撃を与えている。(Iraq pullout threatens US Afghan presence)
米軍は、アフガンへの補給基地として中央アジアのキルギスタンの基地を租借して使っているが、キルギスの新大統領は最近、米軍への基地貸与を14年末に終わらせ、更新しないと表明した。NATOのアフガン占領は14年末に終わる可能性が高い。(New Kyrgyzstan President Wants US Military Base Closed)
米軍が撤退した後のアフガンは、中国やイラン、ロシアの影響下に入る。パキスタンもアフガンに影響力を持っているが、パキスタンはインドと和解して上海機構に入るので、これも中露の影響下になる。米国がイラン制裁を続けるほど、米国の同盟諸国が損し、非米・反米的な中露が得して、ユーラシアの非米同盟である上海協力機構が拡大し、覇権の多極化が進む構図になっている。
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