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タイ:洪水で政府、首都防衛に躍起 一部で物資買い占めも
市民による買いだめで陳列棚の一部が空になったスーパーのコメ売り場。「ご不便をおわびします」と張り紙があった=バンコク都心部で2011年10月15日、西尾英之撮影
【バンコク西尾英之】タイ北部や中部で7月から降り続く大雨による洪水は15日、国土を縦断するチャオプラヤ川最下流の首都バンコクの北側に迫り、市内の一部の河川沿岸では浸水が始まった。タイ政府は水を運河などに逃がす「首都防衛作戦」に着手したが、大潮と重なり、市民の不安は最高潮にある。不安はコメや飲料水などの買い占め騒動を引き起こした。洪水で肥沃(ひよく)な農地が生まれてきた農業国タイの首都だが、都市化で排水設備が整い、都心の大規模な冠水は95年の洪水以降、起きていない。今回は中流の大規模ダムが決壊する恐れがあったことから、大量放水され、深刻な河川の氾濫につながった。
バンコクの河川沿いの一部では15日、浸水が始まり、都心部ではオフィスビルや自宅の前に土のうを積み上げる人々の姿があった。ビル1階の開口部に1メートル近い高さまで土のうを積み上げたビル管理会社の職員は「水が押し寄せれば土のうも役に立たない。政府の作戦が成功するのを祈るしかない」と話した。
インラック首相は15日朝、テレビで「バンコクには防御態勢が取られており、都心部で洪水が起きることはないだろう」と楽観的な見通しを示した。
しかし、16日に上流からの水がピークを迎え、タイ湾の潮位も最も高くなる。当局は、多数の在留邦人が居住するスクンビット地区を含むバンコク市内の15地区を「洪水の危険度の高い地域」に指定。日本大使館は在留邦人に飲料水や食品の備蓄を呼びかけたが、日本食スーパーでも飲料水などが品薄状態となった。
7月の総選挙で圧勝して発足したインラック政権は、有権者の人気を維持するため、人口が集中する首都への被害拡大食い止めに必死だ。まず、対策の「最前線」となる北部のドンムアン空港に政府対策本部を設置。バンコク外周部に「防衛ライン」を設定し、水の都・バンコク周辺に網の目のように流れる運河を使って水を東西に逃がす防衛策を立てた。
突貫工事で新たな堤防の建設や運河のしゅんせつも行われ、防衛ライン付近では浸水を防ぐ土のうの積み上げが続いている。ラインの外側に位置するスワンナプーム国際空港では、約2メートルの外周の土手をさらに高く積み上げ浸水を防ぐ作戦だ。
犠牲となる形の防衛ライン外側の住民からは反発も出ているが、首相は「都心部の洪水は防がなければならない。(ライン外で)洪水が起きてもすぐに排水されるので被害は大きくならない」と首都防衛を優先する構えだ。
タイでは毎年、上流部で6月から10月ごろの雨期に降った雨水が10月ごろ、中部の平原地帯に達して洪水を起こす。中部は元々広大な水田地帯で、川からあふれた水は水田に流れ込み天然のかんがいシステムとして利用されてきた。
しかし今年の雨は過去50年で最悪規模。ダムの放流で中部アユタヤ県で川が氾濫し、日系企業の現地工場が集中する工業団地はすでに冠水し、生産の混乱は長期化する見通しだ。トヨタ自動車は3工場の生産停止を22日まで延長。日産自動車も17日から19日までの停止を決めた。工場の直接被害はないが、部品調達が困難になっており、トヨタは日本からの空輸で対応する。
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毎日新聞 2011年10月15日 21時24分(最終更新 10月16日 1時31分)
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