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時論公論 「亀裂深まる米国社会」
2011年10月12日 (水)
岡部 徹 解説委員
アメリカ社会の格差拡大に抗議する若者たちのデモが4週目に入っています。
短期間のうちに全米に拡大し、時には数千人から1万人を超える規模にもなるこの抗議行動は一体何を示しているのでしょうか。
1年後に大統領選挙を控えた、アメリカ社会の現状とあわせて考えてみたいと思います。
最初のきっかけはインターネットで行われた「ウォール街を占拠しよう」という呼びかけでした。
ウォール街は、ニューヨークマンハッタンの南端にある通りの名前ですが、20世紀の初めから世界の金融の中心として発展してきた所で、いわばアメリカの富の象徴です。
デモ隊が掲げるスローガンは「99%」。
アメリカの富は、わずか1%の富裕層が独占していて、自分たちのような残りの99%は見捨てられているという不満が、今回の抗議行動の原動力だと言われています。
実際、金融危機から3年がたっても失業率は全国平均で9.1%。
16歳から24歳までの若者に限ってみれば倍の18%余りが失業中です。
ちなみに失業率は、大統領選挙の結果を左右する大きな要素です。戦後最も高い失業率の中で現職大統領が再選したのはレーガン大統領だったのですが、その時の失業率は7.2%でしたから、オバマ陣営の苦しさが判ります。
さらに去年は、アメリカの貧困人口が、4600万人余りと全体の15%を超えて過去最高になりました。貧困人口というのは4人家族で、年収が170万円未満の人々のことをいいます。
一方、危機の原因をつくった張本人である、銀行や大企業の幹部たちは、公的資金で救済されたにもかかわらず、莫大な収入を得て、富を独占している。
「これはおかしい」という不公平感がデモの背景です。
ただこの動きは、自然発生的なものではありませんでした。
最初にデモを呼びかけた雑誌の編集者カレラースン氏は、保守派の「ティーパーティー」に対抗して、リベラルな運動を起こそうと思ったと話しています。
「ティーパーティ」というのは極めて保守的な人々の集まりで、政府の役割を最小限に抑えるためには、医療保険や社会福祉も切り捨てるべきだと主張して、去年の中間選挙では野党共和党を勝利に導く原動力になりました。
その対極にある若者たちが、いわゆるソーシャルネットワークを介して集まった今回の行動は、今年初めから中東地域で続いている民主化運動「アラブの春」にも似ています。
しかし「アラブの春」が「独裁政権の打倒」という明確な目的を持った運動であるのに対して、アメリカの若者たちは、現状に対する不満や怒りは共有しているものの、今のところそれが政治運動として発展してゆくのかどうか、定かでありません。
訴える内容も経済問題だけにとどまらず、「戦争反対」から「エイズの救済」「動物愛護」まで様々です。政治色が希薄な分だけ、リベラル派という枠を超えて多様な人々が集まっているとも言えます。
それだけにこの運動の方向性は見えにくく、政治家たちもこの動きに注目しながらも、一定の距離を保っているようです。
ただ大統領選挙と議会選挙を1年後に控えた今のアメリカで、彼らのエネルギーを全く無視することは出来ません。
オバマ大統領は先週の記者会見で、はじめてこの抗議行動に触れ、「国民の苛立ちは理解出来る」と述べて、自分の政権が「99%」の国民の側に立っていることをアピールしました。
去年11月の中間選挙で大敗したオバマ大統領はこれまで、野党共和党と党派を超えて協力する道を模索してきました。
しかしその努力はほとんど失敗に終わっています。
例えば去年の10月から始まっている今年度予算は、与野党の対立で議会の審議が紛糾し、今年4月になってやっと成立しました。しかもその間には、資金不足から、複数の政府機関が閉鎖寸前の状況に追い込まれました。
また8月には「連邦債務の上限を引き上げる問題」で共和党の抵抗に遭って、デフォルト(債務不履行)に陥る危機にさらされました。
そしてこうした窮地に追い込まれるたびに、大統領は、富裕層への増税や、思い切った財政出動を伴う景気対策といった自分の主張を撤回して、共和党と妥協することで凌いできました。
しかしそのような姿勢には、身内の民主党からも「弱い大統領だ」という批判が起こり、オバマ大統領の支持率は、就任以来最低レベルの42%まで落ち込んでいます。
危機感を持ったオバマ陣営は今、これまでの戦略を全面的に見直して、共和党の保守派に真っ向から勝負を挑む姿勢を強めています。
その手始めが、先月発表した「雇用創出法案」でした。
「小さな政府」を主張し、大規模な財政支出や増税を嫌う共和党保守派を尻目に、「富裕層への増税を財源として、34兆円規模の雇用対策を実施する」という提案は、ティーパーティーに対する宣戦布告と言って良いと思います。
実はこの法案は、日本時間のきょう上院で否決されたのですが、オバマ大統領は、「政府が進めようとしている雇用対策になぜ野党は反対するのか」とのべて、失業率の高止まりや景気低迷の責任は、自分の政策を邪魔する野党側にあるという主張を繰り返しました。
今回、抗議行動に集まっている人々の大半は3年前の選挙でオバマ陣営を熱狂的に支持した人々です。大統領としては何とか彼らをもう一度取り込んで再選に向けた体制づくりを進めたいところです。
しかし「チェンジ」というスローガンや「イエスウィキャン」というかけ声に込めた期待が余りにも大きかっただけに、結果を出せない大統領に対する失望感は深く「経済格差」や「大企業の横暴」への批判に混じって、オバマ大統領を見限るような声も上がっています。
そうした空気が「オバマ大統領は十分な仕事をしていない。これ以上国を任せられない」という方向に進んでいきますと、政権にとっては極めて深刻な逆風になります。
当初、10代後半から、20代前半の若者がほとんどだった抗議集会に、最近では年配の人々や労働組合、それにNGOの団体も参加するようになっています。またニューヨークのブルームバーグ市長は、「参加者が法律を守っている限り、ウォール街の近くにある公園を抗議行動の拠点とすることを認める」と言明して、強制排除などはしない方針を示しました。
そうした新たな要素がこの運動をどんな方向に向かわせるのか。
間もなく大統領選挙戦が本格化する時期を前に起きたこの抗議行動は、保守的なテイーパーティーの動きに対抗する、リベラルな運動として拡大してゆくのでしょうか。仮にそうなるとすれば、すでにかつてないほど深まっている党派対立に一層拍車がかかって、ワシントンの政治がさらに機能不全に陥るという可能性も排除出来ないと思います。
(岡部 徹 解説委員)
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