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4.桜島の最近の噴火活動
京都大学防災研究所 教授 石 原 和 弘
桜島南岳の噴火活動は1990年代半ばから次第に低下していたが、2006年6月4日の南岳東斜面の標高850m付近の昭和火口からの59年ぶりの噴火再開を契機として活発化に向かっている。当初は規模な噴火活動を間欠的に繰り返していたが、次第に火口の大きさが大きくなり、2009年夏から連日爆発的噴火を繰り返し、同年の爆発回数は548回(鹿児島地方気象台)に達した。2010年1月から7月末までの爆発回数は既に679回となっている。今のところ大規模噴火の兆候は見られないものの、活動が終息する気配も見られない。
1.噴火活動の経過と現状
1955年10月に始まり55年間継続している桜島南岳の一連の爆発的噴火活動は、大きく分けて3つの時期に区分できる(図1)。即ち、1955年から1960年をピークとする約15年間、1972年秋からの活動激化と漸次活動が減退した約24年間、及び2006年6月の昭和火口で噴火で始まり現在に至る活動である。このうち、1972年からの活動期の降灰総量は2億トンを超え、桜島と周辺地域は20年余にわたり甚大な影響を受けた(石原、2002)。
図1 桜島南岳の年間爆発回数(2008年以降の薄い棒線は昭和火口の爆発)
2006年6月以降の活動期にも南岳山頂火口で爆発的噴火が間欠的に発生したが、噴火活動の中心は昭和火口に移行した。当初の昭和火口の噴火は小規模な火砕流の流下を伴うものの爆発性は弱かったが(写真1)、次第に火口が拡大し、2009年夏から爆発音と体感空気振動を伴う噴火が連日のように発生し、大きな溶岩岩塊を1q以上噴き飛ばす噴火も発生するようになった(写真2)。降灰量も2008年までは少量であったが、2009年には300万トン余に達し、2010年には6月末までに約460万トンとなっている。桜島内のみならず、垂水市や鹿児島市街地等が降灰に悩まされることも多くなり(写真3)、鹿児島市は各家庭に降灰袋を配布した。噴煙を火口上空2q以上に噴き上げ、1p前後のレキが風下側の山麓に落下する噴火も発生するようになった。また、1日当たりの二酸化硫黄の放出率も1,000〜3,000トンと高いレベルとなっている。降灰量と爆発の規模は1970〜1980年代の山頂噴火最盛期のレベルに近づきつつある。
写真1 2006年6月9日の昭和火口の噴火(高山鉄朗撮影)
写真2 2010年3月9日の昭和火口の爆発(園田忠臣撮影)
写真3 2009年4月9日16時の山麓の降灰状況(横尾亮彦撮影)
2.昭和火口の噴火への防災対応
桜島のマグマ溜まりは桜島北方の鹿児島湾(姶良カルデラ)の地下約10q付近にあり、地下深部からマグマが年間約1,000万立方メートルの割合で上昇していると推定されている(図2)。山頂噴火が激化した1974年からの約20年間は上昇分にほぼ見合うマグマが放出されたために地盤の隆起が停止していたが、降灰量が減少した1990年代半ばから隆起に転じた(図3)。2003年に入ると、以前にはほとんど地震が発生していなかった姶良カルデラ内部で微小地震が間欠的に発生し(図4)、1779年安永噴火のような海底噴火の可能性も考えられた。桜島の噴火活動の活発化は間近との認識のもと、2004年3月に自治体、国の出先機関、大学等の関係者で構成する桜島火山防災委員会が設置され、火山防災マップの改訂等の検討がなされ、大規模噴火に備えた広域的火山防災マップも作成された。
図2 桜島のマグマ供給系のイメージ(石原、1995)
図3 姶良カルデラの地盤の昇降(1891〜2009年)
図4 桜島及び姶良カルデラ地域の火山性地震の震源(1997〜2007年)
鹿児島市が桜島火山防災マップを桜島の住民に配布し、広報紙で市民に桜島の活動に対する注意を呼び掛けた直後の2006年6月3日昼頃に昭和火口での噴火が始まった。6月12日の火山噴火予知連絡会の見解表明を受けて、鹿児島県は6月14日鹿児島県地域防災計画で定められている桜島爆発対策連絡会議を開催し、その助言を受けて、鹿児島市は従来からの南岳山頂火口から2q以内の立入禁止区域に、昭和火口から2q以内の立入禁止を加えた(図5)。この規制等の決定に直接的に係った関係者は桜島防災連絡会を組織し、毎月1回の割合で情報・意見交換を行っている。構成メンバーは、鹿児島県、鹿児島市、垂水市、大隅河川国道事務所、鹿児島地方気象台及び京都大学防災研究所である。
図5 昭和火口噴火に伴う立入禁止区域の拡大
桜島の火山活動に関する啓蒙活動や情報提供も種々行われている。NHKは、鹿児島地方気象台からの情報を受けて、地震速報と同じように、噴火発生の都度、桜島噴火情報(上層の風況を含む)を地上デジタル放送やインターネットで伝えるサービスを2010年4月から開始した。また、大隅河川国道事務所や京都大学等もライブカメラを設置して桜島の活動映像をインターネットで配信している。
3.今後の活動と防災
現在、桜島には、噴火警戒レベル3(入山規制)の噴火警報が出されていて、立入禁止区域外で住民は平常生活を営んでいる。桜島の今後の火山活動はどのように推移するであろうか?大規模噴火が切迫し、避難準備(レベル4)や避難(レベル5)といった事態はありうるであろうか?前報(石原、2002)でも述べたように、桜島の噴火は将来にわたって免れることのできない現実であるが、今のところ、1914年の大正噴火のような大規模噴火発生の兆候は認められない。当面の数年を考えると、予想される活動は、昭和火口での噴火活動の長期化(1970〜1980年代相当)、あるいは、昭和火口からの火砕流・溶岩流の流出(1946年昭和噴火相当)であろう。
前者の場合は、20〜30年前のように降灰により農業被害、市民生活の不便や交通障害等の発生が予想され、噴煙による航空機の被災も懸念される(石原、2002)。強風時の風下側では、鹿児島や垂水市街地でもレキに対する警戒が必要である。また、桜島で直ちに土石流が河川の外に溢れ出る恐れはないものの、降灰が累積すると砂防対策の見直し等も必要になるであろう。後者の場合、噴火口から集落までは約5qあるので溶岩流出開始直後に危険が及ぶことはないであろう。但し、中腹で、1946年昭和噴火のように、溶岩流が東方と南方へ分流する可能性があり、桜島フェリーを介して鹿児島市と大隅半島を結ぶ交通の動脈となっている桜島の国道、県道が溶岩流に埋没される事態も想定しておく必要がある。
1990年からの雲仙普賢岳や2000年の三宅島の噴火のように、火山はしばしば予想しない振る舞いを示すことがある。既に、姶良カルデラ地下では1立方キロメートル以上のマグマが出番を待っていると考えられるので、噴火活動が休止した場合には、1779年の安永噴火や1914年の大正噴火のように全国に降灰をもたらす大規模噴火の可能性が高くなる。いずれにしても、火山活動の監視・観測と桜島火山防災委員会等による防災関係者の連携を継続する必要がある。
参考資料
石原和弘(1995)桜島火山の噴火活動予測、科学(岩波書店)、第65巻、第10号、pp. 708-710.
石原和弘(2002)桜島の防災対策ー火山学的視点からー、消防科学と情報、No. 70
国土交通省大隅河川国道事務所HP:
http://www.qsr.mlit.go.jp/osumi/sabo/jigyou/img/funkataiou_map.pdf(桜島火山防災マップ)、
http://www.qsr.mlit.go.jp/osumi/sabo/jigyou/img/bousai_map.pdf(桜島広域火山防災マップ)
気象庁HP:
http://www.seisvol.kishou.go.jp/tokyo/ STOCK/kaisetsu/volinfo.html(噴火警報、噴火予報の解説)
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