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今度はいつですか 「次々に当てる」地震解析業者に聞く
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18120
2011年09月05日(月) 週刊現代
7.25福島沖地震 8.1駿河湾地震 8.19福島沖地震(いずれも震度5弱)をズバリ的中
正確な予測は不可能と言われていた地震予知の世界。ただ「めちゃくちゃ当たる」と企業・官公庁でひそかに話題の地震解析業者は、「東日本大震災の予兆≠烽ツかんでいた」と言い切る。
■どうしてこんなに当たるのか
「まるであの時≠フ記憶がフラッシュバックしたかのようでしたよ。揺れがおさまるとすぐに工場を出て、同僚と一緒に高台の避難所を目指しました。また大津波が来るんじゃないかって、そればかり考えていました」(宮城県の水産加工工場で働く男性)
8月19日の午後2時36分。福島県、宮城県を東日本大震災の余震とみられる「強い揺れ」が襲った。福島県の浜通り周辺では震度5弱を計測。気象庁は福島県、宮城県の沿岸部に津波注意報を発令し、被災地は緊張に包まれた。「3・11」の記憶が被災地を再び恐怖に陥れた。
実はこの地震を事前に予測し、約1週間前に警告を発していた民間企業がある。地震予測システム「地震解析ラボ」を運営する「インフォメーションシステムズ」(東京都港区)。同社は8月11日にこんな地震予測情報を会員に配信している。
〈2011年8月17日を中心とした14日~21日の間に、東北地方に少なからず被害が発生する地震が(発生すると)予測される。内陸部が震源の場合はマグニチュード5.5以上、海域が震源の場合はマグニチュード6.0以上。震源の深さは30km未満〉
実際に19日に気象庁が発表した地震の詳細は、予測と寸分違わぬこんなものだった。
「震源の深さは約20km、地震の規模を示すマグニチュードは6.8と推定される」
いま地震解析ラボが配信する「地震予測情報」が注目を集めている。8月19日の福島沖地震以外にも、日本各地で起こる地震を次々と予測、見事に的中させているからだ。
記憶に新しいのは8月1日午後11時58分に発生した駿河湾地震。
関東地方でも揺れを観測したこの地震規模はM6.1。静岡市駿河区や焼津市などで震度5弱を観測し、13人が重軽傷を負い、建物27棟が一部損壊するなどの被害を出した。
この地震を地震解析ラボは発生1週間前に予測、「静岡県の沿岸地域で、被害が予想される地震が予測される。地震の規模はM5前後」と警告を発していた。
7月23日にM6.5、最大震度5強を記録した宮城県沖地震についても約2週間前に「岩手県、宮城県方面にM5.5以上の地震」と警告。
さらに7月25日に福島県沖で発生したM6.2(最大震度5弱)の地震も、同じく約2週間前に「福島県、宮城県南部にM5.5以上の地震」と発生を予測していた。
それだけではない。
昨年の実績を見ても、秋田県沖地震(8月31日発生、M5.2)、三陸沖地震(8月10日発生、M6.2)、千葉県北東部地震(7月23日発生、M5.3)、岩手県沖地震(7月5日発生、M6.3)、北海道東方沖地震(6月5日発生、M5.4)などの発生時期、地域、規模を次々と予測、的中させている。
同社社長の平井道夫氏が言う。
「我々が情報提供を始めたのは昨年5月以降。M5以上の地震予測を発表してきましたが、その的中率は60%を超えています」
それにしてもどうしてこんなに当たるのか。それには地震解析ラボで所長を務める電気通信大学名誉教授(電磁理工学専門)の早川正士氏の功績が大きい。
ラボでは早川氏が開発した「地震計測システム」を用いて、およそ1週間から2週間後に起こる地震を事前に解析、予測情報として提供しているからだ。
■場所、時期、大きさを当てる
境界線の高さを電波で観測。「下がる」=「地震の前兆」となる
http://gendai.ismedia.jp/mwimgs/b/3/330/img_b3a46f23285e94a00ee43a6bf6d9f48541538.jpg
では「地震計測システム」の仕組みはどんなものなのか。早川氏が明かす。
「単純なことです。地震の前には必ず前兆現象が起こるから、これを捉えているだけです。我々が『前兆』として使っているのが電離層の乱れ。地震が発生する1ヵ月から数週間前に大気圏と面する電離層が何らかの原因で乱れ、大気圏との境界線の高度が低くなることが我々の研究でわかった。
その境界線の高度を電波を使って計測、解析を加えることで、地震の起こる地点や時期、規模を予測しているんです」
地震解析ラボでは現在、北海道から新潟、東京、静岡、四国など国内7ヵ所に受信局(観測点)を設置。米国のハワイ州、ワシントン州、オーストラリアといった海外も含めて国内外6ヵ所から送信される電波を受信し、電離層の状態を監視しているという。
日々特製のモニターを凝視しながら、地震の「前兆発見」に勤しむメンバーは5人。そんな少数のマンパワーでここまでの的中率を誇るのだから驚くばかりである。
そもそも早川教授が電離層の乱れから地震を予測する研究を始めたのは、ロシアでの経験がきっかけだった。
「'93年にモスクワで衛星を使った電離層の解析の研究に触れ、どうやら地震と関連しているようだと感じた。その2年後に阪神淡路大震災が起こり、その時に地震と電離層の乱れの相関関係を確信しました。つまり、あの大震災の時も、電離層の乱れが起きていたんです。
そして'96年から宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)の『地震総合フロンティア計画』で5年間研究開発の予算をいただき、日本各地に観測基地を設置した。それらの蓄積データが現在の地震予測情報として実を結んでいる」(早川氏)
■1週間前にピンポイントで
こうした電磁現象を利用した地震予測は日本ではあまり知られていないが、実は世界では一般的≠ネものとして行われている国もある。
たとえばギリシャでは三人の物理学者の頭文字をとって「VAN法」と名付けられた地震予知システムが「政府の公認」として採用され、有効活用された実績があるという。
「VAN法は地中に流れる地電流を観測し、地震の発生が近付くと現れる信号をキャッチする方法。30年以上の実績があり、ギリシャ国内で起きるM5.5以上の地震のほとんどの予知に成功しています。
地震の予知信号を探知すると、すぐに政府に伝えられ、政府から各自治体の首長にまで情報が発信される。首長が市民にその情報を発信するかどうかは、地震の規模を判断して首長が決定する仕組みになっています」(早川氏)
地震解析ラボでも政府への働きかけは行っているが、採用には至っていない。ラボの運営は契約者からの料金で賄っている。予算がついて、人手が増えれば、より広範囲の予測が実現できるという。
「5人しか人手がいないので、ラボでは沿岸から50km以内の海域までしかウォッチできていない。実は東日本大震災の前、3月5日から6日にかけて、ワシントン州から送信されている電波が、明確な電離層の乱れを示していた。ただこれは50km圏外の海洋上空だったので、当時はきちんと確認できていなかった。
もっと人手がいれば、東日本大震災も1週間前に予測して情報を提供できていたはず。それが残念でならない」(早川氏)
地震解析ラボでは現在、さらなる精度向上を目指し、全国にアンテナを増設中。さらに解析にあたる人員を増やし、より詳細なデータ収集を進め、的中率≠上げようとしている。
「このままいけば関東の直下型地震の予測はもちろん、東京直下、千葉直下と『地域』までピンポイントで指摘して予測できるようになる。もちろん1週間前に、です。また現在、伊豆諸島に設置予定のアンテナが完成すれば、発生が憂慮されている東海、東南海、南海の地震は完全に予測可能となる」(早川氏)
気象庁が提供する「緊急地震速報」は、直前過ぎたり、ほとんど当たらないことで知られる。1週間前に地震が来ることがわかれば、対策を立てる時間もある。はるかに有効な地震予測システムになる可能性があるのだ。
3・11の災禍から4ヵ月以上たった7月27日、明治記念館で行われた「第25回先端技術大賞」での講演で、一人の地震学者が涙を流した。東京大学地震研究所の大木聖子助教だ。
「地震学者は地震の科学の無力さを徹底的に見せつけられた。私たちが持つ知見ではマグニチュード9.0という規模の地震が日本で起こることは知ることができなかった。想定できなかったことで、多くの被害を出したことは罪深いこと」
実はこれと同様の場面が16年前の神戸でも繰り広げられていたことを覚えている人は少ないだろう。
当時、神戸市の防災会議専門委員だった室崎益輝神戸大教授が、300人の聴衆の前で号泣したのだ。
「震度5の防災計画を黙認してしまった。なぜもっと厳しい対策を行政に勧めなかったのか」
都市防災学専門の室崎教授は、当時の神戸市の想定震度を5と想定していたが、実際に神戸を襲った地震は震度7だった。
■9月初旬M5以上の地震が
文部科学省によれば地震研究の総本山とされる東京大学地震研究所をはじめとする地震研究・防災機関には現在、年間100億円を超える予算が割かれているという。
こうした潤沢な資金の恩恵を受けている「地震学者」たちが地震予知できず、同じ失敗≠繰り返す。一方で一民間業者が地震予知で成果を上げているのはなぜなのか。
地震解析ラボ特別顧問で、東大地震研究所に約30年所属した上田誠也東大名誉教授はこう言う。
「日本の多くの学者たちは、地震が起こるメカニズムの研究をしているだけ。つまり『地震がなぜ起こるのか』を研究しているのであって、『地震予知に直接つながる研究』をしているわけではないから。
地震予知に必要なのは地震が起こる前に発生する前兆現象の研究だが、それを地震学者はほとんどやってこなかったのです」
早川教授はその前兆現象こそが、地震解析ラボが分析している電離層の乱れであり、地震前に高い確率で発生することがわかっている電磁現象なのだと言う。
ではこれから一体、どんな地震が起きると予測しているのか。
「我々は1年後、10年後といった長期の予測はやっていない。とにかく短期予知、数週間後から数日後に起きる地震を予測することが大切だと思っている」(早川氏)
では直近で起こると予測されている地震はあるのだろうか。
地震解析ラボによれば、本誌発売日(8月29日)前後に発生が予測されている地震はなんと全国で3ヵ所あるという。
「いずれも内陸地が震源地ならばM5以上、海底が震源地の場合にはM5.5以上の地震です。
気をつけて欲しいのは茨城県、千葉県の内陸部から海域にかけての地域。ここは9月5日までに地震が発生する可能性が高い。
次は四国から大分県、宮崎県の太平洋側の内陸部から海域にかけての地域です。こちらは8月30日までに地震が発生すると予測しています。
最後に高知県、宮崎県、鹿児島県にかけての地域。ここは9月5日までの間が要注意です」(前出・平井社長)
該当地域は地震の発生に備えておくことをおすすめしたい。
「週刊現代」2011年9月10日号より
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