2011.09.19
フライデー
いったいどれだけの試練が降り注ぐのか。大地震、大津波の後は、巨大台風---。災害列島日本≠ノ、またもや悲劇が襲いかかった。
紀伊半島を中心に大きな被害をもたらした台風12号。8月30日夜から、9月4日に台風が通過するまでの間に記録的な雨量を観測し、奈良県の上北山村では1800mmを超えた。同村の年間平均雨量は約2713mm。年平均の実に3分の2に匹敵する雨がわずか5日で降ったことになる。この豪雨による川の氾濫や土砂崩れなどで亡くなった人は、全国で50人。行方不明の56人と合わせると106人(7日午後1時現在)にも上るのだ。
紀伊半島の中でも、最も多い死者数が報告されている和歌山県那智勝浦町では、町内を流れる那智川が氾濫。その時の恐怖を、同町井関地区の住民が語る。
「ただならぬ雨の勢いに不安になり、4日の午前2時に外を見たら、川から水が溢れ、家の1階部分にまで押し寄せてきたんです。雨戸を閉めても隙間から水が噴き出し、ドアの向こうに水圧を感じました。2階に避難したのですが、水はすぐに1階の床上まで達し、流れてきたものが当たるたびに『ドン!』と家が揺れ、生きた心地がしませんでした」
また、同町が誇る世界遺産・熊野那智大社の裏山が崩れ、美しい朱色の建物の一部も土砂に埋もれてしまった。
なぜ、ここまで被害が拡大したのか。今回の台風の特徴を、名古屋大学・地球水循環研究センター気象学研究室の上田博教授が次のように解説する。
「今回の台風は時速10kmと、動きが遅かった。これは、進行方向の北と東に二つの高気圧があり、台風の行く手を阻んだためです。また、台風は3日に高知県に上陸しましたが、中心部の東側に活発な雨雲が広がっていたため、紀伊半島に長時間にわたり大雨が降り続いたのです」
気象業務支援センター専任主任技師の村山貢司氏は、地球温暖化が台風の巨大化に影響していると指摘する。
「地球温暖化に伴い、日本周辺での海水温が徐々に上昇し、台風が巨大化しています。そもそも台風は、海水温が27℃以上の海面上で発生し、水蒸気が持つ熱をエネルギーとしています。海水の温度が高ければ高いほど水蒸気が発生するので、台風は巨大化するのです。今回の台風が日本に接近した時には、四国の南側の海では水温が28℃以上もありました。つまり、海面から水蒸気の補給を受けられるので、接近しても勢力が弱まらなかったのです」
さらに、村山氏によると今回の被害拡大には、紀伊半島の地形も大きく関係しているという。
「紀伊半島の山々の斜面に雨雲がぶつかるため、上昇気流が発生し、さらに雨雲が発達します。もともと地形的に雨量が多い場所に、台風の活発な雨雲が停滞するという悪条件が重なったのです」
岩盤もろとも、崩れ落ちる