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浮上したスーパーサイクル説
世界最大級のマグニチュード(M)9・0が襲った東日本大震災。日本ではあり得ないとされた巨大地震は、なぜ起きたのか。この謎を説明する「スーパーサイクル説」を東大地震研究所の佐竹健治教授が提唱、大震災に至る長期的なシナリオが浮かび上がった。東北地方では700年以上の周期で巨大地震が繰り返されていた可能性が高まっている。
大震災の巨大地震は、東北地方が乗っている北米プレート(岩板)の下に太平洋プレートが沈み込み、両プレートの境界面が大きく滑って発生した。震源域は岩手県沖から茨城県沖の広い範囲に及び巨大なエネルギーが放出された。プレート境界は、普段はがっちりと固着してエネルギーをため込み、地盤のひずみが限界に達すると一気に滑って巨大地震を起こす。逆に言えば、地震がよく起きる場所はエネルギーを小出しにして蓄積しないため、一般に巨大地震は起きないとされていた。
今回の震源地に近い宮城県沖は、M7・5程度の海溝型地震である宮城県沖地震が頻繁に起きる場所だ。にもかかわらず、はるかに巨大なM9ものエネルギーを、どのようにため込んでいたのか。
東日本大震災6カ月 巨大地震の謎は解明できたのか
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佐竹教授は「滑り残し」現象に着目した。宮城県沖地震では、プレート境界は完全に滑り切るのではなく、滑らずに残る部分がある。同地震は平均37年間隔で繰り返され、そのたびに滑り残しが「貯金」のように少しずつたまっていく。長い年数をかけて「満期」に達すると、全額が払い戻されるようにプレート境界全体が一気に滑り巨大地震が起きてリセットされる、というシナリオだ。
巨大地震が繰り返されるこの長い周期を「スーパーサイクル」(超周期)と呼ぶ。つまり宮城県沖では、通常の海溝型地震と巨大地震の2つのサイクルが存在するという考え方だ。
過去の宮城県沖地震における滑り量と太平洋プレートの沈み込み速度から、貯金に相当する滑り残し量を年間2・6センチと算出。東日本大震災で実際に滑った量(17メートル)をこの数値で割ると660年で満期を迎えたとの結果が出た。
同様の手法で、より日本海溝に近い2つの場所でも計算したところ、周期はほぼ同じ660〜720年。仙台平野の巨大津波は約450〜800年間隔で起きるとする地質調査の結果とも、おおむね一致した。
今回の約700年周期は滑り残った部分がすべて固着した場合の数字で、仮に半分だけ固着した場合は1400年周期になる。自然現象の誤差も考えると、千年前後で繰り返されているようだ。
スーパーサイクルの発想は2004年のスマトラ沖地震(M9・0)で米国研究者が最初に提案したが、日本で議論は進んでいなかった。一方、宮城県沖の滑り残し現象はこれまでも知られていたが、地震を起こさずにズルズルと解消されるとみなされていた。
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佐竹教授は「巨大地震は起きないと漠然と考えていたが、可能性をきちんと検討することが大事だ。宮城県沖ではM7・5の繰り返しではなく、M9を基本とする発想の転換が必要。スーパーサイクルがあれば発生確率の計算も可能になる」と話している。
◇
南海トラフ「大連動」の危険
東日本大震災の最大の特徴は海溝付近でプレート境界が大きく滑り、この影響で津波が巨大化したことだ。西日本の太平洋側に伸びる南海トラフ沿いでも、同じメカニズムの連動型巨大地震が起きる懸念が強まっている。
海溝付近では、揺れはそれほどでもないが、海底が大きく隆起して津波が巨大化する「津波地震」が起きる。東北地方では明治三陸地震がこのタイプだ。
海溝付近のプレート境界は地盤が非常に軟らかく、固着していないと考えられていたが、大震災では宮城県の沖合を中心に大きな滑りが発生。津波地震と陸側の海溝型地震が広範囲で連動するという地震学の常識を覆す事態が起きた。
一方、南海トラフで起きる地震の想定では、東海、東南海、南海地震の3つが連動した宝永地震(M8.6、1707年)が最大級とされてきた。しかし、東大地震研究所の古村孝志教授のシミュレーションによると、宝永地震と津波地震の慶長地震(1605年)が連動する東日本大震災型が起きた場合、津波の高さは宝永の約1.5〜2倍に達するとの結果が出た。
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巨大津波の痕跡は実際に見つかっている。高知大の岡村真教授らは高知県や大分県の沿岸部の池で津波堆積物を調査。宝永型が300年程度の間隔で繰り返すことや、約2000年前には宝永を上回る巨大津波が襲ったことを確認した。
南海トラフでは従来、東西に並ぶ3地震の連動や、震源域が九州の日向灘までのびる可能性が議論されてきた。しかし東日本大震災を受け、今後は海溝付近の津波地震を含む「大連動」を真剣に検討する必要がある。次の地震が単独型で起きる保証はどこにもない。
このため政府は地震調査委員会で想定の見直しを進めると同時に、南海トラフの巨大地震に関する検討会を先月、内閣府に設置。大震災の教訓を生かすため、新たな防災対策づくりを急いでいる。
◇
検出できるか「前兆滑り」
東日本大震災の巨大地震はまったく予想されていなかったが、地震後の研究で「前兆」の可能性がある複数の現象が見つかった。
東大地震研究所の加藤愛太郎助教らは、本震の震源付近で観測された前震活動に着目。北東側で2日前に起きた大きな前震(M7.3)や、2月中旬から続いていた約1400回の小さな地震を分析した。
その結果、小さな地震の震源は、M7.3の場所から本震の場所に向かって2回移動。M7.3が起きた後の移動速度は、2月下旬までと比べて数倍にスピードアップした。
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小さな地震のうち、プレート境界の滑りを反映する「小繰り返し地震」を調べたところ、M7.3の発生後、プレート境界の滑りも本震の場所に向かって進行。本震のすぐ北東では、約14時間前に通常の約1000倍に相当する急速な滑りが始まったことを突き止めた。
研究チームは、前震に伴う滑りの進展が「最後のひと押し」になり、巨大地震発生の引き金となった可能性があるとみている。
東海地震では、直前にプレート境界の滑りが加速する「前兆滑り」が起きるとされ、その検出が予知成功の条件だ。今回の分析結果は滑りが加速する傾向は見られず、前兆滑りだった可能性は低いが、巨大地震の直前の様子を探る貴重な手掛かりになる。加藤助教は「前震活動からM9を予測することは困難だが、巨大地震のプロセスを知ることで、将来的には予測につながるかもしれない」と期待する。
一方、北海道大の日置幸介教授は大震災の約1時間前、東北地方上空の電離圏で電子が異常に増加したことを、GPS(衛星利用測位システム)の電波から大震災2日後に発見。スマトラ沖地震などでも同様の現象があったことを確認した。地震との関連性は不明だが、日置教授は「リアルタイムで高精度に把握できれば予知に役立つ可能性がある」と話す。
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