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避難遅らす「正常性バイアス」 広瀬弘忠・東京女子大教授
2010年5月1日
津波の避難勧告が出ても避難しない人が問題になっている。「自分は大丈夫」。そんな根拠のない気持ちを抱いてはいないだろうか。そんな心には「正常性バイアス(偏見)」が強く働いていると災害心理学の専門家、広瀬弘忠東京女子大教授は言う。打ち破るにはどうしたらいいのかを聞いた。
避難が遅くなる仕組みは?
現代人は今、危険の少ない社会で生活している。安全だから、危険を感じすぎると、日常生活に支障が出てしまう。だから、危険を感知する能力を下げようとする適応機能が働く。これまでの経験から「大丈夫だ」と思ってしまいがちだ。これが「正常性バイアス」と呼ばれるものだ。
強い正常性バイアスのために、現代人は今、本当に危険な状態でも「危険だ」と思えない。チリ大地震の津波が押し寄せているのに、見ているだけで逃げない人の映像が日本でも流れた。強力な正常性バイアスの例と言える。
災害でパニックはめったに起こらないと指摘している。
私たちの調査で、災害でパニックが起こったと確認できる例はほとんどない。特に日本のように地域の人同士がつながっている社会では、パニックは起こりにくい。「自分を犠牲にしても」と互いに助け合おうとする心理が強くなるからだ。
現状では、強い正常性バイアスの結果、パニックになる以前、つまり何が起こっているのか分からないうちに災害に巻き込まれる。日本では避難警報が出ても避難率はいつもゼロから数%程度と低いことからも明らかだ。行政側はパニックを恐れて災害情報を過小に公表してはいけない。
逃げ遅れないために必要なことは?
いざというときに正常性バイアスを打ち破り、「危険だ」と直感できるような訓練をしておくことが大切だ。そのためにはある程度、災害の恐怖感を体に覚えさせておかなければならない。
人間の脳は自分が意識して何かを感じる前に行動を決定する。例えば戦場のベテラン兵士は訓練の結果、思考する前に、「危険だ」と行動できる。兵士ほどではなくとも、災害に対してそういった感覚を磨くことが、生き残るために大事だろう。
具体的に必要な訓練とは?
文字や映像だけで災害の恐ろしさを知るのではなく、実践に近い形の訓練が有効だと思う。日常生活に身体的、心理的なマイナスの影響があるかもしれないが、それを補って余りあるプラスがある。訓練で出るマイナスを認めるような姿勢が世論にも必要だ。
バーチャルリアリティー(仮想現実)技術を活用して造った装置でも、かなり現実に近い体験ができるかもしれない。予告せず、抜き打ちで実施する防災訓練も一案。病院ならば入院患者がいる状態で避難訓練をするのもいい。現実味を帯びた状況を演出しなければいけない。
結局、災害で生き残るのはどういう人か。
正常バイアスを打ち破ったうえで落ち着いて判断し行動する人が最終的には生き残る。1954年、青函連絡船の洞爺丸が沈んだ。そこで生き残った乗客の1人は船が座礁したことから海岸に近いと判断し、救命胴衣をつける際、衣服を全部身につけるなどこういう場合に不可欠な準備をし生き抜いた。冷静に状況を分析し行動した結果だ。
災害を生き抜いた人は周囲が犠牲になったことを不当だと感じず、私たちは社会全体で生還者を心から祝福する雰囲気をつくることが大切だ。それが復興の原動力となる。
(中村禎一郎)
【ひろせ・ひろただ】 1942(昭和17)年東京都生まれ。東京大文学部卒。著書は「人はなぜ逃げおくれるのか」「災害防衛論」(以上集英社新書)「無防備な日本人」(ちくま新書)など。
◆世界で起きたバイアス悲劇
韓国・大邱(テグ)市で発生した2003年2月の地下鉄放火事件は、正常性バイアスが招いた災害での悲劇の象徴的な例だ。
放火された車両から火が燃え移った対向電車で、煙が立ち込める中、ハンカチで口を覆いながら車内でじっと待つ乗客の姿が撮影されている。「安心してください」との車内放送も流され、運行側が乗客のパニックを恐れて情報を出さないのと、乗客側の正常性バイアスが重なり、被害の拡大につながったとされる。避難が遅れ、死者192人を出した。
1977年5月、米ケンタッキー州のクラブで164人が死亡した火災でも、ボーイが「火事です。近くの出口から慌てず逃げて」と呼び掛けても、客たちの反応は鈍かった。コメディアンのショーの一部だと思われ、火事と気付くのに1分はかかったという。
01年9月の同時多発テロで旅客機が突っ込んだニューヨークの世界貿易センタービルでは、警察の誤ったアドバイスが正常性バイアスを高めたといえる。北棟64階の公社職員がすぐに避難すべきかを尋ねると、警察署は「動かないでください。警察官の来るのを待って」と指導。プロの言葉を過信した結果、避難は1時間後になり、多くの人が地上までたどり着けなかった。
(安田功)
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