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東日本大震災:「精神的ケア必要」300人以上 岩手で
2011年5月22日 13時14分
大震災で被災した岩手県沿岸部に、不安や不眠などで精神的ケアが必要な被災者が少なくとも約300人いることが分かった。保健師からの報告を、県精神保健福祉センターが被害の大きい6自治体についてまとめた。被災地全体ではさらに人数が増えるのは確実で、専門家は「継続的なケアの体制を整えるべきだ」と指摘する。【安藤いく子、野上哲】
岩手、宮城、福島の3県には国を通じて「こころのケアチーム」(20日現在52チーム)が派遣され、同センターはチームを岩手県の市町村に振り分けている。宮古市以南の4市2町の避難所、自宅を、チームと連携する保健師らが訪ね、精神的ケアが必要な被災者を積算したところ、約300人に及んだ。
5月中旬に宮古市でチーム活動をした聖隷三方原病院(浜松市)の森本修三医師(53)によると、避難所では不眠が深刻だという。
特に男性に注意が必要で「家族を亡くしたうえ避難所でも他人と交流せず孤立している人がいる」と話す。自宅の被災は免れても、仕事を失いアルコール依存症の恐れがある40代男性もいた。
「震災2カ月で全体として強いうつ状態は脱し、自分を鼓舞して何とかやっている。東北人の気質か、気丈に振る舞う傾向もある」
同チームのスタッフは撤退後、地元の医師らに引き継ぎをするが、精神科施設がない自治体もある。岩手県中部沿岸域から患者を受け入れている宮古山口病院(宮古市)の及川暁院長は「自殺に至る人はその前に何らかの症状があり、専門家が気づく必要がある。心のケアの拠点を設け、継続的できめ細かい対応が必要だ」と話している。
◇悲しみの連鎖…自殺のケースも
被災地では、家族を失ったショックなどから自殺するケースもあり、悲しみの連鎖が懸念される。
「男の子らしい。もうすぐ生まれるんだ」
岩手県陸前高田市に住む30代後半の会社員男性はうれしそうに話していたという。
兄によると、男性は妻と2歳の長男、義理の両親と祖母の6人暮らしだった。4月5日が第2子の誕生予定日だったが、一家の幸せは3月11日の津波にのまれた。大船渡市内の会社にいた男性だけが無事だった。
男性は避難所で過ごしながら、避難所や遺体安置所を巡った。14日ごろ、大船渡市内で偶然に会った高校の同級生は男性の表情が忘れられない。リュックを背負い「家族が見つからない」とつぶやき、疲れ切っていた。
震災約1週間後には携帯電話が通じ、関東地方で暮らす兄と連絡を取り合った。
「お前は大丈夫か」
「安心して」
「おれも実家に戻るよ」
「こっちに来ても電気も水もない」
20日ごろから男性は大船渡市内の知人宅に身を寄せた。医療チームの診察を受け、総合病院の精神科に通院するようになり、精神安定剤を処方された。
「病院で薬もちゃんともらっている」。兄は電話で聞き「なら大丈夫だろう」と思ったという。だが31日、男性は実家に戻り、練炭自殺をした。
「惨状を見ているだけでも気持ちがおかしくなる。違う環境に連れ出していれば、こんなことにならなかったかもしれない」。兄は悔やむ。「残された家族や友人の悲しみは言葉に表せない。助かった人にはどうか生き続けてほしい」【宮崎隆】
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