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震災地の医療  Logistics トイレなんかも外で新聞紙の上
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投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 16 日 20:14:14: 6WQSToHgoAVCQ
 

http://www.asahi.com/health/sanada/TKY201103290287.html


Logistics

2011年4月27日  

 東日本大震災に関して、1医療人としていろいろ感じるところがある。

 このページは本来気楽な医療コラムだけれども、前回と今回は少しこういった通常でない状態での医療についての考えを、病院の同僚先生のにお話を聞いた。

 「確かにDMAT(Disaster Medical Assistance Teamの略。ディーマット、と発音される。医師、看護師、事務員、技師、薬剤師などのコメディカルで構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)に活動できるように専門的な訓練を受けた医療チーム。阪神・淡路大震災以後、組織されるようになった)が初動にいち早く活動を開始するのは大切なこと。ただ、ではDMATさえ出しておけばよい、というものじゃない。DMATのできることっていうのは案外限られているんだよ」

 DMATのメンバーである外科のO先生が言う。

 「DMATは初動に強い。そういう能力に特化するようにしているからね。でも継続的にある程度長期に活動するためには、次々と交代していくことが必要になるかな」

 「どれくらいで交代するんです?」

 「2泊3日で次ぎのチームと交代するようにしているよ。院内でもA班、B班、C班くらいまでは組織してある。それらのチームが次々に現地に行って、先発隊と交代するんだよ」

 「短いって言ったらしかられる?」

 「いやいや、自分達の食事や生活に必要な物も持ち込みだよ。当然だけど、現地での医療活動に使うであろう薬品や道具も全部持って行く。それらを自分達のバンに積んで、陸路を行くわけさ。到着するのに丸一日、帰ってくるのに丸一日、だから出張期間としては5〜7日の行程になる」

 「寝泊まりもそのバンの中なんですね。そうなるとせいぜい7日くらいが体力の限界かな?」

 「助けに言った者が足手まといになるわけにはいかないからね。看護師さんなんか女性が多いけど、トイレなんかも外で新聞紙の上だからね。士気を高く保ったまま質の高い仕事をするには、極端に疲れさせてはだめなんだよ」

 「大変ですよね」

 「だから先発隊となる第1班は状況の把握と、簡易診療所の設営が主な仕事にならざるをえない。第2班以後にどういう物資が必要か、本当に必要なものは何かを伝えるのが重要かな」

 実際、今回のような災害の場合現地に行くことすら困難であったとのこと。必要物資を持って行くのは当然のこと、現地へ到着するまでの間のメンバーの生活物資も積み込んで、不休で現場に向かったと。が、一隊の持ち込める物資はそんなに多くない。技術要員としてのDMATがいたとしても、それをささえる物資がその後潤滑に供給されなければ早晩活動ができなくなる。

 Logistics、兵站。

 もともと日本はこのLogisticsを軽視する傾向があるように思う。現場の根性論あるいは現場の英雄的活躍の賞賛といった「わかりやすいお話」を聞きたがる。その現場の働きを最大限に生かすために、地味ながらLogisticsに働く人間の評価は恐ろしく低い。下手をすると、現場の人間からすらもLogisticsの整備は当然のことのように言われる。

 現場の活動をささえる後方支援としてのLogisticsをどう整備するのか?DMATだけ送れば支援が終了ではない。これから継続的支援をするにはどうしたらよいのかを考えている。
 
 
 
 
震災地の医療

2011年3月30日 

 東北地方がとんでもないことになっている。

 テレビで見た津波があがってくる様子は、背筋が凍るようだった。天災の前にどうしようもない無力感に襲われる。テレビの前で呆然とその光景をみている自分に罪悪感すら感じた。

 ほどなく現地での「医療」が問題にされる。

 たくさんの避難民、けが人、病人。妊婦、子供、老人。元気なはずの若い人ですら、過酷な状況下では体調を崩す。

 ずいぶん昔、とあるところである先生の診療を手伝ったことがある。当時の私は半ば研修中の身分で、割と自由に勤務先を決めることができたのだ。そこはずいぶんな田舎で、医療物資も設備も十分なものはなかった。中年のよく太ったおばさん看護師一人に、とっくに定年退職したはずのおばあちゃん看護師が時々お茶を飲みにきていた(本人は手伝いに来ていると言い張っていた)。無口な背の低い男性事務員が一人いて、この人はどうやら別の仕事も持っていそうで、医療事務仕事の合間に別の帳簿仕事をよくしていた。

 「僻地医療っていって馬鹿にしちゃいけないよ。ここは野戦の総合病院なんだから」

 学生時代にワンダーフォーゲル部だったその先生は、あいかわらずのひげ面で豪快に笑った。当時でもすでに珍しくなっていた丸形の石油ストーブの上にやかんが乗っている。板張りの古い形の診療室。時々来る患者さんは子供から高齢者、働き盛りのおじさんや漁師さん、市場のおばちゃんで、診療費代わりなのかなんなのか、野菜や魚を置いていく人もいた。

 風邪も胃腸炎も診た。子供のはしか(麻疹)も。私ははじめて「コプリック斑」というのをこの診療所で診て覚えた。漁師さんが多くて、よく指の怪我なんかをしていた。大きな銛やら針やらで指をざっくり切る人がいのた。あまり上手とはいえなかったけれども、ひげ面先生は器用に縫っていた。

 ある時、地震があった。揺れ自体はそんなにひどくなかったけれども、その後火が出てしまった。隣家からの延焼で、ぼろぼろの診療所はすっかり燃えてしまったとのこと。電話口のひげ面先生の声はそれでも落ち着いていて全然慌てた風じゃなかった。

 「・・・・だからさ、真田先生、もし手が空いていたら明日っから手伝いに来てほしいんだよね」

 「わ、わかりました。あの、何か持って行った方がいいもの、ありますか?水と食料ですよね?あ、毛布とかもですか?」

 いわゆる避難生活を想像した私はサバイバルキットを想像した。

 「PL(総合感冒薬の一種)と、抗生剤と、解熱剤。それからありったけのプレドニゾロン。インスリンがあったらうれしいな。そんだけあれば短い期間ならなんとかなる」

 翌日現地に到着すると、すでに診療所横の駐車場で青いビニールシートでテントが張られ、段ボール箱を机代わりに診療所ができていた。事務の男性はあいかわらず無口だったけれども、レポート用紙でカルテを作って、記録係までこなしていた。太った看護師さんは効率よく患者の受診順を決めて、処置を始めていたし、おばあちゃん看護師がちゃんと看護師として働いている姿を見た。

 「真田先生は薬剤師のかわりしてね。燃え残った中からも使えそうな薬を見つけてね、やりくりしながら管理して次の方策を考えてね」

 医師1、ナース2、事務1、薬剤師1。

 これだけいて薬剤があれば最低限の青空診療所ができあがる。私は被災地での急ごしらえ診療のやり方をこのとき教わった。3日しのげる処方とその間に後方支援に送ること。思えばあの診療所の体制がすでに毎日が被災地診療のようなものだったのかもしれない。

 我々の施設からも医療チームを派遣している。被災された方々にはなんとしてもあと少しがんばっていただきたい。


筆者プロフィール

真田歩(さなだ・あゆむ)

 医学博士。医療崩壊の波が押し寄せる市中病院で勤務中。診療、研究、教育と戦いの日々。大学医局から呼び戻しの声があったものの、現場に留まる事を選んだがために青息吐息の不養生。愉快な仲間と必死に戦う現場での愚痴はおしゃべりすることで息抜きとする養生。医療現場の日常をちょっと変わった角度からお伝えします。

 

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