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日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>「3・11」から始まる安全マネジメントの新常識
大震災で露呈した交通システムの新たな弱点 減災社会の実現へ交通・物流システムの再構築を
2011年4月19日 火曜日
安部 誠治
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3月11日に発生した東日本大震災──。地震、津波という自然災害に原発事故という社会災害が重なり合う未曽有の事態は、これまで社会や企業が前提としてきた安全の常識を次々と覆した。3月11日を境にどのような常識が新たに形成されていくのか。それに応じて社会や企業活動の安全マネジメントをどう変えていかなければならないのか。
このコラムでは、自然災害と事故などの社会災害の両方に精通した防災や危機管理のプロを育成する場として日本で初めて誕生した関西大学社会安全学部の教授陣が、社会や企業の安全マネジメントについての新たな考え方や具体策を講義していく。
今回は、公共交通システムの安全問題に関する第一人者で、JR福知山線の脱線事故などで再発防止策を積極的に提言してきた安部誠治教授が、今回の震災による公共交通システムの被害状況を分析し、教訓や課題を明らかにする。
東日本大震災の発生から1カ月余りが過ぎた。
16年前の1995年に起きた阪神・淡路大震災の場合、発生から1カ月目に判明していた死者数は5378人、行方不明者は2人だった。その最終的な死者数(直接死)は5516人、行方不明者は3人だったので、地震の発生から1カ月が経過した時点で、人的被害の全容はほぼ把握できていたことになる。
これに対して今回の大震災では、1カ月を経ても、なお1万4000人を超える行方不明者の安否が確認できていない。この点だけでも、これまでの災害と大きく異なっていることが分かるだろう。
地震と津波による被害の甚大さに加え、被災したエリアが複数の県にまたがって広域に及んでいる。被災地の自治体の中には、行政機能を完全に失ったところも少なくない。
そして東京電力の福島第1原子力発電所の事故が併発したことに伴って、被災地の救援・復旧・復興に振り向ける政府のリソースは、人的な面でも物的な面でも分散を余儀なくされている。
毎日のニュースのトップはほとんど原発問題であることに見られるように、報道の関心も原発問題に向いている。これらの要因が重なり合って、大震災の全容の把握を困難にするとともに、救援・支援活動の立ち遅れを招いている。
幹線交通のインフラは阪神・淡路よりもはるかに早く復旧
マグニチュード9.0の巨大地震とそれに伴って起きた大津波によって、水道や電気、ガス、交通、通信など人々の生活や社会活動に欠かせないライフラインは壊滅状態に陥った。このうち交通インフラの復旧は、地震発生から1カ月の間に大きく前進した。
交通インフラは、(1)都市間やエリア間の人の移動と物の輸送を担う幹線交通、(2)地域内の日常的な人の移動と物の輸送を支える地域交通──の2つに大きく分かれる。
今回の大震災で最も激しい被害を受けたのは、地域交通のインフラ施設である。沿岸部の道路は各地で寸断され、鉄道も三陸鉄道やJR大船渡線、気仙沼線、石巻線などのローカル線が徹底的に破壊された。後者のJR3線の被害状況は、国土交通省が「点検困難」と評価するほどだ。
太平洋岸を走るローカル線は、駅舎や車両が大津波に押し流されるなど壊滅状態に陥った
一方で、幹線交通も、大きな被害を受けたものの、その復旧は順調と言っていいスピードで進捗してきた。
首都圏や西日本と東北地方を結ぶ幹線交通は、(1)東北新幹線、(2)東北自動車道などの高速道路、(3)航空路──の3つである。これらのうちで、大量性と高速性の2つの点で相対的に優れているのが新幹線である。
被災地を縦貫して北上する東北新幹線は、昨年12月4日に八戸から新青森までが開業し、東京から新青森までの直通運転が始まったばかりのところであった。その矢先、震災に遭遇し、377.5キロ(那須塩原〜盛岡駅)が長期の不通状態となった。
阪神・淡路大震災の際、地震直後を除いて長期間にわたって不通状態となったのは山陽新幹線の新大阪〜姫路間91.7キロであった。不通状態にある新幹線の営業キロを比べてみるだけで、東日本大震災の被災地が広域に及んでいることが分かる。
事故を起こさず評価される新幹線の安全性
阪神・淡路大震災により寸断された山陽新幹線が全線開通したのは地震発生から81日目、また2004年の中越地震で上越新幹線が復旧したのは66日ぶりのことであった。東北新幹線の全線の営業再開について、JR東日本はいったん、頻発する余震の影響で5月初旬にずれ込む可能性を示唆していた。しかし同社は4月18日、改めて4月末までに全線で運行を再開する見通しを示した。山陽新幹線のケースと比較すると、はるかに早いペースで復旧することになる。
これは、海溝型地震と内陸直下型地震という違いは考慮しなければならないが、阪神・淡路大震災の後に新幹線施設の耐震構造基準が見直されたことや、中越地震後の2005年に始まった国土交通省の「新幹線、高速道路をまたぐ橋梁の耐震補強3箇年プログラム」などによって、構造物の耐震補強が行われたことが大きい。その効果があって、施設や設備が重大な損壊を免れたのだ。
日本の新幹線には「新幹線早期地震検知システム」という耐震列車防護システムが導入されている。これは、地震の初期微動(P波)を検知して主要動(S波)が到着するまでに列車を減速・停止させるシステムで、沖合を震源とする海溝型地震には有効なシステムである。今回、このシステムが作動し、幸い東北や東海道、上越新幹線などを走行中の列車の脱線・転覆事故(従って乗客の死傷事故も)は発生しなかった。このことは高く評価されていい。
ただ、このシステムは直下型地震に対しては有効ではない。阪神・淡路大震災の際は、地震が発生したのは新幹線が走りだす午前6時前だった。だから、新幹線の事故は生じなかった。もし、午前6時以降に地震が起こっていたら、おそらく多数の死傷者を伴う重大な事故が起こっていただろう。
新幹線が再開されれば、支援・復興活動などのために被災地へ移動する条件が大きく改善される。また、東北地方の拠点空港である仙台空港と羽田空港との間には定期便(現在は暫定的に臨時便が運航)がないため、首都圏と仙台〜盛岡間のビジネス目的の移動も容易となる。さらに、大打撃を受けた観光業の再建の足がかりにもなる。
インフラの減災対策の継続的実施を
高速道路のうち基幹となる東北自動車道が3月24日、一般車も含め全線通行可能となった(4月7日の余震で一時通行止めとなったが、11日には再開している)。
阪神・淡路大震災の後、不通区間の名神高速道路が復旧したのは199日後、また倒壊した阪神高速神戸線が復旧したのは1年8カ月後のことだった。高速道路も、上述の「耐震補強3箇年プログラム」などによる補強工事を終えていたことが、このように早期の再開を可能にしたと言える。
インフラの耐震補強は莫大なコストがかかる。しかし、東海地震、東南海・南海地震などの大規模地震に備え、地震が起きても被害を軽減するための減災対策を引き続き着実に推進していくことが求められる。今回の大震災はそのことを示している。
「計画停電」の影響によって3月14日には首都圏の鉄道に大混乱が生じた。1日当たり4000万人近くの人々が利用する鉄道がストップすると首都機能はマヒしかねない。首都直下型地震の到来に備えて、首都機能の一部移転に本腰を入れて着手する必要がある。
被災地の生活・経済再建のためには、甚大な被害を受けた地方道とともにローカル鉄道の復旧が欠かせない。鉄道は、自家用車を使用できない人にとって必須の生活手段であるからだ。また、代替輸送という点で、JR貨物の重要性も改めて見直された。
もっとも、新幹線のような幹線鉄道と違って、利用者の少ないローカル鉄道の復旧は前途多難である。被害が甚大なために、単なる補修にはとどまらず、新線を建設するほどの労力も要する。
1995年7月の集中豪雨で不通となった大糸線(長野県松本市〜新潟県糸魚川市)の復旧・再開には2年4カ月。そして2004年7月の集中豪雨により橋梁が流失した越美北線(福井県福井市〜福井県大野市)の復旧には3年かかった。
しかし、これだけの時間をかけてはならない。現在、国土交通省には、鉄道軌道輸送対策事業費補助(2010年度20億円)や鉄道施設総合安全対策事業費補助(2010年度9億円)などがあるが、これらの制度では今後の鉄道再建への支援策としては不十分である。速やかに再建が進むよう、国は特別な支援措置を講じる必要がある。
なお、原発事故の併発で、JR常磐線の前途は危うい。避難指示区域以外の路線の営業は再開できたとしても、避難指示区域内の復旧はほとんど絶望的だ。
当面は道路を使った輸送の復旧に注力すべきだろう。東北地方の交通機関別の輸送分担率を見てみると、2008年現在で、自家用車が90.1%であるのに対して、鉄道3.7%、バス3.3%と、自家用車による移動が圧倒的なウエートを占めている(出所:東北運輸局「運輸要覧2010」)。貨物輸送でも同様で、鉄道のシェアは極めて低く、東北地方の物流を担っているのはトラックである。
これから被災地の復興が本格化する中で、そのための人や資材の輸送を担うのも、自家用車やトラックになる。そのうえで今回の震災は、交通システムに対して新たな課題を突き付けた。燃料不足によってトラックや乗用車が動けないといった事態が生じたことである。
今回の震災が突き付けた新たな課題
そのため、必要な物資が被災地へ届かないといった問題や、救援・支援者の移動が制約されるなどの問題に加えて、被災者自身の移動も困難を来すという問題が深刻化した。
さらに、津波で大量の乗用車が損失したことも、被災者の移動を困難にする要因になっている(いまだに被害の詳細は判明していないが、おそらく数十万台の自動車が使用不能になったものと思われる)。
燃料不足が生じたのは、精油所やガソリンスタンドの被災、供給ルートの途絶、そしてガソリンスタンドなどに貯蔵されていた燃料が使い切られてしまって、一時的に需給のアンバランスが生じたためである。
ここに来て、深刻な燃料不足は解消されつつある。その一方で、物流網や流通網に混乱が生じたために、トラック車両の需給が全国的にタイトになるという新たな問題も発生している。
東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県の7都府県では、条例によってNOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)について一定の排出基準に適合していないディーゼル車などの運行を規制している。このため、2002年以前に製造されたトラックのうち不適合車は、積み替えのために首都圏に乗り入れたり、首都圏を経由して被災地に向かったりすることができない。
そこで、環境政策の立場からは異論があるだろうが、首都圏の1都3県について、例えば6カ月といった期間限定で、規制を一時的に解除することを提案したい。今後、西日本から首都圏に向けて部品や製品などの供給が増加することも予想される。工業生産を下支えするという観点からも、こうした思い切った措置を講じる必要がある。
今回の大震災は、いったん異常事態が発生した場合の多頻度少量輸送やジャスト・イン・タイムシステムの弱点を浮かび上がらせた。災害が起きても被害を軽減する減災社会を築いていくうえで、私たちは再考すべき重要な宿題を負ったと言うべきであろう。
このコラムについて
「3・11」から始まる安全マネジメントの新常識
2011年3月11日に発生した東日本大震災──。観測史上最大のマグニチュード9.0を記録した大地震は、大津波によって甚大な被害をもたらすとともに、原子力発電所の放射能漏れという重大な事故をも引き起こした。
地震、津波という自然災害に原発事故という社会災害が重なり合った大規模複合災害。かつてこの国が経験したことのない未曽有の事態は、社会や企業が前提としてきた安全の常識を次々と覆した。それに伴って、3月11日を境に新たにどのような常識が形成されるのか。新たな常識を踏まえて社会や企業活動の安全マネジメントをどう変えていかなければならないのか。
自然災害と事故などの社会災害の両方に精通した防災や危機管理のプロを育成する場として日本で初めて誕生した関西大学社会安全学部の教授陣が自説を緊急に講義する。
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著者プロフィール
安部 誠治(あべ・せいじ)氏
安部 誠治関西大学社会安全学部教授。1952年生まれ。大阪市立大学商学部助教授などを経て、1994年から関西大学商学部教授。2010年4月から現職。専門は公益事業論と交通政策論。2007年から2009年まで関西大学副学長として、社会安全学部 の設置・開設準備を担当。
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