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「(朝日)(日経)(毎日)(産経)これらの社説を見て、日本の新聞は大丈夫かと正直、思った:山口一臣氏」
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2012/5/12 晴耕雨読
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わたしが読んだ小沢控訴に関する社説の中で、唯一的確に事件の本質と問題点を捉えていると思ったのが東京新聞の社説だった。
まず、強制起訴に至った検察審査会の議決の中身(白か黒かを法廷で決着させたい)を紹介し、それを踏まえたうえで、「白」という決着がすでについているのだから、それ以上の権力行使は抑制すべきだと論じている。
この重要な視点を明確に指摘した新聞はわたしの見た限り他になかった。
他紙は検察官による起訴と検察審査会の議決による起訴の違いがいまだに理解できていないように感じた。
検察の起訴は証拠を精査したうえで、確実に罪を犯しているという確信のもと、「被告人に処罰を求める」という明確な目的のために行われる。
しかし、検察審査会の議決による起訴は、少なくとも今回の場合は、「被告人処罰を求める」というものではなく、「白か黒か裁判所の判断を聞いてみたい」というものだった。
東京新聞以外の新聞は、そのことをすっかり忘れているようだ。
東京新聞の社説はさらに、検察でさえ上級庁との協議によって二重三重のチェックを受けながら決める控訴の判断が指定弁護士に一任されてしまっている問題にも言及し、〈指定弁護士の独断で、小沢元代表をいつまでも刑事被告人扱いにしてよいのか〉と断じる。
この危うさを指摘した新聞も他になかった。
しかし、検察審査会の制度そのものについては〈従来、検察だくが独占していた起訴権限を市民にも広げる意味があり、評価する〉としている。
わたしもこの考えに賛成だ。
他紙では、検察審査会の制度そのものの見直しを求める論調もあるが、それは違う。
現状の密室性を改めるだけで状況はかなり改善される。
制度そのものは評価しつつ、未整備な部分の改正が必要という東京新聞主張は正しい。
そもそもの事件についても、
〈特捜検察が一人の政治家を長期間にわたり追い回し、起訴できなかった異様な事件である。ゼネコンからの巨額な闇献金を疑ったが不発に終った。見立て捜査そのものに政治的意図があったと勘ぐられてもやむを得ない〉
と、その本質に鋭く切り込んでいる。
〈小沢元代表はこの三年間、政治活動が実質的に制約を受けている。首相の座の可能性もあったことを考えると、本人ばかりでなく、選挙で支持した有権者の期待も踏みにじられたのと同然だ〉とも。
他紙の論説は相変わらず小沢さんを主人公≠ノしたものばかりで、本質が見えなくなっているようだった。
比較的冷静な筆致で書き出しているのが日本経済新聞の社説だった。
「推移を冷静に見守りたい」というのが基本姿勢だ。
〈控訴で浮かんだ新たな課題もある。控訴審での指定弁護士の人選などについて明示規定がなく、一審と同じ3人の弁護士が引き続き担当する。「市民感覚」で起訴された被告が一審無罪の後も上級審で裁判を続ける負担も考慮し、今後、検証していく必要がある〉
というところまでは、まぁイイ線いっていた。
ところが、その次の段落から迷走が始まる。
〈元代表の政治資金をめぐるそもそもの疑問は、不要な不動産取引をなぜしたのか、資金の流れが不明朗なのはなぜなのか、にある〉そしてお約束の〈裁判が続くかどうかにかかわらず、国会の場で説明責任を果たすべきだ〉
との論難に続く。
まず、日経がそもそもの疑問とする「不要な不動産取引」は明らかに事実誤認に基づく表現だ。
この事件に関心のある人なら、陸山会がなぜ世田谷の土地を購入したかは、誰でも知っている。
〈資金の流れが不明朗〉というのも世間に予断を与える乱暴な表現だ。
小沢元代表の政治資金をめぐるそもそもの疑問≠ヘ、新聞が自ら散々書き立ててきたように、
(1)小沢事務書が工事受注の見返りにゼネコンから闇献金を受け取っていたのではないか?
(2)世田谷の土地購入のために小沢さんが用立てた4億円の原資は何なのかーーということではなかったのか。
この最重要≠ネ問題はいったいどうなってしまったのか。
(1)ゼネコンから闇献金については、前田元検事が「検察幹部の幻想」だったと証言し、東京新聞は「不発に終った」と書いた。
では、新聞がこれまで再三にわたって説明責任≠迫った(2)4億円の原資はどうなったのか?
一審判決では、これまでの小沢元代表の説明通り、彼の個人資産だったことが認定されている。
判決文を正確に引用すれば〈大筋においては、その供述の信用性を否定するに足りる証拠はない〉ということになる。
指定弁護士の控訴でもこの点は争われない。
要は、「小沢元代表の政治資金に関するそもそもの疑問」は、すべて消えてなくなっている。
そのことを明確に摘示していた新聞はなかった。
とくに4億円の原資の疑惑≠ェ完全に晴れていることを書いた新聞は、わたしの見落としがなければ、残念ながらひとつもない。
壊れたテープレコーダーのように「説明責任」を繰り返すばかりだ。
本来、ニュースというのは「新しくわかったこと」のはずなのに。
新聞は自らの誤りを隠すため、表現を抽象的にする傾向があるようだ。
「闇権金」「裏金」「贈収賄」と書けないから、「政治とカネ」などとごまかす。
4億円の原資の素性が明らかになってしまったので「不明朗な資金の流れ」などと表現する。
言葉が抽象的になればなるほど、説得力は失われる。
再び日経の社説。
後半の迷走ぶりは目を覆うばかりだ。
前半で
〈裁判の長期化によって、国政がこれ以上混乱したり停滞したりすることは許されない〉
と書いた同じ筆で、
〈裁判継続中の小沢元代表が=略=復権を目指せば、党内はますます混乱する〉と書く。
そうして
〈消費税増税反対を絡めて反党的な動きを続けたとき、小沢元代表にどう対処するのか。野田佳彦首相は腹を固めてもいいだろう〉と締めくくる。
結局、何が言いたいのか分からない。。
東京新聞以外の社説が異口同音に非難しているのが、小沢元代表の党員資格停止処分が解かれたことだ。
〈小沢氏の裁判は控訴され、さらに続く。それでも処分を解く民主党の責任は、いっそう重くなった〉(朝日)
〈一審判決だけでの処分解除は公約違反で、党内外にかえってわだかまりを残した〉(日経)
〈それにしても、民主党が元代表の党員資格停止処分解除を決めたのは拙速だった。元代表は今後も被告の立場だ〉(毎日)
〈控訴の可否を待たずに、小沢元代表への党員資格停止処分の解除を8日に決めた民主党常任幹事会の一方的な判断の欺瞞性は、控訴の事実でより鮮明になった〉(産経)という具合だ。
これらの社説を見て、日本の新聞は大丈夫かと正直、思った。
近代司法の大原則は無罪の推定だ。
「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」。
どんな人でも犯罪が立証されるまでは無罪として扱わなければならないという、当たり前の考え方だ。
この原則に照らせば、そもそも起訴された段階で処分を下した民主党の決定が間違いであり、本来なら新聞はその時点で民主党の決定を批判すべきだった。
公務員は刑事事件に関して起訴されると「休職にすることができる」という地方公務員法の定めがあって、実際に休職することが慣例となっている。
わたしは、この決まり自体が先の原則を逸脱していると考えているが、起訴有罪率が99.9%という現実を踏まえると、まったく不合理と言えないことは理解できる。
しかし、それはあくまでも検察官による起訴の場合だ。
検察官による起訴は検察が組織として証拠を精査し、被疑者が間違いなく罪を犯しているという確信のもと、処罰を求めるという明確な意思をもって行われる。
ところが、検察審査会の議決による起訴は明らかな違いがある。
少なくとも、今回の場合は「白か黒か裁判所に聞いてみたい」という程度のものだった。
そうなると、無罪の推定は検察官による起訴とは比べものにならないほど強く働かなければならないはずだ。
党員資格停止を「無罪確定まで」とした民主党の決定がいかに法の原則を逸脱し、人道に反するものかが分かるだろう。
新聞とは、本来こうした物事の本質を丁寧に解きほぐし、世間に伝えることが使命なはずだ。
それがまったくできていないどころが、まったく逆の主張をしているのだ。
今回の裁判は、検察が二度に渡って嫌疑不十分(シロ)で不起訴にした案件を、検察審査会が「裁判所にも聞いてみたい」という程度の気持ちで起訴相当としたものだ。
しかも、その決定の背景には、恣意的に作成された虚偽捜査報告書の存在があったことが裁判の過程で明らかになっている。
それでもなお、一審裁判所は起訴自体の有効性を認め、その上で「無罪」の判断を下している。
であればなおさら、小沢元代表の推定無罪の立場は強く守られなければならないはずだ。
あえていうと、新聞は本来、そうした立場を守る側につくべき存在だったと思う。
日本の新聞が横並びに「無罪が確定していない人間は罪人として振舞うのが当然だ」とでも言わんばかりの主張をしていることは、率直に言って恐ろしい。
わたしが入ったころの新聞社は、もっともっと人権には敏感だった。
日本の新聞の論説はそこまで劣化してしまったのか、というのが偽りのない感想だ。
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