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「どじょう内閣」の愛称とともに高支持率でスタートした野田政権は、発足からわずか9日で泥をかぶることになった。経済産業相に就いた鉢呂吉雄氏が「失言」によって早々と辞任に追い込まれたのだ。福島第一原発を視察した翌日の記者会見で、原発周辺の地を「死の町」と表現して批判を浴び、さらに非公式の記者懇談で「放射能をうつしてやる」という趣旨の発言をしたと報じられ、辞意表明に至った。
原子力政策にもかかわる重要閣僚として、極めて不適切かつ無責任な言動―このように社説で非難した産経新聞をはじめ、新聞やテレビでは「辞任は当然」といった論調が大勢を占めた。しかしツイッターなどネットでは、鉢呂氏を擁護する意見も少なくなかった。むしろ「マスコミによる言葉狩りではないか」と政治報道のあり方を問題視する声が広がった。
象徴的だったのが、9月10日の辞任会見で鉢呂氏に“暴言”を浴びせた記者に対する強い批判だ。その記者は「あなたね、国務大臣をお辞めになられるんでしょ。その理由ぐらいちゃんと説明しなさい」と詰問。鉢呂氏があいまいな答えを返すと「何を言って不信の念を抱かせたか、説明しろと言ってんだよ!」と怒鳴ったのである。
もしこの会見が、従来のように記者クラブだけに開かれたものだったとしたら、暴言記者の存在が明るみになることはなかっただろう。だが、時代は変わった。恫喝ともいえる彼の発言はそのまま、ニコニコ動画やユーストリームといったネット中継を通じて、リアルタイムに多くの人の知るところとなった。
このときは社名や氏名を名乗らなかったため、どのメディアの記者なのか分からなかったが、その後、別の記者会見で質問している映像がネットで公開されて、所属先と名前が判明。暴言記者は一躍、ネット上の「有名人」となってしまった。その社の同僚によれば、会社には抗議の電話が殺到したそうだ。
なぜこの記者が、記者会見という衆人環視の場で暴言を吐いたのかは分からない。一つ言えるのは、ネット中継によって記者会見の性質が大きく変わったという現実に、彼が気づいていなかったということだ。
記者会見のあるがままの姿を伝えるネット中継は、会見の主役である政治家の発言だけでなく、脇役であるはずの記者の言葉や声色も、一般大衆にダイレクトに届けていく。「失言」のリスクにさらされているのは大臣だけではない。質問する記者もまた同様なのだ、ということを実感させる“事件”だった。
●「オフレコ懇談」の存在がネットで問題になる
インターネットの広がりによって変質したのは、政治家の記者会見だけにとどまらない。これまで検証されることの少なかった「マスコミの政治報道」のあり方が、ツイッターなどのソーシャルメディアを通して、広く、厳しく問われるようになった。今回、鉢呂氏の“失言”を批判的に報じた新聞・テレビとは対照的に、ツイッターでは―少なくとも私のタイムライン上では―マスコミの報道姿勢を疑問視する声が広がった。
「鉢呂経産相『放射能つけた』」と1面で大見出しを打った新聞について、ジャーナリストの江川紹子氏(@amneris84)は「こんな話を1面トップにするニュースセンスが分からない」と一刀両断。東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏(@hasegawa24)は「ある種の『言葉狩り』が進むようなら、それはまた別の新しい問題。なんとも嫌な感じがしてきた」とつぶやいた。
これら言論人のツイートが、その賛同者たちによって次々とリツイート(再投稿)されて、瞬く間に拡散していく。毎日新聞は「鉢呂経産相辞任:『当然の結果だ』 深まる政治不信」と題した記事をネット配信したが、深まったのはむしろ「マスコミ不信」だったのではないかという気がしてならない。
このようなネットでの動きを受け、ニコニコ動画では「緊急特番!鉢呂大臣辞任は記者クラブの『言葉狩り』だったのか?」と銘打った討論番組を企画。長谷川氏のほか、元記者で衆院議員の柿沢未途氏と宮崎岳志氏を招き、「放射能」発言が報じられた経緯や、その背後にあるとみられる「オフレコ記者懇談」の問題点などについて、徹底的に論じ合った(詳細はニコニコニュースの全文記事を参照)。
今回の政治報道をめぐる混乱について、「記者クラブ独占のオフレコ懇談の構造そのものに対する不信が高まり、もう限界にきていることが問題」と分析するのは、元テレビ朝日ディレクターで、現在は立命館大学で「ジャーナリズム・政治とメディア」を研究する奥村信幸准教授だ。鉢呂氏の「失言」に関する情報をどのように入手して報道するに至ったのか、ある程度は説明すべきだと指摘。ネット時代の報道機関のあるべき姿について次のように展望している。
「これからのネット/マルチメディア・ジャーナリズムの世界では、今までの『報道機関があまたある情報の中からセレクトした情報だけ伝える』形ではなく、とりあえず材料をすべてメディアが供出して『さあ、どう思うのか一緒に考えよう。我が社はこう思っているけど』と提示するような形に変わっていくのではないか」(「ジャーナリズム」11年10月号掲載)
◇
亀松太郎(かめまつ・たろう)
ドワンゴ・ニコニコ事業本部ニコニコニュース編集長。1970年静岡県生まれ。朝日新聞、J−CASTニュースを経て、2010年4月にドワンゴへ。ニュースサイトの運営と報道系番組のプロデュースを担当している。
http://www.asahi.com/digital/mediareport/TKY201110040399.html
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